Hololive SEED DESTINY─止まらない運命─ 作:疲れた斬月
「…」
星空が広がる夜の街を、一匹の蝙蝠が飛んでいた。
まるで片翼をもぎ取られたかの様に不様な軌跡を描きながら、延々と飛び続ける。
―――――これで良い。
もう、自分に皆の傍にいる資格は無い。
大好きな皆を傷付けない為には、これが最善の選択だ。
もう二度と会えないとしても。
…そう自分に言い聞かせて、蝙蝠は必死に空を飛ぶ。
…その身体が、急に何かに掴まれた。
「!?」
視界に入ったのは、黒いクワガタ虫の様なメカ。
自分の身体を挟み込むと、クワガタは凄まじい速さでUターンする。
足掻いても足掻いても、クワガタは離してくれない。
無理矢理連行される事数分、蝙蝠は自分の家…否、【家だった場所】へと連れ戻される。
扉の前で立っていたのは…
「…何やってんですか、あんたは」
クワガタは地面に着地すると、捕まえて来た蝙蝠の拘束を解き、携帯電話の形に変形してシンの手に戻る。
「…いつまでその姿でいるんです?」
冷たい眼差しと共に突き付けられる言葉。
蝙蝠の身体が光に包まれ…本来の【夜空メル】の姿に変わる。
…彼女は今回、情報漏洩をしてしまい、ホロライブを退所する事となった。
単なるうっかりによるミスではあったが、やってしまった事がやってしまった事であった為に、処分を下さない訳にもいかなかった。
事務所側は飽くまで謹慎、活動停止という形に留めようとしたものの、メル自身が最も厳しい契約解除を申し出た。
だが話が平行線になり、彼女は事務所の皆が自分の事を忘れる様に暗示を掛けて姿を消した。
…シンの手によってすぐに拘束、連れ戻されてしまったが。
「あはは、バレちゃったか…ちゃんと忘れる様に暗示は掛けた筈なんだけどなぁ…」
「じゃあこれ置いてくのは失策でしたね。お陰ですぐ解けましたよ」
そう言ってシンが見せたのは、黄色いトパーズがはめ込まれた指輪。
恋人同士になった日に購入した、メルとのペアリング。
「…何で連れ戻したか、わかりますか?」
「…1発殴らないと気が済まない、とか?」
「…ッ、どんだけ馬鹿なんだ!!あんたはッ!!!」
血を吐く様な叫びと共に、メルに掴み掛かる。
「何も相談もせずに出て行って!!それでやらかした事が無くなるとでも思ってんのか!!?都合悪い事、全部無かった事にして!!俺の事がそんなに信用できないってのか!!!?」
「でも…メルがいたって、シン君が!皆が傷付くだけだよ!!だから、もう…迷惑掛けない様に、って…!!」
「ふざけんな!!俺からすれば…こんな風に裏切られる事の方がよっぽど苦しいんだよ!!地獄なんだよッ!!!」
故郷に裏切られ、上司に裏切られ、信じていた理想にすら裏切られて。
誰かに裏切られる痛みはこの世の誰よりも理解しているという自負はある。
だからこそ…あいつらと同じ事をした今の彼女が許せない。
「…メル先輩達と付き合い始めた時、自分に誓ったんですよ。どんな苦労をしても、何があっても…絶対に護るって!迷惑掛けたから何だよ!!そんなもん、纏めて背負ってやる!!」
感情のままに吐き出し続ける。
喉が焼け付く様な痛みを訴えるが、知った事か。
「約束する!!メル先輩が背負ってるものは、抱えてる痛みは…俺も一緒に背負ってやりますから!!だから…だから…!
勝手にいなくなるな!!馬鹿野郎ッ!!!」
「…」
「…君の負け、だな。こうなったらシンは意地でも曲げないぞ」
扉が開き、シンの後ろからアスランが姿を現す。
「契約解除の話は承諾する。だからせめて…普通の家族として、恋人としてシンを支えてやってくれ。コイツには君が必要だ」
「シン君…メルも…一緒に、いて…良いの…?」
「寧ろ一緒にいてくれなきゃ困りますよ」
「迷惑…いっぱい、掛けた…のに…」
「アスランに掛けられた迷惑に比べれば屁でもないですから」
「…何で…ここ、まで…して…くれる…の…?」
「彼氏が彼女助けるのに、理由なんかいらないでしょ?」
そう言って、シンはメルの身体をそっと抱きしめる。
彼の優しい強さと温もりに包まれた結果、メルの中で蓋をしていた感情が一気に溢れ出る。
「う…うぅ…ああああああ…!」
メルは人目も憚らずに声を上げ、子供の様に泣いた。
「…大丈夫。俺がずっと、味方ですから」
夜空メルさん、今までありがとうございました。
疲れた斬月より
ご存知の方は多いと思いますが、夜空メルちゃんが1/16を以て契約解除となりました。
ホロライブがまだ弱小だった頃から応援していた最推しの1人だった為、凄く心苦しいです。
…楽しい時間をありがとう。