CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第四十六話 利益

その日の社務所は存外混んでいるという訳ではなかった。

理由は単純。

そもそも今日は1月6日で、参拝のピーク時である大晦日〜元旦を少し過ぎているからだ。

社務所に物を買いに来る参拝者自体はまだそれなりにいるが、お金を受け取り、商品を渡すだけの作業なので、そうそう長蛇の列が作られることもない。

要するにメイショウドトウは、暇を持て余し始めていた。

基本的に値段の計算や接客はフクキタルが行い、メイショウドトウは言われたものをフクキタルのもとへ届けるという仕事を受け持っていた。

バイトを始めた当初はフクキタルとメイショウドトウの2人で接客をしていたのだが、ドトウが注文を聞き間違えたり、渡す商品を間違えたりすることが頻繁にあったので、現在の仕事形態となった。

 

時々空を眺めて、面白い形の雲を見つけて想像を膨らませたり、木の下にたむろしている雀の群れを見て、チュンチュンと鳴き、ぱたぱたと小さな羽を震わせるその和やかな雰囲気に癒されたりしていた。

しかし、接客のフクキタルが忙しくなってくるとそうした日常の小さな出来事に思いを馳せる余裕もなくなってくる。

自分も何かしなければ、そう思うのだが、どうしたって仕事が少ない。

次第に、フクキタルに比べて仕事をしていない自分に対して焦りを覚え始めた。

とにかく何か役に立ちたいと思い、出来ることを探す。

すると、店頭の商品の残りが少なくなっている事に気づく。

もうあと20〜30分もすればなくなってしまうだろう。

物置へと取りに行く。しかし、朝持ってきた量よりも明らかに少ない。

少し考えて結論に辿り着く。

朝この社務所に来る前、手水舎の横の倉庫に寄った時に一度荷物を下ろした。恐らくそこに置いてきたのだと。

気づいてすぐに倉庫へと向かう。

あぁ、急がないと。早くしないと品切れになって、お守りを買えない人が出てきてしまう。

 

彼女は一度テンパってしまうと周りが見えなくなる傾向がある。

だから、この時も彼女はフクキタルに自分が商品を取りに行くことを伝え忘れていた。

こうして彼女は倉庫に置いてきてしまった荷物を取りに向かい、フクキタルは忽然と姿を消してしまったバイト仲間の分まで仕事をする羽目になるのだった。

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

5分もしないうちに、メイショウドトウは倉庫へと辿り着いた。

思った通りそこには持ってきた荷物が置いてあった。

荷物を担ぐとどっしりと重みが伝わってくる。

とはいえ彼女はウマ娘。

この程度の荷物、特にどうということは無い。

さて後はこれを持ち社務所に戻るだけ、あと数分もあればこの仕事は終えることが出来るはずだ。

その時、メイショウドトウの前を1匹のリスが横切る。

この神社は山の中腹辺りに位置していて、森に囲まれているので、リスがいること自体は不思議ではなかった。

しかし、ドトウはこの可愛らしいリスに目を奪われてしまった。

そしてメイショウドトウはそのまま仕事の事を忘れ、リスを追いかけてしまう。

しばらくリスとの追いかけっこが続いた後に、リスが自分の巣に入る。

流石のメイショウドトウもここで我に返る。

辺りを見回すと、完全に森の中。どの方向に神社があるのかも怪しい。

そう、メイショウドトウはこの森の中で迷子になったのだった。

 

「ふえぇ…」

 

とにかく音のする方へ向かう。

耳を研ぎ澄ませて話し声や足音を聞き取る。

微かな音を頼りに、なんとか神社まで戻ってくる事が出来た。

しかし、結局戻ってくるまでに20分程かかってしまった。

 

そして、何度か転びつつ、慌てて社務所に向かう途中で夜神月に出会ったのだった。

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「なるほど…その途中でドトウさんを助けてくれたのがそこのトレーナーさんだった…ということですね?」

話を聞いたマチカネフクキタルがメイショウドトウに尋ねる。

その言葉にメイショウドトウが小さく頷く。

 

「とにかく、役に経ったなら良かったよ、じゃあ、僕はこれで…」

 

荷物は運び終えたし、役目を終えたので社務所を出ていこうとすると、マチカネフクキタルにガッと袖を掴まれる。

そして、「ドトウさんを助けてくれたお礼に、こちらのお守りを1つ差し上げます!」

 

と言って、商品のお守りを1つ貰った。

全体的に緑色で、見た目は普通のお守りだ。

「御守」の2文字が白いフェルトで縫い付けられている。

マチカネフクキタルによると、疲れている時や集中力が切れた時にこのお守りを持っていると、ミスをしたり怪我をしたりすることが無くなる…というご利益があるらしい。

…随分と具体的なご利益だな。

まぁ折角の好意を無下にする訳にもいかないし、ここは貰っておこう。

 

「ありがとう、大切にさせて貰うよ。」

 

そして、お守りを受け取り、マチカネフクキタルとメイショウドトウに別れを告げて、サクラチヨノオーとの待ち合わせ場所である入口の鳥居へと向かった。

 

「もぉ〜、遅いですよ!何してたんですか!」

 

待ち合わせ場所に着くとサクラチヨノオーは少し膨れていた。

想定外の予定が入ってしまったせいではあるが待たせてしまったようだ。

これを見越して出店でカステラを買っておいて良かった。

 

「悪いね、ちょっとトラブルに巻き込まれてて。」

 

カステラを渡すとサクラチヨノオーは尻尾を振って喜んでいた。

ひとまず待たせた件は許されたようだ。

 

とはいえ、新年早々ハプニングに巻き込まれるとは…

今年も大変な一年になりそうだな…

そんな一抹の不安とマチカネフクキタルから貰った緑のお守りを抱えながら、夜神月はサクラチヨノオーと共にトレセン学園へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

道行く人々が思わず足を止めてしまう程に見目麗しいそのウマ娘は、2つの綿菓子を持って道を歩いていた。

 

ゆったりとした足取りで階段を下る。

そして、彼女は誰と合流するでもなく()()()神社を後にする。

少し歩き、人目がないことを確認して路地裏に入る。

そして、手に持った綿菓子を1つ、空中へと掲げた。

 

「大丈夫ですよ、今年こそ、私達の力を世間に知らしめてあげましょう。」

 

そう一言だけ言い放ち、淡然たる姿勢で学園への帰路に着く。

何も無い空中に掲げたはずの綿菓子は、いつの間にかそこにはなかった。

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