CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第三十九話 ホープフルステークス①

遂にこの時が来た。

12月下旬、中山レース場。

今日はホープフルステークスの出走日である。

 

レース場の前まで来て驚く。

そこには、デビュー戦や新潟ジュニアステークスの時とは比にならない程の数の人がレースを見にやって来ていた。

 

一箇所にここまで大勢の人が集まる場面は、そうそう見たことがない。

今日走るウマ娘たちは、これだけの人々の想いを乗せて走るということなのか。

 

改めてGIというレースの規模の大きさ、注目度の高さ、何よりもその栄光の大きさなどを認識させられた。

中の観客席のボルテージは既に最高潮で、まるで一種のお祭りのような状態になっている。

中に入ると、僕を出迎えてくれたのは意外にもあいつだった。

 

 

「月くん、ここにいたんですね。探しましたよ。」

 

 

Lだ。

誤解のないように言っておくが、僕が呼んだ訳では無い。

なぜここにいるのかは僕も分からない。

 

 

「L…いや、竜崎。どうしてこんなところに?」

 

 

「水臭いですね、応援しに来たんですよ、月くんとサクラチヨノオーさんを。私は行かなくてもいいと行ったんですが、エルさんが行くと言って聞かなかったので。」

 

 

なるほど、あくまでもエルコンドルパサーの意思で来たということか。

まぁ出不精のLがわざわざ用もなくこんなところに来るはずもないだろうしな。

ちなみに、Lとその担当ウマ娘であるエルコンドルパサーは先日朝日杯フューチュリティステークスで一着を収めていた。

 

僕がホープフルステークスに集中するために出走を見送ったレースだ。

どうやら七篠とオグリキャップのコンビは阪神ジュベナイルフィリーズの方に出走していたようで、朝日杯フューチュリティステークスの方への出走は間に合わなかったらしい。

オグリキャップは阪神ジュベナイルフィリーズで特に苦戦する様子もなく勝利を収め、同期のウマ娘たちにその『怪物』っぷりを余すところなく見せつけたそうだ。

 

Lは七篠の持っている特殊な力のことは知らないが、どうやら警戒はしていたようだ。

これは推測でしかないが、もしかするとLはオグリキャップの出走するレースを見て朝日杯フューチュリティステークスへの出走を決定したのかもしれないとも思う。

 

 

「チヨちゃん、頑張ってくだサイ!私は観客席でトレーナーさんと応援してマース!」

 

 

いつにも増して元気なエルコンドルパサーがチヨノオーに声をかける。

GIで勝つことが出来て調子づいているのだろう。

僕の周りには既にGIを取っているトレーナーが二人もいて感覚が麻痺しそうになる訳だが、GIを取ることは決して簡単な事ではない。

並のウマ娘は、GIどころかオープンのレースですら一勝も出来ずにレース人生を終える者も珍しくないと聞く。

如何にトレセン学園が名門であろうと、GIを勝つことが出来るウマ娘などほんの一握りなのだ。

だが、僕はチヨノオーにはそれが出来ると思っている。

GIを勝つということにおいてLに先を越されてしまったが、今日ここで勝ち、すぐに追いついてやる。

 

 

「ありがとう、エルちゃん!わ、私、頑張ってくるね!」

 

 

チヨノオーはそう言って気丈に振る舞ってはいるが、やはりどこか緊張しているように思う。

無理もない、今日のレースはこれまでのデビュー戦や重賞レースとは訳が違う。GIレースだ。

その舞台に立つことが出来る者でさえもほんの一握りという、ウマ娘にとってはまさに夢の舞台とも言える場所だ。

僕はチヨノオーの肩に手を置き、声をかける。

 

 

「行こう、チヨ。『ここもダービーに続く道』、だろ?」

 

 

そう言うと、彼女は気持ちの整理がついたようで、いつも通りの穏やかな笑顔を見せ、頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、今回のホープフルSに出走するウマ娘達が順々にパドックへと入ってきた。

 

 

「どうだ、リューク?」

 

 

「流石にGIってだけあるな。さっきから出てくるやつ全員、この前のニシノフラワーってやつと同じか、それ以上だ。」

 

 

そうか…ニシノフラワーには、あの時の新潟ジュニアステークスではかなりの苦戦を強いられた。

それと同等の能力を持ったウマ娘がこのレースでの()()()()()というわけか。

恐ろしい話のように聞こえるが、考えてみればあのレースから既にもう数ヶ月は経過している。

その間日々トレーニングを重ね、彼女は実力を積み上げてきた。

今のチヨノオーには、その程度の実力のウマ娘では相手にもならないだろう。

 

 

「八枠六番、オグリキャップ。 これは仕上げてきていますね。調子も良さそうに見えます。前走の阪神JFでも結果を出していますし、今回のレースも期待できそうです。」

 

 

…来たか。

満を持して登場したのは今回のレースの一番人気でもあるオグリキャップだ。

不思議な事に、クリスマスをモチーフとした勝負服を身にまとっている。

勝負服とは、ウマ娘にとっての晴れ着のような衣装であり、大抵のウマ娘はここぞというレースで勝負服を着用する。

しかし、厳密にどのレースで着用してはいけない、等のルールはなく、着用したいと進言すればオープンのレースでも勝負服を着ることが出来る。

彼女は阪神JFで既に一度着ているので、勝負服を着てレースを走るのはこれが二回目となる。

聞いた話だと、阪神JFの際も今と同じクリスマスモチーフの勝負服で挑んだらしい。

 

しかし、なぜクリスマスをモチーフとした勝負服なのだろうか。

彼女はクリスマスに強い思い入れがあるのだろうか。

 

 

「『気になりますか?』」

 

 

オグリキャップを不思議そうに見ているところが顔に出ていたのだろうか。

気付かぬうちに僕の背後を取っていたその男がまるで心を読んだかのような言葉を発する。

七篠…相変わらず不敵な男だ。

 

 

「『まぁ特に隠す理由もないですしいいですよ、教えてあげます。勝負服のデザインがクリスマスを模している理由。』」

 

 

僕は一言も言葉を発していないにも関わらず、彼は勝手に一人で喋りだした。

 

 

「『単純ですよ、その方がオグリキャップが強くなるからです。夜神さんに言っても分からないと思いますが、本来のオグリキャップの勝負服はセーラー服を模したデザインのものです。それを使っても十分に強力な力を引き出せるんですけど、こっちの勝負服の方が段違いに力が引き出せるんです。』」

 

 

こいつの言っていることは相変わらずよく分からないが、恐らくこいつが多用する『スキル』と関わりがある話だろう。

 

 

「おい月、今オグリキャップをこの目で見たんだけど、あいつ一ヶ月前より断然やばくなってるぜ。」

 

 

僕の思考を遮るようにリュークがオグリキャップの脅威の成長ぶりを伝えてくる。

その能力値の変化を自分で見られないことが残念だが、今はそれを悔やんでも仕方ない。

 

 

「七枠九番、サクラチヨノオー。こちらも仕上がっていますね。既に重賞での勝ち星をあげていますし、納得の二番人気といったところでしょうか。」

 

 

実況のアナウンスと共に、チヨノオーがパドックに入ってきた。

それと同時に、七篠はパドックの方へ振り向きチヨノオーを、いや、チヨノオーのステータスを見ている。

すると、それまで余裕の笑みを浮かべていた七篠の表情が少し曇った。

 

 

「『なるほど…確かに、オグリキャップを抑えて一着を取るというあの言葉、案外嘘でもなさそうですね。でも、嘘ではないというだけです。その言葉が真実になることはないですよ。』」

 

 

この反応で確信した。

チヨノオーの成長は、少なくともこの男の予想を超えたのだろうということを。

強い言葉による否定は、裏を返せば自信のなさの表れでもあるのだ。

 

 

「今日はお互いに実りのあるレースになるといいですね。」

 

 

僕が一言それだけ言うと、七篠は何も言わずにどこかへと帰っていってしまった。

 

 

「あれがこの前月が言ってた七篠ってトレーナーか。いい性格してるぜ、あいつは。」

 

 

そういえば、リュークは七篠に会うのは初めてだったな。

にしても、リュークが皮肉を言うなんて珍しい。

よっぽど奴の性格が気に食わなかったのだろうか。

 

 

「落ち着け、リューク。もうすぐレースが始まる。」

 

 

ちょうど今日のレースに出走するウマ娘たちの紹介が全て終わったようだ。

すぐにウマ娘が続々とゲートインしていく。

オグリキャップや、サクラチヨノオー、そしてサイレンススズカも…

 

 

「よう、こんなところにいたんだな、夜神!」

 

 

ちょうどタイミングよく声をかけてきたのは、『チームスピカ』を率いていて、そのチームメンバーの一人であるサイレンススズカのトレーナーでもある沖野さんである。

 

 

「沖野さん、久しぶりですね。」

 

 

そう言って、最後に沖野さんと会った時の事を思い出す。

そして、『自称魔法少女』のあの子の前で予定がないことを暴露された時のことを思いだす。

……。

まぁ、それくらいのことは水に流さないと対人関係などやっていけないからな。

あれは不慮の事故だったと思おう。

自分の中の感情に整理をつけ、会話を繋ぐ。

 

 

「サイレンススズカ、デビューして一年でGIに出られる素質があるなんて、やっぱり凄いウマ娘ですね。」

 

 

「だろ?まぁ素質もそうだが、それをここまで育て上げる俺の手腕もなかなかのものだと思わねぇか?」

 

 

こう言われると認めたくはないが、彼が何人ものウマ娘の担当をそつなくこなしている事も事実。

実際、複数人を同時に監督するというのはそう簡単に出来ることではない

その手の才能では、僕はまだ沖野さんには勝てないだろう。

だからここは、素直に褒めざるを得ない。

 

 

「そうですね、流石名門チームスピカを率いるトレーナー、といった感じですね。」

 

 

そう言うと沖野さんは上機嫌で観客席の上の方へ行った。

彼は一人でレースを見る時は、いつも観客席の上の方から見ているらしい。

かく言う僕も席を移動し、一人で比較的静かにレースを見られる位置を取る。

厳密に言えばリュークがいるから一人ではないが。

 

 

「なぁ月、チヨは勝てると思うか?」

 

 

ここに来てリュークから質問が飛ぶ。

目で能力値を見ることが出来るリュークですら今回のレースの結果は読めないということか…

 

 

「何言ってるんだリューク、ここまで来た以上僕らにできることはチヨノオーを信じることだけだろ。」

 

 

「まぁ…そうだな。」

 

 

そして、僕とリュークが固唾を飲んで見守る中、出走ウマ娘全員のゲートインが完了した。

いよいよだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『見せてもらおうか、夜神トレーナー。』」




ジュニア級の総決算なんで結構オールスターです。
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