Hololive SEED DESTINY─止まらない運命─   作:疲れた斬月

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無事4位を獲得し、日産との正式契約をものにしたメル。

次のシーズンまで、日本で休息の一時。


第32話「許して貰うつもりで謝ってはならないが、そう考えずに謝罪すればまあまあの高確率で許して貰える」

鈴鹿でのレースを見事4位で終えたメルはレース終了後、日産との契約を結ぶべくバレットと共に日産の本社のある横浜へ移動する。

 

「これから日産の本社に行くんですよね?」

 

「ああ、記者会見もあるだろう。イメージトレーニングをしておくと良い」

 

「記者会見かぁ…」

 

社用車の窓から通り過ぎる景色を眺めながら、メルはぼそっと呟く。

 

「…」

 

膝の上に置かれた手が、微かに震えていた。

 

 

 

 

本社へ到着した2人は、更衣室でバレットはスーツ姿に、メルは左胸にnismoのエンブレムが刻まれた服にそれぞれ着替え、会見会場へ向かう。

 

少し胸がキツいかな、などと考えながらバレットと共に暫く歩いていると、カメラを構えたマスコミの群れが。

 

「夜空メルだ!」

 

「この度はライセンス獲得おめでとうございます!」

 

「日産との契約について、今のお気持ちを聞かせて下さい!」

 

次々と炊かれるカメラのフラッシュに目が暗みそうになりながらも、「詳しい話は会見の場でお話します」で質問を切り抜け、会場内へ入った。

 

「初めまして、夜空選手!日産自動車代表取締役の内田です!」

 

「同じく、日産モータースポーツインターナショナル代表取締役の片桐です」

 

「夜空メルです。お会いできて光栄です」

 

2人と握手を交わし、マイクが並ぶ壇上に立つメル。

 

「え〜…この度、チーム日産と契約させて頂く事となりました。夜空メルです。こうして、また皆さんの前に顔を出せた事を嬉しく思います」

 

自己紹介と共に頭を下げるメルを、カメラのフラッシュの嵐が照らし出す。

 

「…皆さんもご存知の通り、私は…嘗て、大きな過ちを犯してしまい…ファンの方々、一緒に夢を追い駆けて来た仲間…沢山の人達を裏切ってしまいました。改めて、この場を借りて謝罪させて下さい。本当に…申し訳ありませんでした」

 

一旦言葉を止め、深々と頭を下げたメルに向けて焚き付けられるカメラのフラッシュ。

 

数秒程経ってから頭を上げ、再び言葉を紡ぐ。

 

「…また別の事務所からアイドルとしてやり直す事も勧められましたが、もうアイドルには戻らない事が自分の唯一の贖罪だと考え…でも…またファンの皆にちゃんと顔を見せて謝りたいと思って…新しい道を探す事にしました。そして…その機会を与えて下さった家族の皆、アカデミー関係者の皆様、チームの皆様に、改めて感謝します。まだまだ未熟者ですが、これからnismoの看板を背負って全力で戦いたいと思っていますので、宜しくお願い致します」

 

挨拶を終え、再び頭を下げるメル。

 

そこへ、平田がメルの前に書類とペンを置く。

 

「ありがとう、良い挨拶だった…では、この契約書にサインを。これで君は、正式にチーム日産の一員となる」

 

ペンを手に取り、記名欄に自分の名前を書き込む。

 

名前を書き込んだのを確認し、平田はメルに手を差し出す。

 

「…ようこそ、チーム日産へ!」

 

カメラまでフラッシュが再び激しく焚かれる中、メルと平田は堅い握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

「メルさん!」

 

会見を終え、部屋から出るメルを呼び止める声。

 

久しぶりに聞いた気がする、その聞き慣れた声に振り向く。

 

そこには、よく知った顔にして、最も予想外の人物の姿があった。

 

「っ!YAGOO、さん…!?」

 

「お久しぶりです!いやはや、大活躍の様で」

 

にこやかに接して来るYAGOO。

 

一方で、メルはどんな顔で会えば良いのか、何を話せば良いのかしどろもどろになってしまう。

 

「え…あ…あの、その…」

 

「そう硬くならなくても大丈夫です。今更貴女をどうこうするつもりはありませんよ」

 

そう言ったYAGOOの顔から笑顔が消え、神妙な面持ちに変わる。

 

「我々のサポートが不十分だったばかりに、あの様な事になってしまい…本当に申し訳ございませんでした」

 

「あ、謝らないで下さい!悪いのはメルなんですから…!」

 

頭を下げるYAGOOに対し、メルは飽くまでも非があるのは自分だと主張する。

 

「それで、何でYAGOOさんがここに?」

 

その問いに対して、YAGOOは再び面を上げて答える。

 

「日産のモータースポーツ部と商談がありまして。ここに来ているのは、その為です」

 

「商談…ですか?」

 

「ええ。我々ホロライブプロダクションも、チーム日産のスポンサーになろうと思いましてね。貴女のレーサー活動を支える為に」

 

唐突なカミングアウトにメルは言葉を失った。

 

どうして、と視線で尋ねるメルに、YAGOOは真剣な眼差しで答える。

 

「今思えば…我々は、貴女をちゃんと支えてあげられませんでした。貴女を含めたタレントの皆さんの強さに甘えてばかりで…きっと、どんな辛い事があっても必ず乗り越えられると、今までもそうして来たから大丈夫だと過信していました。その結果…貴女の苦しみに気付く事ができず、あんな結末を迎えさせていますてしまった」

 

「YAGOOさん…」

 

どこか自嘲する様な笑みを浮かべて、彼は更に言葉を続けた。

 

「…ですので、それに対するささやかな贖罪です。だから何だという話ですがね」

 

そこまで言った所で、YAGOOは右手を差し出して来る。

 

「もう同じステージに立たせてあげる事はできませんが…これからも仲間として、どうか宜しくお願い致します」

 

「…っ、はい!」

 

笑みを浮かべて彼の手を握り返すが、メルはその仮面の奥で必死に歯を食い縛っていた。

 

…そうでもしなければ、目の奥からこみ上げて来る熱いものを、堪えられそうに無かったから。

 

 

 

 

 

会見終了後の夜。

 

都内某所の高級ホテルのレストラン。

 

祝賀会を行う約束を交わしていたバレットが、待ち合わせ相手であるメルを待っていた。

 

「バレットさん、お待たせ」

 

先に席に座って待っていたバレットに声を掛ける。

 

「あぁ、やっと来たか」

 

旧式の音楽プレーヤーの電源を切り、イヤホンを外すバレット。

 

「自分で予約を引き受けておいて、俺より遅いとはな」

 

「ごめんなさい、紹介したい人達がいて」

 

首を傾げるバレット。

 

メルは入り口に向かって「どうぞー!」と声を掛ける。

 

すると、入り口から1人の少年と5人の女性が姿を現した。

 

「どうも、シン・アスカって言います。メル先輩がお世話になってます」

 

「メルの母のあやみと言います」

 

「初めまして、ときのそらです!」

 

「癒月ちょこです。宜しく」

 

「白銀ノエルですっ!」

 

現れた5人組の姿を見て、ふふっと微笑むバレット。

 

「成る程な。お前が予約を引き受けてくれたのは、こいつ等を呼ぶ為か」

 

「えへへ、バレちゃったか」

 

5人が席に座り、全員が集まった所で改めてバレットも自己紹介する。

 

「…初めまして、だな。俺はバレット・ハドソン。チーム日産でメルのトレーナー兼チーフエンジニアをやっている者だ。宜しく頼む」

 

「はい、此方こそ」

 

向かいの席に座るシンが握手をする。

 

「皆、飲みたいものは?」

 

「じゃあ俺、ジンジャーエールを辛口で」

 

「私は…オレンジジュースにする!」

 

「ちょこは、そうねぇ…カシスオレンジにしようかしら」

 

「団長はレモンサワー!」

 

「俺は…そうだな、日本酒を貰うか」

 

皆が思い思いの飲み物を注文する中、あやみが1つ提案をする。

 

「メル、一緒にシャンパンで乾杯しない?契約のお祝いに」

 

あやみの提案に対し、メルは申し訳無さそうに苦笑しながら答えた。

 

「ごめんね、シャンパンは表彰台に立った時だけって決めてるんだ。今日はアセロラジュースにする」

 

「カッコいい事言う様になっちゃって…わかった。じゃあ烏龍茶1つ」

 

思い思いのドリンクを頼むと、注文を受けた店員が厨房へと向かう。

 

そして全員の前に飲み物とスライスしたバゲットの籠、前菜の乗った皿が配膳されると、食事の時間が始まった。

 

生ハムやチーズ、シーフードマリネといった前菜三種の盛り合わせの後、菜の花とシラスのペペロンチーノ、舌平目のソテーを経て、やって来たメインディッシュはトリュフソースのかかったステーキに、デザートは旬のフルーツをふんだんに使ったタルト。

 

何れも非常にクオリティの高い品ばかりで、皆ぺろりと平らげてしまう。

 

食後の紅茶に舌鼓を打っていると、ふとシンが口を開いた。

 

「バレットさん…メル先輩の事、ありがとうございます」

 

「ん?」

 

唐突に投げ掛けられた感謝の言葉に、思わず首を傾げるバレット。

 

「…素人同然だったメル先輩をここまで育ててくれて。俺、メル先輩に新しい道を勧める事しかできませんでしたから…全部、バレットさんのお陰です」

 

そう言って頭を下げるシンを、バレットはどこか訝しげに見詰める。

 

「坊主、お前なぁ…全部俺のお陰とでも思ってんのか?」

 

「え?」

 

今度はシンが首を傾げる。

 

「確かに俺はメルが勝てる様にサポートはしてやった。だが、メルにレーサーって選択肢を与えたのはお前達自身だ。俺だけの功績とでも思ったら大間違いだ。お前達が示した選択肢、そしてメル自身の才能と努力がこの結果を作り出したんだ」

 

「バレットさん…」

 

呆けるシンに対し、更に言葉を続けるバレット。

 

その顔に浮かぶ穏やかながらも誇らしげな笑みは、さながら習い事や部活動での孫娘の活躍を他者に自慢する祖父の様だった。

 

「鈴鹿でのレース、観てたんならわかる筈だ。あの走りは他人に教わるだけじゃ身に付かない。何せ、俺だって驚いたんだ」

 

「バレットさん、褒めすぎだよ…」

 

「はははっ、ほんとに驚いたんだから仕方無いだろ」

 

照れ臭そうに謙遜するメルの肩をバンバンと叩きながら、バレットは笑う。

 

「メル、走ってる途中に感じなかったか?視界がクリアになって、全てがスローになり…まるで、レールの上を走ってるみたいに、やる事なす事全部上手く行く。そんな感覚を」

 

バレットに言われて思い出す。

 

ダニエルのラフプレーで追い詰められた時。

 

永遠と勝負した時。

 

確かに、彼の言う通りの感覚を感じていた。

 

「心当たりあるだろ?その感覚、最高に気持ち良かっただろ。俺も、またレーサーに戻りたい気分になる。初期のブラック・サバス聴いてる時だけ、その時の事を思い出せるんだ」

 

「これで聴いてるんすか?その…ブラック・サバス」

 

バレットが使っていた音楽プレイヤーを指差すシン。

 

「ああ」と頷くバレットに、シンは言葉を続ける。

 

「こんな古いヤツじゃ、曲も殆ど入らないんじゃ…」

 

「古いのが好きなもんでな」

 

「今のヤツはもっと曲入るのに…」

 

まぁ本人が良いというのなら、とそれ以上の詮索はやめる事を選択する。

 

そこへ今度は、そらが質問を投げ掛けた。

 

「バレットさんって、元レーサーなんですよね?なら好きなサーキットとかあるんですか?」

 

「そうだな…今回走った鈴鹿も中々気に入ってるが、やっぱり1番はサルト・サーキットだな」

 

「サルト・サーキットって…ル・マンでしたっけ」

 

シンの問い掛けに、バレットは首を縦に振る。

 

世界三大レースの1つ、ル・マン24時間耐久レースの決戦の地。

 

レースファンならその名を知らぬ者は殆どいないだろう。

 

「あそこは、レーサーとしての真価が試される。一度表彰台に載ったら、伝説になれるんだ」

 

「なったんですか?伝説に」

 

「いや、残念ながらな。なれずに辞めたよ」

 

そう言って自嘲気味に微笑むバレット。

 

その眼には、どこか悲しみや後悔の念が宿っていた。

 

何かあったのだろうか…とシンは尋ねようとしたが、そらがシンの肩を掴んでそれを制する。

 

何か触れられたくないものがあるのだろう、と察し、シンも湧き上がる疑問を抑え込む事を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あの人達って…!」

 

「?」

 

最後のデザートを平らげて食後の紅茶に舌鼓を打っていると、ふと背後から声が。

 

声が聞こえた方を振り向くと、そこには4人組の男女の姿がある。

 

「おい…ホロメンいるぞ!あやみママも!」

 

「あの、サイン貰えませんか!」

 

「ちょっと、大丈夫なの?今貰っちゃっても」

 

シン達はふふっと微笑むと、紅茶のマグカップをテーブルに置いてノートを受け取る。

 

「良いですよ、どうせもう食い終わってゆっくりしてただけですから」

 

そら、ちょこ、ノエル、あやみもそれぞれ受け取り、4人のノートに各々のサインを書き込んで行く。

 

メルがそれを眺めていると…彼女にもノートが差し出された。

 

「メルちゃんのも貰って良いかな?」

 

「え…メル、もうホロライブじゃないけど、ほんとに欲しいの?」

 

そう聞き返すと、4人は笑いながら答える。

 

「確かにあんな事になったのはすっげぇ残念だけどさ、1期生の皆も言ってたろ?メルちゃんはこれからもずっとホロライブの大事な仲間だって」

 

「それに、アイドルじゃなくなってもプロのレーサーとして大活躍だもんね!流石私達の天才ヴァンパイア!」

 

「鈴鹿でのレース、見てたよ!凄かったぜマジで!」

 

「ほんと!負けちゃったけど超カッコ良かったわよ!」

 

他の5人のサインが書かれたページを開く。

 

…6人分全員のサインが入る様に、其処にはしっかりとメルの分のスペースが空けられていた。

 

そして、呆けるメルにシンが背中を押す為の言葉を贈る。

 

「…メル先輩、書いてやって下さい」

 

「っ…うん…!」

 

溢れ出る涙で歪む視界の中、慣れた手付きでサインを書き込む。

 

「おっほぉ〜…!サンキュー!これ、ウチの家宝にする!」

 

「良かったら、写真もお願いして良いですか?」

 

「良いだろう。じゃあ皆、そこに並べ。俺が撮ってやる」

 

そう言ってカメラを受け取ろうとするバレットをシンが手で制し、店員に声を掛けた。

 

「すいませーん!写真撮影したいんですけど、カメラお願いできますか?」

 

「あ、はい!わかりました!」

 

「バレットさんも立って!メル先輩の仲間って事は、団長達にとっても仲間ですし!」

 

「伝説のレーサーなら、箔も十分ですものね」

 

近寄って来た店員にカメラを預け、バレットにも加わる様に促すノエルとちょこ。

 

こいつ等には敵わないな、と苦笑しながらバレットも列の端に立つ。

 

「では行きますよ〜!3、2、1…!」

 

店員のカウントダウンと共に切られるシャッター。

 

列を崩し、カメラの中を覗き込む一同。

 

「ふふっ…素晴らしい1枚じゃないか」

 

写真の中央に立つメルの顔。

 

それは、過去最高に泣いていて。

 

…それでいて、過去最高に笑っていた。




えーちゃんにあくたんまでいなくなるとは、呪われてるのか…

ホロライブの皆さん、頼むからお祓い行って下さい…

それと私事ですが、最近転職活動中であり、それに伴う準備の関係で投稿スピードが極端に落ちる可能性があります。

ご了承下さいませ。

あくたんは個人勢になったって事にします。

えーちゃんの扱いについては一応案がありますのでしばしお待ちを。
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