Hololive SEED DESTINY─止まらない運命─ 作:疲れた斬月
「…」
その日、シンは自宅でパソコンに向かい合ってしかめっ面を浮かべていた。
「…どんな曲が良いのかな」
彼が今やっているのは、先輩タレントの大切なライブで使う曲の選曲作業。
…湊あくあの、卒業ライブだ。
6年間の最後を飾る、集大成。
彼女の願いで、ライブで歌う曲は「ホロメンが選んだ曲の中から選びたい」という事になった。
だからシン自身も熟考しているのだが…
「…あくあクルーの皆には、できるだけ希望を持たせたいんだよなぁ」
所属事務所を同じくする自分達は、何時でも会う事ができる。
しかし、リスナーはそうはいかない。
だからこそ、できるだけ彼等が前向きに彼女を送り出せる気持ちになれる曲がいい。
だが…中々思い付かない。
「何か、良いヤツ無いのかよ…」
「じーーーーーっ」
「うおっ!?」
そんな彼を後ろから見つめていたのは、メルと遊ぶ為に家に来ていた小町永遠だ。
シンは背中を跳ねさせ、彼女に向き直る。
「あぁ、何だ…小町選手か」
「…悩んでる?」
「…はい。こういうの考えるのって、初めてで」
そう言って、シンは溜息を吐く。
半端な曲など言語道断。
だが、どんな曲なら、あくあの最後に相応しいのか。
どんな曲なら、あくあクルーの皆が彼女を前向きに送り出せるのか。
「でも、意外。先輩の卒業、すんなり受け入れるなんて」
「…卒業って形で送り出せるのがどれだけ幸運な事か、俺はよく知ってますから」
シンの眼に悲哀が宿る。
メルの前例を経験した彼は、その事を早期に理解してしまったのだ。
だからこそ、彼女に悔いが無いのなら…と、受け入れる事ができたのだ。
「でも…ファンの人達は違う。残される皆が、後に引き摺らなくて良い様にしたいんです」
「…」
シンの言葉を聞き終えた永遠が、スマホを弄り始める。
「この辺の曲、どう?」
差し出されたスマホの画面には、卒業や別れを連想させる曲がリストアップされている。
「…ありがとうございます」
シンは受け取ったスマホの曲を再生し始める。
そして、5曲程聴いた所で…
「これだ…この曲なら…行けるかも…!」
そして迎えた、ライブ当日。
「…皆、本当にありがとう」
アイドル衣装に身を包んだあくあが、ホロメンの皆に向き直って感謝を伝えた。
その中から、シオンが一歩前に出てきて、あくあの身体をぎゅっと抱き締める。
「…行ってらっしゃい」
「…行って来ます!」
シオンの抱擁から離れ、ステージに向かうあくあ。
流れる1曲目、それは…
「君の胸にLa La La♪夢を描けLa LaLa♪心から願えば♪きっと叶うから…♪」
「!!」
シンが選んだ曲…『君の胸にLa LaLa』。
「あくあ先輩…」
自分が選んだ曲を彼女が使ってくれた事に喜びを感じながら、ライブをステージ裏で眺め続けるシン。
そして…
「皆、行こう!」
そらの号令に合わせて、他の面々と共にステージへと上がる。
彼女の最後のライブ。
ファンも、ホロメンも、あくあ自身も。
最高に泣いて…それでいて、最高に笑っていた。
この日…湊あくあは、アイドルとしての人生に終止符を打った。
人々の心に、『あくあ色』の伝説を遺して…
何か書かなきゃ、という使命感にずっと駆られていましたが、やっと形になりました。
メルさん、えーちゃん、あくあさんがいなくなった僕の寂しい気持ちを慰めてくれた1曲を皆さんにもオススメしたいと思って書きました。
「心から願えばきっと叶うから」「いつまでも僕らずっとスペシャルな仲間さ」の部分にほんとに励まされました。
そして…湊あくあさん、長い間ご苦労さまでした。