CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第三十二話 魔女

時は流れ、あの新潟のレースから数週間後。

夏の日差しも落ち着き、穏やかな風の吹く時期になってきた。

そう、季節は夏から秋へと移り変わろうとしていた。

そしてこの日、夜神月はたづな秘書からある事を頼まれていた。

 

話によると、理事長がまたしても私財を投じてウマ娘のための施設を増設したらしい。

そこまではいいのだが、施設が増えたことによって、その施設を管理する人手が不足しているとのことらしい。

そういう訳で、今回何人かのトレーナーに管理の要請が来た。

僕が手伝うことになっているのは、2ヶ月前に増設したにんじん畑のにんじんの収穫だ。

 

URAファイナルズの開催にあたって、レース場を盛り上げるものが必要と考えた理事長は、レース場グルメに目をつけた。

そこで、学園内でにんじんを育て、それを名物として売り出していこうと考えた上で作られたのが、このにんじん畑と言うことらしいのだが…

 

 

…あまりにも広い。

これはもはや農園と呼んで差し支えないレベルだ。

おおよそ体育館程の広大な面積を誇るその大農園を任されたのが、僕と

他二人のトレーナーだけだという事実に震える。

この畑の膨大な量のにんじんを全て収穫せねばならない…

昼過ぎにはサクラチヨノオーが受けている授業が終わるので、トレーニングをしなければならないので、僕がここでにんじんを収穫することが出来る時間は朝方から昼過ぎまで。

数日はかかりそうだ…

とはいえ、この仕事を終えたらそれなりに報酬もある。

理事長が極秘に開発していたウマ娘用のシューズ、そのプロトタイプが先日完成したらしい。

そして、この畑仕事を終えたら、そのシューズを報酬として貰う事になっている。

先日新しいシューズを買ったばかりではあるが、品質の良い物が貰えるのならばそれに越したことはない。

 

僕の他にここの担当に指名されたトレーナーは沖野さんと桐生院葵。

沖野さんが体育会系の人達で助かった。

桐生院は女性だが、この重労働が務まるだろうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、この仕事は一日で終わった。

一瞬の出来事だった。

桐生院…いや、『葵さん』の恐るべき身体能力により、一人で畑のうちの3分の2のにんじんを収穫してしまった。

聞くところによると、彼女はパルクールの選手でもあるらしく、本人曰く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という人並み外れた事もしているらしい。

か弱い女性どころの話ではない。

恐ろしい人間だ、桐生院葵。

 

そんな事に驚いてはいるものの、思いの外早く作業が終わってしまったので、微妙に手持ち無沙汰になってしまった。

時間があるし、学園でも見て回ろうかと考えていると、前からウマ娘が走ってきた。

何とか間一髪直撃は回避したもののぶつかってしまい、よろける。

 

 

「痛いじゃない!何すんのよ!」

 

 

ぶつかったウマ娘は僕を見るなりそう言った。

特徴的な見た目をした、不思議な子だった。

そのウマ娘は身長が低く、黒を基調とした色に2本のストライプが入っている帽子を被っていた。

帽子に耳を出す穴が空いているという訳ではなく、帽子の中に耳を入れられるデザインになっている。

それに、杖のようなものを右手に持っている。

魔法使いの真似でもしているのだろうか。

一瞬園児が迷い込んだのかとも思ったが、この子が着ているのは間違いなくトレセン学園の制服。

間違いなくこの学園の生徒だ。

しかし、だとすると矛盾が生じる。

 

 

「えっと…君、授業は?」

 

 

そう、今の時間帯だとどの学年も授業が行われている。

トレセン学園のウマ娘ならばら、この時間にこんなところにいるはずがないんだが…。

 

 

「サボってやったのよ、つまんなかったから。…悪い?!」

 

 

何故か堂々と質問に答えて、ふんぞり返っている。

トレセン学園は名門校だからそんなことはないと思っていたが、やはりどこの学校にも一定数こういった不登校というか、欠席気味になる生徒は存在するものなんだな。

トレーナーとしてはここで注意するべきなんだろう。しかし…

 

 

「まぁ、僕も無理に授業に出ろとは言わない。君の好きなようにしたらいいさ。」

 

 

相手にどんな事情があるか分からないのに、決まり事を押し付けるようなことはするべきではない。

この子にはこの子なりに授業に出たくない理由があるんだろう。

傍から見れば何でもないことでも、本人からすれば一大事ということなんてよくある話だ。

それに、悪さをしているわけでもないようだし、放っておいても問題はないだろう。

 

 

「ふーん…アンタ、今暇なの?」

 

 

本当に初対面なのか疑わしくなってくる程に高圧的な態度だ。

そっちが礼節のない態度をするなら、こちらも相応の対応をさせてもらう。

 

 

「もし僕が今暇だったら、君はどうするつもりなんだ?」

 

 

「探して欲しいものがあるの。アンタにはそれを探してもらうわ。」

 

 

冗談じゃない。僕にいくら時間があったとしても、こんな高飛車な子の相手をしている暇はない。

 

 

「悪いが他を当たってくれ、生憎と僕は忙しいんだ。」

 

 

実際は特に用事もないのだが、ここで正直に暇だと言ってしまえば恐らくその探し物に付き合わされるだろう。

そんなことに時間を使うのはいくらなんでもごめんだ。

 

 

「そう、なら仕方ないわね…」

 

 

疑ってくるのかと思いきや、案外すんなりと受け入れてくれた。

根は真面目な子なんだろうか。ともかく詮索されるよりは都合がいい。

僕がその場を去ろうとした時、沖野さんがその場にやって来た。

 

 

「おぉ夜神、この後ヒマって言ってたよな?ちょっとウチのトレーナー室の電球変えるの手伝ってくんねぇ?」

 

 

ぐっ、最悪のタイミングで…

予定がないことをこの子にバラされてしまった。

恐る恐るさっきのウマ娘の方を見ると、明らかに不機嫌そうにふくれっ面をしている。

 

 

「何よ!!用事なんてないんじゃない!!もう怒ったわ!!アンタ、ちょっとこっちに来なさい!!」

 

 

凄い剣幕のそのウマ娘は、左手で僕をガッと掴み、どこかへと歩いていく。

振りほどきたいところだが、そこは相手もウマ娘なので、簡単に振りほどくことが出来ない。

そうして、僕は彼女の探し物を探すことになったのだった。




ゲーム版ウマ娘では、桐生院葵は身体能力に非常に秀でており、人並み外れた事を平気でやってのけます。

そもそもウマ娘用のトレーニングを実践してしまうというところが規格外。
もはやウマ娘じゃないか。
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