CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第二十三話 始まり

初めてレース場で行われたレースを終えたチヨノオーを、僕は函館レース場の地下通路で迎えた。

 

 

地下にはさっきのレースに出走したウマ娘と、その担当トレーナーたちがいて、今回の結果について話し合っていたり、レースの反省点を話し合ったりしている。

そんな中、僕はチヨノオーに労いの一言をかける。

 

 

「チヨ、お疲れ様。」

 

 

「はい、トレーナーさん…私、やりました!」

 

 

ようやくサクラチヨノオーを勝たせることが出来た。

いや、気を抜くのはまだ早い。ここはまだスタートラインに過ぎない。

目標はサクラチヨノオーをダービーで勝たせること、そしてマルゼンスキーを超えるウマ娘にすることだ。

 

 

しかし、今くらいは手放しで喜ばせてもいいだろう。

なにせサクラチヨノオーにとって初めての勝利だ。

 

 

「とにかくおめでとう、チヨ。これを励みに、今後もトレーニング頑張っていこう。…っと、その前にウイニングライブがあるか。

チヨ、ライブの振り付けはちゃんと覚えてる?」

 

 

「はい!それはもうバッチリです!」

 

ウイニングライブとは、レースで活躍したウマ娘の晴れ舞台である。

ファンはウマ娘を応援するため、ウマ娘は応援してくれたファンに感謝を伝える場となっている。

しかし、センターとしてライブの主役になれるのはレースで一着を取ったウマ娘ただ一人だ。

華やかさの裏には熾烈な世界が広がっている。

 

とはいえ、今回一着でゴールしたのはチヨノオーだ。

何も気兼ねなく、存分にライブを楽しんでほしい。

 

無論、チヨがライブの練習を熱心にしていたのも知っている。

振り付けもちゃんと覚えているなら問題はないだろう。

後は、大勢の観客の前で緊張しないことを祈るばかりだ。

 

 

「そうか、じゃあその場にいる全員をファンにするくらいの気持ちで構わない。全力で楽しんで。」

 

 

本来ならウイニングライブはファンの為に行われるライブではあるが、デビュー戦のウイニングライブにおいては多少意味合いが変わる。

デビュー戦で走るウマ娘に既にファンがついていることは少ないからだ。

大抵のウマ娘は、デビュー戦のウイニングライブはファンの為というより、観客をファンにする為にパフォーマンスをする。

 

 

「はい!もちろんです!」

 

 

すかさずチヨノオーが返事を返す。

ウイニングライブでセンターを務めることは全ウマ娘の憧れだ。

チヨノオー本人も、このライブを楽しみにしているのだろう。

軽い足取りでステージへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、しばらくしてライブが始まった。

 

 

結論から言うと、今回のウイニングライブは大いに盛り上がった。

歌や踊りの練習の成果もあり、チヨノオーはセンターで堂々と自分の役目を果たしていた。

僕自身、ライブに行くということがなかったので、今回のライブは新鮮な体験だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブが終わった後、チヨノオーは荷物を取りに行くために一度控え室に戻っていた。

 

しばらくしてチヨノオーが入口から出てきた。しかし…

 

 

「きゃああああ!!!」

 

 

何故かチヨノオーは僕を見るなり顔色を変え、空まで響き渡るような大声を上げた。

 

一体何がどうなっているんだ…?

僕を見た途端に大声を……いや、違う。

僕を見ていたというよりは…僕の後ろの方を見ているといった感じだった…

 

 

まさか!

 

 

「リューク、少しそこから動かないでくれ。」

 

僕はリュークをその場に留め、チヨノオーの元に駆け寄る。

そして、チヨにある質問をした。

 

 

「チヨ、落ち着いて聞いてくれ。

さっき叫んだのは、僕の後ろに変なやつが見えたからか?」

 

 

チヨノオーは怯えた様子で喋ることは叶わなかったが、小さく頷いた。

やはりそうだ。今のチヨノオーにはリュークが見えている。

しかし何故だ…?今までサクラチヨノオーが何度チヨノートに触れても、リュークが見えるようになることはなかった。

それが何故今は見えるようになっているんだ…?

 

 

考えられる要素としては今のリュークが見えるようになるためには条件があり…それをチヨノオーが無意識に満たしたという可能性…

もしくは、今日のレースに関係しているのか…?

 

 

いや、今はそんな事を考えている暇はない。

今のチヨノオーにリュークが見えている以上、どうにかしてリュークの事を説明しなければならない…

 

 

「チヨ、聞いてくれ。今チヨに見えているあいつの名前はリュークだ。

元々はある力を持つ神だったらしいが、今はその力はない。

そして、あいつはチヨが持っているチヨノートに憑いている存在らしい。僕はチヨと初めて会ってノートに触れた時にあいつと出会った。

その時から特に危害は加えられていないから、チヨに危害を加えるようなこともないと思う。

チヨに言わなかったのは、チヨにはリュークが見えてなかったし、言ってしまうとチヨが怖がってしまってトレーニングに支障が出ると思ったからなんだ。」

 

 

多少無理があるが…今言える範囲で理由を説明する。

流石に死神やデスノートのことについて言う必要はないだろう。

この世界に来てからの僕は、デスノートには関わっていないし、リュークに今死神の力はない。

余計な事を言ってこれ以上チヨノオーを混乱させる訳にもいかない。

 

下手に事実を隠しても、信頼が損なわれる恐れがある。

トレーナーと担当ウマ娘という関係である以上、信頼関係を損ねるのは得策ではないだろう。

 

 

「分かりました。にわかには信じ難い話ですけど、現に私は今…リュークさん…?が見えてますし、トレーナーさんが言うことなら、私、信じます。」

 

 

チヨノオーが素直な子で良かった。

 

それから、チヨノオーは恐る恐るリュークの方へにじり寄っていった。

リュークはさっき僕が「動くな」と言ったからなのか、チヨノオーに見られて緊張しているのか定かではないが、微動だにせずその場にいる。

そこへゆっくりとチヨノオーが近づいていき、リュークに触れようとする。

しかし、チヨのその手がリュークに触れることは叶わず、リュークの体をすり抜けていく。

 

 

「チヨ、リュークには基本触れることは出来ないよ。もっとも、リュークは自分の意思でものを触ったり掴んだりすることが出来るけどね。」

 

 

僕はそう言って、リュークにリンゴを差し出す。

そういえばここしばらく、リュークにリンゴをあげていなかった気がする。

 

 

「そういや久々のリンゴだな。こりゃ美味そうだ。」

 

 

リュークがそう言うと、チヨノオーは「わひゃあ?!」と情けない声を上げ驚いていた。

ウマ娘は尻尾に感情の機微が顕著に表れると聞いていたが、今のチヨもそうなのだろう。尻尾がピンと逆立っている。

 

それからチヨは、しばらくリンゴを食べるリュークを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

程なくしてリュークがリンゴを食べ終わると、僕らは学園に戻るための新幹線に乗らなければならないので駅に向かって歩き出した。

その頃にはもうチヨノオーがリュークを必要以上に怖がる様子はなかった。

前から思っていたことだが、チヨノオーは様々な状況に順応する能力が高いと思う。

トレーニングメニューを変更した時も、二日もすれば慣れてしまい、かなり速いペースでそのトレーニングをこなせるようになっていた。

今もリュークが見えるようになって三十分も経っていないだろうに、もう慣れている。

 

 

「トレーナーさん、よく見るとリュークさんってカワイイですね!」

 

 

…こんなことを言い出す始末だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅に着いたが、新幹線が来るまで少し時間があったので、家族や職場の先輩や同僚たちにお土産を買うことにした。

僕は函館名物をいくつかお土産として買った。

チヨノオーもクラスメイトに渡すためのお土産を買っていた。

 

 

そして僕らは新幹線に乗り、この函館の地を後にして、トレセン学園へと戻るのだった。

 

こうして、様々な出来事と謎を残し、サクラチヨノオーのデビュー戦は幕を閉じた。

連載の方式について

  • 2000文字くらいで週3~5連載
  • 4000文字で週1~2連載
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