CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第六十一話 確度

新メンバーの加入、新たなノートの存在、伝説のウマ娘の訪問。

そんな慌ただしい出来事からそれなりに月日が経った。

桜の木はもう満開に咲き誇っていて、薄く綺麗な桃色の絵の具を空のキャンパスに馴染ませている。

 

そんな心地の良い季節に、夜神月率いる「チームキルシュ」は新メンバーが加入したこともあり、より一層の本格的なトレーニングの日々を過ごしていた。

 

サクラチヨノオーは皐月賞に向けての最終調整に入り、皐月賞想定で2000mのコースを何度も走って感覚を掴んでいた。

皐月賞の出走メンバーがまだ確定していないので具体的な対策を練るのはまた後になる。

だがサクラチヨノオーが出来ることは全てしておきたい、と言うので今は2000mのコースに慣れるための走り込みのメニューを多めにしている。

 

今年度に入ってから初めてのレースとなるのが若干の不安要素ではあるが、今のサクラチヨノオーを見ているとそんな不安も払拭されていく。

 

一方のエイシンフラッシュは4月後半に控えたデビュー戦に向けてトレーニングを重ねている。

中距離のデビュー戦に出るので、時々サクラチヨノオーと併走する事もある。

流石にジュニア級を1年戦い抜いたサクラチヨノオーとデビュー前のエイシンフラッシュとでは差があるかと思ったが、実際に走ってみるとその実力はそう大差なく、基本的にはサクラチヨノオーが勝つのだが、コンディションによってはエイシンフラッシュが勝つ事もあった。

伊達に三女神のアドバイス通りにトレーニングをしていたわけではないようだ。

 

そしてその三女神、バイアリータークだが、最近は何故かリュークを鍛えている事が多い。

何もせず自堕落な生活を送るリュークを見たバイアリータークが「ウマ娘を導く存在であるお前が、そんな体たらくでどうする!」と激高し、それ以降バイアリータークはリュークに対して厳しいトレーニングを課している。

僕としても最近の怠惰なリュークには手を焼いていたので、この一件でリュークの性格が多少なりとも改善されることを密かに祈っている。

 

そして今、サクラチヨノオーとエイシンフラッシュが併走をしている。

ちょうど最終コーナーを回ったところで、ここからどう動くのかと2人の動向に目を光らせていると、後ろからバイアリータークに声をかけられた。

 

「夜神月、お前は今回どちらが先にゴール板を駆け抜けると思う?」

 

中々に難しい問いだ。

どちらの実力も並のものではないうえに、2人のこれまでの勝敗が拮抗しているので、一概にどちらと言えない。

一度2人の勝敗を振り返ってみる。

これまでの戦績はサクラチヨノオーが4勝、エイシンフラッシュが2勝だったか。

 

「…あくまで順当にいけばの話だが、恐らく僅差でエイシンフラッシュが勝つ。」

 

今回2人が走っているのは2500m、右回りのコースだ。

皐月賞よりも少し長いので、ペース配分が大事になってくる。

ペース配分の一点で言うならばエイシンフラッシュの方が若干上手だ。

彼女の一寸の狂いもないコース取りには目を見張るものがある。

対するサクラチヨノオーはここ数日2000mのコースでよく走っていた。

これまで走ってきたレースは最長でも2000m。

2500mのペース配分はチヨノオーにとっても未知数のはず。

これらの情報を総合した結果、エイシンフラッシュの方に軍配が上がった。

 

「ほう、そう見るか。私はサクラチヨノオーが勝つと思っていたが。」

 

…珍しいな、意見が割れるとは。

 

これまでの併走での僕達の意見は全く同じ。

そしてこれまでの予想は悉く当たっている。

僕とバイアリータークで意見が割れたのは今回が初の事だった。

 

そして、程なくして2人がゴール板を過ぎていった。

結果は…サクラチヨノオーの勝利だった。

エイシンフラッシュに対して不利を取りつつも勝ったというのは皐月賞に向けて仕上がっているということなので良いのだが、自分の予想が外れた手前、素直に喜ぶことが出来ない。

動揺を表情に出さぬように徹していると、バイアリータークが話し始める。

 

「先程の最終コーナー手前、スパートのタイミングでフラッシュは利き足とは逆の足で強く踏み込んでいた。足の位置とスパートをかける位置がズレていたからだ。そのせいで勢いが半減し、最後の直線で伸びきらなかった。」

 

スパートをかけていたのは僕がバイアリータークにちょうど声をかけられたタイミングだった。

そのせいで、2人がどちらの脚でスパートをかけていたのか見ることが出来なかった。

これを見越してあの質問を聞いてきたのだとしたら若干卑怯な気もするが、勝負とは一瞬の判断で大きく変化していくものだ。

この場合一瞬でも目を離した僕の方に落ち度があるのだろう。

 

だが、それはそれとして気になることが一つ。

 

「バイアリーターク、先程エイシンフラッシュがスパートをかける脚が逆だったと言っていたな。伸びきらなかった原因はそれで説明がつくが、そもそも普通のウマ娘ならばスパートをかける脚を変えるんじゃなく、スパートの位置を変えるものじゃないのか?」

 

仮にスパートをかける位置で何か不都合が生じたのならば、その場でスパートをかけることを諦めまた別の機会を伺うものだ。

そうしなかったのは、何か理由があるのだろうか。

 

「ああ…まあ()()()()()()()()、そうするのだろうな。」

 

そう言って彼女は含みのある言い方をした。

 

「お前も知っているはずだ。あれは…エイシンフラッシュがエイシンフラッシュであるが故の弱点…とでも言うのが正しいのだろうな。」

 

彼女が彼女であるが故の弱点……まさか

 

「バイアリーターク、それは…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…だということか?」

 

バイアリータークは何も言わず頷く。

にわかには信じがたいが…エイシンフラッシュは事前に決めた走り方を絶対順守しているのだ。

故に、融通が利かない。

一般的なウマ娘はレース前に大まかな走り方(脚質)のみを決め、レース中の展開を見つつその場で細かな走法の調整を行うものだ。

しかしエイシンフラッシュは、事前にその日の走り方を事細かに全て定めておいて、文字通り()()()()()()()()その展開をなぞる走りをしている。

そういう理由で彼女の中に「スパートの位置を変える」という選択肢はなく、「利き脚でなくともその場でスパートをかける」という選択に踏み切ったのだろう。

 

真面目さという彼女の武器は、どうやら自分の身も刺し得る諸刃の剣だったということか。

手のかかるウマ娘だということは理解していたつもりだが、これは思っていたより骨が折れそうだ。

 

走り終え、水分をきっかり100mlだけ摂取しているエイシンフラッシュを見ながら、僕は先の苦労を思わずにはいられなかった。




デスノート要素薄いな…って思ったんで次回はデスノート要素多めです。
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