CHiYO NOTE   作:苺ジャム

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第七話 怪物

マイル用のコースにやって来た。

予定外の出来事があり少し遅れてしまったが、なんとか出走には間に合ったようだ。

 

中央競バではマイルのGIも多いため、トレーナーの間ではマイルのレースの注目度は中距離レースに次いで高い。この模擬レースにもたくさんのトレーナーが詰めかけている。

 

よく見ると何人かのトレーナーは既に声をかけるウマ娘に目星をつけているようだ。

手元の出走者リストに印がつけてある。

僕ものんびりとはしていられないな。下手すると先を越されそうだ。

 

ウマ娘たちは既にゲートに入って準備万端だ。

このレースの出走者は18名。恐らく彼女たち一人一人がこのレースに出るためにかなりの努力を積んできているはずだ。

 

なにせ2000人以上の中から選び抜かれた18名だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコンッ

 

ほどなくして、レースが始まった。ゲートの開く音が観客席まで響く。

 

先頭に出たのは三番の子か。名前は…ミホノブルボン。

 

バ群から抜け出すのが上手かった。先頭集団はミホノブルボン含め四人か…この辺りにいるウマ娘が脚質で言うと〝逃げ〟と〝先行〟に分類されるのだろう。

 

「月、どうだ?このレースは。」

 

リュークが僕に言う。

 

「後方脚質…〝差し〟と〝追込〟のウマ娘がかなり多い。正直、逃げや先行のウマ娘にはやりづらいレースになるだろう。十四人分のプレッシャーが常に後ろからかかっている状態だからな。その反面、団子状態になっている後方のウマ娘たちは、誰が抜け出してもおかしくない。良くも悪くも誰にでもチャンスがある状態、という感じかな。」

 

「確かに、あれだけ後ろの方に固まっていると、こりゃ前の方は苦しい展開になりそうだな。」

 

「前方のウマ娘たちは、最終直線まででどこまでバ群を伸ばすことが出来るかが問題だな。」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「バ群を伸ばすっていうのは、簡単に言うと後ろの方との差を広げるということだ。最終直線で後ろの脚質のウマ娘たちがスパートをかけても追いつけない程に差を広げておけば、今前の方にいるウマ娘たちにもチャンスがあるだろう?」

 

「なるほどな、そういうことか。」

 

そう言っているうちに、最終コーナーを回った。

この時点での先頭は未だにミホノブルボン。

ここまで一度も他のウマ娘に先頭を譲ることなく走り続けている。

そんなことが出来ている時点で、既に彼女にはかなりの素質があると思う。

 

後続との差は四バ身程度か…これは逃げ切りも有り得るかもしれないぞ。

 

徐々に後続のウマ娘もスパートをかけるが、差がかなり開いている。

 

「このままだと、あのミホノブルボンとかいう奴が逃げ切りそうだな。」

 

リュークはそう読むか。だが、僕はそうは思っていない。

 

「いや、まだだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…やはり来たか。

 

 

突如、レースを見ているトレーナーたちがざわつく。

それもそのはず、団子状態になっていた後方集団から突然一人のウマ娘が抜け出したからだ。

 

そしてその娘はどんどんスピードを上げ、先頭集団に食らいつこうとしている。

 

「凄い速さだな。それになんというか…低いな。」

 

そうか、リュークは昨日見ていなかったな。

彼女の走りを。

 

『オグリキャップ』の走りを。

 

リュークの言うように、彼女の走りは尋常でない程に姿勢が低い。

とてつもない前傾姿勢で走っている。

 

本来、あんな走り方をすれば、足が追いつかずに転倒してしまうだろう。あれが出来ているという事は、やはり足のバネが強いということだろう。そのバネがあの力強い走りを生み出している。

 

さすがにあの生徒会長にスカウトされたというだけはある。

 

そしてオグリキャップは先頭集団を大外から追い越し、二着に二バ身の差をつけ一着でゴールした。

 

なお、二着はミホノブルボン、三着はアイネスフウジンというウマ娘だった。

 

この二人も今回のレースでは二着と三着という結果に落ち着いたが、正直GIを勝ちきれるだけのポテンシャルはあるように見える。

霞んで見えるのは、レースが終わって早々に持参していた大量の食事を片っ端から食べているあの娘がいたからだ。

GIレベルのウマ娘を差しきれるウマ娘、まるで怪物だな…

 

しかし、何故彼女はあんなに食べられるんだ。

よく考えたら彼女はレースが始まる前にも大量に食事を取っていた。

普通のアスリートなら試合の直前や直後は食事が出来るような精神状態でないことが多いはずなんだがな…。

あの速度で走る為には、かなりのエネルギーを消費するのかもしれない。

 

「月、あのオグリキャップとかいう奴がメシを食ってるのを見てたら、俺もりんごが食べたくなってきたぞ。」

 

「我慢しろ。今手元にりんごはないんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして暫くして、トレーナーたちによるスカウトが始まる。

 

気になるウマ娘は何人かいたが、僕は既にサクラチヨノオーをスカウトすると決めている。これ以上ここに用もないし、そろそろ中距離のレースが始まる頃だ。中距離のコースに戻るとするか。

 

そう思い、戻ろうとすると、誰かに腕を掴まれた。

この子は…ウマ娘か。しかし、見たことない顔だな。

長い黒髪に黄色がかった目をしている。

 

 

 

 

 

「あの…すみません、その…あなたの後ろに…怪物のような方が…」

 

 

?!

 

 

このウマ娘、リュークが見えるのか?!




今回はずっと描きたかったレースの描写が出来ました。
いつか、もっと繊細なレースの描写も出来るようになりたいものです。

連載の方式について

  • 2000文字くらいで週3~5連載
  • 4000文字で週1~2連載

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