Hololive SEED DESTINY─止まらない運命─   作:疲れた斬月

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アカデミーで順調に経験と知識を積み重ねて行くメル。

そんな中、永遠にイベントが…


第28話「始まりは突然、旅立ちは必然」

「…アウト…イン…アウト…」

 

サーキットを駆け抜ける1台の訓練用AMG。

 

コックピットに座すのはメルだ。

 

訓練課程も順調に進み、遂に実車訓練も学生自身での運転が始まった。

 

的確にラインに沿って、基本に忠実な走りでコースを回る。

 

そして、コントロールラインを通過し…今度は、走り方を少し変えてみる。

 

「…?」

 

ピットでメルの走りを見ていたバレットと永遠が首を傾げる。

 

それ程までに、今のメルの走り方は変わっていた。

 

そんな2人の様子などつゆ知らず、メルは再びコースを一周してピットへと帰還した。

 

 

 

 

 

「…やっぱりタイムはあんまり伸びないか」

 

マシンを降り、ヘルメットを脱いだたメルが2周目の自身のタイムを見て口を零す。

 

「教官、どうでしたか?」

 

「1周目は凄く良かったぞ。かなり上達が感じられた。だが…2周目のあれは何だ?」

 

2周目のメルの走行。

 

それは…ベースとなる走行ラインを外れた完全な我流の走りだった。

 

「…ここに入校する前、何度かオンラインで対戦してた時に結構いたんです。ラインを完全に塞いで来るプレーヤーが」

 

「…成る程な。だから、ラインに縛られない走り方を身に付けようとした…そういう事か?」

 

バレットの指摘に、メルは無言で頷く。

 

「研究も兼ねて色んなカーレースの動画も見ましたけど、プロレーサーの中にも相手のラインを完全に塞ぐ走り方をする人も少なくないみたいでしたし。色んな走り方を覚えて、臨機応変に対応しなきゃって思ったんです」

 

「良い着眼点だ。だが…ルーキーにはまだ早い」

 

「あぅ」

 

メルの額に中指を弾くバレット。

 

額を抑えるメルに、バレットは更に言葉を続ける。

 

「そういうのは経験を積んで行く内に少しずつ身に付けるものだ。実戦すら経験してない今のお前らには早すぎる」

 

「うぅ…はい…」

 

「…だが、こういうのも何れここぞって時に役立つ時もある。ま、若い内は色々挑戦してみるこったな」

 

「…はい、ありがとうございます」

 

バレットにお礼を言って、ピットの奥へと下がるメル。

 

次は自分の番か…と永遠が前に出て来た所で、校内放送が流れる。

 

『生徒の呼び出しをします。小町永遠さん、小町永遠さん。面会の方が来ておられますので、早急に理事長室までお越し下さい。繰り返します。小町永遠さん、面会の方が来ておられますので理事長室まで』

 

「…」

 

訓練中に呼び出し?と首を傾げるメルと永遠。

 

そんな2人と対照的にバレットは、遂にこの時が来たか、と嘆息する。

 

「…永遠、行って来い。今日は早退扱いにしておいてやる」

 

「?…わかった」

 

 

 

 

 

呼び出しを受けて理事長にやって来た永遠は、扉をノックして在室確認をする。

 

『小町さんですか?』

 

「うん」

 

『どうぞ、お入り下さい』

 

理事長からの返答を確認し、扉を開けて中に入る。

 

来客用ソファに、理事長ともう1人…見慣れぬ男がいた。

 

立派な口髭を生やした壮年の白人男性だ。

 

「やぁ!君が小町君かね?」

 

「…貴方は?」

 

「あぁ、名乗り遅れたね。私はこういう者だ」

 

そう言って名刺を取り出して来る男。

 

それを確認する永遠に、理事長が更に言葉を続ける。

 

「…単刀直入に言います。小町永遠さん。貴女には、このアカデミーを中退して頂きたい」

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

「あれ?小町ちゃん、出掛けるの?」

 

自主トレを終えて部屋に戻ったメルを待ち受けていたのは、荷物を綺麗に整理した永遠だった。

 

彼女は少し寂しそうな、名残惜しそうな笑みを浮かべて答える。

 

「…辞める事になったの。アカデミーを」

 

「っ、何で!?折角頑張って来たのに!」

 

「あっ、違う。そういう事じゃない」

 

首を傾げるメルに、少し照れ臭そうに頬を搔きながら説明する永遠。

 

「…スカウトされたんだ。レーシングチームから」

 

そう言って1枚の紙を取り出す永遠。

 

会社名と役職、そして渡し主の名前が書かれている。

 

…名刺だ。

 

「【TEAM(チーム) DINOCO(ダイナコ)】代表取締役、テックス・ダイナコ…もうスカウトなんて来るの?」

 

「本当に優秀な生徒は卒業なんてしない。その前にチームやメーカーの方からスカウトが来るから」

 

「そんな事ってあるの!?」

 

「うん。本当に稀だけど」

 

少し嬉しそうに胸を張る永遠。

 

そうなると、気になる事が1つ。

 

「プロからスカウト受けられるの、上位9人になるって事?」

 

「ううん、席が1つ空くだけ」

 

「あ、そうなんだね…」

 

それを聞いてほっとするメル。

 

流石に狭い門が更に狭くなるのは困る。

 

「…おめでとう。やっぱ凄いね、小町ちゃんは」

 

「メル…大丈夫?」

 

称賛の言葉を受けたにも関わらず、永遠の顔は晴れない。

 

微笑むメルの顔に、寂しげな色が浮かんでいるからだ。

 

「正直…小町ちゃんが…いなくなるのが…凄く、寂しい…メルの、初めての…友達…だったのに…」

 

メルの顔から、微笑みが完全に消える。

 

肩と声が震え出し、目元には涙が浮かび上がる。

 

「…これから…また、独りぼっちだ…!」

 

折角の友達の門出を笑顔でお祝いしてあげたいのに。

 

…何で、涙を抑えられないんだろう。

 

何で、笑顔を作れないんだろう。

 

すると、永遠がメルの身体をそっと抱き締める。

 

「…大丈夫。メルも凄く優秀だから、きっとすぐにスカウトが来る」

 

「…本当に?」

 

「うん。まだ確定じゃないと思うけど、理事長が話してるの、ちらっと聞いたから」

 

メルの頭を撫でつつ、優しく諭す永遠。

 

「だから…自分を信じて、無理しない範囲で努力を続けて。そうすれば、メルにもきっとチャンスが来る。そして…今度は、サーキットで会おう」

 

「小町ちゃん…」

 

「そこで…本気の勝負をしよう。ゲームでも、アカデミーの成績でもない、本当のレースで戦おう!」

 

それは…未来での再会の約束。

 

友達としてずっと支え合い、切磋琢磨し、共に笑い合って来たが故の、信頼の言葉。

 

…だからこそ、自分も応えよう。

 

「…うん!」

 

涙を拭い、永遠の言葉に返事をする。

 

彼女が安心して、前に進める様に。

 

「…それでこそだよ、メル」

 

メルの身体を抱く腕を解くと、鞄の中からあるものを取り出す。

 

「じゃあ…最後にこれ、やろっか」

 

それは、初めて合った時に遊んだバトルスピリッツのデッキ。

 

2人の絆を結ぶ切っ掛けとなったカード。

 

2セットある内の片方をメルに差し出す。

 

「…うん、やろう!」

 

 

 

 

 

「…オラクル二十一柱ⅡⅩⅠザ・ワールドでアタック」

 

「ブロッカーがいない…!ライフで受ける」

 

最後に残ったライフのコアを、リザーブへ移動させる永遠。

 

…親友との最後のバトルで、遂にメルが勝利を手にした。

 

「う〜…とうとう負けた…」

 

「最後の最後でやっと勝てた…!」

 

悔しがる永遠と、安堵の表情を浮かべるメル。

 

「…この一勝は餞別。今度戦う時は、絶対負けない」

 

「うん。メルも負けない」

 

再戦を誓い、2人は硬い握手を交わす。

 

「「ありがとうございました。いいバトルでした!」」

 

 

 

 

 

翌日。

 

永遠を見送った後、メルは改めて自分の居室を見回す。

 

「…ここ、こんなに広かったんだ」

 

今まで2人で使っていた部屋。

 

1人いなくなるだけで、これ程広く感じるとは。

 

「小町ちゃん…」

 

いなくなった親友の名を呟くメル。

 

しかし、それは別れを惜しむ為ではない。

 

「…サーキットで、待っててね」

 

彼女が発った舞台へ、自分も行く。

 

それを永遠に、そして自分自身に誓う為だ。

 

 

 

 

 

「…小町さんは、行ってしまいましたか」

 

「ほんとにあそこの社長は、目ぇ付けるのが早いな…」

 

そう理事長室で茶を啜りつつ話す理事長とバレット。

 

因みにバレットは今はレーシングスーツとヘルメットを脱ぎ、黒いスーツを纏った姿だ。

 

殆どいつもヘルメットの下に隠されていた顔が露になっており、初老の渋いイケおじフェイスがお披露目されている。

 

因みに何故スーツ姿なのかと言うと、彼らもまた来客を待っている為だ。

 

…コンコンコン、とノックされる扉。

 

「来ましたか…どうぞ」

 

理事長の返事に応える様に扉が開き、1人の男性が入って来る。

 

「初めまして。日産モータースポーツ部部長の平田哲と申します」

 

「ようこそおいで下さいました。ささ、おかけになって」

 

理事長の案内の元、来客用のソファに腰掛ける平田。

 

出された茶を口に運びながら、話題を切り出す。

 

「さて、今回の要件についてですが…ご存知の通り、スカウトに来ました」

 

「ほう、それは…因みに、どなたを?」

 

平田はふーっ…と息を吐き出し、言葉を紡ぎ出す。

 

「…夜空メルさんです。彼女を、TEAM NISSANのレーサーとして雇わせて頂きたい」




永遠がスカウトによってアカデミーを中退。

そして、メルにも…
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