「ちょっと待ってくれ、僕はリュ…いや、僕に憑いている奴の正体を知りたいんだ。そんな訳の分からない話を聞きにここまで来たわけじゃない。」
「まぁそう事を急がなくてもいいじゃないか。君の知りたいことは、カフェの話の先にある。」
「タキオンさん、適当な事を言わないでください…
私は今来たばかりなので、状況が分からないんですが…。」
「まぁ簡単に言うと、このトレーナーくんは前にカフェが言っていた怪物を連れた新人くんだ。
彼はその怪物の正体を知りたくてここに来たらしい。そして私はその怪物は君の言う『おともだち』と同じ存在だと考えている。だから、君と『おともだち』の話を彼にしてあげてくれ。」
「そうですか、そういうことならお話します…。」
よく分からないが、マンハッタンカフェの話を聞けば、リュークの正体が分かる…のか?
しばらくすると、マンハッタンカフェはゆっくりと話を始めた。
「私には、他の人には見えないものが見えます…
そのうちの一つが、私の『おともだち』です。
彼女は、私とそっくりの見た目で、いつも私が走っていると、私の前に現れます…
そして、彼女は恐ろしく速くて、私がどれだけ速く走っても、追いつけないんです。」
一見イマジナリーフレンドのようにも思える話だが、アグネスタキオンがこれをわざわざ説明させる以上、何かあるのだろう。
「私は、一度海外遠征に行こうと思っていた時期がありました。何故か、行かなければならない…そんな気がしたんです。そして、私はそのまま海外に行く寸前の所まで行きました。でも、空港に着いたとき、足が…動かなくなったんです。どれだけ前に進もうとしても、足が動かなかったんです。
…結局、海外遠征は取り止めになりました。これが、私の経験したことです。」
…つまり、タキオンの言う「運命」に従って、マンハッタンカフェは海外遠征に行こうとした。それを促したのはこの話から『おともだち』で間違いないだろう。
しかし、出発の直前、それを止めたのもまた『おともだち』だったということか。
予め定められた『運命』…それを変えたということか?
そして、その『おともだち』とリュークが、同じような存在という推測…ここから導かれる結論は
「つまり、僕に憑いているこいつは…生物が本来歩む運命を覆すことが出来る存在…ということか?」
「話が早くて助かるよ。少なくとも、私はそう睨んでいる。」
確かに、今のリュークの目は人間やウマ娘の能力を数値化して見ることが出来る。
これがあれば、ウマ娘たちは不必要なトレーニングはせずに済ますことが出来るし、限りなく勝利への最短ルートを行くことが出来る。
まさにウマ娘のためにあるような能力だ。
これらが全て、ウマ娘に本来ある運命を覆すための力…ということか?
「とはいえ、まだまだソースが少なすぎる。この仮説を断定するためには、更なる研究が必要だ。そこでだ、君。我々の事を信用してくれるなら、今後ともその化け物の情報を提供してもらいたい。あぁ、心配しないでくれたまえ。この件は他言しない。というか、こんな話をしても、信じる者など余程の物好きだけだろう。」
…悪くない提案ではある。
ごく僅かな情報でここまでの推論を組み立てるアグネスタキオンと、リュークと同一の存在と思しき『おともだち』と繋がりがあるマンハッタンカフェ。
この二人との関わりは、今後必要になってくるような気がする。
「なるほど、悪くない提案だ。だが少し考える時間をくれ。ここまでの推測を展開してもらった上で申し訳ないが、正直な話まだ僕は君たちを信用しきっているわけじゃない。」
「ふぅン、至極真っ当な意見だ。なんせ我々はかたや霊障に悩まされているウマ娘、かたや研究熱心なマッドサイエンティストと呼ばれるウマ娘だ。無理もない。しかし、この提案はその怪物の正体を知りたい君にとってもメリットはあるだろう?いい返事を期待しているよ。」
こうして僕は、旧理科研究室、もといマンハッタンカフェとアグネスタキオンのいる空き教室をあとにした。
「リューク、どうだ?さっきの話を聞いて、何か思うことはあったか?」
あの部屋でリュークは一切喋らなかったが、何か思ったことがあったのではと思い、聞いてみることにした。
「……化け物って呼ばれるのは慣れてるが、ああ何度も呼ばれると傷つくぜ。」
柄にもなく落ち込んでいる。こいつ、こんな繊細な性格だっただろうか。
この分だと、特に気づいたことはなさそうだな。
「分かったよ、後でリンゴをやるから。」
「そう何度も同じ手で許すと思うなよ。今回は1個や2個じゃ満足しないからな。」
結局、その日リュークは5個のリンゴを平らげるのだった。
史実でのマンハッタンカフェは、『凱旋門賞』に出走するため海外遠征を決行し、レースで十三着という結果に終わります。
そして、凱旋門賞で負った屈腱炎を理由にその競走馬生命を終えることになります。
マンハッタンカフェのシナリオでは様々な憶測がありますが、この物語では『おともだち』には史実のマンハッタンカフェとSSの二つの意思が混在している、という説を基に話が進んでいきます。
この説だと、「史実の競走馬マンハッタンカフェ」が凱旋門賞行きを強行させようとし、カフェの身を案じる「SS」が凱旋門賞行きを断念させたというシナリオが成り立つためです。
なお、『おともだち』に二つの意志がある事をカフェは知りません。
カフェ自身は『おともだち』はあくまで一人だと思っています。
この辺りの考察はかなり色々な説があるので、気になる方は自分で調べてみてください。
連載の方式について
-
2000文字くらいで週3~5連載
-
4000文字で週1~2連載