あの日から3日が経った。
僕はその3日間の間で中央図書館にあるウマ娘・トレーナー関連の本を片っ端から読んでいった。
そこには様々なことが記されていた。
ウマ娘の走り方のフォームの例、レース場の種類、一般的なトレーニング方法、脚質適正や距離適性など。
トレーナーとして必要な最低限の知識は身についたのではないか。
「それじゃあ行くよ、リューク。」
「ようやくだな、待ちくたびれたぜ。」
僕は今日トレセン学園で行われる新人トレーナー説明会へと向かうため、リュークを連れて家を出た。
新人のトレーナーのほとんどは寮で生活することになる。
僕は家が学園とそれなりに近かったため、自宅通勤でも構わなかったのだが、寮での生活を選択した。
寮の方が都合が良かったからだ。
他の人間にはリュークの姿は見えないし声も聞こえない。
だから、家族がいる家よりも一人でいられる寮の方がリュークとの会話がしやすいのだ。
寮で生活するとなると、かなりの大荷物を当日に持っていくことを想定していたが、ある程度の家具は寮に揃っている上に、衣類などは予め寮に郵送することが出来た。そのため、今日はカバン一つにおさまる量の荷物でトレセン学園へと向かっている。
学園に着き、貰った書類に記載してあった地図を頼りにかなりの広さのホールのような場所を目指す。
学園一つで東京ドーム数個以上の敷地面積を誇るというだけある。かなり歩かされた。
指定時間の10分前に自分の席に着いたが、既にかなりの人数が席に座っていた。
僕が着席し、しばらくすると説明会が始まった。
まず最初に理事長の挨拶から始まったのだが…
あれはどう見ても子供じゃないのか?
いや、見た目だけでの判断は禁物だ。
ニアとメロはまだ年端もいかない子供だったが、僕は彼らに敗北した。
そして、いくつかの説明があった後、各自解散ということになった。
残されたトレーナー達は、寮へ荷物を整理しに行ったり、その場でトレーナー同士での交流をしたりしている。
僕も交友関係を構築していくか。人脈はあるに越したことは無い。
「あの、すいません!」
一人の女性が僕に声をかけてきた。
こっちから行こうと思った矢先、まさかすぐに声をかけられるとは。
「はい、何ですか?」
「私、桐生院葵と言います!同じ新人トレーナーとして、よろしくお願いします!」
「桐生院葵さん…じゃあ、葵さんで良いかな?僕は月。夜神月です。よろしく。」
「夜神さん、よろしくお願いします!あの、夜神さんはこの後どうされる予定ですか?」
「とりあえずトレーニング中のウマ娘たちを見に行こうかなと思ってます。やはり実際に目で見て見ないことには、どうにもなりませんからね。」
「そうなんですね、あの、私もご一緒してよろしいでしょうか?まだこの学園を把握しきれていなくて…」
「えぇ、構いませんよ。じゃあ、一緒に行きましょうか。」
桐生院葵…トレーナーの名門、桐生院家の人間か…
ある程度リサーチは済んでいる。彼女の一族には代々受け継がれている『トレーナー白書』というものがあるらしい。
これは今後トレーナーとして生活していく上で、是非とも一度見ておきたい。そのためにも、出来れば友好な関係を築いておきたい。
こうして、二人でグラウンドへとやって来た。
昼過ぎの時間帯だった為、ちょうど授業を終えたウマ娘たちがグラウンドへと出てくるところだった。
思った通り、僕ら以外にも何人かの新人トレーナーがウマ娘の走りを見に来ていた。
この三日で分かったことだが、一般人がウマ娘の走りを目にする機会はレース以外だと少ないのだ。
彼女達は基本的にトレーニングには学園やジムを利用するので、一般の人がトレーニング中のウマ娘を見ることはあまりない。
僕もレースの映像資料を参考にしただけで、実際にウマ娘の走りをこの目で見るのは今回が初めてだ。
レース場に行く程の時間の余裕は無かったからな。
「リューク、お前はサクラチヨノオーを探すんだ。僕はここでウマ娘のトレーニングを参考に見ておきたい。」
「まったく、死神使いの荒いやつだぜ。」
そう言うと、リュークは翼を広げて上空へと飛んで行った。
チヨノオーの担当トレーナーとなるのがベストだが、担当選びはそう簡単に出来ることではない。
新人に限らずトレーナーの給与は担当ウマ娘の戦績によって決められる。
ベテランのトレーナーは何人かのウマ娘の担当を兼任出来るのだが、新人の多くは例外を除き、一人につき一人のウマ娘の担当をすることしか出来ない。
そういった事情もあるので、担当ウマ娘選びは自身の生活に直結するのだ。
もしチヨノオーにレースで勝てるだけの素質が無かった場合というのも視野に入れた時、他のウマ娘の担当トレーナーとして接触する、というプランも考えておいた方が良いだろう。
そのためには、チヨノオー以外のウマ娘についても情報を集めなければならない。
後々ライバルになる可能性もあるわけだし。
「夜神さん、気になるウマ娘はいましたか?」
「そう…ですね、あの子なんかは素質ありそうですね。」
芦毛で長髪のウマ娘を指さす。
「明らかに一般的な走り方と違うフォームで走っていますし、実際それが噛み合ってスピードも出ている。足首が柔らかいのかな、ともかくあれは彼女にとって強力な武器になるんじゃないでしょうか。」
「あ、あの娘はオグリキャップさんですね、地方からトレセン学園に来たらしいですよ。なんでも、あの生徒会長『シンボリルドルフ』が直々にスカウトに行ったとか…」
シンボリルドルフ…史上唯一の八冠バにして、トレセン学園に在学する二千余人の生徒をまとめあげる生徒会長か。
実際のレース映像も見たが、あれはもう…ただ速いという域を超えている。
全体のレース運び、スパートをかけるタイミング、どれも非の打ち所がないレースだった。
『レースに絶対はないが、彼女には絶対がある』とまで言わしめたというだけはある。
「そうなんですか、あの生徒会長が…」
あのオグリキャップというウマ娘も、かなりの実力者なんだろう。
そんなことを考えながら、グラウンドを眺めていた。
他にも何人か気になるウマ娘はいたが、名前が分からない。
こんな時、死神の目があれば、と少しだけ思ってしまった。
そういえば、今のリュークは死神の目の取引を行えるのだろうか。
まぁ、仮に行えたとしてもやるメリットがないな。
今はデスノートはないし、僕はキラじゃない。
殺したい相手なんていない上に、僕は今、ただの新人トレーナーだから。
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