CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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毎回2文字で作っているサブタイトルですが、話数が多くなるにつれてだんだん難易度が上がっています。
助けてください。


第四十九話 新風

最優秀ウマ娘発表の会見からはや一月。

まだ寒気の残る2月の空気は少しずつ春の陽気にその色を溶かし、季節の移ろいを感じさせ始めていた。

そんな季節の移ろいに伴うかのように、トレセン学園も新たな風を感じ始める時期だ。

3月は模擬レースも行われ始め、ウマ娘のスカウトが活発になる時期でもある。

そして翌月の4月には新人トレーナーや新入生のウマ娘の入学、スカウトも控えている。

そういった事情もあり、3月はトレーナー側もウマ娘側も慌ただしくなり始める時期なのだ。

 

とはいえ、サクラチヨノオーのトレーニングは非常に順調に進んでいた。

肺活量、脚使い、位置取り。どれをとってもあのホープフルステークスの頃よりも遥かに洗練されている。

それは見ている者に、彼女ならば本当にダービーを取れるかもしれないと思わせる程の仕上がりであった。

加えて、彼女自身の気質が良い方向に働いた。

自分自身の実力に驕りを抱くことなくただひたすらに努力を続ける彼女の性格もあり、彼女はいまやクラシック路線のウマ娘の中でも一目置かれる存在に──────────

 

いわば『追う者』から『追われる者』になっていた。

 

「トレーナーさん!アップ終わりました!」

 

ちょうどアップを終えたサクラチヨノオーが戻ってきた。

 

「今日も調子は良さそうだね、チヨ。」

 

「はい!皐月賞も近いですからね!私達も出走する訳ですし、いい結果が残せるように頑張りましょう!トレーナーさん!」

 

ここ最近のサクラチヨノオーはいつにも増して溌剌としていて、やる気に満ち溢れている。

それは恐らくサクラチヨノオーの自己肯定感が上がってきた事に起因しているのだろう。

デビュー前のサクラチヨノオーは、自分自信に対する評価が低かった。

しかし、この1年間の努力や勝利の体験を経て、彼女は少しずつ自分に自信を持てるようになったのだと思う。

 

そして、水分補給を終えたサクラチヨノオーに今日のトレーニングメニューを手渡す。

ここ最近は脚の使い方を重点的にトレーニングを行っていた。

なので、今日のメニューは繊細な思考を必要としない走り込みのトレーニングを多めにした。

一通りメニューに目を通すと、サクラチヨノオーは手渡した紙を綺麗に折りたたみ、ポケットに入れ、そのままグラウンドへと走っていった。

 

彼女がトレーニングをしている間、夜神月はベンチに腰をかけ、先日理事長から手渡されたチーム登録用紙を手にしていた。

 

「月、それまだ提出してなかったのか。」

 

隣にいたリュークがその紙を見て呟く。

リュークは僕がこの登録用紙をすぐにでも出すものだと思ったらしい。

 

「リューク。前にも言っただろう、そう簡単に決められる事じゃないんだよ、これは。」

 

夜神月は去年からこのトレセン学園に勤務している。

そして去年、見事担当するサクラチヨノオーがGIを獲るという大きな成果を出した。

これが評価され、夜神月やLなどの大きな功績を成し遂げたトレーナーはトレーナー業務2年目にしてチーム登録が許可されたのだった。

 

つまり、同時に何人ものウマ娘を担当することが可能になったのだ。

とはいえ一般的にトレーナー歴2年の場合は1人のウマ娘を担当することが精一杯であり、3人はおろか2人のウマ娘の担当を同時にこなすことすら至難の業であるとされている。

しかし、夜神月やLに限っては別の話である。

超高校級の頭脳と類まれなる身体能力を併せ持つ彼らにとって、複数のウマ娘の担当を同時に受け持つ事はそう不可能なことでもないのである。

つまり、後は本人の意思次第ということになる。

そして、夜神月は今まさにそのチーム登録に関して頭を悩ませているのだ。

チームの登録というのは利点もあれば欠点も存在する。

 

強いて言うならば、自分1人の管轄で併せが可能になるということが挙げられる。

これがひとつの大きな利点となる。

1人のウマ娘のみを担当するトレーナーは、併せのトレーニングをする為に多くの煩雑な手間がかかる。

併せを申し込む場合、まず併せを行いたいウマ娘の担当トレーナーに声をかけ、許可を取り、日取りを決める…といった手間をいちいち踏まなければならない。

しかし、自分1人で複数のウマ娘を担当している場合、そういった手間をほとんどかけることなく併せを行うことが出来る。

 

一見大したことがないように思えるが、考えついてから実行までに時間がかかるのとそうでないのでは大きな違いがある。

例えばレースの2日前に併せをしておきたいとなった場合、そこから相手に申し込んで…という手間を踏むのは少し現実性に欠ける。自分が忙しい時期はほぼ例外なく相手も忙しい時期なので、そう易々と直近の予定を抑えられないのだ。

しかし自分が2人以上のウマ娘を担当しているのならば?

脚質条件や距離適正などはあるものの、自分自身で予定を調整するだけで併せを行うことが出来る。

 

そして、欠点の方。

これは主に2つある。

『トレーナー側の負担の増加』と『チーム内の不和』である。

しかし、僕の場合前者は問題ない。

実は、この1年間あることを試していたのだ。

それが、『複数ウマ娘の同時担当が可能かどうかの検証』だった。

1年間トレーナー業を行っている間、もう1人担当ウマ娘が増えた場合に十分な時間が確保出来るのか、ということを時折考えていた。

そして何度かそれを想定したスケジュールに調整したりしてみた。

結論から言うと、これは可能だった。

サクラチヨノオーのトレーニングの質を落とすことなく、もう1人の担当ウマ娘に対しても真剣に向き合えるだけの時間の確保が出来るという結論に至っている。

 

しかし、今僕が危惧しているのはチーム内で摩擦が発生することである。

 

「でもよ、チヨは性格が真面目だから誰とチームになってもやっていけるんじゃないか?」

 

「…リュークもまだまだ人間、もといウマ娘について分かってないね。人間関係ってのはそんな一枚岩じゃないんだ。確かにもしチームメイトが我儘なウマ娘だったとしても、高圧的なウマ娘だったとしても、誰とチームになったとしてもチヨは上手くやっていけるだろう。だがその場合チヨは今のトレーニングに加えて更なる精神的な負担を強いられる事になる訳だ。それが体調に影響して、ひいてはレースにも影響が出るということになりかねない。つまり、結果的にパフォーマンスが下がるということに繋がりかねないんだよ。」

 

細かい事のように思うかもしれないが、最大限のパフォーマンスを発揮するためには精神面も重要だ。

アスリートなんかは肉体の研鑽と同程度かそれ以上にメンタルトレーニングを重要視している。

今年控えているのがGIレースともなれば尚更だ。

 

「なるほどな、つまりはお互いに納得出来る距離感のチームメイトが望ましいってわけだ。お前らって本当に面倒な生き物だな。」

 

色々考えを巡らせたが、やはりこればかりは僕の一存で決める訳にはいかないか。

一度サクラチヨノオーにも意見を聞くべきだな。

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

「はぁっ…はぁっ…トレーナーさんっ、トレーニング、終わり、ましたぁっ!」

 

トレーニング開始から2時間後、久方振りに気兼ねなく走り続けたサクラチヨノオーは汗だくで戻ってきた。

 

「チヨ、お疲れ。」

 

ゴクゴクと美味しそうに水を飲むサクラチヨノオーに、質問をひとつ投げかける。

 

「チヨ、僕は来年からチームを組もうと思っているんだけど、チヨはどう思う?」

 

基本的にチームを組むとなれば、どのウマ娘も多少否定的な意見を述べる。

その理由は明確で、自分のトレーニングに裂かれる時間が減るからだ。

もちろん僕に限ってそんなことはないが、サクラチヨノオーがどう思うかという話だ。

だからもしチーム結成に対して否定的ならば無理にチームを組むこともない。

 

「うーん、そうですね…私は良いと思いますよ!一緒にトレーニングする人が多いと、その方がやる気出ますもんね!」

 

少し意外な返事だった。

チヨはチーム結成には賛成的な意見を持っているのか。

まぁ本人が乗り気ならこちらも吝かではない。

それならとりあえず今度模擬レースでも見に行ってみようか。

 

「そうか、それじゃあ近々新しいウマ娘を連れてくると思うから、その時はよろしく。」

 

「はい!」

 

元気よく返事をするサクラチヨノオー。

そうしてその日のトレーニングは幕を引き、2人は各々帰路に着くのだった。

 

出会いと別れを象徴すると言われる月である3月。

この2人の間にも、新たな風が吹き込もうとしていた。




バトル漫画とかの仲間が増えたりするパート、個人的にすごい好きなんですよね。あそこが1番ワクワクする。
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