CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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一週間ぶりの更新となってしまいました。
最近は忙しいので 
今回は今後の展開の大きな転換点となる話です。


第三十四話 傑物

タキオンの忠告から一週間、取り立てて驚くような出来事もなく、サクラチヨノオーはトレーニングに打ち込んでいた。

 

あれから僕もトレセン学園所属のトレーナーを調べてみたりしたが、名前のないトレーナーなど在籍していなかった。

怪しい人物は何人かいるのだが、数が多すぎる。

一般のトレセン学園ならここまで異色なトレーナーが揃うことはないのだろうが、ここは他でもない中央トレセン学園だ。

最高峰の試験をくぐり抜けて選び抜かれた者たちが集う場所。

そんなところに集まっている人間が、癖がなくとらえどころのない人間であるはずもない。

 

常時発光していたり、担当ウマ娘に自分のことを「お兄様」と呼ばせているトレーナーが在籍していたりする、という話を聞いたことがある。

そんな奇々怪々という言葉が体現されたような人間達が集まっている中から、怪しいやつを見つけろと言われても、無理があるという話だ。

 

一度リュークにも学園に在籍しているトレーナーの名前を見てもらったが、リュークの目にも全員の名前が映っていたらしいし、やはりアグネスタキオンの勘違いだろう、という事でこの話を処理した。

 

そして今日は併走の約束をチヨノオーが取り付けてきた。

相手はあの怪物、オグリキャップだ。

どうやらチヨノオーとオグリキャップは学校では同じクラスらしく、仲も良いらしい。

こちらとしても、あの強靭な末脚を持つオグリキャップと併走出来るのはありがたい。

この機会、無駄にする訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして約束の時間に、サクラチヨノオーは購買で大量の食品を買い込んだオグリキャップを連れながらグラウンドへとやって来た。

前々から思ってはいた事ではあるが、オグリキャップは常に何かしらを食している。

模擬レースの時も何かを食していた覚えがある。

あの爆発的な走法は、かなりのエネルギーを使うのかもしれない。

 

 

「トレーナーさん、お待たせしました!オグリちゃんがどうしてもトレーニングの前に買っておきたいって聞かなくて…」

 

 

何故かサクラチヨノオーが申し訳なさそうにしている。

その姿はさながらオグリキャップの保護者のようだ。

 

 

「む、この人がチヨのトレーナーか。私はオグリキャップと言う。よろしく頼む。」

 

 

近くで見るとより映えて見えるその銀髪を靡かせ、彼女はそう言った。

随分と無骨な喋り方をする子なんだな。

 

 

「あぁ、よろしく。僕はサクラチヨノオーのトレーナーの夜神。夜の神と書いて夜神と読むんだ。どうぞよろしく。」

 

 

「夜神、か。なかなか珍しい名前をしているんだな。分かった、覚えておくよ。」

 

 

1人1人の名前が物珍しいウマ娘に名前が珍しいと言われるのもどこかおかしな気がするが、印象に残りやすい名前と捉えてくれたのなら幸いだ。

 

 

それからしばらくして、早速チヨと併走をしてもらうことになった。

距離は決めず、こちらからストップをかけるまで走ってもらうことにした。

いくつか理由はあるが、1番の理由はオグリキャップの現在の実力を確かめるというところにある。

模擬レースの時ですら既に重賞で勝利できる程のポテンシャルを秘めていたウマ娘だ。

それがトレーナーのもとでトレーニングを積んだら、一体どこまで成長しているのか、想像もつかない。

距離を決めて併走してもらうにしても、あまりにも実力が離れていては話にならない。

なので、一度距離や時間を定めずに走ってもらう。

そこで2人の実力に開きがあると判断すれば、勝負はなしだ。

 

 

「それじゃあ、始め。」

 

 

僕が軽く手を振り下ろしたのを合図に、2人がゆったりとしたペースで走り出す。

とは言っても、()()()()()()()()ゆったりと、だ。

普通の人間で言うところの全力疾走程度の速度が出ている。

 

 

こうして見てみると、チヨノオーもオグリキャップの走りについていけているように見える。

無論オグリキャップもまだ実力は隠しているのだろうが、それはこちらも同じだ。

チヨノオーは現在3割程度の力で走っている。

これなら、実力勝負でもオグリキャップといい勝負が出来るかもしれない。

 

 

しばらくして、終了の合図を出し、2人を呼び戻す。

そして、1度距離を決めて2人で走ってみてくれないかと提案をする。

オグリキャップは快く承諾してくれた。

距離は2000m。

ジュニア級GI、ホープフルステークスと同じ距離だ。

この条件でどうかと提案すると、オグリキャップはこれも特に不満を言わず了承し、こう言った。

 

 

「おぉ、その距離なら私もよく走っているぞ。トレーナーは、今年の冬に私が出るレースがこの距離と言っていたからな。」

 

 

ということは、十中八九オグリキャップもホープフルSに出走するということか。

彼女の実力を鑑みれば当然と言えるが、そうなると朝日杯は一筋縄ではいかなくなってきたな。

まぁもとよりGIだ。

そう簡単に勝てるとは思っていなかったが。

そして、今の発言で引っかかったことがある。

オグリキャップがこの時期からホープフルS想定の距離で練習をしているということだ。

もちろん、一概にホープフルSのみを想定しているとは言えない。

2000mのレースなんていくらでもあるにはある。

だが、もしこの9月の段階からGIへの調整を開始しているとなれば、そのトレーナーはGIを取る事に対して並々ならぬ執着を持っているということに…

 

とはいえ、仮説に過ぎない。

今は情報収集に専念しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、準備が整った。

2人とも既にやる気は最高潮で、今にも走り出さんとしている。

 

 

「3、2、1…スタート。」

 

 

合図と共に、ストップウォッチのボタンを押す。

それと同時に2人が勢いよく走り出した。

出遅れはなく、実に滑らかな走り出しだった。

 

序盤は2人とも力を調節しながら走っていて、この時点でお互いの差はほとんどなかった。

 

問題は、最終コーナーを回ってからだった。

オグリキャップは、考えうる限り最高のタイミングで加速を始め、最後の直線では信じられない程の速度を出していた。

おおよそジュニア級のウマ娘に出せる速度ではない。

それに、レースの最中に何度か彼女がスタミナ不足になりかけているのが見て取れたのだが、今の彼女はスタミナ不足などなかったかのように全力疾走をしている。

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

しかし、そんなことが有り得るはずがない。

彼女が栄養補給をしている素振りはなかったし、第一レースの最中だ。

そんなことをすれば失格となってしまうだろう。

とはいえ確実に1度彼女はスタミナ不足になりかけていたはずだ。

一体どうなっているんだ…?

 

様々な憶測が頭を駆け巡る最中に、オグリキャップはゴール板を通り過ぎた。

手元のストップウォッチを止める。

サクラチヨノオーの最高タイムよりも5秒早いタイムだった。

これが、今のチヨノオーと『怪物』の差ということか…。

 

 

「ふぅ…流石に疲れたな。」

 

 

そう言ってついさっき自分で買い込んでいた大量の飲み物を飲んでいる。

そして数分もしないうちに、2リットル容器に入っていた飲み物を5本も空にしてしまった。

その健啖家っぷりにも驚くが、問題はそこではなく…

 

 

「オグリキャップ、さっきの走りでの事だが、途中で持久力を回復させていなかったか?あれは一体どういう方法なんだ?」

 

 

教えて貰えるとも思っていないが、彼女の性格を加味すればあるいは…

 

 

「あぁ、あれか。あれは私のトレーナーが教えてくれたんだ。呼吸法を意識すると、体力の消費を抑えることが出来るらしい。こう…体の内側の力をぐわーっと抑えるような感じで走ると、体力の消費を減らせるということらしい。」

 

 

案外すんなりと教えてくれた。

彼女の話から推察するに、コーナーを回ったタイミングで息を入れているということか…

それならあの無尽蔵に近いスタミナも説明がつく…のか?

正直な話、それだけで説明がつくものでもないと思う。

しかし、彼女が何か隠し事をしているようにも見えない。

恐らく彼女は本当にそれだけしか知らされていないのだろう。

 

 

「分かった、参考にするよ。」

 

 

その後、オグリキャップには帰ってもらい、チヨノオーと2人で今日の反省点の洗い出しをすることになった。

 

 

「チヨ、今日オグリキャップと走ってみて何か感じたことはあるか?」

 

 

「そう…ですね、模擬レースで見ていた時は純粋に凄いって感じてたんですけど、実際に走ってみて、気づいたこともありました。オグリちゃんがスパートをかける前に、大きな予備動作があるんです。そこで隙を突いて前に出れば、チャンスはあると思います!」

 

 

僕でも気づけなかったことを…

先程のレースで、一切手を抜かずに走りながら、オグリキャップの事を観察もしていたということか。

簡単に言ってのけているが、走りながら相手のことを観察するというのは中々に至難だ。

しかし、これはこちらにとっても嬉しい誤算だ。

観察眼を備えているというのは、ウマ娘としては強力な武器になるだろう。

 

 

「チヨ、恐らく近いうちにオグリキャップと戦うことになるだろう。その時にこの情報は必ず必要になる。よくやってくれた。」

 

 

そう言うとチヨは満面の笑みでいい返事を返してくれた。

性格も素直で、実力も持ち合わせている。

つくづく僕はいい担当ウマ娘に恵まれたものだ。

 

そういえば、結局その日オグリキャップの担当トレーナーを見ることはなかった。

彼女の話から推察するに腕利きのトレーナーと思われるので、一度トレーナー談義でもしてみたいと思っていたが…。

いないものは仕方がない。

またレースでも会う機会があるだろうし、その時にでもいいだろう。

そんな風に気持ちを切り替え、その日の練習はお開きとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

併走から戻ったオグリキャップは寮に戻る前にトレーナー室に寄った。

そしてそこには彼女の担当トレーナーが椅子に座って事務作業をこなしていた。

 

 

「トレーナー、戻ったぞ。」

 

 

そう言うと、大量の書類が積み重なった机の奥から彼女の担当トレーナーが振り返る。

 

 

「『おかえり、オグリ。』」

 

 

彼は一言そう言った。

少し間が空いて、彼が続けて話す。

 

 

「『今日は友達と並走をしてきたんだろう?』」

 

 

オグリキャップは頷く。

そして、今日あった出来事をトレーナーに話す。

友達と併走をしたこと、その友だちがこれまでに戦った中でも群を抜いて速かったこと。

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それを聞いて、トレーナーは柔らかな笑みを浮かべる。

そして、次の瞬間。

 

【その時、ふと閃いた!このアイデアは、オグリキャップとのトレーニングに生かせるかもしれない!】

 

【圧倒的リード のヒントLvが1上がった!】

 

モノローグともナレーションともしれないような言葉が彼の頭に流れる。

それを聞いて、彼は呟く。

 

 

「『圧倒的リード…短距離用のスキルか。オグリの短距離適性は低いから、このスキルはお蔵入りだな。』」

 

 

「何か言ったか、トレーナー?」

 

 

「『いや、なんでもない。流石オグリキャップだな。これからも期待してるよ。』」

 

そう言うと、彼は再び机上のパソコンに向かい直し、書類を捌き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜神月の知らないところで、既に事態は動き出していた。




補足ですが、チヨはオグリと対決した時には花道を使用していません。
理由はこの勝負の目的があくまでオグリキャップの実力を量るためであることと、レースで対決する相手に手の内を見せすぎることは得策ではないからです。
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