CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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少し前の事ですが、UAが2万を突破致しました!
これもいつもこの小説を読んでくれている皆さんのおかげです。
いやぁありがたい…
忙しくて更新頻度は少し落ちてますが、応援してくれるとありがたいです。


第三十六話 邂逅

時は11月の下旬。

僕とリューク、そしてサクラチヨノオーはある目的の為に京都レース場を訪れていた。

 

 

「あ、トレーナーさん!来ましたよ!オグリちゃんです!」

 

 

そう、オグリキャップの偵察である。

前回の併走でオグリキャップと戦う為の足がかりとなる欠点を発見した。

それは、スパートの直前に大きなタメがあること。

この隙を突くことが出来れば、勝つ為のチャンスが生まれる。

 

ともかく、近く開催されるホープフルステークスで、最大の敵となるのはオグリキャップに違いない。

そしてそんなオグリキャップの対策に頭を悩ませていた時、京都ジュニアステークスにオグリキャップが出走するという話を耳にした。

そして偵察に来た、という訳だ。

 

 

「リューク、どうだ?オグリキャップのステータスは。」

 

 

リュークはノートを所有しているウマ娘のステータスは見ることが出来ない。

しかし、僕の予想では恐らくオグリキャップのトレーナーが持っている力というのはチヨノートの力とは別の能力だ。

もしそうなら、リュークでもオグリキャップの能力が見えるはずだ。

 

 

「お、月の言った通りだ、ホントにオグリキャップってやつの能力値が見える。おぉ…こいつはすごいな。少なくとも俺がこれまで見てきた奴の中じゃあダントツにやばいぜ、あいつ。」

 

 

リュークが感嘆の声を上げる。

これまででダントツ、というとエルコンドルパサーやハッピーミークすらも凌駕しているという事か。

それも恐らく、トレーナーの手腕によるものだろう。

リュークが模擬レースでオグリキャップを見た時には、そこまで脅威とは感じていなかったからだ。

つまり、その時点でのオグリキャップの能力値はそこまで突出したものではなかったということになる。

では、それをここまで伸ばしたのは一体誰か?

それがオグリキャップのトレーナーである『七篠 仁』という男なんだろう。

 

僕がはるばるこの京都レース場にやって来たのは、そいつに会うためでもある。

アグネスタキオンが言うには、七篠という男は滅多に姿を見せないらしい。

しかし、ウマ娘がレースに出走する際には、必ずトレーナーが付き添いで同行しなければならないという規則がある。

つまり、オグリキャップがこうしてレースにおいて出走しているということは、このレース場のどこかにその担当トレーナーである七篠もいるということになるのだ。

 

そして、大抵のトレーナーは観客席でレースを観戦する。

そして現時点でオグリキャップのトレーナー、七篠 仁らしき人物は観客席に現れていない。

なので、予め()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

今、このレース場の空席は、僕がいる席から見える場所が五席ほどだ。

彼がこの観客席で観戦するとなれば、その五席のうちのどこかに必ず現れることになる。

五席程度であれば、リュークが目を使って名前を確認することも容易だ。

 

 

「観客席の方は引き続きよろしく頼むよ、リューク。」

 

 

「あぁ、分かってる。その代わり、後で報酬は貰うからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、レースに出走するウマ娘が続々とゲート入りしていく。

僕の用意した空席のうち、三席は既に人が座っている。

が、しかしその中に七篠らしき人物はいなかった。

滅多に姿を見せないというアグネスタキオンの言葉は正しかったようだ。

まさか担当ウマ娘のレースの直前にもなって観客席にいないとは。

最悪の場合、このまま観客席に来ることなく終わってしまう可能性もある。

そうなった場合のプランもあるにはあるが、出来ればここで決めておきたい。

 

僕がそんな風に焦りを感じ始めた時、観客席に一人の男が入ってきた。

席を探し、程なくして空席を見つけ、そこに腰掛ける。

月に言われるよりも先に、リュークがその場面を目撃する。

すぐに『目』の力を使い、その男の名前を確認しようとする。

そして、リュークは絶句し、月に声をかける。

 

 

「おい、月…確証はないが、多分あいつがお前の探してるトレーナーだと思う。」

 

 

そう言ってリュークは先程の男の方を指さす。

歯切れの悪い言い方をするリュークに、月が言葉を返す。

 

 

「だと思う、ってどういうことだ?その目で見ればあの男の名前は分かるだろ?」

 

 

「あぁ、そのはずなんだが…。どれだけちゃんと目を凝らして見ても、あいつの名前が見えないんだ。」

 

 

?!

 

名前が見えない?!

そんな事は今までなかった。

まさか、タキオンが言っていた『名前のないトレーナー』というのは本当だったのか?

 

名前というのは、戸籍に登録されている人間なら誰しもが持ち合わせているものだ。

それが存在しないということは、考えられる可能性は二つある。

一つは、特殊な出生だったという理由で名前を持たずに生きてきたという可能性。

しかし、曲がりなりにもトレセン学園のトレーナーとして務めている人間だ。

恐らく書類審査は通過しているはずだし、その際に必ず自分の名前や生年月日は書いているはずだ。

名前や住所が不明な男が書類審査を通るなんてことはまずないだろう。

 

もう一つは、自分の名前を本人が認識していない、という可能性だ。

状況から考えると、こちらの可能性の方が高い。

要するに、自分の名前を認識せずに生きているということだ。

 

例えば、戸籍上山田という名前になっている男性がいたとする。

周りの人間からは山田とか山ちゃんとか、色々な呼び方をされている。

しかし、本人が心の底から『自分の名前は田中だ』と思っていた場合、今のリュークの目に見える名前は田中となる。

そして、デスノートが存在していた場合、その男を殺すときに書く名前は恐らく田中となる。

 

名前というのは極めて曖昧なもので、つまるところ自分が自分を呼称する為のものであり、周りがどう思っていようと、自分がこうと思っているものが名前となる。

そしてノートにもその名前が適応される。

 

あくまで仮説ではあるが、つまりこの男は心の底から自分の名前はないと思っているということになる。

まさかそんな人間が存在しているとは…。

 

とはいえ、これでほぼ決まりだ。

その男は黒髪で短髪、赤と白の二色の色合いの帽子を目深に被っている。

タキオンの言っていた七篠の人相とも概ね一致している。

恐らくあの席に座っているトレーナーが僕が探していたトレーナーの七篠という奴に違いない。

 

 

「チヨ、僕は行くところがあるから、少しの間ここで待ってて貰えないかな?」

 

 

「えーっ、もうすぐレース始まっちゃいますよ?…早く戻ってきてくださいね!」

 

 

そして、七篠がいる席へと向かう。

接触するとはいえ、こちらにもリスクはある。

タキオンは会話からトレーニングのヒントを得ると言っていた。

もちろん僕からトレーニングに関する話題は出さないようにはするつもりだが、もしそれ以外の会話からもトレーニングのヒントを得られるとしたら、こちらの手の内を晒すようなものであり、GIを控えた今、もしこちらの情報が漏れてしまえば大きなリスクとなり得る。

しかし、相手との会話から様々なトレーニングのとっかかりを得るという能力。

もしそれが技術によるものなら、是非ともその方法を知っておきたい。

 

僅かな時間をおいて、僕は例の席へとやって来た。

そして、声をかける。

 

 

「あなたが七篠トレーナーですか?」

 

 

聞こえているはずだが、彼はすぐには返事を返さなかった。

まるで僕を試しているかのような感じだ。

 

 

「『はい、そうです。私が七篠です。何か用ですか?』」

 

 

これが、僕と七篠のファーストコンタクトだった。




補足

どうやって夜神月は空席の位置を操ったのか?

・まず、目星をつけた五つの席にペットボトルやらなんやらを置いておきます。
こうすることで誰かがその席を取っているように見せておくことができます。

・そして、ある程度混んできたタイミングでリュークにその席に置いてある物を回収させます。

こうすることで意図した場所に空席を作っていたのでした。
でも迷惑には違いないので、絶対にマネしないでね!
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