混沌都市の異常な奴ら   作:鬱病太郎

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第10話 不可視の涙 前編

「最近、悩みがあるんだ。」

 

 店長がミジンコ並のサイズなことで有名な大人気ファストフード店───【ミクロナルド】の1席で、俺達の真ん前に座ったギルバートさんが唐突に切り出す。

 

「ど、どうしたんですか。」

 

 呼んだのはギルバートさんだが、突然過ぎて戸惑う。

 そもそもギルバートさんが人に相談しているイメージが全く湧かないために、俺達の頭は混乱していた。

 ギルバートさんは深呼吸をして、意を決したように話し出す。

 

 

「うん、実は今───好きな人がいるんだよね。」

 

 

『?!』

 

 悩みとは、まさかの恋愛相談であった。ギルバートさんはデュラハンだからお相手もデュラハンなのだろうか。

 いや、ていうか───

 

「あの、ギルバートさん。」

 

「ん?なんだい?」

 

 気づいていないらしい。ため息をひとつついて、ギルバートさんに教える。

 

 

「人選───ミスってます。」

 

 

「?」

 

 やはりなんのことかわかっていないようだ。

 

 しょうがない、現在この席にいるイカれたメンバーを紹介するぜ!

 まずはこの俺、スラム街歴11年恋愛歴0秒のトイフェル・アーバン!そして三股ヒモギャンブル狂いのチェイス・オルドリッジ!最後が危機感欠落サイコパスのアイリーン・カトラス!異常だ!

 

 まあおふざけはそこまでにして、どう考えても人選を間違っている。

 

「貧弱てめえ、恋愛マスターのこの俺にミスとは随分舐めた口聞いてんなあ!」

 

「三股だろ?!なんか毎回女変わってるし!律儀に三股守ってんじゃねえよ!」

 

 チェイスがキレ気味だが、どう考えてもこいつを連れてきたのは間違いだ。× × ×しろとか、× × れとかしか言わないだろ。

 

「私は女の視点からだから大丈夫じゃない?」

 

「自分が普通の女性の感性を持ってると思ってんなら頼むから1回病院に行ってくれ。」

 

 心底不思議そうに言っているが、こいつは1番連れてきてはいけない人材だろう。

 なんせこいつの【呪縛】は【負情欠落】だ。アイリーンの中にあるのは驚と喜と楽、そして絞りカスみたいな嫌悪のみである。

 

「アイリーンさん…もっと人の感情を理解してから出直してきてください。」

 

「ん?チェイスのくせに生意気じゃない?」

 

「なんで俺だけ?!」

 

 恐らく俺がいけたから自分もいけると思ったんだろうが、アイリーンはチェイスにやたら絡みに行く節があるため、見逃してはくれなかった。

 

 アホ共は放っておいて、改めてギルバートさんについて考える。

 

 ギルバートさんを一言で表すと、みんな口を揃えて『天才』と呼ぶ。その卓越した次元空間魔術は、かの【原罪卿】に勝るとも劣らないとすら言われているのだ。

 いつもみんなの仲裁役をしている、【無秩序の聖団(アナーキー)】唯一の常識人である。

 

 そんなギルバートさんが恋をするとは、人間…いや、デュラハンもよく分からないものだ。

 しかしお世話にはなっているのだ。たまには力になりたい。

 

「えーっと、それでどのような相談を?」

 

「うん、まずはきっかけを聞いて欲しいんだ。」

 

「お!いいっすね!」

 

「そういうの好き!!」

 

 恋バナという名の餌に、じゃれあっていたアホ2人が食いつく。

 ギルバートさんは咳払いを1つして、そのお相手について話し出す。

 

「まず、彼女の名前はクレアさんというんだけど、ここの店員をやっててね、行きつけだから結構な頻度で会うんだ。それで───」

 

「ちょっと待ってください?」

 

「おう遮んな貧弱。」

 

 俺の言葉に、恋バナ大好きチェイスは不満げだった。

 話をさえぎって非常に申し訳ないが、どうしても確認しなくてはならないところがある。

 

「行きつけって───ギルバートさん飲食不要ですよね?」

 

 ギルバートさんはデュラハンだ。飲食や呼吸は必要なく、寿命すらない。

 飲食店なんて永遠に縁がないと思うのだが、なぜ来てるのだろうか。

 

「一応飲食はできるよ?」

 

「え?」

 

 当然のように衝撃的な事実を言い放つ。チェイスもアイリーンも特に気にしてなさそうだ。もしかして知らなかったの俺だけか?ここでは結構常識なんだろうか。

 

「トイくんもゲームするけど、なくても死にはしないだろ?それと同じさ。」

 

「な、なるほど…ありがとうございます。続けてください。」

 

 ギルバートさんは丁寧に説明してくれる。非常に分かりやすい。

 

 まずどこで食べるんだと思ったが、これ以上遮るのも悪いと思って素直に続きを促す。

 

「うん。それで…3ヶ月前に新人として入ってきたのがクレアさんなんだ。あ、ちなみに人間だよ。」

 

「ほー、そりゃすごいっすね。」

 

「ロマンティックじゃん!」

 

 ギルバートさんの補足にチェイスは感嘆の声を漏らし、アイリーンはきゃーきゃー言っている。かく言う俺もその手の話は嫌いじゃない。

 人外と人間の組み合わせはいつの時代も、どんな人にもある程度刺さるということなのだろう。

 

 ギルバートさんは俺達の反応を見て、続きを話す。

 

「2ヶ月前にいつも来てますよねって話しかけられてさ、その時から会ったらたまに話すようになったんだ。一月前には一緒にご飯も食べに行ったよ。」

 

「中々手が早いっすねギルバートさん。」

 

「チェイスさんほどじゃないでしょ。」

 

 ギルバートさんはこう見えて意外と、恋愛に関しては即行動するタイプなのかもしれない。

 ちなみにチェイスは出会って5秒で告白するから、とても比較にならない。

 

「まあそれで特にはっきりとした理由はないんだけど、一緒にいると居心地がいいし、楽しいから告白しようと思うんだ。…どうかな?」

 

 ギルバートさんは話を切り上げ、最後に質問をする。

 

 つまりそういう理由で告白してもいいのか、あるいはするとしたらどうすればいいのか、という相談だろう。中々難しい話だが、何とかアドバイスを考えなくては。

 

 

「…いいんじゃないですか?告白するきっかけなんてそんなものだと思いますよ。知らないですけど。」

 

「そうだよね、どこが好きとか言語化するのって結構大変だと思う。知らないけど。」

 

「お前ら…恋愛をなんだと思ってやがる。」

 

 チェイスが俺とアイリーンのアドバイスを聞いて引いているが、仕方ないだろう。恋愛なんてしたことないんだから予防線貼っとかないと後が怖い。

 

「うーん、チェイスはどう思う?」

 

 やはりお気に召さなかったらしい。しかし俺たち2人ではここら辺が限界だ。あとはチェイスに任せるしかない。

 チェイスは真剣な顔で少し考えた後、自分の考えを話し出す。

 

「そうっすね…俺なら告白します。やらないで後悔するよりやって後悔した方がいいと思うんで。」

 

「…『やる』じゃなくて『ヤる』の間違いじゃないですか?」

 

「チェイスなんて性欲モンスターだからね、信用出来ないよギルバート。」

 

「酷すぎる……」

 

 チェイスのくせに良いことを言ったが、過去の所業のせいで先入観をどうしても持ってしまう。  

 とはいえ、普段があれではどんどん扱いが雑になっていくのも仕方ないと言えるだろう。

 

 しかし、ギルバートさんはチェイスの答えで満足したらしい。

 

「………俺、告白しようと思う。」

 

「即断即決ですね…。いつとかは決めてるんですか?」

 

「来週の日曜もう1回遊びに行くって話が出てるから、その日のデートプランを3人に考えて欲しい。今日はどっちかって言うとこれがメインだよ。」

 

 なるほど、と思う。告白自体はしようと思っていたが、もし満場一致でダメだと言われたらやめようと思っていたのだろう。慎重なギルバートさんらしい発想だ。

 これは腕の見せどころだ。変なところに行ってしまったらムードもくそもないからな。

 

「チェイス頼んだ。」

 

「え?!俺っすか?!」

 

 だが、アイリーンはあっさりチェイスに丸投げしてしまった。自分には出来ないと悟ったのだろう。

 しかし三人寄れば文殊の知恵とも言うし、アイリーンには出来れば参加してもらいたい。

 

「…チェイスさん主体で考えて、俺ら2人が口出しするってのはどうですか?」

 

「あー、それならいいよ!口出しは得意だからね!」

 

「不安しかない……」

 

 俺の提案には何とか納得して貰えたようだ。

 

 普段は強気なチェイスだが、アイリーンがいると弱気というか、途端に常識人っぽくなるのはなんでなのだろうか。

 

「3人共、よろしく頼む。」

 

「へーい。んじゃ、まずは───」

 

 ギルバートさんの頼みとあらば、力を貸さない訳には行かない。チェイス主体で、ギルバートさん告白計画を練っていく。

 

 

 最初はチェイスがいたらまずいのではと思ったが、むしろ1番連れてきて正解の人材だったらしい。

 ギルバートさんの要望や俺のアドバイス、そしてアイリーンの我儘を見事に聞き入れ、馬鹿のくせに完璧なデートプランを完成させた。

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

「お!あれがクレアさんか…」

 

「ちょ、トイ君目良すぎ!私も見たい!」

 

 ついにデート当日になった。待ち合わせ場所からそこそこ離れた所で、俺達は待機していた。

 

 待つこと30分、ついにお相手のクレアさんが登場した。背は低めで、明るそうな印象を受ける綺麗な子だ。

 

 【無秩序の聖団(アナーキー)】の優秀な諜報部門の方々にご協力いただき、既に素性は割れている。

 本名クレア・ウィンストン23歳。20歳の時に親を無くしてから行く宛てがなく【サクリフィス】入りし、その後バイトをして生計を立てている。  

 あまりプライバシーを侵害するのも良くないということで私生活は調べていないが、ざっと見た感じこの街では珍しいただの一般人である。

 

「すみませんギルバートさん!…待ちました?」

 

「全然待ってないですよ!僕も今来たところです。」

 

 2人は、待ち合わせ時のお決まりのやり取りをしている。実際は30分前にいたのだが、ギルバートさんはそこで待ちましたと言うほど常識は欠落していない。

 

 結構離れているが、【神覚(アクセス)】を持ってすればこの程度の距離なら朝飯前だ。

 

「じゃあ、行きますか。」

 

「はい!」

 

 数言話した後、ギルバートさんが提案して歩き出す。

 

「あ、移動しちゃう!…作戦の確認するよ!」

 

 移動し始めた二人を見て、アイリーンが率先して切り出す。こいつは今日ノリノリである。

 

 本日のデートプランはこうだ。

 まず13時にここ【ゲート】前広場で待ち合わせ。その後クレアさんの要望で服を買いに行き、終わったら映画だ。当然恋愛ものである。

 夜ご飯は庶民でも手が届きそうな高級レストラン【エウロパ】を予約している。そこで夜景と美味しい料理を堪能した後、クレアさんの家に向かう途中にある、【ヒート運河】上の橋で告白だ。

 ちなみに橋の上というのはアイリーンの提案である。

 

 

 

「なんか問題なく進みすぎじゃね?」

 

「怖いこと言わないでくださいよチェイスさん。」

 

 

 チェイスのフラグ感ある発言に、思わずビクビクしてしまう。

 

 デートは問題なく進み、2人は現在映画館に向かっている途中である。俺達は少し早めに移動し、2人が来るのを待っている所だ。

 服屋ではお決まりの、どっちが似合う?んーこっちかなあ。じゃあこっちにするー。聞いた意味は?をやっていた。まるでカップルみたいだった。そして結局服は買わなかった。

 

 

 

「そういえば最近【サイクロン兄弟】が出るって噂が…」

 

「無駄に不安感煽るようなこと言うなよ!大体【サイクロン兄弟】ってなんだ!」

 

 ここぞとばかりに不安を煽るアイリーンだが、【サイクロン兄弟】が何か分からない。不安感の上に拭えない疑問が追加された気分だ。

 

 

 

 

 

 しかしやはりと言うべきか、こういう順調な時ほどアクシデントが起こるものである。

 

 

 

 

「きゃあああああ!!」

 

 

「?!」

 

 突然絹を裂くような悲鳴が聞こえる。声が聞こえたのは俺たちがいる場所の後ろ、そして2人が向かっている映画館の方角だ。

 

 慌てて後ろを見る。そこには───

 

 

「1つ目鬼?」

 

 

 2匹の巨大な1つ目鬼がいた。あれは恐らく【サイクロプス】という種族の異形だろう。

 2匹は息のあった動きで街を破壊し、道行く人や異形を殺している。どうしてこう運が悪いんだ。

 

「まずいな…このままだとギルバートさんと鉢合わせるぞ!」

 

「あれが【サイクロン兄弟】か…」

 

「あれが?!」

 

 チェイスの心配を他所に、思わぬ所で答えを得てしまって微妙な気持ちになる。

 しかしピンチなのは確かだ。なんせクレアさんはギルバートさんが【無秩序の聖団(アナーキー)】所属ということを知らない。つまり迂闊に実力を出す訳にも行かないのだ。

 つまり───

 

「俺らがやるしかないか…」

 

「そうだね!まあただのサイクロプスなら余裕だけど。」

 

 そう、この3人でどうにかするしかないのだ。しかしチェイスもアイリーンも超級の実力を持つ。ただのサイクロプスなら問題は無いだろう。

 デートをぶち壊さないために、2人が【サイクロン兄弟】に気づくまでに何とか倒したいところである。

 

「よし、行くよ!」

 

 アイリーンの掛け声の後、2人が走り出す───

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