CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第六十九話 動乱

対象の拉致監禁、それが俺たち末端に課せられた使命。

無論これが法に触れる行為なのは重々承知だ。

だが我々には信念がある。

ウマ娘を競走という見世物の世界から解放するという信念が。

これを達成する為に我々は様々な手段を用いた。

凡百の手を尽くし、それでも尚成し得なかったのだからしようがない。

そう、これはしようのないことなのだ。

 

そう思い直し、改めて今回の対象に目をやる。

対象はサクラチヨノオーのトレーナー、夜神月。

我々の今日の目的は対象のこちらの方での予定を把握すること。

今日一日気配を殺し尾行して、最終的に彼の宿泊先であるホテルの場所まで突き止めた。

後は一度仲間と合流し、実行のタイミングを練るとしよう。

幸い今対象の夜神月はホテルに入らず何やら虚空に向かってぶつぶつと呟いている。

俺はもう一人の仲間にハンドサインで指示を出し、音を立てぬようその場を後にする…

 

はずだった。

 

ゆっくりと路地裏の方に向かって歩き出した途端、首元になにかひやりとした感覚が走る。

しかし目をやってもそこには何も見えない。

それでも確かにそこには()()()()()()

それ以上前に進もうものなら恐らく首が無事ではないだろうと、そう思わせる程の質感がそこにはあったのだ。

身動きが取れないので、もう一人の方を見る。

すると案の定そいつも俺の少し前で固まっていた。

一体何が起きているんだ?

俺は生まれてこの方霊感は全くない人間だ。

じゃあこの現象は何なんだ?

そんな事を考えていると、背後から微かに足音が近づいて来るのが聞こえた。

 

まずい、警察か?後ろを振り向けないので確認のしようがない。

今はもう夜も更けている。

そんな中全身黒ずくめの俺たちは警官にさぞ不審に映るに違いない。

 

「ち、違うんだ。俺たちはただそこのコンビニに買い物に出ただけで…」

 

咄嗟に弁明の言葉を述べる。

しかし俺達の後ろに立っていたのは警官などでは無かった。

 

「そんな嘘は通用しない。お前たちが今日一日僕とサクラチヨノオーを尾けていたのは分かっている。目的を吐いてもらおうか。」

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

僕を尾けていた2人は見たところ上の立場の人間では無さそうだ。

こういう人種は死の危険に直面すると自分の保身を真っ先に考えるタイプだ。

そう考え、試しに少しリュークの力を使って脅しただけで2人はいとも簡単に全てを僕に話し始めた。

 

結論から言うと、今日僕のあとを尾けていたのはとたる団体の末端の人間だった。

彼らは自身の事を「ウマ娘保護委員会」と名乗っていた。

彼らはウマ娘がレースで走ることを『搾取』と考え、それ自体を廃止にさせようと目論む集団だった。

その悲願の成就のための華々しい第一歩として皐月賞の中止を計画しているとのことだ。

その計画の一端として彼らが命じられたのが僕の拉致、そして皐月賞当日までの監禁…ということだ。

 

目的は理解したが、計画がどうにもお粗末だ。

突然失踪してレースに影響が出ることを防ぐために、皐月賞当日までのトレーナーの動向はある程度URAが補足しているはずだ。

今日の尾行の様子を見た限り、彼らがそのことを知っていて動いたとは思えない。あまりにも杜撰だ。

そもそもこの2人も上のやり方に全面的に賛成している様子はない。

実行犯がこれなのだから、恐らく中枢の人間以外は「大事を成せる」という熱に浮かされた有象無象の寄せ集めの集団だ。

 

「お前たちが僕の拉致に失敗した場合のプランは?」

 

そう質問を投げかけると、彼らは「恐らく別のメンバーがまた差し向けられる」と言った。

そういうことならこいつらをこのまま帰すのはやはり悪手だな。

さてどうするか…

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

――このままおめおめと捕まっている訳にはいかない。

任務を遂行出来なかったことが知れれば、自分たちがどんな罰を食らうことになるか分からない。

 

正直な話、俺は面白半分でウマ娘保護委員会に入会した人間だ。

そういう団体の裏を探って、ウマチューブにアップロードして一儲けしてやろうと思っていた、ただの一般人だ。

 

入ってすぐに後悔した。

いわゆる二流の()()()()団体は、加減を知らなかったのだ。

やることに加減がない。活動にしても、罰にしてもそうだった。

これまで失敗してきた者たちがどこに行ったのか、俺たちは知らない。

それ以降姿を見ることがなかったからだ。

ああはなるまいと思って頑張ってきたんだ、こんなところで終わってたまるか。

 

追い詰められた人間の集中力は普段のそれを遥かに凌駕する。

夜神月が思索を巡らし、思考の対象が自分たちから別のことに移った瞬間を彼は見逃さなかった。

身をかがめ、自身の首にかかっていた狂気的な「何か」を掻い潜り、携帯用スタンガンを上着の懐から取り出す。

 

「悪いな、夜神月――」

 

静かな暗がりに、細く弾けるような音が微かに反響した。

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