CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第五十三話 面接

並み居るトレーナー達の合間を縫ってエイシンフラッシュのもとを目指す。

後から聞いた話だが、今回は出走するメンバーがかなり優秀なウマ娘揃いだったということもあり、トレーナーの数が例年より多かったらしい。

実績の多い有名トレーナーから、無名ではあるが向上心のあるトレーナーまで、様々な思惑を巡らせてこの模擬レースを観戦していたらしい。

7着という一般的には奮わない成績となってしまったエイシンフラッシュのもとにも、数にして実に十余人ものトレーナーが集まっていた。

 

基本的に模擬レースでのスカウトはウマ娘の走りを見たトレーナー側が自分を売り込み、お互いの了承があれば担当契約が成立するというものだ。

こういうものなので、基本的にレースが終わったあとのウマ娘の周りではトレーナー陣が自己アピールに必死で、中々後続は近寄り難くなっているものだが、エイシンフラッシュの周りのトレーナー一同はピシッと整列させられていて、一人一人が黙って待機している。

周りのスカウトの様子に比べると、異様な光景だった。

とりあえずエイシンフラッシュのスカウトに来たという旨を伝えるため、声をかけようとした。

しかし、僕よりも先に彼女が口を開き、こう言った。

 

「あなたも私のトレーナー希望者ですか?」

 

この質問に対して一言「あぁ。」と答え頷くと、「ではこちらに。」と返され、目の前のトレーナーの列の一員に加えられてしまった。

 

恐らくこの後、1人ずつ彼女との会話が始まるのだろう。

几帳面とは聞いていたが、他人も巻き込んでここまでやるとは想像以上だ。

正直な話、エイシンフラッシュのトレーナーになる気もあるにはあるのだが、今日そこまで漕ぎつけようとは思っていなかった。

今日はエイシンフラッシュとの会話を通して彼女の人となりを知ることが出来ればいい、くらいに思っていたのだ。

しかし改めてこの状況を見ると、そういった相手を探るような質問や会話はしづらそうだ。

ともかく今の僕に出来る事をすればいい。

少しでも彼女に対する理解を深めるんだ。そして隙を見つけ、付け入る。

ただ、それだけだ。

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

そしてちょうど時計の秒針が12を指したタイミングで、エイシンフラッシュは整列させたトレーナー達との会話を始めた。

いくつかの会話を聞いていたが、それは会話というより、面接に近いものだった。

会話が始まると、まず彼女はトレーナーに対して質問を浴びせる。

そのトレーナーのこれまでの実績、エイシンフラッシュというウマ娘にどういう魅力を感じたのか、自分はエイシンフラッシュをどのように活躍させるビジョンを持っているのか、など。

それらの質問攻めの最中に一度でも口ごもってしまえばそれまで。

「結構です。」の一言と共に次のトレーナーへの質問攻めが始まる。

あまりにも淡々と年齢に不相応なその『作業』をこなすその姿は、まるで心を奪われてしまった機械のようだった。

 

十人以上もいたのでそれなりに時間がかかるかと思ったが、そういった形式の会話ということもあり、僕の番は案外すぐにやって来た。

エイシンフラッシュが僕の前に立ち、それまでと同じように質問をする。

 

「あなたが…夜神さんですね。昨年度は活躍していたので、名前と実績についてはよく知ってます。」

 

他のトレーナーに対しては名前や実績から聞いていたが、僕の事は知っていたようで、その過程は省略された。

どうやら、昨年の僕の実績を買ってくれているようだ。

 

「では。お聞きしたいのですが、どういった理由で私をスカウトしようと思いましたか?」

 

「もちろんその持ち前の走りの才能を見たからだよ。ひとつ挙げるとするなら『大局観に秀でた走り方』…という感じかな。」

 

他のトレーナーが自分の実績やトレーニング方針を軸にスカウトしようとしていたのだが、それらの時のエイシンフラッシュの反応はいまいちだった。

なので自分の良さを売り込みにいくより、今回の模擬レースの彼女の走りに焦点を当てた意見をしてみた。

すると、エイシンフラッシュは少し顔が陰り、こう返した。

 

「しかし、私は7着という順位でした。私で大局的な視野を持つウマ娘だというのならば、もっと上位に入着したウマ娘の方が大局観に秀でているのではないのですか?」

 

その発言は、どこか自暴自棄気味になったような、不貞腐れているかのような発言だった。

推測だが、彼女は自分自信の実力をまだ信じきれていないのではないか。

 

「いや、君が視野の広いウマ娘だと言ったことは嘘じゃない。君は確かにレース全体の流れを見通し、各ウマ娘の動きを見て、誰がどのタイミングで仕掛けるのか、そしてそれを鑑みて自分が仕掛けるタイミングを図っていたはずだ。」

 

そう言われ、エイシンフラッシュは俯いてしまう。

それは、彼女は実際にそうしていたからに他ならない。

 

「実際、それ程の事をレース中に観察し、しっかりと見極める事が出来れば、レースに勝つ確率は限りなく高くなる。しかし、その戦略には穴がある。」

 

一度こちらの話に興味を持たせてしまえばこちらのものだ。

それまで押し黙っていたエイシンフラッシュが続きを促す。

 

「その穴とは…なんですか?」

 

「そこまでの事をレース中に考えながら走ることはそうそう出来ない、という事だ。脚質分布が単純な場合なら出来る時もあるかもしれないが、今回は差しや追い込みの脚質が非常に多いレースだった。君は序盤に前に出過ぎてしまい、そのせいで後ろに続くウマ娘の動きに対して警戒が薄くなっていた。確かに後ろの方に留まり過ぎると後にスパートをかける時に先頭との距離が遠く、追いつけないという事も有り得るから、前の方に出ておいた方が良いというのはそうだが、今回は仕掛けるのが早かった。」

 

「っ…。」

 

具体的なレースの内容の批判に、エイシンフラッシュは悔しさを噛み締める。

彼女がスパートをかけるタイミングを見誤ったのは現時点で契約が決まっていない焦りや緊張などもあったのだろうと思うが。

そして、どうやらエイシンフラッシュは思ったより打たれ弱いようだ。

こんな風にトレーナー達に対して強い姿勢で出ていたから、勝ち気なウマ娘なのかと思っていたが、僕の批判への反応を見るに、そうでもないらしい。

ならば、当初の目的とは異なってくるが、ここで押し切って担当契約まで取り付けてしまえるかもしれない。

 

「とはいえ、完全にミスをせず走り切れというのも無理な話だし、自分の実力を披露出来る数少ない機会なんだ、緊張するのは無理もないと思うよ。むしろその状態であれだけの健闘をしたのは目を見張るものがある。ぜひ僕に君を担当させてくれないかな。」

 

一度厳しい批判をして、直後にその反省点に対するフォローを入れる。

この一連の人心掌握の流れによって夜神月は堅牢なエイシンフラッシュの心を動かしつつあった。

思わずエイシンフラッシュが「では…」と続けようとした時、突如現れた1人の男の声がそれを遮った。

 

「『すいません、僕もトレーナー希望です。』」

 

その男は、去年の暮れに夜神月と熾烈な争いを繰り広げた男、七篠であった。

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