混沌都市の異常な奴ら   作:鬱病太郎

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第2話 神の感覚

「おーい、ついたよ?」

 

「…ぇ?」

 

 気づいたらアイリーンに声をかけられていた。列車に乗り込んでからぼーっとしてたのだろう。

 本部とやらに着いたらしい。特に拒否もできず、重い足取りで大人しく着いていく。

 

「…なんだここ。」

 

 列車を出た先には、ドーム状の空間が広がっていた。

 部屋の中心には巨大な地球儀のような物が置いてあり、その周りは受付のようになっている。

 部屋の外周には普通サイズの扉がいくつもついており、空いたスペースにはテーブルとソファがいくつか置いてある。内装はホテル、あるいは博物館の入口のようだった。

 列車は俺たちが降りた瞬間、そのまま消えてしまった。どういうからくりなのだろうか。…そもそもどうやってこの空間に入ったんだという疑問は残るが。

 

 この妙な空間に圧倒されていると、アイリーンが補足してくれる。

 

「ここは【秩序の間】だよ。世界中にある支部と本部を繋いでるんだ。」

 

「繋ぐ?」

 

「うちに【次元魔術】使える奴がいてね、そいつと、空間と空間を繋ぐ恩寵持ちが協力して作ったんだ。」

 

「それは…すごいな。」

 

 俺のこれからの処遇はさておき、その言葉には普通に驚く。

 次元が余りイメージできないが、魔術が使えるということは異形なのだろう。そして恩寵ということは人間だ。

 100年前に二つの世界が繋がってから基本的には協力関係を結んでいたが、種族間の溝はやはり大きい。

 それ故とある都市に存在する組織を除き、人界の組織は基本的に人間だけというものが多い。

 

 しかしここは違う。異種族だとかは全く関係なく、普通に仲良くしているのだから。

 

 

「…んじゃ、行くぞお前らー。」

 

「はーい。」

 

「はあ。」

 

 元気なアイリーンとは逆にやる気のない返事をし、団長の後についていく。

 団長は受付の前まで行って周りを見渡した後、受付にいる女性に話しかける。

 

「…ネルの野郎はどこいった?」

 

「あら団長さん、…ネルさんならあそこで寝てますよ。」

 

 団長の言葉に、受付の女性は困った顔をして上を指さす。

 女性が指を指している方向を見ると、そこは部屋の中心にある巨大な地球儀だった。

 その上では───人が寝ていた。

 

「……おい、ネル!起きろ!」

 

「んあ!……団長ー?」

 

 団長の声に身体がはね、ネルとやらは起きる。

 

 寝ている時は分からなかったが、異常にでかい。

 特徴的な灰色の髪をしており、筋肉があまりないのか、非常に線が細い。そしてその身長はおそらく2m半はあるだろう。間違いなく世界記録を取れる身長の眠そうな男は、地球儀から飛び降りて団長の前まで来る。

 

「…どしたの団長。」

 

「お前…あそこで寝るなって言ってるよな?」

 

「ごめんって〜、次から気をつけるからさぁ…」

 

「お前は……まあいいや、本部開けろ。」

 

 非常にのんびりとした口調だ。聞いているこっちまで眠くなる。

 呆れた団長の言葉に、男は全く反省していなさそうな声で返事をした後、再び地球儀に向かう。

 

 そこで何かを操作したかと思うと───

 

「?!すげえ…」

 

「ふふっ、すごいでしょ?」

 

 地球儀が変形し始めた。思わず声が漏れ、アイリーンに笑われる。

 こういうギミックを好きにならない男はいないだろう。かく言う俺も、先程までの危機感が消えて少しワクワクしていた。

 

 数秒変形した後、下に続く階段が現れる。

 

「んじゃ、どーぞ。……あれ?新入りさん?」

 

「あ、えっとー…」

 

 ネルさんは俺を見て少し声のトーンを上げた。新情報に興味があるのだろう。

 とは言え新入りという訳では無いから返答に困る。もやもやしていると、アイリーンが補足する。

 

「まあ、そんなとこだよ。仲良くしてやってね!」

 

「そっかそっか、よろしくねー。」

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

 ネルさんは普通に歓迎してくれた。

 何故か新メンバーにされてしまったが、否定してもめんどくさい事になるのが目に見えているので大人しく流れに乗る。

 

「…行くぞー。じゃあ、また頼むわ。」

 

「はーい。じゃーねー。」

 

 仕事を終えたネルはフラフラした足取りで地球儀と受付の間の空きスペースに行き、寝転がり始めた。

 この人の仕事はこれだけなのだろうか。

 

 団長に、俺達は黙ってついていく。階段はそこそこ長く、中々下につかなかった。

 

「…本部ってこんなとこにあったんすね。」

 

「…?…ああ、そうか。うちのメンバー以外には知られてないよな。」

 

 会話がないのが何となく気まずくて話題を出す。

 団長は俺の言葉に少し疑問を感じた後、合点がいったのか納得していた。

 

 【無秩序の聖団(アナーキー)】の本部は人界暗界問わず、世界中の国や組織が血眼で探しても全く見つからないということで有名だった。

 二つの世界を繋ぐ【ゲート】の付近にあるのではと言われていたが、まさか別空間にあるとは思わなかった。

 そうこうしているうちに目的地であろう扉が見えてくる。

 

「お、やっと着いたか。…この階段だるいな…」

 

「団長がこれにしようって言ったんじゃん。」

 

「……まあ、そうなんだが。」

 

 さっきネルさんに色々言っていたが、この男も同類なのではないだろうか。めちゃくちゃやる気無さそうだし。

 

 アイリーンに言われた団長はなんとも言えない顔をし、扉を開けて中に入る。

 

 中は洋館の様な内装であった。

 そこそこ広く、家具も充実している。俺が今まで住んでいたスラム街のボロ屋とは大違いだ。

 

 団長はいくつかあるソファの1つにだらしなく座り、タバコを吸い出す。

 

「誰もいねえか。……はぁ~~~…生き返る…」

 

「だらしないよ団長。…ていうか早く話進めようよ。私お風呂入りたいんだよね。」

 

 団長の態度はともかくとして、風呂には俺も入りたい。いくらスラム街でも定期的に風呂に入りには行ってたのだ。だが監獄に来てからは全くなかった。いい加減体が気持ち悪い。

 団長はアイリーンの言葉と場の空気に急かすような物を感じ、話し出す。

 

「…で?なんでこいつを連れ出そうとしたんだ?」

 

「絶対凄い恩寵持ってるから。」

 

「……確定したわけじゃないのか。」

 

「持ってません!」

 

 アイリーンは確信してはいるが、その言葉は確定しているわけじゃないと言っている様なものだ。

 その様子に好機だと思った俺は即座に否定する。

 

「らしいが…ちなみになんの恩寵なんだ?」

 

「聴覚を強化する恩寵です!【聖徒(ホーリー)】なので大したことはありません。」

 

「あー!ずるいよそれ!」

 

「なんか嘘臭いな…」

 

 もう二度と同じ轍は踏まないと決心した俺は、即座に嘘をつく。

 しかし演技がざるすぎて信じて貰えない。

 

「…では!俺は帰らせてもらいます!」

 

「おおおい待て待て!…ていうか、帰ってもすぐ監獄だぞ?」

 

 嘘がバレる前に部屋を出ようとしたが、焦る団長の言葉に立ち止まる。一体どういうことだろうか。

 

「…いや、だって君───脱獄者だよ?」

 

「あっ」

 

「気づいてなかったのか…」

 

 2人の言葉に今更気づく。

 そういえば、俺は脱獄者なんだった。どれだけ経ったかは分からないが、今頃国際指名手配されてる頃だろう。外に出ても俺はすぐにまた監獄送り、あるいは死刑だ。俺に逃げ場は無いというのか。

 

 

 つまりもう話すしかない。当然リスクはでかく、知られたら何をされるかわかったものでは無い。しかし死ぬとわかってる道か、死ぬ『かもしれない』道なら後者一択だ。

 諦めて団長とアイリーンが座るソファの対面に座る。

 

「……話す代わりに…一つだけ約束して貰えますか?」

 

「…!…なんだ?」

 

「…俺の恩寵を知っても、俺を害さない、どこかに売ることもしないというのを約束してください。」

 

 これは譲れない。口約束故に、いくらでも破ることは出来る。しかし少しの時間接しただけだが、この組織は悪人だらけの組織ではないというのが分かった。おそらく大丈夫だろう。

 

「…口で言って満足するかは分からんが…いいだろう。約束する。」

 

「ありがとうございます。では…」

 

 団長の言葉に安心し、一つ深呼吸した後意を決して話し出す。

 

 

 

 

「俺の恩寵は───【神覚(アクセス)】です。」

 

 

 

「?!」

 

「まじか……」

 

 流石の2人もこれには驚いていた。もう遅いが、じわじわと後悔が襲ってくる。

 

 【神覚(アクセス)】とは【異徒(アノルマル)】に属する恩寵であり、その能力は簡単に言うと感覚の拡張である。

 さっき言った聴覚の拡張というのは間違ってはいないのだが、当然それだけではここまで渋ったりしない。

 

 これにはいくつかの能力がある。

 

 まず1つ目は、五感の超拡張だ。

 それもただ発達するという訳ではなく、生物のオーラや魔力の流れ、果ては感情や嘘、あるいは本来不可視の存在まで感知できるようになる。

 当然通常の五感なども常人のそれとは比べ物にならないほど発達しており、それらで得る膨大な情報の処理能力も得る。

 

 ここまでは優秀な能力と言うだけで特に変なところはないが、問題は次だ。

 

 2つ目は───第七感の覚醒だ。

 霊感や直感などの第六感に次ぐ超感覚である。

 

 これは、暗界に潜む【上位存在】の感知が可能になるというものである。

 【上位存在】とは、この次元より高次元に住む超存在だ。低次元の者はそれより高次元の者を感知することは出来ないが、【神覚(アクセス)】があればそれも可能になる。

 

 ではなぜ感知されると問題なのかと言うと、【上位存在】は実体がない。それ故普段は依代を媒介にこの世界に干渉しているのだが、感知され、かつ自分の名前を呼ばれることでこの世界に定義されてしまい、実体ができる。

 

 つまり───低次元の存在と同レベルになるのだ。

 

 高次元存在にとってこれは非常に問題があった。寿命もなく死の危険がない者たちにとって、この能力は天敵だったのだ。

 

 そして何より、この恩寵は常時発動型だ。つまり魔力消費がないのである。

 

 それ故この能力の存在が発覚してから【上位存在】は血眼で【神覚(アクセス)】所持者を探している。

 90年前に実在した所持者は、【上位存在】にバレたせいで感知されても問題ないように高次元に囚われたのだ。そしてその情報を教えた者は大層な褒美を貰ったらしい。

 この話があるせいで、この恩寵を持っている人はあらゆる存在から狙われるようになった。

 

 

 【神覚(アクセス)】は、まさに神の感覚を得ることが出来るというわけだ。

 

 

 

 そして、それに対応する俺の【呪縛】は───【不運】だ。

 7歳の誕生日にこれを授かってから俺の人生は散々なものになった。幸い能力の強力さに反して死ぬほどの不運はないが、逆に言うとそれ以下の不運ならあるということである。とんだ誕生日プレゼントだ。

 

 まあそういうわけで、これが俺が教えるのを渋った理由だ。捕まれば死、あるいはそれより酷い運命が待っている。

 

 

「予想以上だったが…」

 

「そうだね…」

 

 俺の恩寵が分かって少し不安なのだろうか。神妙な顔をしている。まあ当たり前だろう、爆弾を抱えるようなものだ。なんとなくこの先の展開を察した俺は、自分の運命を呪う。

 

 

 だが、予想外の反応が返ってくる。

 

 

 

「やったあああああ!ついに見つけたああ!!」

 

「長かった…これまで死ぬほど探してきたが……まさかこんなとこで見つかるとはな!今日はご馳走だぞこれ!」

 

 

「?!え?!どういうことですか?!」

 

 

 めちゃくちゃはしゃいでいた。

 

 

 普通落ち込むか、差し出すことで得られる自分の利益を想像して悪い考えを抱くものだろう。

 しかしこの2人は嘘は言っていないし、悪い感情も感じ取れない。

 つまり売ろうとも殺そうとも考えていないのだ。何が目的なんだろうか。

 

「え?あー、うちの組織の最終目的は上で支配者面してふんぞり返ってる【上位存在】の完全排除だからな、【神覚(アクセス)】は必須だったんだ。」

 

「完全排除?!……無理じゃないですか?」

 

 とんでもない目的を掲げていたことに驚きを通り越して呆れる。【上位存在】は、依代を使って実体化しただけでも非常に強い。

 しかし、2人はこれでもう終わったと言わんばかりの顔をしている。

 

「そのために私たちがいるんでしょ?」

 

「え…」

 

 アイリーンは自信満々に言っている。つまるところ実体を捉えることさえ出来れば勝てるということだろう。

 

「そういうこったな。実体を捉えられないなら何をしても無駄だが───実体があるなら攻撃が届く。なら俺らが負ける道理はない。」

 

「めちゃくちゃだ…」

 

 何も根拠はない。しかし不思議と、この組織の人達ならできるのではないかと思ってしまった。

 

「じゃ、改めて勧誘するが…うちの組織に入らないか?」

 

「…」

 

 正直、この先一生俺に安息の日は来ない。

 どこまでいっても恩寵と【呪縛】が付きまとうし、組織に入ろうが入るまいが脱獄した時点で追われる生活なのは変わらない。それに、戻ってもまたスラム街だ。

 

 

 それでも俺の【不運】な人生の中で、この組織と出会ったのは幸運なんじゃないかと思う。

 なんせ7歳から、実に11年振りに誰かに必要とされたのだ。それだけでもここに入る価値はあるだろう。

 

 だから俺の返答は───

 

 

 

「よろしくお願いします!」

 

 

 これ一択だ。

 

 

「はっはっはっ!いい顔つきになったじゃねえか。…一応紹介しとくが、俺は【無秩序の聖団(アナーキー)】団長、ヘリアル・チェインバードだ。まあよろしく頼むわ。」

 

「私はアイリーン・カトラスだよ!よろしくねトイ君!」

 

「と、トイ君?」

 

 急に愛称で呼ばれ始めた。名前なんて大して呼ばれたことがないからムズムズする。

 

「本名がトイフェル・アーバンだからトイ君ね、良いでしょ?」

 

「まあいいけど…」

 

 とは言え、特に文句はない。むしろ距離が縮まって嬉しいぐらいだ。

 

「じゃ、宴会でもするかぁ!」

 

「お、いいね!…まあその前にお風呂だけど。」

 

「あ!俺も入りたい!」

 

「…一緒に入る?」

 

「違う違う違うそういうことじゃない!」

 

「こりゃこいつ童貞だな。」

 

「うるせえ!!…あ、すみません。」

 

 

 

 既に若干馴染みつつあるが、こうして俺は【無秩序の聖団(アナーキー)】に入り、活動を始めたのだった。

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