CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第二章 ジュニア級
第二十四話 開幕


激動のデビュー戦の次の日。

 

色々あったが、サクラチヨノオーのデビュー戦も終わったし一段落ついた。

実はレースへの出走登録はトレーナー側もかなりやることが多い。

なので僕もレース当日までは比較的忙しくしていた。

しかしそのレースもようやく終わり、今日はトレーニングの予定もない。

これで僕も久々に休みを満喫出来るわけだ。

そんな事を思っていると、手元のスマホに一通のメールが届いた。

 

 

『学園所属の全トレーナーに告ぐ!君たちの未来にも関わる重大な発表がある!必ずチェックするように!』

 

 

そう書いてあるメールには、このメッセージと共にURLが貼り付けられてある。

一体何があるというのだろうか。

URLを開くと生放送の動画に繋がった。

どうやらこの生放送で何かしらの発表があるらしい。

 

 

「お、重大発表か。なんか面白そうだな。」

 

 

リュークも食いついてきた。

現場にはマスコミも大勢詰めかけているようで、かなり大規模な発表であることが伺える。

僕とリュークで生放送を見ていると、秋川理事長が話し始めた。

 

 

「では…提言ッ!

私はここに、新レース『URAファイナルズ』の開催を宣言するッ!」

 

 

瞬間、画面越しでも分かるほど会場がざわつく。

しかしそんな喧騒はよそに、理事長は言葉を続ける。

 

「このレースを設立した目的はただ一つ!全てのウマ娘に活躍の場を与えるためであるッ!!」

 

 

「おぉ、随分と大きく出たな。しかし全てのウマ娘に活躍の場を与えるレースなんてそんな事が出来るのか?」

 

 

こればかりはリュークの言う通りだ。

全てのウマ娘に活躍の場を与えるため…だと…?

レースというのは、どんなものでもそれがレースである以上、決められた距離がある。そしてウマ娘には一人一人に適性があり、出られるレースにはある程度の制約がある。

例えば短距離とマイルの距離が得意で、数々の成績を残したウマ娘がいたとしても、そのウマ娘が長距離のレースに出走して良い結果が得られるかと言えばそうではないだろう。

つまるところ、どんなウマ娘にも距離適性が存在している。

全てのウマ娘に活躍の場を与えるレースなど、本当に存在するのか…?

 

 

その日はそのことばかりを考えることになってしまい、結局ろくに何かをすることもないまま休日は過ぎ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会見から、数日が経った。

 

マスコミやレース界に大きな衝撃を与えたこの会見は、すぐにネットニュースなどでも取り上げられ、世間でも大きな話題となった。

まだ『URAファイナルズ』に関する情報はほとんど開示されていないが、世間ではこの会見に様々な反応が送られていた。

 

一方ではどんなウマ娘でも活躍出来るということ、これは素晴らしいことであると賞賛の声を送る者もいるが、一方では今回の決定に対して懐疑的な声も上がっている。

そんな中、トレセン学園で『URAファイナルズ』に関する説明会が行われる運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワザワ…

 

 

説明会の出席を認められ、体育館に招集されたのは中央トレセン学園所属のトレーナー、そして学園に通うウマ娘たち。そして情報発信のため集められた一部の大手のマスコミのみだった。

僕がここに来るのは最初の新人説明会以来だ。

あれももう数ヶ月も前の出来事なのか。懐かしいな。

 

会場はざわついており、各々が今回の件に関する意見であったり予想であったりを議論している。

どうやら今回の新レース設立の運びには反対の者が多いようだ。

当然と言えば当然のかもしれない。

理事長としてどれだけ優秀であるとはいえ、まだ年端もいかない子供であることには違いない。

子供の妄言のような扱われ方をしているのかもしれない。

僕も少なからずそう思っている。

この件がどう転ぶか、その全てがこの会見にかかっていると言っても過言ではない。

 

 

そんな中、理事長秘書である駿川たづなが壇上に現れた。

しかし、依然として会場はざわついており、とても何かを話し出すような状況ではない。

ここでこの場の雰囲気に飲まれてしまえば、対応が後手に回ってしまい、その隙をマスコミに突かれる可能性も出てくる。

さぁ、どう出る…?

 

 

すると、数秒後。会場全体に響き渡る大きな音が鳴った。

 

 

キイイイイイ……ン

 

 

ハウリングだ。

体育館に集められた全員が会話を止め、壇上を見る。

 

 

「うわっ、うるさいな。耳がイカれちまうかと思ったぜ。」

 

 

この分だと恐らくリュークは気づいていないだろうが、今のハウリングはわざとたづなさんが仕掛けたものだ。

先程のざわついているタイミングで、指をマイクに近づけて意図的にハウリングを起こしていた。

大きな音が鳴れば、集団は一度音のする方向を見る。

原始反射に近いものであり、たづなさんはそれを利用し大衆の意識を壇上に引っ張った。

そして、そのタイミングを見逃さず、駿川たづなは話し始めた。

 

 

「皆様、今回は突然の招集に応じて頂き、誠にありがとうございます。

今回皆様にお集まり頂きましたのは、URAファイナルズに関する詳細の説明を行うためです。

それでは、ここからは理事長である秋川やよいさんにお話して貰います。」

 

 

すかさず秋川理事長が登壇し、話し始める。

「諸君、突然の招集、重ねてお詫び申し上げる!

今回の件だが、急な発表であったことはこちらも重々承知しているッ!

しかし、聞いて欲しい!URAファイナルズについての私の意見、そしてその意義を!」

 

 

意義…?言葉の意味を考える暇もないまま、理事長は続けた。

 

 

「トレーナー諸君に告ぐ!悔しい思いをしたことはないか?!

記念に出たい!日本ダービーで勝ちたい!そう思っても…距離適性やレース場との相性が芳しくないせいで、断念したトレーナーも多いのではないだろうか?!」

 

 

確かに長くトレーナーをやっていれば、そういった出来事には直面すると思う。

しかし、距離適性などはウマ娘が生まれ持ったものであり、距離適性を矯正することは容易なことではない。

今理事長が壇上で話していることは、多くのトレーナーが直面した問題であり、その度に割り切ってきたことなのだろう。

 

 

「ここに集まってもらった諸君らに伝えたい!私の夢は、『全てのウマ娘が輝くことが出来る世界』だ!

私は、全てのウマ娘が全力を出せる、出し切れる舞台を用意したいのだ!」

 

 

雰囲気が変わった。

理事長の力強い言葉に、先程まで懐疑的な視線を向けていたトレーナーたちやマスコミがいつの間にか聞き入っている。

 

 

「通常のレースでは、距離やコースはレースごとに定められているものだ。しかし!URAファイナルズでは『全ての距離、全てのコース』を用意することをここに発表する!」

 

 

途端に会場がどよめく。

それもそのはずだ。全てのコース、距離を用意するレースなど聞いたこともない。

もしこれを本当に実現するのならば、レース界に残る偉業となるだろう。

 

 

「参加資格を手に入れる条件は『宝塚記念』やっ『有記念』と同様にファンによる投票とする!すなわち、トゥインクル・シリーズにおいて多大な成績を残し、活躍したウマ娘に出走権が与えられる!」

 

 

なるほど。多くのレースに出走し、良い成績を残せば、自ずとファンが増え、そのファンの投票によって出走権が得られるということか。

分かりやすくシンプルなシステムだ。

 

 

「ウマ娘諸君、トレーナー諸君!ぜひ、URAファイナルズの初代チャンピオンの称号『ファイナルズ・チャンピオン』の称号を目指して、これまで以上に切磋琢磨し、トレーニングに励んで欲しい!

激励ッ!!!私は諸君らの活躍に期待している!」

 

 

理事長が話し終わってから僅かな時間、会場が静寂に包まれる。

しかし、その静寂が切り裂かれた時、会場に溢れたのはーーーー

 

 

ワアアアアアア…!!!

 

 

歓声であった。

 

それもそのはずだ。何せ全てのウマ娘が活躍出来る新レースなど、過去に類を見ないことを、やると言ってのけたのだ。

 

大歓声の中、URAファイナルズの説明会は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

この説明会の内容はすぐに各テレビ局やニュースサイトなどで広がり、トレセン学園には連日記者が押し寄せることになった。

 

 

にしても、あの理事長も大したものだ。

巧みな話術で見事にあの会場の空気を支配し、あの場にいたトレーナーやつウマ娘たちをやる気にさせた。

おかげで今日のグラウンドにはいつもより活気が溢れている。

 

こうは言っているが、かく言う僕もガラにもなくやる気になっている。

まだデビュー戦が終わったばかりだと言うのに、既に次のレースの出走登録に手をつけ始めている。

 

なにせURAファイナルズの参加資格は一般のファンによる投票で決まる。

となると多くレースに出走したウマ娘が有利になるのは自明の理だ。

グズグズしている暇はない。

 

 

それに、やる気になっているのは僕だけじゃない。

チヨノオーもそうだ。

これまでも熱心に練習をしていたが、最近はより一層努力している。

僕の管理している範囲でトレーニングの運動強度を上げている。

 

 

Lの方もどうやらトレーニングのスタイルを変えたようで、最近のエルコンドルパサーはタイヤ引きをしていたり、Lと将棋をしていたり、一般のトレーナーから見たら何をしているのか分からないことをしている。

 

 

しかし、エルコンドルパサーはの先日デビュー戦を一着でゴールしている。

その時の映像を見たが、彼女も着実に実力をつけている。

前の合同トレーニングの時とは違う走り方をしていた。

恐らく向こうも自分なりの型を見つけたのだろう。

やはりLは侮れない。

 

恐らく今は最適なトレーニングを模索している最中なのだろう。

まだそれが完成していない段階で既にデビュー戦で一着を取れているエルコンドルパサーの潜在能力もかなりのものだ。

 

 

今後ジュニア級のレースに出ていくことになれば、他にも洗練された猛者がひしめいているのだろう。

これからはLだけを相手どって戦っていくわけではない、

レースで出会う全てのウマ娘に勝たなければいけないのだと強く感じた。

まぁ元来レースとはそういうものだが。

 

 

「なぁあんた、新人のトレーナーか?」

 

 

チヨノオーを待っている間、グラウンドを眺めながら思索に耽っていると、後ろから声をかけられた。

この人は…

 

 

「はい、そうです。あなたは確か…沖野さん、でしたよね?」

 

 

この中央トレセン学園でそれなりに長い間トレーナーを務めているベテランのトレーナーだったはずだ。

スピカというチームを監督しており、かなり特徴的な見た目をしている。

側頭部が刈り込んであり、残った癖毛を後ろで束ねており、前から見るとリーゼントのような髪型をしている。

 

 

「おぉ、俺のことを知ってるのか!

いやぁ、俺も有名になったもんだなぁ!」

 

 

「いや、沖野さんは実際トレーナーの間ではかなり有名ですよ。

実績もありますしね。」

 

 

これは謙遜で言っているのではなく、事実だ。

彼の担当しているチームスピカは、数々の優秀なウマ娘を排出してきた有名なチームの一つだ。

 

先日の模擬レースに出走していたサイレンススズカやトウカイテイオーも、数多のトレーナーからのスカウトを蹴って現在チームスピカに所属している。

 

「聞いたぞ~、今年は有望な新人トレーナーが入ってきたって!

お前のことだろ?試験を満点で通過した上に、初担当のウマ娘が既にデビュー戦で一着っていう凄腕トレーナーってのは!」

 

 

どうやら僕の方もそれなりに噂が立っているらしい。

確かに僕もその条件に当てはまるが、Lも当てはまるので、どちらの話かは分からないが。

 

 

「いや、そんな大層なものでもないですよ。先輩と同じように日々のトレーニングに四苦八苦しているただのトレーナーです。

沖野さんの方はどうなんですか?

急に新レース設立なんて経験、今までなかったんじゃないですか?」

 

 

僕自身トレーナー経験が浅いので判断が下しづらいが、新レース設立というのはそうそうあるものではないと思う。

今回の発表について、ここに席を置いて長いトレーナーたちはどう思っているのだろうか。

 

 

「あぁ~、あれな。確かに俺も何年かトレーナーをやってるが、あんなことは初めてだよ。しっかし、理事長も中々とんでもねぇことをするもんだな。流石に俺も驚いちまったね。

 

…でも、俺はURAファイナルズにゃ賛成だね。

純粋に頂点を目指したいと、そう思っても、色んな制約やしがらみがあってレースに出られなかったウマ娘ってのも数多いるもんだ。

そういう奴らからしたら、今回の新レース設立の発表は嬉しかったんじゃねぇかなって思うしさ。

それに、折角だし俺もトレーナーとして担当してるウマ娘をURAファイナルズまで連れてってやりたいしな!」

 

 

…この人が多くのウマ娘から慕われているのが、何となく分かった気がする。

恐らくこの人は打算で生きている訳ではなく、純粋にウマ娘やレースが好きなんだろう。

 

 

「そうですか、確かにそうですね。お互いライバルとして、頑張りましょう。」

 

 

そこに、チヨノオーがやってきた。

 

 

「トレーナーさん、お待たせしましたぁっ!あれ、こちらの方は…?」

 

 

チヨノオーは不思議そうに沖野さんの方を見ている。

沖野さんもチヨノオーの方を見ている。

 

「へぇ、こいつがあんたの担当してるウマ娘ってわけね。

…中々根性がありそうな奴だな。

まぁ、お互い頑張ろうぜ、それじゃあな。」

 

 

そう言うと沖野さんは去っていってしまった。

彼の担当するウマ娘とも、そのうちレースで会うことになるだろう。

それに、彼の担当するウマ娘たちはいくつかのレースを経験している猛者ばかりだ。

もしこちらのトレーニングに協力してもらうことが出来れば、チヨも得られるものがあるかもしれない。

 

 

気さくでウマ娘への情熱があるトレーナーか…。

今後も関わることがありそうだ。




今回初登場したのは、アニメオリジナルのトレーナー、通称沖野Tですね。
ウマ娘はアニメから入ったので、ゲームの方にもこの人が出てくるもんだとずっと思ってました。

連載の方式について

  • 2000文字くらいで週3~5連載
  • 4000文字で週1~2連載
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