今までは単語一つ縛りみたいな感じだったんですけど、今回はどうしてもこのタイトルにしたかったので。
控え室を出てから、僕はレースを見るために観客席に来ていた。
一時間前は閑散としていた観客席ではあるが、発走の時間にもなると大勢の観客が詰めかけている。
みな、その目で見たいのかもしれない。輝かしい原石の誕生を。
時代を担うような才能を。
周りをよく見ると、チヨの友達のメジロアルダンや、ヤエノムテキもレースを見に来ているようだ。
この二人はチヨと同年代で、二人とも今年デビュー戦を迎えていた。
実力があるのは間違いない。
他にも、家族連れやトレーナー候補の人、ウマ娘など、実に多種多様な人たちがレースを見に、この函館レース場に詰めかけていた。
しばらくすると、今回のレースに出走するウマ娘たちの紹介が始まった。
「一枠一番、ヘキサキャニオン。三番人気です。このレースでどれだけ実力を出せるのか、期待したいですね。 」
淀みなく紹介が続いていく。
チヨノオーの番号は四番だ。
「四枠四番、サクラチヨノオー。堂々の一番人気です。これは…凄い仕上がりですね、好レースが期待できそうです。」
そして、チヨノオーが登場する。
一番人気というだけあり、観客席がどっと湧いた。
「なぁ見ろよ、あのサクラチヨノオーってウマ娘!
凄い闘志だぜ!気合い十分、って感じだな!」
「まぁそりゃあデビュー戦ともなれば気合いは入るもんだと思うが…
ありゃすごいな、今日出走するウマ娘の中でも一番勝つって気持ちが強そうだ。こりゃ期待できるぜ。」
「頑張れー!サクラチヨノオー!応援してるぞー!」
観客席からの評価も上々だ。
あとはチヨが実力を出し切ることが出来れば、勝てるレースのはずだと思うが…。
「七枠七番、パワフルトルク。ちょっと気分が乗っていないようですね。これがレースにどう影響してくるか。」
そして、今日のレースに出走するウマ娘の紹介が終わった。
今日のレースに出走する他のウマ娘についても事前に調べてある。
その誰もがデビュー戦に出走する所まで漕ぎ着けた実力のある面子ではあるが、データで見る限りは、僕は問題なく勝てると思っている。
「リューク、どうだ、他のウマ娘の様子は?」
今のリュークには死神の目…のようなものが備わっている。
その目で見たウマ娘の能力値が分かるらしい。
だから、今のリュークにはどのウマ娘がどれ程の強さなのかが一目瞭然のはずだ。となると、一体どのウマ娘がライバル足り得るのか、リュークの意見を聞いておきたい。
「そうだな…この中で言うと、三番…五番とかが若干…つっても殆ど誤差みたいなもんだ。サクラチヨノオー以外で今日出走してる奴らの実力は殆ど同じだ。」
なるほどな。まぁ枠番や出遅れ、コンディションなんかで多少の変動はあるだろうが、そんなものか。
しかし便利な目だな。
ノートの所有権を持っているウマ娘の能力値が見えないのは欠点だが、それを差し引いても便利な目だ。
「さぁ、各ウマ娘、ゲートに入って体制整いました。」
いよいよだ。レースが始まる。
ここに来るまで緊張することなどなかったが、流石の僕もここに来て手に汗が滲む。
これまでは自分の努力で何とかしてきた。
無論トレーナーとしても僕はよくやってきたと思っている。
しかし、今から走るのは僕ではなくチヨノオーだ。
ここからは僕はどうすることも出来ない。
頑張ってくれ、サクラチヨノオー。
ガコンッ
「スタートしました!」
勢いよくゲートが開く音がして、レースが始まった。
六番が一人出遅れたが、チヨノオーは問題なくスタートを切れた。
「さぁ早くも現在先頭二番と四番が競り合っています、一番人気サクラチヨノオーは前から四番手!ここからどう出るのでしょうか。
さぁ先頭から振り返っていきましょう現在やや四番が優勢、二番が追走、追って五番、三番、七番、一番、そして六番と続いています」
実況は淡々とレースの状況を伝えてくる。
実際にこうして聞いてみると、これだけのハイペースでレース全体の解説や実況をするというのも簡単なことではないなと痛感する。
チヨは四番手についたか。
悪くないと言えば悪くない。
十分に後半捲れる位置取りだ。
「さぁハナに立った四番このままリードを保てるか、四番も先頭を伺っているぞ、そこから二バ身差で二番、すぐ後ろに三番だ!
一番人気です三番サクラチヨノオー、この位置ですがどう見ますか?」
「彼女の脚質には合っているのではないでしょうか。後半で抜け出す為に足を溜めているようにも思います。」
解説の言うのは一般的な先行の走り方だ。
あの合同トレーニングがなければ、僕はその走り方でこのレースに臨んでいただろう。
だが、今は違う。サクラチヨノオーの走り方は今や一般的な先行の走り方のそれではない。
「いけ、チヨノオー。」
隣にいるリュークに聞こえるかどうかという程度の小さな声で僕はそう呟いた。
「さぁ先頭から最初のコーナーに差し掛かる…おっと、三番サクラチヨノオー、ここで速度を上げてきた!現在二番手を追い越しました!これはどう見ますか?」
「掛かってしまっているかもしれません。一息入れられると良いのですが。」
解説の一言に、観客席がどよめく。
「えぇ、仕掛けるにしては早過ぎないか?」
「実力はあると思ったんだがな…初めてのレースで仕掛けるタイミングを見誤っちまったか…?」
観客席の動揺が見て取れる。
確かに、普通に考えたら『初めてのレースで焦って前に飛び出した』ようにしか見えないだろう。
さぁ、問題はここからだ。
「負けじと後続も追いすがる!続々とスピードを上げ先頭集団に喰らいつかんとしているぞ!」
よし、今このレースのペースメーカーは間違いなくチヨノオーだ。
「月、大丈夫か?サクラチヨノオー、随分と前に出てるみたいだが」
「あれ?リューク、今回のレースの作戦知らないのか?」
「あぁ。それ知ってるとつまんないからな。」
「そうか。だったらどうなるか大人しく見てろよ。」
レースは直線に突入する。ここで如何にしてペースを落とさず最後のコーナー周りを迎えられるか。そこが勝負の分かれ目となる。
「さぁ、依然先頭は四番、一バ身後ろに三番、次いで二番、三バ身離れて五番、すぐ後ろに一番、六番、七番と続きます!」
この時点で大きく動きはない。
強いて言うなら出遅れで最後尾だった六番が上がってきている。
そして、レースは最終コーナーへと近づいていく。
「さぁ先頭集団最終コーナーを回っていく!残り300mを切った…おっと!ここで先頭が変わった!ここで先頭が三番!サクラチヨノオーだ!ここで更に加速!」
一度は掛かったかに思われ、ここから沈んでいくと思われた三番の更なる加速。その瞬間、観客席が一気に熱を帯びる。
「マジか?!ここで更に加速?!」
「おいおい、何度ペースアップする気なんだ?!」
そのまま差し掛かった最終直線、サクラチヨノオーはぐんぐんと後続を引き離す。
その差実に約五バ身ほどだ。完全なセーフティリードと言っていい。
まさに…
『計 画 通 り』
あの第一コーナーでの加速も、最終コーナー終盤からのスピードアップも、全てが僕らの計画通りだった。
最初のコーナーでの加速で、後続のウマ娘たちはチヨノオーに離されまいとして無理にペースを上げた。
それと同時に、後続のウマ娘はこうも思っただろう。
「ここで加速したサクラチヨノオーは最終直線でスタミナが不足して沈む」と。
しかしこれまでスタミナトレーニングに重点を置いていたチヨは、まだスタミナに余裕があった。
よって、最後のコーナーの終盤で更なる加速に踏み切れたのだ。
一度で加速し、周りのウマ娘のペースを乱しつつ、自分はスタミナに余裕がある状態で逃げに近いポジションで最終直線を迎えられるという戦略。
これこそが僕とチヨが編み出した今回のレースの戦略の全貌である。
正直に言うと、前例がない以上成功するかどうかは賭けでもあった。
しかし、チヨはやれると言った。そして、僕もチヨならやれると信じていた。
そして今ーーーー
「さぁ一着に入ったのはサクラチヨノオー!サクラチヨノオーです!
二着は五番ホットダイナマイト、三着は一番ヘキサキャニオンとなりました!」
そこにいるのは、満面の笑顔でこちらに手を振るサクラチヨノオーだった。
今回、レースの描写をめちゃくちゃ気を使いました。
色んな資料見ながら作業してました。疲れた。
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