トレセン学園生専用トレーニングコート。
普段は生徒がトレーニングに使用するコートであり、芝、ダート、ウッドチップなど幅広いコースが併設されている。
今日ここで行われるのは在学生の模擬レースである。
去年夜神月が見学したのは新入生を交えての模擬レースである。
しかし、そのレースとは別に在学生にスポットが当てられる模擬レースが存在する。
それが本日行われる模擬レースであり、3月時点でスカウトされていないウマ娘に対する救済措置のようなものである。
とはいえ、本来ここに来る予定は無かった夜神月は今日の模擬レースに出走するウマ娘を把握していない。
夜神月は早速模擬レースに出走するウマ娘を確認する。
よく見ると、聞いたことのある名前のウマ娘もちらほら見受けられる。
◆模擬レース 芝 2000m◆
◆出走ウマ娘◆
・スイープトウショウ
・アグネスデジタル
・メジロドーベル
・エイシンフラッシュ
・ミホノブルボン
・マチカネフクキタル
・メイショウドトウ
・エアシャカール
・ミスターシービー
どうやらスイープトウショウ、アグネスデジタル、ミスターシービーは今回が模擬レース初出走らしい。
よって、実力は未知数。今回は彼女らの実力を測ることもレースを見る目的の一つだ。
個人的に意外だったのは、ミホノブルボンに未だに担当トレーナーがついていないことだ。
ミホノブルボンは去年の模擬レースで2着という華々しい成績を残していたし、その後のスカウトもかなりの数受けていたと記憶しているが…。
こうなると考えられるのは、ミホノブルボンが並のトレーナーでは匙を投げ出す程の癖の強いウマ娘だという可能性か。
加えて前回ミホノブルボンが模擬レースで走ったのはマイルのレースだ。
そして今回のレースは中距離。
距離適正が合っているのかという所も気になるところだ。
ガコンッ
そんな事を考えていると、ゲートの開く音が一帯に鳴り響いた。
レースが始まったのだ。
◆◆◆
◆◆◆
そして、模擬レースが終わった。
電光掲示板に今回の模擬レースの結果が明るく照らし出されている。
◆1着 ミスターシービー
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◆2着 ミホノブルボン
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ 1/2バ身差
◆3着 メジロドーベル
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ハナ差
◆4着 スイープトウショウ
︎︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎1バ身差
◆5着 エアシャカール
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎アタマ差
◆6着 マチカネフクキタル
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◆7着 エイシンフラッシュ
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◆8着 アグネスデジタル
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◆9着 メイショウドトウ
こうして結果を見ると、今回の模擬レースはミスターシービーの圧勝だった。
追い込み脚質のウマ娘らしく、後半からの豪快な捲りには目を見張るものがあった。
自分らしく自由な走り方をしている、とでも言うのだろうか。
とにかく何者にも縛られない自由な走りというのが相応しいウマ娘だった。
しかし、今回驚いたのはそこだけではない。
僕は、このレースのレベルの高さに驚いたのだ。
確かに結果だけ見ればミスターシービーの圧勝だ。
実際に彼女は強いと思うし、この結果はまぐれではないと思う。
それこそ三冠すらも視野に入るような器のウマ娘といった感じだ。
ミホノブルボンはそんな彼女相手にあと一歩の所まで迫るという鬼気迫る走りを見せてくれた。
ミスターシービーという三冠レベルのウマ娘に対して最後の最後まで先頭を譲る事無く互角に渡り合っていた。
これらのことから、ミホノブルボンもまた三冠並のレベルのウマ娘だと言える。
3着以下はほぼ団子状態でゴール。
なお前2人との差は大きくはないので、彼女らも実力としては折り紙付きだ。
そして9着のメイショウドトウに関してだが、個人的には彼女の実力を図るのはまだ時期尚早だと思っている。
個人の見解でしかないが、彼女はまだ『本格化』を迎えていないのかもしれない。
ウマ娘には本格化という時期が存在している。
人間で言うところのいわゆる成長期のようなものらしい。
その時期に入るとウマ娘は身体が突発的に成長し、自身の能力も飛躍的に上昇するようになるらしい。
ただ、この『本格化』というものは他人が見て判断出来るものではなく、あくまで自分の中の感覚として存在するものなので、僕が外から見てどうこうという事を判断する事は難しい。
加えて、彼女の臆病な性格が災いして実力を十分に発揮出来ていないように見えた。
レース中の位置取りも、強気に行けば良いポジションをキープ出来そうだった場面で少し引いてしまっているように感じた。
それらを考えると、メイショウドトウもこのレースに出走した他のウマ娘同様に実力のあるウマ娘なのだろうと思う。
つまりこの模擬レースに出走しているのは総じてGIで1着を取るポテンシャルを秘めているウマ娘かもしれないという事だ。
これがウマ娘にとっての名門、中央トレセン学園のウマ娘という事か。
改めて恐ろしい場所だ。
しかし、僕が見ていて唯一違和感を覚えた走りがあった。
各々が自分自身の個性を存分に押し出してレースに臨んでいる中、まるで自分の個性を押し殺して走っているような、そんな気にさせる走りだった。
模擬レースが終わってすぐ、トレーナー達によるウマ娘のスカウトが始まった。
基本は1着〜3着に集中するスカウトであるが、今回ばかりはその限りではなく、どのウマ娘に対しても一定のトレーナー集まっている。
僕は自身の違和感を確かめる為に、そのウマ娘の元へ向かう。
そのウマ娘は順位自体は低かった為、スカウトに来たトレーナーは少なめだった。僕よりも前にいた何人かのトレーナーが自身の名刺を渡したり、自身のトレーニング論を語り終わり、僕の番が回ってきた。
「こんにちは。さっきのレース、見てました。」
「あ、どうも…」
思っていたよりかなり簡素な返事が返ってきた。
暗めの性格なのかもしれない。
実は彼女はトレーナー間でも有名で、僕も何度か噂を聞いたことがある。
彼女は芝やダート、距離を問わずどんなレースに対しても適性が高いことから一部から『勇者』という大層な名前で呼ばれているウマ娘だと聞いていたのだが…。
僕の想像していた勇者像とは随分かけ離れた性格のようだ。
「名前はアグネスデジタル…だよね。僕はトレーナーの夜神月。君をスカウトしに来た。」