Hololive SEED DESTINY─止まらない運命─ 作:疲れた斬月
「貴方がくれた最期の一日 それは束の間の魔法 凍っていた時が流れ出し」
「貴方は沢山のものを私に与えてくれたけど 私はどれだけのものを貴方に返せただろうか」
「それでもやっぱり神様 できる事なら砂時計を戻して下さい」
この辺の歌詞が的確に僕の心を抉って来ます。
…僕の中の時が凍りついたまま流れなくてごめんなさい。
ゼノブレイド2は神ゲーです。
「…良いか、行けると感じたら一気に抜け」
今メルが受講しているのは、レース戦術の座学。
レースに必要なのは、基礎体力や運転技術だけではない。
前へ行かせまいとブロックして来る他の車を傷付ける事無く、如何にしてより前の順位に出るか…という戦術を導き出す知識も必要不可欠だ。
レースの種類によっては、如何に上手く他の車に道を譲るかというテクニックも必要になって来るのだが…それは今回割愛しよう。
「もしもその瞬間に抜くのが無理だと判断したら…早めに下がってブレーキを踏み、次に備える。これが基本だ…では、今日は以上だ。解散」
『生徒の呼び出しをします。夜空メルさん、面会の方がいらっしゃっているので理事長室まで。繰り返します、夜空メルさん、理事長室までお越し下さい』
日課時限が終わり、居室へ戻ろうとしていた所で呼び出しが掛かる。
そう言えばあの時の永遠も同じだったな、とふと思い出すメル。
―――――まさか…?
胸中に過った憶測を封じ込め、理事長室に歩みを進める。
今はまだ、過度な期待はしない方が良いだろう。
「失礼します、夜空メルです。呼び出しを受けて来ました」
理事長室の扉をノックするメル。
「どうぞ、お入り下さい」
中に入ると、待っていたのは理事長とバレット、そして見知らぬ男性の3人。
「やっと来たか…今回お前に用事があるのは、この人だ」
「夜空メルさんですね、初めまして。私、こういう者です」
そう言って名刺を差し出して来る男。
「【日産自動車モータースポーツ部部長 平田哲】…っ!まさか、これって!」
目を見開くメルに、バレットがにやりと微笑む。
「…良かったな、メル。スカウトだ」
「どうでしょう?チーム日産の看板を背負うレーサーとして、我々と一緒に戦って頂けますか?」
そう言って握手の手を差し出して来る平田。
…答えは決まっている。
「…はい、宜しくお願いします!」
「ありがとうございます!」
握手を交わすメルに、バレットが言葉を添える。
「メル、お前のチームに俺もチーフエンジニアとして同行する事になった」
「え?そうなんですか?」
メルの質問に応えるのは理事長だ。
「はい。絶対に人死を出さない様に、安全を保証できる有能なチーフエンジニアも欲しいと」
「で、俺も選ばれたって事だ。宜しく頼むぞ」
「…はい!」
その日の夜。
「…もしもし?シン君?」
『メル先輩?どうかしましたか?』
「うん、実は…アカデミーを辞めて、日本を離れる事になったんだ」
『っ!?何で!?』
「あー、ごめん!そういう事じゃなくて」
『え?じゃあ、どういう…』
「スカウトされたんだ。日産から」
『スカウト!?え、でも卒業まではあと1ヶ月ありますよね?』
「偶にこういう事もあるんだって。凄く成績優秀な生徒は、卒業前にチームから来るみたい」
『そうなんですか!?凄いじゃないですか!おめでとうございます!』
「ありがとう。シン君のお陰だよ」
『そんな事無いですよ!俺なんて、何も大した事してあげられませんでしたし…そこまで至ったのは純粋にメル先輩の努力の賜物ですよ』
「でもレースの世界を教えてくれたのはシン君だもん。だから…ありがとう」
『…どういたしまして』
「来週、日本を出てオーストリアのウィーンに行くんだ。FIA-GT3の世界大会に出るよ」
『そうですか…引き続き連絡下さいね。俺もメル先輩のレースの話、聞きたいですし』
「うん、わかった」
『今ノエル団長いますけど、話しますか?』
「わかった、代わってくれる?」
『メル先輩〜?』
「あ、ノエルちゃん?」
『お話、聞いてましたよ〜!おめでとうございます!』
「うん、ありがと」
『これでメル先輩もプロレーサーですね!』
「まぁ、厳密に言えばこれから開催されるGT3の世界大会の結果次第なんだけどね…」
『大丈夫ですよ!メル先輩ならできる!』
「ノエルちゃん…」
『卒業前にスカウトされるぐらい頑張った自分を信じて!ふれ、ふれ、メル先輩!頑張れ頑張れメル先輩!ふぁいと〜、ふぁいと〜、メル先輩〜!』
「あははは…!ありがとう、お陰で気が楽になったよ」
『日本には何時頃帰って来るんですか?』
「今シーズンの最終戦を鈴鹿でやるらしいから、その時には戻って来るよ」
『その時にはまた顔見られるんですね〜!』
「うん、楽しみにしててね」
『メル先輩も頑張って下さいね〜!おやすみなさ〜い』
「うん、おやすみ」
通話を終了すると、荷造りに取り掛かるメル。
出発は来週、月曜の朝9時。
出発の日の朝。
職員や理事長に見送られ、メルはGTアカデミーを旅立つ。
「…今までご苦労さまでした。ご武運を」
「はい、お世話になりました」
理事長と握手を交わし、職員達の拍手を背中に受けながら、日産の社員が運転する車に乗り込むメルとバレット。
「…やっぱり、寂しいか?」
ふと、助手席に座るバレットが後部座席のメルに尋ねる。
「…正直、結構寂しいです。家族にも、暫く会えなくなっちゃいますし。でも…」
そこで一旦言葉を区切り、ふぅ、と息を吐いて言葉を紡ぐ。
「それと同じぐらい、ワクワクしてるんです。やっと…小町ちゃんと約束した場所に行けるって」
「…そうか」
GTアカデミーを後にし、そのまま車に揺られる事約1時間半。
2人を乗せた車は富士山静岡空港へと辿り着く。
「メル様!」
車を降り、ロビーで手続きを済ませていると、背後から声を掛けられる。
声が聞こえた先にいたのは…
「…ちょこ先生!?」
「良かった、間に合って…!」
メルに駆け寄り、ぎゅっとハグするちょこ。
頭に?を浮かべる2人に知り合いだと説明し、少し離れた場所へ移動する。
「…見送りに来てくれたの?」
「ええ。他の皆は用事があるから、代表してね。手紙も預かって来たわ」
そう言って、メルに4枚の封筒を渡す。
シン、そら、ノエル、あやみの書いた手紙だ。
「それと…ちょこからも、これ」
そう言って、五芒星に悪魔の翼が付いた様なデザインの首飾りを掛ける。
「ちょことメル様の絆のシンボル、って所ね。オーダーメイドで作って貰ったの」
「ちょこ先生…」
再びメルの身体を抱き締めるちょこ。
「…信じてるわ。元気でね」
「…うん…っ!」
震えた声で告げるちょこに、メルも身体を抱き締め返して答える。
身体を離すと、メルはちょこの目尻に浮かんだ雫を指で拭ってやり、優しく微笑む。
「…
「…ええ。
ちょこの視線を背中に受けながら、メルは平田、バレットと共に出発した。
「プライベートジェットは初めてかな?」
「はい、何となく豪勢なんだろうな、ってイメージはありましたけど…その通りですね」
「そうか…」
プライベートジェットについての感想を語っていると、シャンパンのグラスが3つ乗ったトレーを持った客室乗務員がやって来る。
「シャンパンをお持ちしました」
「やあ、ありがとう」
受け取ろうとする平田とメルを手で制し、バレットが言う。
「…いや、シャンパンは表彰台に上がった時だけにしよう。何か代わりのものはあるかな?」
「でしたら、スパークリングワインがありますが」
「ではそれを貰うよ」
去って行く客室乗務員を見送ると、平田が今後の予定について話し始める。
「では、今後の予定について説明するよ。まず君には、これから開催されるFIA-GT3の世界大会に参加して貰う。シーズンは全7戦。最終戦の鈴鹿まで、どれか1戦でも良い…4位以上に入る事、それが君に課せられる課題だ」
「4位以上、ですか…」
「そうだ。そうすればFIAライセンスを獲得し、正式に日産と契約する事ができる」
「…わかりました」
平田の話に静かに頷くと、今度はバレットが話題を振って来る。
「メル…今度の相手は本物のレーサーだ。お前にはそのレベルで戦う強さもスタミナもまだ無いから、徐々に鍛えて行くぞ。まずは最初のレースで、やって行けると証明しろ」
静かながらも、その言葉には凄まじいプレッシャーが込められている。
「他のドライバーも、ピットクルーも、誰もお前を歓迎してはくれないだろう。マシンについて気になる事があったら、俺に直接言ってくれ。良いな」
「…はい」
だがメルは、そのプレッシャーを全て正面から受け止め、首を縦に振った。
「お待たせしました」
「ありがとう。無理を言って済まなかったな」
そこへ丁度良いタイミングで、乗務員がスパークリングワインを運んで来る。
3人はそれを受け取り、各々のペースで口に運ぶ。
バレットは真っ先にグラスの中身を空にすると、席を立つ。
「…俺はこれから少し寝るよ。飛行機は苦手でな」
「わかった。ゆっくり休むと良い」
バレットが席を移動し、リクライニングを倒して寝息を立て始めるのを見届けると、平田はぽつぽつと語り始める。
「…彼は、一流のレーサーだった。あの世代では、恐らく当代敵う者はいない程のね…だが、辞めたんだ」
「何でです?」
首を傾げるメルに、平田は苦い顔で答える。
「…それは本人に聞いてくれ。私も寝るよ。君もできる限り休んでおいてくれ」
そう言って目を閉じる平田。
メルも2人に倣い、夢の世界へと旅立った。
「ここがウィーンだ、メル。左はシュトラウスの黄金像がある広場で…」
飛行機での長旅を終えた一行は、スタッフの運転する車に乗ってホテルへ向かう。
バレットの案内を聞きながら、初めて訪れた土地をスマホの写真に収めていると、高級感溢れるホテルへ辿り着く。
「チーム日産の者です」
「確認しますね…はい、ようこそお越し下さいました」
チェックインを済ませ、割り当てられた部屋へと向かう。
「2人共、長旅ご苦労だったな」
「メル、ゆっくり休んでおけよ」
「はい、おやすみなさい」
ホテルの外装からも予想できる様に、部屋の中は天蓋付きのベッドやふかふかのソファ、最新型のテレビなど、下手なホテルのスイートルームにも匹敵しそうな部屋が広がっていた。
改めて自分に対して動いている金の大きさに舌を巻く。
「これが…レーサー1人に掛かる期待、って事か…」
シャワーを浴びてから、ルームサービスで頼んだディナーを食べつつ、スマホでSNSをチェックしていると、シンの投稿が目に入った。
『FIA-GT3世界大会の開幕戦、絶対観て下さいね!皆ビックリする様な人が出るんで!』
その内容に、メルはふふっ、と微笑んだ。
オーストリア、シュピールベルク。
開幕戦の地…レッドブル・リンク。
ヘビーブレーキングゾーンとスピードが出るセクションの両方が混在する、難易度の高いコースだ。
ピットには、レースを走るチームがマシンのセッティングに勤しんでおり、その中にメルを含めたチーム日産の姿もあった。
今日行われるのは、翌日の決勝レースの為の
コースを一周したタイムがより速かったマシンから、前の順位でスタートできるのだ。
「メル!」
メカニック達と共にマシンの調整をしている最中、背後から聞き慣れた声が聞こえる。
振り向くと、そこに姿を現したのは…
「っ!小町ちゃん!」
GTアカデミーで絆を育んだ親友、小町永遠だった。
彼女もまた、所属チームのタイトルスポンサー…ダイナコ石油のシンボルである恐竜のエンブレムが描かれた水色のレーシングスーツを纏っている。
姿を現した永遠に駆け寄り、ハグを交わす。
随分と久しぶりに感じる友達の温もりに、互いに感慨深いものを感じる。
「元気だった?」
「うん、待たせてごめんね。やっとここまで来たよ…!」
「信じてた。メルならやれるって!」
互いに再会を喜び、抱擁を解く。
堅い握手と共に、自分と相手に宣誓と宣戦布告をする。
「お互い良いレースにしようね、小町ちゃん!」
「…どっちが勝っても、恨みっこ無し!」
遂に、あの時の約束を果たす時が来た。
2人の胸中は、その事実に対する喜びで満ちていた。
メルと永遠の所属チームについて。
チーム名:TEAM NISSAN
本社&タイトルスポンサー:日産モータースポーツインターナショナル(通称:nismo)
ゼッケン:230番
サブスポンサー:PUMA、MOTUL、GRAN TURISMO(ポリフォニー・デジタル)、docomo、SQUARE ENIX、S Road等
車両:日産 GT-R NISMO GT3 Evo 2020
ドライバー:夜空メル
チーム名:TEAM DINOCO
本社&タイトルスポンサー:DINOCO石油
ゼッケン:43番
サブスポンサー:GRAN TURISMO(ポリフォニー・デジタル)、PIXAR、コカ・コーラ、Mobil1、Apple、Yogibo、等
車両:ランボルギーニ ウラカン GT3 Evo2
ドライバー:小町永遠