CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第二十六話 踊り

日々のトレーニングに打ち込み続け、いつしか時は八月も中頃に差しかかり、生成色の日差しが眩しくなる頃。

このウマ娘のいる世界で夜神月は…

ダンスを、踊っていた。

 

 

「どうしてこうなったんだ…」

 

 

話は、一時間前に遡る…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、僕はチヨノオーのウイニングライブの練習を見に来ていた。

無論トレーニングのために、だ。

 

前回のデビュー戦で初めてチヨノオーはライブで踊ったわけだが、その時の月の率直な感想は───

 

 

「動きがぎこちない」

 

 

ということだった。

確かにあの時チヨノオーが言っていた通り、振り付けは完璧だった。

デビュー戦で歌った『Make debut !』も、素人目ではあるが良かったと思う。

 

となると、今のチヨノオーに足りないもの何か?

そう、ダンスの完成度である。

振り付けは完璧に覚えていたが、一つ一つの動きの繋ぎ方がぎこちなかった。

あれではデビュー戦のウイニングライブは何とかなっても、重賞のレースで勝った時のウイニングライブでは、目の肥えたファンを満足させることは出来ないだろう。

 

そして本日の課題曲は『ENDLESS DREAM!!』である。

 

ジュニア級の数少ないGI『朝日杯フューチュリティステークス』や『阪神ジュベナイルフィリーズ』、そして『ホープフルステークス』の後に行われるウイニングライブの曲だ。

チヨノオーもこのまま重賞を勝ち進んでいけば、いずれ朝日杯FSやホープフルSに挑戦するかもしれない。

だからこそ今回の練習を見学しに来たわけだ。

GIのウイニングライブ。

半端な完成度にするわけにはいかない。

 

 

「ほら、チヨ。またステップが雑になってる。」

 

 

何度やってもこの部分のステップが疎かになっている。

仕方がないと言えば仕方がないが…

 

実はライブのパフォーマンスを全て完璧に覚え切るのは中々に難易度が高い。

なぜなら、一人分の立ち位置や動きを覚えておけばいいという訳ではなく、全員分の動きを把握しておかなければならないからだ。

というのも、ウイニングライブでの配置というのは知っての通り、直前のレースの着順によって決まる。

そして、その時まで自分がどこで踊るかが分からないため、何着だったとしても対応出来るようにしておかなければならない。

よって、余程一着を取る自信がない限り、基本的に全てのポジションでの段取りを覚えなければならない。

 

となれば、覚える振り付けは膨大な量となる。

多少の抜け漏れが出てくるのは仕方のないことではある。

しかし、今練習しているのはライブが始まってすぐの、ファンが最もウマ娘の動きをよく見ることが出来る部分なのだ。

ここでのステップの手抜きは致命的に映ってしまうだろう。

 

他にもいくつか気になるところはあるが…

まぁ、焦ることはない。

どんなことにも言えることだが、一朝一夕で簡単に出来ることばかりではない。

今はまだ八月。

『ENDLESS DREAM !!』をライブで披露するのは早くとも十二月頃にだ。それまでに踊りを完成させればいい。

時間はある。

 

それに、僕がここに見学に来た目的はライブの練習を見るためだけでは無い。

 

そう、偵察だ。

今後のレースで勝ち抜くためには情報収集も重要な要素になってくる。

相手のことを知れば、それを加味した上で作戦を練ることが出来る。

相手の得意なレースパターンを把握していれば、それを阻止するように走ることも出来る。

レースに必要なのは自分自身の身体能力だけではない。

 

 

「なぁ月、一つ聞きたいんだが」

 

 

これまで特に何も喋らずにウマ娘達が踊っているのを見ていたリュークが、唐突に話し出した。

 

 

「どうしてこんなところに俺を連れてきたんだ?別にウマ娘の能力見るだけならグラウンドでも良かったんじゃないのか?」

 

 

そういえば、ここに連れてくる時にリュークには理由を説明していなかったな。なぜわざわざこのライブ練習で偵察を行わなければならなかったのかを。

言いたいことは分かる。確かにグラウンドにはリューク大勢のウマ娘がいるし、ただウマ娘の能力を量りたいだけならそっちの方が楽、ということだろう。

 

だが、今回の目的は少し違う。

リュークの言う通り、グラウンドにはたくさんのウマ娘がいる。

そう、()()()()()()多くのウマ娘がいるのだ。

これが今回僕がここに来た理由だ。

 

チヨノオーは今ジュニア級のレースに出走するウマ娘。

今後は先輩やシニア級のウマ娘と同じレースに出ることもあるだろうが、それはチヨがクラシック級に進級してからの話だ。

ジュニア級のウマ娘がシニア級やクラシック級のウマ娘と同じレースに出走することはまずないと言っていいだろう。

グラウンドにいるウマ娘たちはクラシック級やシニア級、もしくはそれ以降で活躍を目指すウマ娘が多い。

そんなウマ娘たちのデータを取ってもどうしようもない。

チヨノオーが今戦っているのはジュニア級の相手だからな。

 

ではジュニア級のウマ娘が集まる場所は一体どこなのか。

それを考えて、僕はここに辿り着いた。

ウイニングライブの練習は必修科目というわけではない。

そのレースに出走する予定のあるウマ娘たちが自主的に選択して受講する制度になっている。

つまりここにいるウマ娘は、全員が朝日杯フューチュリティステークスや阪神ジュベナイルフィリーズなどのジュニア級GIへの出走を予定しているウマ娘なのだ。

 

そういう理由もあり、僕は今日ここへ足を運んだというわけだ。

その事を軽くまとめてリュークに説明すると、すぐに理解しまた初めの時のようにウマ娘たちの方を見だした。

 

最近のリュークは自分の興味のあることには強く関心を示し、逆に興味のないことには一切関心を示さなくなっている。

死神だった頃から面白いことを好む性格ではあったが、かなり極端になってしまっているようだ。

単にリュークの心持ちが変わったのかと思ったが、話を聞く限り、どうやらどうやらそうでもないらしい。

リューク曰く、『チヨノオーを成長させて、彼女の夢を叶えさせなければならない』という強迫観念に近いものが心のどこかに常にあり、チヨノオーやウマ娘に関する頼みは基本断ることが出来ない、とのことだ。

これはリュークが死神でなくなったことと関係があるのかは定かではない。

そもそも『ウマ娘や人間の能力が数値化されて見える目』というのもウマ娘にとって都合が良すぎるように思える。

リュークはウマ娘を導く存在にでもなるつもりなのか?

しかしもしそうなったとしても、僕に恩恵はほとんどない。

リュークはあくまで傍観者としてそこにいるだけであり、故意に誰かを味方したりすることはないからだ。

ただし、リンゴがかかっている時はそうでもない。

割と簡単に言うことに従う。

それに本人の言っていることが本当なら、「ウマ娘に関係する事柄なら断ることが出来ない」というのは後々使えそうだ。

 

 

「どうですか?トレーナーさん!」

 

 

いつの間にかダンスの練習は休憩に入っていて、チヨノオーが僕の元に意見を求めに来ていた。

スタミナがついたことはここでも生かされているようで、かなり激しい動きを伴うダンスを一曲まるまるこなしたにも関わらず、疲れている様子もなく、元気に満ち溢れていた。

耳をピコピコトレーナー動かし、尻尾を振っているその様子はまるで犬のようでもあった。

 

本題のダンスについてだが…僕個人の意見としては、上手とも言えないが下手とも言えないというのが正直な感想だ。

例えるなら、デビュー直後の地下アイドルユニットよりは良い動きをするが、メジャーなアルバムをいくつも世に出している大物グループのバックダンサーとして使うには少し実力不足、という具合のダンスだった。

僕自身ダンスは齧った程度の実力なので具体的なアドバイスが出来ないことが悔やまれる。

とはいえ、前回のライブの時よりは上手くなっている。それは僕でも分かる。

 

「そうだね、前のライブの時より上手になってると思うよ。一つ言うとするなら、そうだな…あくまで僕個人の意見だけど、動きを追いかけることに精一杯になってて余裕がない印象を受けたから、次はもう少しファンに向けたライブということを意識して踊ってみたら良いんじゃないかな?」

 

 

このアドバイスが正解だったのかどうかは分からない。

しかしチヨノオーのこの満足そうな反応を見る限り、今言ったことが原因で彼女を不機嫌にさせたということはなさそうだ。

 

純粋に相手の成長を望む上でしてはいけないことは『相手を否定すること』だ。なのでまずその努力の過程を認めてあげる。仮に指摘することがあるとしたら、その後だ。

最初から怒鳴りつけて、その上でいくら至極真っ当なアドバイスをしたところで、真剣に聞く気にならないことも多いからだ。

 

 

夜神月は人心の掌握が存外上手かった。

彼は大学卒業後は警察官僚として警察に務めており、多くの部下から慕われていたという実績もある。

キラとして世界中の犯罪者の情報を得るために都合が良かったから警察官僚という職に就いたというのが正直な話だが。

 

 

「おや、月くんも来ていたんですね。」

 

 

「竜崎…お前も来たのか。」

 

 

ちょうど練習が休憩時間に入ったタイミングで、エルコンドルパサーとLがダンスルームに入ってきた。

Lもウマ娘の偵察をしに来たんだろう。

でなければわざわざこんな所まで来ることはないはずだ。

とはいえ僕は既に欲しい情報を手に入れた。

ライブの練習の最中にリュークから各ウマ娘の情報を聞いておいた。

つまり僕はこれ以上ここにいる理由はない。

 

 

「竜崎、僕としてはエルコンドルパサーのダンスにも興味があるが、僕には用があってね、今から帰るところなんだ。」

 

 

正直な話、Lがいつリュークの存在に気づいてもおかしくはないので、早めに撤退したい。

チヨノオーにも無視しておいて欲しいということは伝えてあるが、先程からチラチラとリュークの方を見ている。

あまりここに長居するとLにバレてしまいそうだ。

僕がリュークと共に部屋を出ようとすると、Lは一言こう言った。

 

 

「月くん、私とダンスで勝負しませんか?」

 

 

勝負だと…?模擬レースの時と同じだ。

必ず何か魂胆があるに違いない。

それに何故ダンスで勝負なんだ?レースで勝つことに関係がないような気がするが…?

 

「悪いが、急いでいるんだ。また時間がある時にしてくれ。」

 

Lが何を考えているのかは定かではないが、こうして誘いを断ってしまえばそれで終わりだ。

 

 

「…逃げるんですか?」

 

 

…ほう、言ってくれるじゃないか。

そっちがその気なら、やってやるよ。

 

僕は先手を打ち、軽いバドブレ、クロスステップ、ウィンドミルという流れで技を繰り出す。

突然始まったトレーナー同士の戦いに、周りのウマ娘は釘付けになってこの戦いを見ている。

 

L、お前は僕にダンスの経験がないと考えていたんだろうが、それは大きな間違いだ。

ダンスは基本のステップ程度なら踏めるし、軽いアクロバット程度なら出来る。

 

さぁ、どう出る?

するとLはいきなり飛び上がり、エレベーター、ジャイロ、マーシャルと流れるようにブレイクダンスの大技を繰り出した。

周りで見ていたウマ娘はその見事な技の数々に惜しげのない拍手を送った。

Lは呼吸を整えてこう言った。

 

「凄いですね、月くん。ダンスも踊れるなんて。」

 

 

くっ、今のLに言われても嫌味にしか聞こえない。

というかこれは実際に嫌味だろ。

まさかLがダンスも上手いとは。

逆に一体何が出来ないのだろうか。

 

ダンスルームは降って湧いたトレーナー同士のダンスバトルの話題で持ち切りになった。

そんなダンスルームにプライドの高い月が長くいられるはずもなく、しばらくするとリュークを連れて寮の部屋へと帰ってしまった。

 

くそっ、こんな屈辱は生まれて初めてだ。

ちなみに、一部始終を見ていたリュークは僕が負けた時からずっと爆笑し続けている。

癪だが、負けたことが事実なので何も出来ない。

結局Lの狙いも分からなかった。一体何がしたかったんだろうか。

その日は負けたことへの苛立ちと、Lにしてやられたという落胆で作業効率が落ちていた気がする。

 

しかし、月はその後チヨノオーがくれた『私はトレーナーさんの方がカッコイイと思いましたよ!!』というメールで少しやる気を取り戻すのだった。




お久しぶりです、皆さん。
何を思ったのか、今回の後半の方はギャグ全振りでしたね。
これを書いた時、恐らく疲れていたんだと思います。

ちなみにLがダンスバトルに持ち込んだ理由ですが、特に深い意味はありません。
彼は純粋に月と対決がしたかったのです。

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  • 2000文字くらいで週3~5連載
  • 4000文字で週1~2連載
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