デスノートの原作を知らない方にもこの作品をもっと楽しんで頂きたいと思ったので。
Lの説明は作中で月くんがしてくれているので省きました。
新潟レース場
新潟県新潟市にあるレース場。
公共交通機関での移動手段がバスのみであり、レース場に行く為には多少の不便を強いられる。
とはいえ特色もある。ここ新潟レース場は、日本で唯一直線1000mのレースが開催されることで有名なのだ。
夏にはこのコースを活かして、名物重賞『アイビスサマーダッシュ』が行われることで有名だ。
そして気持ちの良い快晴に恵まれた新潟レース場に、僕とチヨノオーはやって来ていた。
目的はもちろん、今日ここで開催されるレースに出走するため。
レース場の前に来るのは二度目だが、やはりこの雰囲気には慣れないな。
新潟ジュニアステークスは、今後の展望を決める上で一つの指標となる重要なレースだ。
新潟ジュニアステークスを含むジュニア級の重賞でどのような結果を出すかどうかで、難易度の高いレースに挑戦するか、目標を下げるかを考えることになる。
今回のレースは前回のデビュー戦とは違って、18頭立てで行われる。
ウマ娘の人数が多い分、先行策で挑むチヨノオーは前回よりも大きなプレッシャーを感じながら走ることになるだろう。
とはいえ、こっちも出来る限りの事はした。
今回のレースの為、蹄鉄も新調したし、新潟のコースの
懸念事項と言えば…前回のデビュー戦と違い、既にいくつかのレースで好成績を収めているウマ娘が出走しているというところか。
今回のレースで僕がマークしているのは3人のウマ娘だ。
一人目はゴールドシチー。
彼女は元々モデル業に精を出していたウマ娘だったが、ジュニア級ウマ娘となった今年からレースにも力を入れ始めている。
そんなモデル業の影響もあり、今回のレースは三番人気という結果になっている。
デビュー戦では二着と惜しい結果に終わったが、彼女の実力が折り紙付きであることは間違いない。
何度かグラウンドでの練習風景を見たことがあるが、やはり良い走りをする。
特殊な走り方をするわけではないが、今回出走するメンバーの中では要注意となるだろう。
二人目はハッピーミーク。
このウマ娘は他でもない桐生院葵の担当ウマ娘でもある。
デビュー戦デビュー一着という鮮烈なデビューを飾った猛者の一人であり、今回のレースでも一番人気となっている。
流石あの桐生院葵が選んだウマ娘というのは伊達ではない。
彼女は一言で言えばオールラウンダーであり、芝でもダートでも、果ては短距離から長距離まで。
特に制限なくどんなレースでもある程度好走することが出来るらしい。
更に彼女は逃げ、先行、差しの三つの脚質適正があり、どんなレースを展開するのか予想することが難しい。
今回のレースではその実力に加え一番人気となっているので、かなりマークされることが予想される。
僕も注視はしているが、どの脚質で仕掛けてくるのかが不明なのであまり気にしすぎても思考が乱される。
それよりも問題なのは三人目だ。
三人目はニシノフラワー。
ウマ娘にとっての名門であるトレセン学園に飛び級で入学したというあまりにも異色の経歴を持つ。
年齢的には小学生にあたるため、まだ身長は低く、小柄である。
そんな彼女は短距離やマイルの適性が高いらしく、先日の短距離のデビュー戦では短距離としては異例の二バ身差での一着だったという。
僕の見立てでは、今回のレースの台風の目は間違いなく彼女になるだろう。
今回のレースの脚質分布は、
逃げ 4
先行 5
差し 7
追込 2
となっている。
逃げ4、先行5と前脚質が多いので、前が塞がることが予想される。
先行は如何にして逃げの間を抜け出せるか。
差し追込は恐らく大外を回り込む形になるだろう。
マイルとはいえ大外を回るとなればスタミナはギリギリの勝負になるだろうから、どこで仕掛けるかという勝負になりそうだ。
そして、今回出走するウマ娘が解説の声に合わせてパドックに出てきた。
パドックというのは、レース前のウマ娘たちが準備運動がてら周回をする場所である。
レースを見る観客は、このパドックで出走するウマ娘の善し悪しを判断する。
そのため、ウマ娘によってはこのパドックで披露する一芸を持っている者もいる。
最近だと、先日デビューしたトウカイテイオーなんかがそうだ。
俗に『テイオーステップ』と呼ばれるその独特な歩き方にはその場にいた観客の多くが注目していた。
「一枠一番、ブリッジコンプ。調子が良さそうですね、好走が期待できそうです。」
「二枠二番、ハートシーザー。ちょっと調子が悪そうですね、レースに影響しないと良いのですが。」
出走ウマ娘が続々とパドック入りしてくる。
入場は淀みなく進んでいき、チヨノオーの番が回ってきた。
「六枠六番、サクラチヨノオー。二番人気です。これは…仕上がっていますね。今回のレースが楽しみです。」
チヨノオーがパドックに入ってくると、観客のどよめきが増した。
どうやら観客の中には、サクラチヨノオーに注目している者も多かったようだ。
とはいえ、それもそのはず。
サクラチヨノオーは前回のデビュー戦を六バ身差で快勝している。
デビュー戦で二着と六バ身の差をつけての大勝というのは、そうそう起きることではない。
僕の先述した三人のウマ娘も脅威には違いないが、サクラチヨノオーの存在も、他のウマ娘からすると脅威に感じることだろう。
「あ、夜神さん、こんなところにいたんですね!」
観客席の一番前にいた僕に声をかけてきたのは、今回のレースにも出走するハッピーミークのトレーナー、桐生院葵だ。
「葵さん。来ていたんですね。」
来ていたんですねとは言うものの、大抵のトレーナーは自分の担当ウマ娘のレースは流石に見に来る。
レース場に来ていることに対して驚く必要はないように思えるが、桐生院葵に限っては話が別だ。
桐生院家は全てのトレーナーの模範と言っても過言ではない程に優秀なトレーナーを数多く排出してきた由緒ある家である。
故にその家の人間は多忙を極めている。
トレーニングのノウハウを書き記した本の出版や、数多くのウマ娘関連のニュースで専門家として意見を出すこともある。
なのでレースには来ないのだろうと思っていた。
「ミークの初の重賞レースなので…スケジュールを切り詰めて来ちゃいました。」
まぁ、いくら多忙とはいえ自分の担当の初の重賞レースだ。
気にならない方が珍しいことだ。
そうして桐生院葵は手早く月に対する挨拶を済ませ、予め彼女が確保していた撮影にうってつけの場所へと向かっていった。
そこにはプロの写真家が使うような大きな三脚のカメラが置いてあった。どうやら彼女はそのカメラで自分の担当のレースを写真に収める気のようだ。
まるで初めて子供の運動会に来た母親のようだ。
「七枠七番、ニシノフラワー。四番人気です。デビュー戦では華々しい結果を見せてくれました、今回のレースも期待できそうですね。」
彼女がニシノフラワーか。
実際にこの目で見るのは初めてだが、身長は恐らく130~140cm程であり、小柄。
とてもこの厳しいレースの世界でやっていけるようには見えない。
何も知らない者が彼女を見たなら、小さな子が迷い込んでしまったのかと勘違いしてしまうだろう。しかし…
「月、あのニシノフラワーってやつ…かなり強いぜ。他の奴と比べてもあいつは群を抜いてる。」
そう、彼女には実力がある。
残酷なレースの世界でただ一つ必要なものを持っているのだ。
それ故に彼女はここにいる。
相手の能力を見極める目を持っているリュークが言うのだから、間違いないだろう。
だが、積み重ねたもので言うならこちらも負けてはいない。
この日までに出来ることは全てしてきたつもりだ。
いくら相手が強かろうと、負けるつもりは毛頭無い。
各ウマ娘の紹介も終わり、
全てのウマ娘のゲートインが完了した。
いよいよ出走までの時間は秒読みだ。
月の手に汗が滲む。
彼は柄にもなく緊張していた。
一体何故なのか。
それは自分以外の相手に成否を委ねているという点にあった。
夜神月は生まれつき全てを自分の手で何とかしてきた。
本来人間はお互いを助け合い生きていくものだが、夜神月はそれらをほぼ一人で捌ききれるだけの能力があった。
自分以外の他人に成否を委ねるというのは彼のこれまでの人生においてめったにないことであった。
自分が如何に努力したとしても、最後に結果を決定するのは自分ではない。その恐怖が、彼に緊張を与えていた。
チヨ…頼んだぞ。
月がそう思ったと同時に、ゲートが勢いよく開いた。
レースの火蓋は、切って落とされたのだ。
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