混沌都市の異常な奴ら   作:鬱病太郎

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第3話 投獄の理由

「はっはっはっはっ!!飲め飲めー!!」

 

『うおおおおお!!!』

 

 団長の掛け声に部屋中の者が雄叫びを上げている。

 風呂に入って綺麗になった後、皆を呼んで【秩序の間】で宴会をしようということになったのだ。

 集まった者は100人は下らないだろう。

 

「すげえ数だな…」

 

「でしょ?まだまだいるけどね!」

 

 俺の言葉にアイリーンは自慢気だ。とは言え、気持ちは分かる。これだけ大きい組織の幹部というのは、それだけすごい事だ。

 俺とアイリーンが少し離れたところで話していると、軽薄そうな男がこちらに向かってきて話しかけてくる。

 

「あれ?アイリーンさんじゃないっすか!」

 

 中々爽やかな声だ。

 おそらく染めているであろう茶髪をセンター分けにし、ちらりと覗く耳には数個のピアスが空いていた。スラリと伸びた長身に革ジャンとスキニーパンツがよく似合っている。糸目だが、その顔は整っていると言っていいだろう。

 10人に聞けば12人が陽キャと答えるような、そんな風貌をしている。

 

「アイリーン?!」

 

「やべええええ!逃げろ!!」

 

「え?!…お前何したの…?」

 

「何したっけ…」

 

 男の言葉が聞こえたのか、1部のものたちが遠くに離れていく。

 この女は一体何をしでかしたのだろうか。しかし本人は全く覚えていなさそうだ。

 男は次に俺に向き直り、話しかけてくる。

 

「君がトイ君っすね!俺はラッシュ・バルドールっす!…そこのサイコパスが迷惑かけて申し訳ない。」

 

 思ったより人懐っこく、常識的な性格をしていた。どうしてもこういうタイプには先入観を持ってしまうんだよな。反省しよう。

 しかし、少し気になる単語があった。

 

「よ、よろしくお願いします。…なんでサイコパスなんですか?」

 

「あー…色々とやりすぎてって感じっす。一言ではとてもとても…」

 

「え?私そんな変なことしたっけ?」

 

「「……」」

 

 いや監獄の時点でなんとなく変な奴だとは思っていたが、そんなに色々やっていたとは思わなかった。

 しかしやはり覚えていないらしい。もはや呆れて何も言えない。

 

「俺、【深淵の賭博場(ブラックカジノ)】の一件、忘れてないっすからね。」

 

「……しつこい男は嫌われるよ?」

 

「はぁ?!てめ、ぶっ殺すぞ!」

 

「おおおお落ち着いてくださいラッシュさん!」

 

 突然豹変した。糸目を見開いて殴りかかろうとするラッシュさんを必死に抑える。

 優しそうなラッシュさんが豹変するほどとは、やはりこの女は相当やばいことをしたのだろう。

 しかし力が強い。俺もそこそこ強いと思っていたが、ラッシュさんはそれの比じゃない。

 

「ふぅ、申し訳な…いや、申し訳なくはないっすけど…」

 

「良かった…元に戻った。」

 

 俺が必死に抑えていると怒りが解消されたのか、普段のラッシュさんになる。

 

 正直ラッシュさんは全く悪くないと思う。事情は知らないが、この異常者の方が相当やばい気がするのは俺だけだろうか。

 2人を宥めていると、ネルさんと既にできあがっている団長がこっちに向かってくる。

 

「んあ?ラッシュお前!うちの新入りに何してんだぁ!」

 

「ごめんねラッシュ。団長飲みすぎたみたいでさ。」

 

「またっすか…酒強い訳でもないのに…」

 

 ラッシュさんに絡む酒臭い団長と、それを支える困った顔をしているネルさんの組み合わせは中々面白い。

 そしてネルさんは意外と面倒見がいいらしい。普段のやる気のない感じとのギャップでモテそうだ。

 

 そんなことを考えていると、数人の男が酒を飲んでいるアイリーンの前に立ちはだかる。

 

「アイリーン…今日こそはお前を倒す!」

 

「お前を倒して心の安息を取り戻すんだ!」

 

「よーし、かかっておいで!」

 

「なんで乗り気なんだよ?!」

 

 男達の強い意志が籠った宣戦布告に応じるアイリーンだったが、どうしてこんなに楽しそうなんだろうか。

 一斉にかかってくるが、ものの数秒で蹴散らされる。一仕事終えた感を出すアイリーンは、そのまま座って酒を飲み始めた。

 伊達や酔狂で幹部をしている訳じゃないのだろう。素の戦闘能力も非常に高い。

 しかし直ぐに新手がやってくる。周りは野次を飛ばし、アイリーンはそれに応えている。もはや一種の興行のようだ。

 

 アイリーンを見ていると、今度は別の2人が俺に近づいてきた。

 片方は既に酔っている金髪の綺麗な女性。もう片方は───フードを被っている。一瞬中が暗くて顔が見えないのかと思ったが、どうやら首そのものがないようだ。

 

「あれ?噂のトイフェル君じゃ〜ん。……童貞の臭いがする。」

 

「誰が童貞だ!!」

 

 綺麗な女性に開口一番童貞臭いと言われた。そこまで俺は童貞っぽいのだろうか。いや、童貞ではあるんだが。

 

 

「ヘーゼル、初対面で失礼すぎるよ。…悪いね、うちの飲んだくれが。…俺はギルバート・オースティン。こっちはヘーゼル・ベイカー。よろしく。」

 

「あ、はい、よろしくお願いします!…もしかして【デュラハン】ですか?」

 

 先程の女性とは打って変わって丁寧な口調で話しかけてくる。

 【デュラハン】とは、【暗界】にいる異形の一つである。物語に出てくるような首を持っているものとは違って、現実の【デュラハン】は首そのものがない。ちなみに飲食不要で寿命もない。人間からすれば想像もできないほどかけ離れている。

 

「そうだよ。…驚いた?」

 

「はい、少し驚きました。別の種族が同じ組織に入っているのは珍しいので。」

 

「ははっ!そうだね、結構珍しいかも。でも、【サクリフェス】だと普通だよ?」

 

 ギルバートさんはそう言って笑う。

 二つの世界を繋ぐ【ゲート】がある【サクリフィス】という街では普通に共存しているのだが、世界全てがそうなるのは遠いだろう。この組織はそれの第一歩と言える。

 ギルバートさんと話していると、蚊帳の外なのが嫌だったのか、ヘーゼルさんが無理やり俺に絡んできた。

 

「トイフェル〜、そんな事はどうでもいいからさぁ、お姉さんで童貞卒業する?」

 

「なにを言い出すんだあんたは!!」

 

「あっはっはっ!!顔赤くしてるー!」

 

 ヘーゼルさんは焦る俺を見て大爆笑している。そんなことをサラッと言える精神が羨ましい。相当自分に自信がないと言えないセリフだろう。

 

「ヘーゼル…新人いじめるのやめようって言ったよね?」

 

「うっ…ギル怖い!やめて!誰かー、ギルがいじめてくるー!」

 

「いや、あんたが悪いだろ。」

 

 詰め寄るギルバートさんは確かに少し怖い。

 そしてもはやヘーゼルさんに対する敬意は欠けらも無い。だがギルバートさんを見る限りこの人の対応はこれで正解な気がする。

 周りの人も、さっきの声に一瞬こっち見たけどまたかみたいな顔してすぐ酒盛りに戻ってたし。この組織は女性陣の方が変なのだろうか。

 

「よし、俺はもう行くよ。…じゃあね、トイ君。」

 

「はい!これも連れてってくださいね。」

 

「これ呼ばわりされた…ギル〜〜。」

 

「まとわりつくな!…ったく、自分で歩きなよ。」

 

 ヘーゼルさんは俺に絡むのをやめ、ギルバートさんにまとわりつき始めた。まるで寄生虫のようだ。

 2人が去り、しばしの安息が訪れる。周りを見ると団長は相変わらずラッシュさんに絡んでいるし、アイリーンは向かってくる敵(味方)を蹴散らしている。ヘーゼルさんは別の人に絡み、それをギルバートさんが窘めている。

 他の多くの人はとにかく飲み食いして騒いでいた。しかし、どこを見渡しても1番目立つ人がいないことに気づく。

 

 

「トイくーん、大丈夫?」

 

「うお!びっくりした…」

 

 突然上からネルさんの頭が出てくる。俺の後ろに回ってから体を折って話しかけてきたのだろう。意外とお茶目な一面もあるようだ。

 

「はははっ!いい反応するね。」

 

「心臓に悪いです!………あの、ネルさん。アイリーンってなんで監獄に入ってたんですか?」

 

 笑っているネルさんに文句を言いつつ、先程からずっと気になっていることを聞く。アイリーンが何かをしたのは間違いでは無いと思うが、一体何をしたんだろうか。

 するとネルさんは真剣な顔になって、話し出す。

 

「ああ、アイリーンはね───時計壊したんだ。」

 

「え?時計?」

 

 なんか深刻そうな顔をしているから何事かと思ったが、時計とは普通の時計のことだろうか。あるいはなにかの【魔道具】の名前だろうか。

 

「この部屋に元々あった時計で、世界に数点しかないレア物だったんだ。団長が気に入ってたんだけど、酔ったアイリーンが壊しちゃってさ。」

 

「ええ…」

 

 もっと組織の掟を破ったとかそういう理由かと思いきや、非常に下らない理由だった。まあ本人にとっては下らなくは無いんだろう。団長に言ったら殺されそうだ。

 

「団長も酔ってたから二人の間で喧嘩が起きたんだけど、副団長が両成敗して話は終わったんだ。」

 

「す、すげえ…」

 

 とんでもない話だ。そんなことで喧嘩する2人も凄いが、酔ってたとはいえ2人を止められる副団長さんもすごい。

 

「その時ちょうどお金がなかったからさ、お詫びついでにアイリーンを牢屋にぶち込んで懸賞金貰おうって話になったんだ。」

 

「めちゃくちゃすぎる!なんだそれ!」

 

 確かに効率は非常にいい。でも普通は考えないだろう。仲間を牢屋にぶち込んでお金を貰い、ぶち込まれた方は全く気にしていないというのはどうなんだろう。

 そんな理由で【アシュトレト】の480年の歴史は破られたというのか。

 

「まあでも、アイリーンなら自分でも出れるから問題は無かったんだ。ついでにメンバーは安息が欲しいってことで1ヶ月牢屋で謹慎だよ。まさに一石三鳥だね。」

 

「そ、そうですかね。まあそうなんでしょうけども。」

 

 この組織の人はみんな頭のネジが数本緩んでるのかもしれない。ラッシュさんですら突然豹変し出すし。…ギルバートさんもそうだったら終わるな。

 と、そこでラッシュさんに絡み終わった団長がこっちに向かってくる。何となく嫌な予感がしたが、時すでに遅し。

 

「おいおいトイ君よぉ、お前ちょっとこっち来いや。」

 

「酒臭!!飲みすぎだろ!」

 

 団長は酒臭い息を撒き散らしながら俺を抱えて運び出す。ネルさんに視線で助けを求めたが、人がいなくなったことで欠伸を1つして寝てしまった。ちくしょう。

 

「よーし、お前ら!こいつ受け取れ!」

 

「え?…ええええええ!!」

 

 どんちゃん騒ぎしているメンバーの所に俺を投げた。しかしさすがと言うべきか、落下地点の数人が俺を受け止める。

 

「お!お前がトイか!飲め飲め!」

 

「結構弱そうだな!」

 

「童貞みたいだ。」

 

「はあああ?!うるせえ!!くそ!どいつもこいつも!」

 

「はっはっはっ!いい飲みっぷりじゃねえか!」

 

 めちゃくちゃ煽られたからやけになって酒を一気に飲み干した。今日はもう何も考えずに飲むことにしよう。その方が幸せな気がする。

 

 酒の臭いが充満する【秩序の間】で、俺達はいつまでも宴会をしていた。

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