プロローグ
人は皆平等であるか?
否、人は不平等なもの、存在であり、平等な人間など存在しない。
かつて過去の偉人が、天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、という言葉を世に生み出した。だがこれは皆平等だと訴えているわけではない。
この有名すぎる一説には続きがあるのを知っているだろうか。
その続きはこうだ。生まれた時は皆平等だけれど、仕事や身分に違いが出るのはどうしてだろうか、と問うている。そしてその続きには、こうも書かれている。
差が生まれるのは、学問に励んだのか励まなかったのか。
そこに違いが生じてくる、と綴ってある。それが有名すぎる『学問のすゝめ』だ。
とにもかくにも、人間は考えることのできる生き物だ。平等という言葉は噓偽りだが、不平等もまた受け入れがたい事実であるということだ。
そして、その教えは現代においても何一つ事実として変わっていない。
もっとも、学園都市では特に事態は複雑かつ深刻化しているが……
♢♦♢
『学園都市』
東京西部の多摩地域に位置する巨大な完全独立教育研究機関。あらゆる分野の教育機関、研究機関が犇めき合い、総人口230万人のうち八割が学生という学生の街。この街の科学は外よりも数十年進んだ最先端科学が運用されており、中でも人為的な『超能力』の研究開発の側面が強い。
通常の人間にはできないことを実現できる特別な力。
手から火を出す。電撃を操る。水流を操作、手を触れずにモノを動かし、相手の心を読んだりもすることができる。
この街で暮らす学生のほぼ全てにはそれぞれの学校の『時間割り』に超能力開発が組み込まれていた。
初夏真っ只中の七月中旬。
第七学区のとある高校。一年七組。このクラスになってもうすぐ一学期が経つ。
オレこと
「では授業を始めるですよー。今日最後の授業だからって気を抜いたらダメですからねー」
このクラスの担任、
「まずは先週の期末テストの返却をしますよー」
来週から夏休みという学生にとっての長い長期休暇が始まる。クラスの大半は浮足立つものと緊張をはらむものに分かれていた。
一学期で生徒がどれだけ学力がついたか確認するための期末テストの結果が今日わかる。点数次第では夏休みが補習でつぶれるのだ。
「おい。
オレの前の席に座るツンツン頭の黒髪の男、
「この期末テストで一番点数の低かった奴が、今日の飯代を奢るっちゅう話やろ?勿論覚えてるでー」
軽快な似非関西で話す青髪(名前忘れた)は一言で表すなら変態だ。
以前に女性の好みについての話題で奴は……
『ボクぁ落下型ヒロインのみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を迎え入れる包容力を持ってるんよ?』
と、どう反応すればいいかわからない回答をした。
しかも「パン屋の制服がメイド服に酷似しているから」という変態じみた理由から、現在は学生寮ではなくパン屋に下宿している。
「オレも覚えてるぜよ。そういうカミやんこそ、今更無しって言ったって聞かないぜよ?」
「当然だ。なんたって、飯代がかかってるんだからな」
「よーし!望むところだにゃー」
猫ボイスで、口調が軽いことこの上ない土御門は一言で表すなら変態だ。
なかなか話しやすく、もう気軽に遊んだり出来る仲だ。と思う。
だが義妹を愛し、メイドを愛する変態男だ。
「ふふん、今回の上条さんは違うのだよ」
得意げな顔をする上条は「不幸だ」が口癖で大小様々なトラブルに巻き込まれる自他共に認める不幸体質の人間だ。非常に運が悪く、高い頻度で揉め事や厄介事に巻き込まれたり、不運な事態に見舞われるのは日常茶飯事だ。だが困っている人がいたら助けるいい奴だ。
上条が声を掛けてくれなかったらオレはコミュ障のボッチのままだった。
以来、デルタフォース(クラスの三バカ)というグループ名がつけられている土御門、青髪、上条の三人とオレはたまにつるむことがある。勿論馬鹿なことは率先して行わないのだが、流れに巻き込まれるときがある。今回もそれだ。
「なんだか盛り上がっているみたいですけど、上条ちゃん、土御門ちゃん、青髪ちゃんの三人は30点以下で赤点なので夏休み補習決定でーす」
「なっ、赤点!?そんな、なんでだ……!」
小萌先生から告げられた宣告に、上条は信じられないといった声を上げる。
配られた答案用紙を手に取って確認する。
三人の反応はバラバラだった。
「29点……完璧な調整やわ……!この点数なら、奢って貰える上に小萌先生の補習受けられるやん!」
うん…青髪の変態には触れないでおこう。
「オレは27点か……苦手な範囲のわりには惜しかったにゃー。キヨポンはどうぜよ?」
「……オレは66点、平均点ギリギリだな」
せっかくの休みを補習で潰されてたまるか。
「カミやんはどうだったぜよ?」
「……0点」
嘘だろ上条。あれだけ勉強してたのに。
「0点って、いくら何でもそれはないんじゃないか?ちょっと見せてみるにゃー」
「どれどれ……あらら……カミやん、答えは結構合ってるのに解答欄がずれてますやん」
「……上条、あれほど記入したあと見直ししろって言っておいただろ」
「す、すまん清原」
上条の答案用紙を見たが、とんでもない記入ミスだった。
上条は不幸体質だが、ドジなところがある。オレはそれを把握して一応忠告はしておいたんだが駄目だったか。
「ま、勝負は勝負。点数が一番低かったカミやんが今日のメシ奢りだにゃー」
「はいはーい、そこ静かにー!授業を始めますよー」
「はぁ…不幸だ」
哀れ上条。
「いやー食べた食べた。長居しすぎてすっかり日が暮れとるねー」
「カミやん、今日はありがとうだにゃー。すっかりご馳走になってしまったぜよ」
授業が終わり、いざファミレスに行くと土御門と青髪は奢ってもらうのをいいことにデリシャスステーキやらチーズピザやらハンバーグやら高いメニューばかりを注文した。
オレはさすがに悪いので安いものにしたが……
「本当に奢らせやがって……今月どうやってやりくりしよう」
「これでも、もう一品いけそうなんを我慢したんよ?」
「メシはやっぱり賑やかなのが一番だにゃー」
この二人は良い奴なのか容赦がないのかわからないな。
「はぁ…不幸だ」
「なあカミやん……カミやんはオレの友人だからにゃー。困ったときは、オレにできることならすぐに助けるぜい?」
「土御門……俺は今、お金で困ってる」
「えっと……上条、食事ならオレの冷蔵庫にあるのを少し分けてやっていいぞ」
さすがに可哀想なので、オレは救いの手を差し伸べると、上条は尊敬のまなざしでオレを見てくる。
「うう……すまん清原。……ああ、オアシスはすぐ傍にあったんだな」
「男相手に何言い出すんだ?」
「変な意味じゃないからそんなに引かないでください!!?」
引きつつあったオレに上条はどうにか弁明をした。
「なあ、三人とも。ちょっとあれ見てみい」
「どうした青髪?あっ」
青髪がむいている方向に目を向ける。
4人のガラの悪い男たちが2人の少女を囲んでいた。
「あ、あの、やめてください……」
「いいじゃねえか。ちょっとくらい付き合ってくれてもよ」
2人の少女のうち、ウェーブのかかった栗毛の少女が反抗するが、恐怖で怯えてしまっていた。
「あれは……常盤台の制服の生徒だにゃあ」
常盤台……確か学園都市でも五本の指に入るお嬢様中学校のものだった気がする。
世間知らずのお嬢様からしたら、いくら自分が能力を持っているとはいえ、見知らぬ男に絡まれるという体験は恐怖には違いないのだろう。
「不良に絡まれてるのか?」
「どうします、お三方?」
「見て見ぬ振りっていうのは流石に寝覚めが悪いぜよ」
……助けに行く流れか。
「こういうのは助けに行くしかないよな」
上条が率先して行く。
「おい、彼女たち、困ってるじゃないか」
「あ?なんだおめぇらは?」
「困ってる女の子を放っておけない男子高校生ぜよー」
「恰好つけてんじゃねえよ!おいやっちまうぞ!」
不良たちがお約束のセリフを言いつつ、オレたちに襲いかかってくる。
これで正当防衛は成立したな。
数分後。
「そら!胴体がガラ空きだぜい!」
「ぐはぁっ!」
土御門が最後の一人の腹部にボディアッパーをかける。もろに入ったらしく、腹を抑えながら地面にうずくまった。
「ふぅ。口先だけで大したことなくてよかったにゃー」
襲いかかってきた不良たちは全員苦悶の表情を浮かべ倒れている。
起き上がって襲いかかってくる様子がないのを確認したオレは、呆然としてる常盤台生の二人に声をかける。
「大丈夫か?」
「あ、はい。あの……助けていただいて、ありがとうございます!」
「しつこく遊びに行かないかって声をかけられて、困っていたんです」
「常盤台の生徒なら、能力でなんとでもなったんやないの?」
「その…私達の能力だと、大怪我させてしまうかもしれないので……」
「どこかのビリビリにも見習って欲しいもんですね…」
「びりびり?」
上条の言う単語に二人の常盤台生は小首をかしげる。恐らく上条は茶髪の常盤台生のことを言っているのだろう。どうも六月くらいに不良に絡まれてるのを上条が助けに行ったが、なんか女子の方に逆ギレされて電撃を放たれたらしい。それで、上条は右手でそれを防いでから度々勝負を挑まれてる。
成程、確かに見習って欲しいと思うだろうな。
「ぐっ……ナメやがって……こうなったら」
ん?
オレの後ろで倒れていた不良の一人がポケットに手をつこっみ、刃物のようなものを取り出していた。
「この野郎、覚悟しやがれ!」
不良は一番近いオレを狙って襲いかかってきた。
「あっおい清は――」
上条が叫ぼうとしたのと同時に、オレは振り向きざまにナイフを避け、
「なっー」
片手でナイフを持った方の手首を掴み、背後に回ってもう片方の手で不良の肩を抑える。
「刃物は洒落にならないだろ」
「クソッ!おい離せこの野――いだだだだ!」
抵抗してきたため、肩に添えた手をスライドして相手の肘へ移行。と同時にもう片方の手でつかんでいる相手の手首を手前に引き、相手の肘にプレッシャーをかける。そして、相手の動く方向と同じ方へ更に圧力をかけながらうつ伏せ状態にし、相手の首の後ろに左膝で体重をかけて拘束した。
「ちょっギブギブギブギブ!分かった!分かったから!」
降参の意思を示すように不良は手に持っていたナイフを捨てた。
「うひゃー相変わらずキヨポンの護身術半端ないぜよー」
「やっぱりキヨポン、中学に柔道かなにか習ってたんやないの?」
「ピアノと書道を少々だ」
「あれ?前は茶道って言ってなかったか?」
「……茶道もやっていたんだ」
「…キヨポンの秘密主義も相変わらずぜよ」
秘密主義とは大げさな。オレは他の奴より自分を語れる要素が少なすぎるだけだ。
「それよりさっさと風紀委員に連絡してくれ」
「それには及びませんの」
「ん?」
後ろを振り返ると、盾をモチーフにした風紀委員の腕章をつけたツインテールの常盤台生がいた。
「
「あっ、
「おや、貴女たちだったんですの」
どうやら白井という風紀委員は二人の知り合いの様だ。
二人は自分たちが不良に絡まれてるところをオレたちに助けられたことを説明してくれた。
「…成程。それでナイフで襲いかかってきたので拘束していると」
「わかってくれたか」
「はい。傷害事件ですが、正当防衛なので注意だけで済ませますの」
それを聞いて安心したように上条たちは胸を撫で下ろす。
「ところで貴方は?」
風紀委員がオレに話しかけてきた。
「貴方、お名前は?」
「…清原綾斗だ」
一応は名前を名乗る。
「学生で貴方ほどの護身術を持つ者はそういません。その能力を街の治安維持に役立てませんか?」
つまりオレは風紀委員にスカウトされてるということか。
なら……
「悪いが興味ない」
「……そうですの」
「もう行くぞ。もうすぐ完全下校時刻だからな」
そう言って不良たちを風紀委員に引き渡し、オレたちはその場から去った。
「いやーええ気分やわー。あの子たち、最後までお礼言っとったなー」
「女の子が無事で本当によかったにゃー」
「なあ清原…風紀委員にスカウトされてたみたいだが断ってよかったのか?」
男子寮までの帰り道、上条がさっきのことについて聞いてきた。
「あそこは完全志願制だから何の問題もない。それに生活指導以外に大抵の仕事は交通整理やら地域の美化運動やら地味な仕事をやらされるみたいだぞ」
「確かにそんなんで夏休み潰されたらたまったもんじゃないぜよ」
「というかキヨポンが風紀委員の腕章つけてる姿あんま想像つかへんわー」
「清原一見人畜無害に見えるしな」
こいつら好き勝手言いやがって。
まあ、確かに風紀委員はオレの柄じゃない。
あそこを抜け出したといのに、この街でも雁字搦めになるのは御免だ。
この街は広い。
風紀委員に目を着けれられるようなことをしなければまた会う事もないだろう。
この時のオレはそう思っていた。
あの事件に興味を示すまでは……
オリ主設定
名前:清原綾斗(きよはら あやと)
愛称:キヨポン(by土御門、青髪)
性別:男性
年齢:15歳
誕生日:10月20日
友人:上条当麻、土御門元春、青髪ピアス
成績:中の中
能力:学園都市に入ったのは中等部3年くらいで、能力の開花は未だに確認されていないが……
「ようこそ実力至上主義の教室へ」の綾小路清隆をリスペクト。
抑揚のない喋り方で常に無表情。