CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第二十一話 初陣

あれから実に二ヶ月が過ぎた。

 

 

僕はあの合同トレーニングの日の夜、それまで使っていたトレーニングメニューを見直した。

これまでのメニューは、一般的なスタミナトレーニングに僕独自の調整をしたものだった。

しかし、一般的なトレーニングで得られるのは、常識の範疇を出ない結果でしかない。

僕はさらなる効率を模索し、トレーニングの様々な部分を調整した。

これは完全に僕の独断で行ったことなので、このメニューをチヨノオーのところに持っていった時は、「このメニューでトレーニングをするかどうかは、君が決めていい。」と言った。

しかし、彼女は躊躇なくそのトレーニングを始めた。

 

 

正直、そのメニューは初めは酷いものだった。

余計に負荷がかかってしまっているものや、得られる効率が見合っていないものなどもあった。

しかし、彼女は決して投げ出さず、僕と共にメニューの改善に努めてくれた。

 

 

あのレースの日以降、彼女のトレーニングに対する向き合い方も変わったように思う。

これまでがやる気がなかったわけではないが、あの日からはただ提示されたメニューをこなすだけでなく、自分から改善案を出してくれるようになった。

 

 

そうして一ヶ月が経つ頃には、僕らの作り上げたトレーニングメニューは、徐々に完成形へと近づいていった。

このメニューを他人に勧められるかと言われたら、正直難しいだろう。

このメニューは僕が完全に『サクラチヨノオー専用』に調整したメニューだ。

他のどのウマ娘のトレーニングにも使うことは出来ないだろう。

しかし、サクラチヨノオーがこのトレーニングをこなす分には、最高の効率を発揮する。

そんなトレーニングメニューを作り上げたのだ。

 

 

そのトレーニングをこなすこと二ヶ月。

そして、遂にその日はやってきた。

 

太陽が今日という日を明るく照らす。

今日はサクラチヨノオーのデビュー戦だ。

 

 

レースはジュニア級メイクデビュー。

距離は1800m、函館レース場で行われるマイルのレースだ。

今のチヨのスタミナで問題なく全力でスパートをかけることが出来る距離。

それがマイルの1800mだった。

函館レース場は右回りだ。この点は問題ない。普段の練習から、右回りのコースの対策は行ってきた。

 

 

そして、今日は快晴。バ場状態は良だ。

雨でも大きな問題はなかったが、晴れであるのはありがたい。

雨は芝がかなり荒れてしまい、走りづらくなる。

デビュー戦から雨であるよりは晴れの方が好都合だ。

 

 

「いやぁ、遂にお前の担当のサクラ…なんとかもデビュー戦まで漕ぎ着けたな。なんかこう…感無量だな。」

 

 

「サクラチヨノオーだろ。もう何ヶ月も一緒にいるんだから、いい加減覚えたりしないのか?」

 

 

初めて会ってから数ヶ月が経つが、リュークは未だにサクラチヨノオーの名前を覚えない。

チヨノオーにはリュークが見えないので、必然的にリュークもチヨノオーに無関心なのかもしれない。

 

 

「いや、嫌いってわけじゃないんだけど…名前が長いと覚えづらいんだよな…」

 

 

そういうものなのだろうか。

とはいえ、今はそんな事を気にしている程余裕はない。

もうチヨノオーが出走するレースまで一時間もない。

一度控え室に様子を見に行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レース場の地下には、出走前のウマ娘が待機している控え室がある。

各ウマ娘毎に一部屋が割り当てられており、レースを前に精神を研ぎ澄ます者、自分の作戦を確認する者、不安を押し殺しながら出番を待っている者、様々だ。

 

 

レース前の控え室からは圧のようなものを感じることがあると聞いた。

実際、さっきチヨと共にここに来た時よりも重苦しい雰囲気を感じる。

 

 

「チヨ、入っていいか?」

 

 

「はい、どうぞ。」

 

ドア越しにチヨの声が聞こえた。

気のせいか、声の端々から若干の緊張があるように感じた。

ゆっくりとドアを開ける。

すると、そこには『チヨノート』を確認するサクラチヨノオーの姿があった。

 

 

「レース前の復習?昨日のミーティングでもしたし、大丈夫じゃないか?」

 

 

僕がそう聞くと、チヨはこう答えた。

 

 

「いや、まぁ…そうなんですけどね。なにせデビュー戦ですから。

準備不足で負けたなんてカッコ悪いことは言いたくないので。

勝っても負けても、悔いのないようにしておきたいんです。」

 

 

そう言ってこちらを見るその目には、確かな闘志があった。

ノートをよく見ると、今回のレース場の情報はもちろん、トレーニングで編み出した走り方、そのコツ、スパートのタイミングなど…

様々なことが書き記してあった。

僕と出会った時もその書き込みの量の多さに感心したが、今は付箋やマーカーなども多用し、前よりも更に使い込まれている。

これまでの日々の努力に甘えず、本番の直前まで自分の全力を出すために出来る努力をし続ける。

当たり前のことだが、大事な事だ。

 

実際は模擬レースの出走メンバーにも選ばれているし、才能がないわけではないのだが、彼女は、自分には才能がないと思っている。

それ故なのだろう、誰よりも努力が出来るウマ娘であるのは。

 

 

「大丈夫、あれだけのトレーニングをこなしてきたんだ。チヨなら勝てるよ。」

 

 

月並みな言葉しかかけることは出来ないが、僕は今本気でそう思っている。

 

 

「トレーナーさん…ありがとうございます。

実は私、ちょっと緊張してたんです。もし負けたらどうしようって。

でも、トレーナーさんにそう言ってもらえて、元気が出ました。私、頑張ります!『ここもダービーに続く道と思え』です!」

 

 

今に始まったことではないが、チヨノートにはレースの詳細な情報、自分の戦略やトレーニングがまとめてあるだけでなく、チヨによる自作の格言がいくつか記されている。

『ここもダービーに続く道と思え』もその一つだ。

 

 

「間もなく、レースが始まります。次のレースに出走予定のウマ娘は、パドックにお集まり下さい。」

 

招集のアナウンスがかかる。いよいよレース本番が近づいてきた。

 

 

「よし、そろそろだな。頑張れ、チヨ。」

 

 

そうしてチヨノオーは控え室を後にしてパドックへと向かっていった。




というわけで次回は遂にデビュー戦!
そろそろ第一章の終わりも近づいてきました!

連載の方式について

  • 2000文字くらいで週3~5連載
  • 4000文字で週1~2連載
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