CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第三十七話 技術

「『一体僕に何の用ですか?』」

 

 

その男は涼しい顔で僕にそう聞く。

 

 

「お会いできて光栄です。申し遅れましたね、僕の名前は夜神月。サクラチヨノオーというウマ娘を担当させてもらっている、新米のトレーナーです。」

 

 

相手の出方が分からない以上、こちらから事を荒立てるのは得策ではない。

ここは穏便に挨拶を交わし、会話に持ち込むとしよう。

 

 

「『あぁ、あなたが夜神トレーナーでしたか。噂は聞き及んでますよ。なんでも、初担当のウマ娘がいきなり重賞で一勝をあげたとか。』」

 

 

基本表舞台には出てこないと聞いていたので、僕のことは知らないかと思っていたが、どうやら思った以上にこちらの事情を知っているようだ。

 

 

「そんな大層なものじゃないですよ。担当ウマ娘に恵まれただけの、ただのトレーナーです。」

 

 

「『そうですよね、私もそうです。私が担当しているオグリキャップは本当に優秀なウマ娘でね、芝もダートも走れる上に、マイル中距離長距離、どんなレースでも走れるという幅広い適性を持ったウマ娘なんです。初めてウマ娘を担当する私には勿体ないくらいの能力を持ったウマ娘でした。』」

 

 

聞き及んでいる、オグリキャップは芝のレースのみならずダートのレースでも好成績を納めているとか。

オグリキャップの怪物じみた強さはこのトレーナーによって引き出された部分もあるのだろうが、恐らくオグリキャップにも自力でGIをいくつも取る事が出来るくらいのポテンシャルは元々あったのだろう。

才能のあるウマ娘と才能のあるトレーナーのコンビ、と言ったところか。

 

それよりも気になるのは、オグリキャップのことを「初めて担当するウマ娘」と言ったところだ。

何故かは分からないが、この男は嘘をついている。

先日、七篠 仁の学園公式プロフィールを見ていたのだが、彼は過去に何人かウマ娘の担当を受け持っていた。

もっとも、彼が担当していたウマ娘のうち、その誰もが未勝利のままレース人生を終えていたが。

 

 

「とはいえ、七篠トレーナーも凄腕のトレーナーだと聞き及んでいますよ。まるでウマ娘の全てを理解しているかのように的確なトレーニングを選ぶことが出来るらしいですね。」

 

 

ここで例の話を切り出す。

あとは相手の出方次第だ。

 

 

「『あー、そうですね。でも、そんなに難しい事じゃないんですよ。ただステータスを見て、足りないと思ったところのトレーニングを行うだけなので。あ、こんな話しても分かんないですよね、すいません。』」

 

 

一見意味の分からない事を言っているように聞こえるが、タキオンから前情報を得ている僕にはこの言葉の意味が理解できる。

この男はウマ娘のステータスを見ることができるということだ。

そして、そのステータスを見て最適なトレーニングを選択しているといったところだろう。

それにしても、こんなにも容易く教えてくれるとは思っていなかった。

警戒心が薄いのか、他人に知られても問題がないのか────

 

 

「『あ、あとはスキルとかに気をつけてますかね。オグリキャップは回復スキルを3つ持ってないと固有スキル発動しないんで。』」

 

 

スキル…これも恐らくタキオンが言っていた事だ。

タキオンは、彼が様々な経験から『戦略のヒント』を得ると言っていた。

恐らくスキルというのは、『戦略』のことだろう。

その力を使ってオグリキャップはレース中に持久力を回復させていたということか。

そしてこれまでの会話から推測するに、恐らくこの男はウマ娘の能力と持っている技術を可視化する力を持っている。

 

それにしても、臆面もなくペラペラと重要そうな事を喋る奴だ。

恐らく手の内を知られても問題ないという余裕の表れなのだろう。

確かにそうだ。相手からしたらこんなことを言われたところで意味が分からないし、仮に意味が分かったとしても彼以外には出来ないことなので意味が無いのだろう。

 

 

「『まぁ、どこかのレースでお会いする機会があればよろしくお願いします。勝たせてもらいますよ、()()()()()()()()()()()。』」

 

 

そう言うと同時に、観客席が歓声に包まれる。

いつの間にかレースが終わっていたようだ。

電光掲示板には一着 八番の文字が映し出されている。

今回のレースの八番は…オグリキャップだ。

なんと京都ジュニアステークスはオグリキャップが六バ身差で一着という脅威の結果で幕を閉じた。

 

 

…そう日も経たないうちに、この怪物と戦わなければならないのか。

とはいえ、こちらも諦めてみすみす勝ちを譲るつもりなど毛頭ない。

 

 

「七篠トレーナー、大変興味深い話、ありがとうございました。ですが、一つだけ訂正があります。勝つのは僕の担当ですよ。…それでは、失礼します。」

 

 

そう言って、僕はその場を後にした。

戻った時、チヨノオーはレースが終わるまで僕が戻ってこなかった件で少し機嫌を悪くしていたが、帰りに桜餅を買ってあげたら落ち着いた。

機嫌が直ったタイミングを見計らって、彼女に今日のレースの感想を聞いてみる。

 

「チヨ、改めてオグリキャップのレースを見て、どう思った?チヨはオグリキャップに勝てると思うか?」

 

 

この質問は彼女の意志を試すためのものだ。

僕は彼女をオグリキャップに勝てるくらい強くするつもりだが、その為にはお互いの足並みを揃えておく必要がある。本人に『オグリキャップに勝つ』という意思がなければ、どれだけトレーニングをしたところで効果はいまひとつになってしまう。

 

 

「愚問ですよ、トレーナーさん。私は負けるためにレースをしてる訳じゃないんです。勝つためにレースをしてるんです!たとえ相手がオグリちゃんでも、私は勝ってみせますよ!」

 

 

…聞くまでもなかったな。

 

 

「昔の私なら、諦めていたかもしれません。でも、今はトレーナーさんやリュークさんがいるので、絶対に勝てる気がするんです!」

 

 

「そうだぜ月、誰が相手でも勝てるくらいチヨを強くするのがお前の役割だろ?」

 

 

突然リュークが割って入ってきてそう言った。

一人じゃないのは、僕も一緒か。

 

 

「チヨ、明日からのトレーニングはより一層ハードなものになると思うが、ついてこられるか?」

 

 

「当たり前じゃないですか!トレーナーさん、一緒にGI、勝ちましょうね!」

 

 

京都レース場でライバルであるオグリキャップの快進撃を目撃した彼ら3人は、その姿に挫けることなく前を見て進む。

そんな彼らを祝福するかのように、赤みを帯び始めた夕焼けの空は晴れ渡っていた。




薄々気づいている人もいるかと思いますが、七篠が担当しているのはクリスマスオグリキャップです。

知らない人もいるかと思いますので説明を…
クリスマスオグリキャップは、ゲーム版ウマ娘プリティダービー史上最強格の育成ウマ娘の一人です。(2022年7月時点)
中距離や長距離の対人戦でクリスマスオグリキャップを見なかった日はないです。
具体的に何が強いのか、という細かい解説は小説の本筋とは関係ないので割愛します。でもとにかくハチャメチャな強さです。

そしてそんなクリスマスオグリキャップですが、固有スキルの発動条件が「回復スキルを3つ発動させる」となっております。
七篠くんがオグリキャップに回復スキルを3つ積んでいるのはこういう理由です。
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