CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第十二話 憧れ

時間ちょうどにグラウンドに着くと、そこには既にウォーミングアップを始めているサクラチヨノオーの姿があった。

 

やる気があるようで何よりだ。

レースでの負けを長い間引きずり、練習に支障をきたす性格のウマ娘も少なくないらしい。

少なくとも彼女は今のところ大丈夫そうだ。

 

「お待たせ、ウォーミングアップ中?」

 

「あっ、トレーナーさん!ちょうど今、アップが終わったところです!」

 

ちょうど良いタイミングだ。

 

「よし、じゃあ早速トレーニングを始めていこうか。」

 

「はい、頑張ります!私…マルゼンさんみたいに、速く、強くなりたいので!」

 

前にも感じたが、彼女はマルゼンスキーに強い憧れを持っている。

確かにマルゼンスキーも優秀な成績を残しているウマ娘の一人ではあるが、大抵のウマ娘は三冠バであるシンボリルドルフやミスターシービー、ナリタブライアン辺りに強い憧れを抱くものだと思っていたが。

 

おいおい彼女と仲を深めていけば、彼女がマルゼンスキーを慕っている理由も分かるだろう。

 

「分かった、じゃあまずは、君の走り方を見たい。」

 

「走り方を、ですか?」

 

「あぁ、だからまずは、このグラウンドを普段のトレーニングの時のように一周ぐるっと回ってきてほしい。」

 

走り方というのは、ウマ娘個人で必ず違うものだ。

全く同じ走り方をするウマ娘などいない。

コーナーで多少傾いたり、姿勢が変化するタイミングがあったり、個人によってその癖は様々だが、必ずどこかに違いが生じる。

 

だからまずはそれを把握しなければならない。

本人が理解している癖もあれば、場合によっては無意識にそうなってしまう癖だってある。

もちろんそれら全てが走りにマイナスに作用している訳ではない。

癖を適切に把握し、トレーニングメニューの調整を行うのが、僕らトレーナーの役割だ。

 

「分かりました!」

 

そう言うとチヨノオーはグラウンドの方へ行き、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく走りを見ていたが、これは…

 

「リューク、あの走りを見て、どう思う?」

 

「え?そうだな…俺は走り方とか詳しくないけど、なんかぎこちない走り方じゃないか?」

 

「リュークもそう思うか?」

 

「なんかな…自分の走りたいように走ってるってよりかは、何かに従って走ってるように見えるんだよな…。」

 

概ね同じ意見か。

 

「僕は最初に彼女の走りを見た時、教科書通りの走り、と表現した。

でも違ったんだよ。確かに彼女は何かを参考にしたような走り方をする。しかしそれが何なのか、あの時の僕には分からなかった。しかし、昨日の会話で確信した。彼女は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…これがまず最初の課題になりそうだな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん…どうでしたか?」

 

「あぁ、まぁいくつか課題点は見つかったよ。とりあえずスポーツドリンクでも飲んで。」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、一つ確認したい。チヨノオー、君の今の走り方は誰かを参考にしてる?」

 

「えっと…はい。マルゼンさんの走り方を参考に…」

 

やはりそうか。

 

今のサクラチヨノオーは、マルゼンスキーの走り方を参考にしている。

 

人の真似をして感覚を掴む、というのはトレーニングとしては悪いことではない。

人には向き不向きというものがあり、得意な事や苦手な事がそれぞれ違うものだ。

それはウマ娘にも同じことが言えるだろう。

自分に合った走り方や、合わない走り方が存在する。

自分の走り方のヒントを得るために、他のウマ娘の走り方を試してみるというのは悪いことじゃない。

 

しかし、彼女の場合は…あまりにも走り方を寄せすぎている。その上走り方が噛み合っていない。あれだと本来の能力を出し切れないだろう。

 

そもそもマルゼンスキーは脚質〝逃げ〟のウマ娘だ。

対してチヨノオーの脚質は…現状の走りを見た限り、〝先行〟だ。

逃げでも恐らく問題なく走ることは出来るんだろうが、多少走りづらくなっているんだろう。

 

「チヨノオー、君はマルゼンスキーのようなウマ娘になりたい?」

 

「は、はいっ!」

 

「…恐らくだけどその走り方のままだと、君の目標のダービーはおろか、重賞レースにも勝てない。」

 

「そ、そうですか…」

 

チヨノオーは落ち込んでしまった。

でも、僕が本当に言いたいのはマルゼンスキーのようなウマ娘になるな、ということじゃない。

 

「君はマルゼンスキーじゃない。

でも、マルゼンスキーを超えることが出来ると僕は思っている。」

 

「…!」

 

「まずは君に合った走り方を探そう。チヨノオー、もう一度グラウンドを走ってきてくれないか?

ただし今度は自由に走ってみてくれ。思いのままに走るんだ。」

 

「はいっ!分かりました!」

 

そして、チヨノオーが再び走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さっきまでより、生き生きとした走りだな。」

 

無理に前に出過ぎず、前の方で足を溜め、後半でスパートをかける。

おそらくこの走り方がサクラチヨノオー本来の走り方なんだろう。

この走り方を軸にトレーニングを組んでみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ、チヨノオー。僕はこの後今の走りを参考にトレーニングメニューを組むから、今日のトレーニングはこれで終わりかな。」

 

「はい、分かりました!…あの、トレーナーさん。毎回名前をフルネームで呼ぶの、大変だと思うんです。だから私のことは、チヨって呼んでください!」

 

確かに呼びづらいとは思っていた。

チヨノオーの方からそう言ってくれるなら、受け入れておくべきだろう。

 

「分かった、それじゃあチヨ、また明日。」

 

「はい!それじゃあまた明日!」

 

今回はフォームに重点を置いてトレーニングをしたが、ここからはデビュー戦で一着を取るためのトレーニングを行っていかなければいけない。

今はチヨ一人でトレーニングしているが、レースの感覚を覚えてもらうためにも、他のウマ娘との並走トレーニングも僕が予定しておくべきだな。

 

まだまだやるべきことはたくさんある。

 

 

 

 

 

 

こうして、僕とチヨのトレーニング初日は幕を閉じるのだった。

連載の方式について

  • 2000文字くらいで週3~5連載
  • 4000文字で週1~2連載
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