レースも終わり、会見も終わり一段落…と、いきたいところだが、まだ僕への受難は続くらしい。
「と、父さん…?!」
この世界に来て初めて父さんと会った。
何故家に父さんがいないのかは母からも粧裕からも聞いていなかったから、どこにいるのかも知らなかった。
だから敢えてこちらから連絡を取るということもなかった。
僕はてっきり父さんは警察関係の仕事をしているものだと思っていたが、これは…
父の今の服装はスーツ。
正装ではあるが、警察官のそれとは程遠い。
この世界の父は、何の職業に就いているのだろうか。
「部長、先に行かないで下さいよー!
何か問題があった時は僕が色々言われるんですから!」
奥の車から出てきた男が困った顔でそう言う。
こいつは…!松田じゃないか!
彼の名は松田桃太。
夜神月がこうしてトレーナーになる前…デスノートを使い、『キラ』と名乗り犯罪者に裁きを下していた時に、警察庁に勤務し、キラ事件について捜査している刑事だった。
しかし、刑事としてはお世辞にも頼りがいがあるとは言い難く、警察庁にもコネで入ったとされている。
どこか気が抜けていて楽観的な性格ではあるが、類まれな射撃の能力を有している。
そして、間接的にではあるものの、
「あ、月くんじゃないか!久しぶりだね!」
しかし、彼は至って普通に僕に接してきた。
一時は殺す程憎んでいた相手に、普通に接することが出来るだろうか?
もしや、松田は僕がキラだという事を覚えていないのか?
僕やLにはあの頃の記憶があるが、松田や父さんにはその時の記憶はないということなんだろうか…?
「ま、松田さん。お久しぶりですね。」
動揺を顔に出さないように接する。
もし松田がデスノートを巡る出来事を忘れていたとしても、何かの拍子に思い出さないとも限らない。
ともかく、今は普通のトレーナー、夜神月として自然な行動を取るべきだ。
「それよりも父さん、どうしてこんなところに?最近は忙しかったんじゃなかった?」
再び父さんに話を振る。
父さんが忙しくしていた、というのは僕の推測だ。
僕がトレーナー試験の結果を待っている間、家には父さんがいなかった。それに、家の様子から察するにしばらく帰ってきていないようだった。そのことから、父さんがしばらく家に帰れない程に忙しいんじゃないかと推測した。
「あぁ、その件に関してはすまなかったな。こっちも昇進して、片付けなければならない案件が多くてな。」
どうやら忙しくしていたという僕の予想は当たっていたようだ。
しかし、昇進…?それにさっき松田は父さんの事を「部長」と呼んでいた。
この世界では父さんや松田は一般の企業にでも勤めているのか…?
「ここに寄ったのは、たまたま仕事の出張で新潟に来ていたからだ。ちょうど今日ここでお前が担当している子のレースがあると聞いてな。」
なるほど、仕事のついでに寄ったということか。
しかし父さんには一度もトレーナーになったことを報告していないのに、何故僕がトレーナーとして働いていることを知っているんだ?
「部長、そろそろ戻らないと、まだ例の事件も解決してないんですから!」
「あぁ、そうだな。それじゃあ月、これからもトレーナーとして励んでくれ。」
そう言うと、父さんは松田と車に乗ってどこかへと走り去っていってしまった。
松田の言うことが本当なら、父は今事件の捜査をしているらしい。
ということは職業はやはり警察官なのか?
一度調べてみるか。父のパソコンなら、簡単にハッキングすることは出来るはずだ。
そうして釈然としないまま、僕とサクラチヨノオーは新潟を離れ学園へと戻るのだった。
そして、今回のレースではチヨノートに変化は見られなかった。
ノートに変化が起こるには、何か条件のようなものがあるのだろうか。
この辺りも今後調べていかなければならない。
やることは常に山積みだ。
そして次の日。
僕は自室で父のパソコンをハッキングして、情報を得ていた。
そして、そこで驚くべき事が発覚した。
僕の父親、夜神総一郎はURAの職員であった。
それもレース関係の比較的重要なポジションの部長を務めあげていた。
そして、父は過去にトレーナーとしても活躍していた事が分かった。
それもつい最近まで。
どうやら父はトレーナーとしての腕も相当に優秀だったらしい。
父が担当したウマ娘の中には、三冠バとなったナリタブライアンの名前もあった。
そうしたトレーナーとしての功績も認めれ、URAで部長にまで昇進したということらしい。
元の世界で父と同じく警察庁に勤務していた松田や模木たちは、父と同じ部署に所属していた。
ここまでに得た情報を踏まえた僕の予想はこうだ。
恐らくこの世界の僕は父に憧れてトレーナーを志したに違いない。
そして、トレーナー試験を受けた。
試験の結果は上々で、後は結果を待つだけ、というところで僕と意識が入れ替わったということではないだろうか。
これなら辻褄が合う。
とはいえ非科学的であることに違いはない。
そしてもう一つの疑問。
デスノートに関する記憶を持っている者と、そうでないものがいるというところ。
僕やLはデスノートに関する記憶を持っているが、父さんや松田はそうでも無い様子だった。
これらのことから、僕が導き出した結論。
それは、
きっとこのウマ娘がいる世界にも元々僕やLは存在していた。
しかし、何者かの介入によって僕やLの意識はデスノートを巡る戦いがあった世界の意識と入れ替わったということではないのだろうか。
父さんや松田は恐らく意識が入れ替わっていない。
こう仮定すると、かなり無理はあるが、一応理論としては成り立つ。
そうなるとこの出来事を仕組んでいる者の捜索といきたいところだが、何にせよ情報がない。
そもそもこの考え自体仮説の域を出ない。
結局のところ今の僕に出来ることは、サクラチヨノオーのトレーナーとして真面目に仕事に勤しむことだけだ。
そうすることでチヨノートにも何か変化が訪れるかもしれないし、レースに出ることで何か情報が得られるかもしれない。
結局は地道な努力が実を結ぶということか。
そういえば、父のパソコンに、奇妙な事が打ち込まれていた。
それによると、最近URAを神聖視する新興宗教が存在するとの事だった。
その宗教の信徒らしき人々が、一部で騒ぎを起こしている、というものだった。
恐らく父が追っている事件というのはこれのことだろう。
警察官でないにも関わらず、こういった事件の捜査をしているというのはなんとも正義感に溢れた父らしい。
この件に関して僕が出来ることはなさそうだし、あまり関係はなさそうだが、一応気に留めておくか。
とりあえず僕のやるべきことは変わらない。
サクラチヨノオーを日本ダービーで勝たせることだ。
そうして気合いを入れ直し、明日のトレーニングメニューをもう一度見直しにかかるのだった。
キャラ紹介の時間だコラァ!
【夜神総一郎】
夜神月の父親で、漫画デスノートの世界では警察庁長官という役職のかなり偉い人だった。
正義感が強く、家族想い。
自分の職業やキャリアにこだわることなく正義を貫く信念を持っており、キラを追うなら警察官を辞めなければならないと言われた時も、真っ先に退職届を提出した。
原作後半のデスノート奪還作戦では、自分の命を犠牲にして作戦に協力したりするあたりを見るに、本当に正義感が強い。
【松田桃太】
夜神総一郎と同じく警察庁に勤務していた警察官であった。
犯罪者を裁くキラのことを多少肯定していたが、夜神月がキラだと分かった時に月を庇う訳でもなく、むしろ何発も拳銃を浴びせた。
怒りに任せて撃ったにも関わらず弾が全て命中していたことから「早撃ちの松田」と呼ばれているとかいないとか。