CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第三十話 新潟ジュニアステークス③

「ハッピーミークを差し切り、サクラチヨノオーとニシノフラワーが先頭に現れた!」

 

 

「さぁ最後の200m!依然先頭はニシノフラワー!

おぉっと、サクラチヨノオー差し返した!サクラチヨノオー差し返しました!」

 

 

「サクラチヨノオーとニシノフラワー、横並びでゴール!

サクラチヨノオーが僅かに優勢にも見えたが、結果はどうでしょうか!?」

 

 

「勝ったのはサクラチヨノオー!見事なレースでした!!」

 

 

 

 

 

 

あっという間のレースだった。

そして、そんな瞬く間に終わってしまったレースは、サクラチヨノオーに勝利という勲章を与えていった。

正直な話、今回のレースは一着では無いかもしれないと思っていた。

デビュー戦の時と違い、今回のレースには多方面から実力を認められた猛者たちが多く出走していたからだ。

しかし、そんな者達を相手取り、なおかつ勝ってしまった。

これでもう疑いようもない。

チヨノオーの実力は本物だ。

 

酷な話だが、ウマ娘の才能の有無を測る指標の一つに、重賞のレースを勝てるかどうかというものがある。

実際、重賞レースと非重賞レースとでは難易度に大きな開きがある。

いかに名門トレセン学園に入学することが出来たとはいえ、中央の重賞で勝ち星を挙げることが出来ずレースの道を諦める者も多い。

どれだけ優秀なトレーナーが担当に就こうとも、ウマ娘側に実力の無い者や二人の相性が芳しくない場合などには容赦なく退学通告をくらう、そういう厳しい世界なのだ。

しかし、そんな中チヨノオーは重賞のレースで見事一着という結果を残した。

それも初出走の重賞レースでの事だ。

今後日本ダービーを目指していく上での一つの懸念点が解消された。

 

この調子なら、問題なくあのレースにも出走出来そうだ。

ジュニア級GIである「()()()()()()()()()()」に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、地下通路にてサクラチヨノオーと再会する。

レースから少し経ってはいるが、疲れているのが見て取れる。

この後ライブもあるのに、この調子で大丈夫だろうか。

持ってきておいたゼリー飲料をチヨノオーに手渡す。

それをゴクゴクと凄い勢いで飲むと、少し元気を取り戻したチヨノオーはゆっくりと喋りだした。

 

 

「トレーナーさん、私…勝てました!

正直なこと言うと、緊張してたんです。

私みたいな普通のウマ娘じゃ…勝てっこないって思ってたから…。

でも、そんなことなかったです!確かにもうムリって…何度も思いました。すごく疲れたんですけど、みんな速かったですけど、でも…私、勝てました!勝てたんです、トレーナーさん!」

 

 

まだ気持ちに整理がついていない彼女は、自分の言いたいことをいっぱいいっぱいになりながら話してくれた。

支離滅裂ではあるが、割と何が言いたいのかは大体理解出来る。

要するに嬉しいということだろう。

僕がチヨノオーを褒めると、彼女は尻尾をぶんぶん振っていた。

この子は実は犬なんじゃないかと割と本気で勘違いしそうになる。

 

 

「ほら、気を取り直して。まだウイニングライブがあるだろ?手放しで喜ぶのは、それが終わってからだ。」

 

 

そう言うとチヨノオーはハッとしたような顔をして、すぐに控え室へと帰っていった。

まさかライブのことを忘れていたんじゃないだろうな…?

 

 

そうして控え室へと戻るチヨノオーを見送って、僕もライブ会場に移動しようかと歩き出したその時、1組のトレーナーと担当ウマ娘の姿が目に付いた。

確か彼女は…今日のレースで十着だった子だ。

その表情は決して明るいとは言いがたく、とにかく彼女は俯いていた。

そして、恐らく彼女のトレーナーであろう男が何かを話している。

彼女はそれを俯いたまま聞いていて、しばらくすると涙を流し始めた。

負けたことに対する悔しさだろうか。

 

華やかなレースの世界の裏ではこういう事が起こっているというのは知識として知ってはいたが、実際に目の当たりにすると思うものがある。

トレーナーというのはウマ娘の人生を預かっている存在だ。

自分一人の選択で、その子の人生を変えることが出来る。

良くも悪くも。

そういうことを、強く再認識させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、僕とリュークはウイニングライブを見る為に会場入りしていた。

入場者入口から入ろうとしたのだが、係員の人に呼び止められた。

どうやらライブに出演するウマ娘の担当トレーナーやライブの関係者には別で席が用意されているらしい。

前回のデビュー戦のライブは規模が小さかったのでそんなものはなかったが、流石に重賞のレースともなるとライブの規模も違ってくる。

 

ライブが始まり、ウマ娘達が踊り出す。

すると横にいたリュークは意外なものに興味を示した。

 

 

「なぁ月、あの下の方で光る棒持って踊ってる奴らって何なんだ?

あいつらが踊る必要はないだろ?」

 

 

あれは…俗に言うオタ芸か。

アイドル文化の普及に伴って進化したファンのパフォーマンスの一つであり、実はいくつかの技が存在している。

四突きや六突き、アマテラスなどがそれにあたる。

オタ芸と言うとナヨナヨとしたイメージを持たれることが多いが、プロの打ち師によるオタ芸は一般のオタ芸に対する常識を遥かに凌駕する完成度を誇る。

僕がリュークにその事を説明すると、どうやら興味を持ったようで、リュークはライブの方ではなくオタ芸の方を見ていた。

 

 

「人間って…面白!」

 

 

どうやらオタ芸に面白さを見出したようだ。

一体リュークはどこに向かおうとしているのだろうか…?

 

一方僕は、今回のレースの後の会見での立ち振る舞いについて考えていた。

重賞のレースで一着を取ったウマ娘とそのトレーナーは、記者の前で取材を受けることになっている。

会見と言っても、レースの内容についての反省だったり、何かに対して言及されるという訳では無い。

会見の内容は人によって様々だが、大抵ここで今後のレースの出走方針を明言したりすることが多い。

簡単に言うと、一般の人々に一着を取ったウマ娘を知ってもらう為の会見ということだ。

ほとんどメディア露出のないサクラチヨノオーにとっては、ほぼ自己紹介の場のようなものだと言っていい。

 

そしてそんな記者会見を目前に控えたこの状況で、僕はまだチヨノオーの今後のレースのローテーションを決めかねていた。

というのも、彼女は恐らく短期間でいくつものレースに出られるタイプのウマ娘では無いからだ。

しばらくはレースの出走を避けたい。

具体的には1ヶ月ほどだろうか。

しかし会見の場で「1ヶ月レースには出ない」といった後ろ向きと捉えられてもおかしくはないような発言をしてもいいものだろうか。

今はまだジュニア級の8月。

レースへの出走を急ぐような時期でもないが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた記者会見。

僕の方はある程度話すことは固めた。

こうなると問題はチヨノオーの方だ。

記者会見では、僕が話すタイミングとチヨノオーが話すタイミングがある。

僕が話すことはサクラチヨノオーの魅力であったり、今後のレースの展望だったりする訳だが、チヨノオーが話す内容に関しては、完全に彼女に一任しておいたので、何も知らない。

もしこの全国放送の記者会見で、何か爆弾発言を彼女がかましてしまったらと思うと恐ろしいが…

彼女もまた思慮分別の深い、トレセン学園のウマ娘だ。

そんなことは無いはずだ。

半ば言い聞かせるような形で自分を納得させ、チヨノオーと共に記者会見の場へと赴く。

 

 

「チヨ、大丈夫か?緊張とかしてないか?」

 

 

「だ、だ…大丈夫ですよぉ、トレーナーさんん…。」

 

 

一応確認はしてみたものの…本当に大丈夫だろうか。

しかし、もう彼女の緊張をほぐす時間などない。

既に会見の時間は少し過ぎており、今現在僕らは大勢の視聴者を待たせてしまっている事になる。

一刻も早く出ていかなければいけない。

意を決し、会場へ繋がる扉を開く。

その向こうには大勢の記者とカメラがあった。

途端に浴びせられるフラッシュの嵐。

事前に聞いていたより記者の数が多い。

どうやらあのレースの結果は報道陣が思っていたよりも鮮烈だったようで、急遽大勢の記者団が詰めかける事になったらしい。

まずい、チヨが明らかに動揺している。

僕は何度か大勢の前で話す機会があったから問題ないが、彼女にはそういう機会はなかっただろうし、仕方がないと言えば仕方がない。

何とか僕がフォローする形にして、問題なく会見を締めくくることにしよう。

 

 

まず僕が記者の質問を受けることになっている。

進行の方が記者への質問を促し、記者団が各々手を挙げる。

そして選ばれた一人が質問をする。

 

 

「月刊トゥインクルの乙名史です。夜神トレーナーに質問ですが、サクラチヨノオーさんの今後のレースについてはどのように考えていらっしゃいますか?」

 

 

これは事前に返答を考えておいた質問のひとつだ。

流石に何の問題もなく答えることが出来る。

 

 

「そうですね、今回の結果を踏まえて考えた結果、直近のレースへの出走は控え、12月に開催されるホープフルステークスに出走する予定です。僕は彼女はまだ伸び代が大きいと思っているので、ジュニア級の間はトレーニングに重点を置いて、レースへの本格的な参入はクラシック級以降になると考えています。」

 

 

その後もいくつかの質問がされたが、どれも想定の範囲内の質問だったので、難なく捌ききれた。

僕への質問が粗方終わると、次はチヨノオーへの質問が始まった。

ここからは僕がどうすることも出来ない領域だ。

チヨノオーの発言に対して僕が意見を添えることは出来るが、彼女が何を言うのかは全く予想できない。

そして早速チヨノオーへの質問が飛ぶ。

 

 

「さくらTVの〇〇ですが、サクラチヨノオーさんに質問です。今後レースに出走する機会も何度かあると思いますが、今の段階で目標にしているレース、またはお相手などいらっしゃいますでしょうか?」

 

 

「は…はい、そうですね…ライバルとかは分からないですけど、今の私の目標は、『日本ダービー』で勝つことです!」

 

 

その発言に、会場が騒然とする。

それもそのはず、シニア級のそれなりに勝利数を重ねたウマ娘が言うのならまだしも、ジュニア級の重賞を一つ勝利しただけのウマ娘がいきなり日本トップクラスのレースである『日本ダービー』が目標です、なんて言おうものなら驚かれるのも無理はないだろう。

 

もちろん僕も動揺している。

彼女の目標が日本ダービーなのは当然知ってはいたが、この公の場で言うことは想定していなかった。

しかし、これは逆にチャンスだ。

僕はすぐにマイクを手に持ち、話す。

 

「皆さん、今彼女が言ったことは本当です。彼女の目指している目標は僕がトレーニングを開始した当初から変わらず日本ダービーです。

確かに今の彼女ではまだダービーに届くような実力を持ち合わせていないかもしれません。ですが、僕も約束をした以上、彼女がダービーで走ることが出来るように全力で努める所存です。皆さん、どうか彼女の応援をよろしくお願いします。」

 

 

何とかその場を締めくくり、記者会見はそこで終了となった。

半ば強制終了のような形だが、これ以上続ける訳にもいかない。時間が押しているし、何よりこれ以上失言をする訳にはいかないからだ。

 

こうして、結局多少の波乱は起こりつつも記者会見は無事閉幕…

 

とはいかなかった。

後日明らかになる事だが、各新聞社が今回の会見の内容を大々的に報道。

瞬く間にサクラチヨノオーは大口を叩いたウマ娘として学園中に知れ渡ってしまうのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして会見も終わり、後は学園に帰るだけだ。

そうしてレース場を出ようとすると、目の前にいた人物に声をかけられる。

 

 

「久しぶりだな、月。

いいパートナーに巡り会えたようで、何よりだ。」

 

 

僕にとっては見慣れている、髭を生やしたスーツ姿。

そこに居たのは僕の父親、夜神総一郎だった。




補足です。
何故月がアイドル文化に詳しいのか。
これについては元ネタがあります。
夜神月はドラマ版では普通の成績のアイドルオタクな高校生として登場するのです。
これはドラマ版独自の設定で、恐らく10話のドラマでデスノートを完結させる為の苦肉の策だったんだと思います。
とはいえ私も初めてドラマ版デスノートを見た時は衝撃を受けました。
そして、そのドラマ版夜神月のアイドルオタクの因子をこの作品の夜神月は受け継いでいます。
そういう理由で彼はアイドル文化に詳しい、という感じです。

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  • 2000文字くらいで週3~5連載
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