警備員によりビッグスパイダーなる
オレはバスである祭りに向かっていた。
それは学園都市の名門女子中学、常盤台中学の寮祭、盛夏祭である。
常盤台中学は女子限定の学舎の園に存在するが、寮は学舎の園の中と外にあり、同じ風紀委員である白井とその知り合いである御坂がそこに住んでいる。普段は普段は一般には開放されていないが、年に一度外部に開放される文化祭のようなイベントで寮生が招いたゲストの訪れる日とのこと。
なんでこうなったのか、それは隣で座る教え子(仮)のお陰である。
「いやー、楽しみですね、清原さん」
「……そうだな」
昨夜佐天から、白井から寮祭へのチケットを二人分貰ったから一緒にどうかと誘われた。あっちの用事の方で余裕ができ、特に断る理由が見つからなかった。無理に断ればまた初春から小言を言われるだろう。
「……ちなみに、清原さん」
「何だ?」
「盛夏祭だと、常盤台生はみんなメイド服らしいですよ」
「……それは御坂や白井もか?」
「そうですよ?」
ダメだ想像出来ない。ただでさえ校則で私服も着れないというのに。
「メイド服ってそんなにいいものか?」
「嘘でしょ!?それでも男ですか!」
「どうした急に?」
「メイドって言ったら男の人にとってはロマンでしょ⁉︎ 可愛い女の子がフリフリの制服を着て『お帰りなさいませ、ご主人様♡』って笑顔で出迎えてくれるんですよ⁉︎」
「それはオタク文化のだろ……」
前に土御門にメイドの良さを教えるとか何とかで一度メイド喫茶に行ったことがあるが、青髪や土御門が騒がしいだけで正直なにも伝わらなかった。
「今更だが初春と一緒じゃなくて良かったのか?」
「……あー、初春はですね……うん」
何かあったのだろうか?もしかしたら、あまり気にしちゃいけない所なのかもしれない。
そう思った時だ。後ろの席から聴き慣れた甘ったるい声が聞こえてきた。
「呼びました?」
「わっ、う、初春⁉︎」
「へっへーん、私を甘く見ないで下さい。お嬢様への憧れは佐天さん以上ですよ?」
「それ『私はあなた以上の庶民です』って言われてるだけなんだけど……」
普通に初春が来ていた。
「佐天さんが清原さんを誘っちゃったから、苦労しましたよ。他に招待されてる人を探すの」
「なんて意地汚い真似を……大体、あれは仕事サボった初春の自業自得じゃん」
大体、理解した。
白井が仕事をサボって佐天と遊ぶ初春を見つけ、わざと佐天にだけチケットを渡したのだろう。もう一人連れて行けるので、佐天は自分を誘い、初春は他の招待されている人を探した、というわけだ。
「で、誰に誘ってもらったの?」
「私よ」
そう言うのは、初春の隣に座っていた眼鏡をかけた黒髪セミロングの女子だった。
「あっ、固法先輩!」
「佐天さんも来てたのね。一緒にいるのは…ひょっとして彼氏さん?」
「ち、違いますよ!清原さんとはそういう関係じゃなくて、その、先生と教え子みたいな関係です!」
「えっと……どういう意味かは分からないけど、私の勘違いみたいね」
眼鏡の少女からの質問に佐天が強く否定した。オレとカップルだと思われるのが嫌なようだ。
「私は白井さんと初春さんと同じ支部に所属する
「……清原綾斗だ。よろしく」
「ええ、よろしくね。ひょっとして佐天さんが話してた名探偵ってあなたのこと?」
取り敢えず互いに自己紹介しているととんでもない話を聞いた。
「…どんなことを言っていた?」
「なんでも虚空爆破事件と幻想御手事件の犯人を得意な名推理で突き止めたとか」
「おい佐天、なに適当なこと言いふらしてるんだ」
「ええ~?大体合ってるじゃないですか?それに清原さんが実は凄い人だってこと皆にも知ってもらおうかと思いまして」
「お前な………」
余計なことを。悪意がないだけに質が悪い。
「ふふ、二人共仲がいいわね。あっ、せっかくだし、よかったら二人共一緒に回らない?」
「あたしは別に構いませんよ」
「右に同じく」
「決まりね」
との事で、四人で回る事になった。
「こ、ここが常盤台の寮……!」
「すごい大きいですね」
「そうだな……」
バスからオレ達は常盤台中学女子寮の前に立っていた。
「これ、ホントに学生寮?すごすぎない?」
「さっすが常盤台です!入る前から違いを見せつけてくれます!」
「本当にすごいわね」
石造りのそれは近代的な街並みには少し合わないが、それを捩じ伏せる威厳を誇っていた。白亜の壁は現実味を奪っていくようで、むしろその方が自然だとすら思えてくる。
「ここで待つのも何だし、そろそろ入らない?」
「そうですね。初春ー?行くよー?」
「はーい」
固法が子供のように喜ぶ初春を呼び、共に荘厳な玄関から中に入る。
「あれ?清原じゃん」
「…どうも」
「あっ、この間の警備員の先生だ」
「その節はどうも」
チケットを見せて入ると、正面玄関には黄泉川先生と鉄装先生がいた。
「警備員のお仕事ですか?」
「そうじゃんよ。そういう清原はまさか寮祭に参加か?学校じゃいつも三バカと一緒にいるばかりで女子と縁のなさそうなお前が?」
「………まあ成り行きで」
「どんな成り行きじゃん。しかも三人の女子と一緒で」
「な、夏休みだからって、そういうので浮かれるのはよくないと思いますよ!」
「鉄装先生はなにを勘違いしてるんですか?」
黄泉川先生に真正面から言われると確かにそうだなと思う。もし青髪や土御門にこの状況を見られでもしたら何されるかわからない。できれば知り合いとのエンカウントは避けたいものだ。
「あ、あのう、ひょっとして清原さんって黄泉川先生のいる学校の生徒なんですか?」
「お?お前講習にいた…」
「講習?」
「いやぁ…実はこの前幻想御手云々で特別講習に受けに行きまして」
そういえば飲み屋に連行された時、黄泉川先生と小萌先生がうちの学校で幻想御手使用者を対象とした特別講習をやるとか言ってたな。当然佐天達もその講習に参加したのだろう。
「なんだ清原、お前自分がどこの学校に通ってるのか言ってなかったのか?」
「言う必要性を感じなかったもので」
主に御坂に対して。
「まったくお前は……」
「えっと、清原さんって学校でもいつもこんな感じなんですか?」
「隣のクラスの生徒だから全部は把握してないがこんな感じじゃん。こういうのに参加するならもっとクラスの連中と仲良くすればいいのに」
痛いとこつくな。人付き合いがまだわからないオレには難しい課題だ。
「あっ、そういえばなんか1年の女子たちの間でやっていたイケメンランキングで5位に入っていたな」
「おー、確かに清原さん顔立ちは良い方ですもんね」
「あっでも根暗そうランキングの上位にもランクインしてたって聞いたじゃん」
「お、おぉ……」
何だよその、なんとかランキングって。女子の闇は深いな……。
「オレの話は置いといて、そろそろ行っていいですか?」
「おう、楽しんでくるじゃん」
これ以上立ち話を続けるといらんことを言いそうなので、中に入ることにする。
「来年度以降の開催に向けて、なんで私のそんな姿が参考になるの黒子ぉ!!」
先に進むとメイド姿になっていた御坂がいつもの制服姿の白井をしばいていた。いったいどういう状況なんだ。佐天達はその光景が当たり前かのような反応を見せているし。
「いやー相変わらずやってますねー」
「御坂さーん。白井さーん」
固法が声をかけることで二人はオレ達の存在に気付いた。
「ん?あ、固法先輩。佐天さんに初春さんも………って、なんでアンタまでいんのよ」
「佐天に誘われたんだ。言っておくが電撃放ってくるなよ」
「し、しないわよ!ここでやったら寮監に殺されるじゃないの!」
えっ、ここの寮監はレベル5の御坂より強いのか?
「清原さんはともかく、どうやって初春は来れたんですの?よもや非合法な手段を…………」
「違います!固法先輩に頼んで同伴させてもらったんです」
「なんて意地汚い同僚なんですの」
「もう!白井さんまで佐天さんと同じことを!大体白井さんが私にチケットを渡さなかったから苦労したんですよ!」
「仕事をサボってパフェで一服していたうえに淑女を脳筋呼ばわりした天罰ですの」
そりゃあ誘われないわけだ。
「そういえば白井さんはメイド服着ていませんね」
佐天が話題を変えるために質問をする。
「今日の黒子は盛夏祭の記録係。来年度以降の開催に向けて、カメラで参考写真をとっておりましたの」
「人のスカートの下を撮っていてよくそんなこと言えたものね黒子ぉ」
「いひゃいいひゃい。お姉さま頬をつねないでくだひゃい」
祭りでも白井の御坂に対する変態度は相変わらずらしい。
「さ、さて…皆様、素晴らしい催しがございますのでどうぞ、どうぞ楽しんでくださいな。それではご案内いたしますのでこちらに……」
「ちょっと待てー」
白井が案内しようとするその時、横から聞き覚えのある声の人物に呼び止められた。
「白井ー。ビュッフェの手伝いはどーするつもりだー?」
「舞夏?」
横から声をかけてきたのは、土御門元春の義理の妹、
「おー、清原綾斗も来てたかー」
「清原さんの知り合いですか?」
「……こいつの兄貴とはクラスメイトだからその関係でな」
「ちなみに料理の仕方を教えてやった師匠でもあるのだー」
ちなみに「私が満足するのができたら合格だ」と合格基準がとても高くて、味見の度に何度も作り直しをさせられた。
「えーっと……とりあえず紹介するわね。繚乱家政女学校の土御門舞夏。今回の寮祭の料理も彼女の学校に指導してもらったのよ」
「繚乱って……あのメイドスペシャリストを育成するってトコですか!?」
「土御門舞夏であるー困ったことがあれば何なりと申すが良いー」
言いながら、舞夏は片足を軽く曲げ、スカートの端を摘み上げて挨拶した。ヨーロッパにおいて『献身』を表す伝統的な挨拶だが、さすがと言おうか、あの変態の義妹ながらとても様になっている。いつも街中でよく見る清掃ロボットに乗ってばかりのためギャップが凄い。
「しかし清原綾斗が女子を複数連れてここに来るとは……はっ!まさか清原綾斗にカミジョー属性が付加されたか!?」
「それはない」
カミジョー属性なんてものがついていたらラッキースケベを連発して捕まってしまうはずだ。
「あの…カミジョー属性ってなんですか?」
「佐天達は知らなくていい。それより舞夏は白井に用があるんじゃなかったか?」
「おーそうだった。さー白井、来るのだ」
「ちょっ、ちょっと……!」
互いに自己紹介を終えると、舞夏はのんびりした口調のまま白井の襟首を引っぱってどこかへ消えていった。
「じゃあ私が案内するわね。どこか行ってみたいトコとか――」
「はい!!はい、はいはいっ!!あります!!行きたいトコ!!あります!!」
白井がいなくなり、代理で案内係になった御坂の言葉を、初春が遮る……というか掻き消すように叫んだ。
バラバラバラバラーッ!!と、黄色いパンフレットが物凄い速さで開かれ、初春はチェックを入れた場所を指さして御坂に迫る。
「え、えーと……どこかしら?」
「ここと、ここと、あとここも!!それからここからここまで!!」
「それ全部じゃん……」
元気よく発言する初春に佐天が呆れる。
「みなさん。今だけはいつもの初春飾利じゃありません。リミッター解除です!」
何を言ってるんだ。初春の背後には、何故か煌々と燃え盛る炎が見えた、気がする。対照的に、佐天や固法は冷えた苦笑いを浮かべたままだ。
「あはは……まぁ順番に回って行きましょうか」
♢♦♢
砂糖でできた芸術作品、ステッチの体験教室、生け花の展示、美術の絵画作品、寮の中に何故か存在する巨大図書館などを見て回ったが、お嬢様学校なだけにどれもクオリティが高かった。初春が壊れてお嬢様口調になってしまった程。
途中で固法が別行動をとり、オレは現在他の三人と共に食堂に来ていた。
昼食はビュッフェ形式となっており、ファミレスはおろかそこらの飲食店では到底出ない高級料理店に並ぶような食材を存分に使った料理がずらりと並ぶ光景は圧巻の一言だ。
「むむむ………」
「どうした佐天?取らないのか?」
綺麗に盛り付けられたケーキの前で立ち往生している佐天に声をかける。
「いやー、こんな綺麗なケーキを切るのがなんか勿体なくて」
シュガークラフトをつまみ食いした人間の口から出た言葉とは思えない。
「じゃあ私が……」
「あーっ!あーっ!あーっ!」
横から初春が割って入って来てケーキをナイフで両断した。そしてかなり大きめのサイズのをトングで取って皿に乗せた。
「そんなに食べられるの?」
「甘い物は別腹って言うじゃないですか」
初春の言う『別腹』とは、1990年代に作られた俗語で「お腹がいっぱいでも好きなものは食べられる」、といった意味がある。実際にオレキシンというホルモンや味の変化により、これ以上は食べられない満腹状態でも甘いものなら食べられるのは医学的に証明されている。だが満腹状態なのにさらに食べてしまうのをやり過ぎた場合は生活習慣病につながる。
テーブル席の方を見ると既にダウンしているのがいた。
「う、うううう~……く、苦しい……」
大量の皿を横に置いた鉄装先生が胃腸のあたりを押さえながら苦しんでいた。どうやら食べ放題にテンションが上がって食べ過ぎたようだ。その様子に向かいに座っていた黄泉川先生が呆れている。
「そんなに沢山取るからじゃん」
「だ、だって……食べ放題なんですよ」
「ったく、生徒には見せられない姿じゃん」
すみません。もう手遅れです。その様子を見ていた初春も皿にのせていたケーキの量を減らし始めている。
「ほら立った立った。仕事に戻るじゃん」
「うぐっ!?乱暴にすると逆流します~!」
容赦ない黄泉川先生に引きずられて鉄装先生が食堂から姿を消した。
「頂きます」
食べ過ぎは体に毒だと教えてくれた鉄装先生に感謝を、そして無事(中のものを出さないこと)を祈りながら、まずはこのグラタンをスプーンで掬い取り口に運ぶ。
おぉ……!これは美味い。ファミレスとかで出るのとは一線を駕す味だ。他のも美味しい。これほど美味しいのがバイキング形式で食べ放題というのだから驚きだ。
「清原さん美味しそうに食べてますね」
黙々と食べているとさっきまで御坂となにか話していた佐天から声をかけられる。
「そりゃ誰だって美味しいと思うさ」
「そんなに美味しいですか?」
「一度食べたコンビニ弁当の502.6548倍は美味い」
「け、結構細かい数字ですね」
「あ、あはは……」
オレの真面目な解答に初春と佐天は若干引いた様子を見せた。
美味しそうに食べるオレを見て、彼女達も腹を空かせたのだろう、自分達が取った料理を口にする。
「ん~~~美味しい!」
「ああ、もう帰りたくありませんっ!」
二人も料理の美味しさにご満悦のようだ。
「そういえば御坂はどうした?」
「なんか午後のステージの準備があるとかで何処かへ行きましたよ」
「ステージってなにかやるのか?」
「さあ?サプライズみたいなので聞かないことにしました」
「そうか」
おかわりを取りにオレは再び料理の方へ向かう。
そこには涎を滴らし、目を輝かせながら料理の置かれたショーケースを見つめる銀髪の修道女が居た。
「美味しそうなんだよ……!」
「……何やってるんだ?インデックス」
「うん?あっ!あやとっ!」
修道女──禁書目録はオレの存在に気付くと快活な笑顔を浮かべ、ブンブンと手を振る。
「あやとも来てたんだ!ここは凄いね!美味しそうな料理がたくさん!」
「お前も来てるってことは……ウニの奴も?」
「うん!けど、とうまったら私が良い匂いにつられている間にはぐれて迷子になっちゃったのかも」
「迷子はお前だろ」
まさかの人物に驚く。上条が同行しているということはあいつもこの盛夏祭とやらのチケットを入手していたようだ。おそらく舞夏あたりから貰ったのだろう。
となると、問題がある。上条は不幸体質とラッキースケベを掛け合わせた起爆剤だ。爆発物である御坂と鉢合わせしてしまえば面倒なことになるのは明白だった。
こっちに飛び火する前にあの馬鹿を見つけてお帰り願おう。その前に…………
「それ、食べたいか?」
「勿論なんだよ!」
「じゃあ一緒に食べるか。食べ放題だから好きなのを好きなだけ食べればいい」
「ほんとっ!?分かったんだよ!!」
こうしてバイキングに銀髪シスターが参戦する。トングを使って皿に料理を大量に盛り付けると、オレと一緒に佐天達のいる席に向かう。
「あれ?清原さんそのシスターは?」
「常盤台って十字教系の学校でしたっけ?」
「あー……オレのクラスメイトの女友達だ。名前は──」
「禁書目録なんだよ!」
「イ、インデックス?」
「目次?」
「今流行のキラキラネームみたいなものだ。イギリスからこっちに遊びに来たらしい」
イギリスの魔術結社の切り札という点は隠して適当な作り話で誤魔化すことにする。
「それじゃ、よろしくねインデックスちゃん。私は佐天涙子」
「初春飾利です」
「うん!よろしくなんだよ!るいこ!かざり!一緒にご飯食べていい?」
「勿論いいよ」
「はい」
「わーい!」
いただきますとインデックスは満面の笑顔でがっつき始めた。
のだが……。
「「「えぇ……」」」
佐天と初春も困惑の声をあげる。目の前には回転寿司かと見間違う程の白い皿の山が築かれていた。
その奥では禁書目録が料理を片っ端から食べ……貪っている。
「美味しい!美味し過ぎるんだよ……!」
「…なあ、暴食は修道女にとって大罪じゃないのか?」
「私は見習いだからいいんだよ!」
「えぇ…………」
明らかにその体格ではとっくに胃袋どころか腹が丸ごと破裂しているであろう量を余すことなくかき込み続けていく。食欲が留まる様子もなく、健啖家とかそういうレベルではない暴食っぷりにオレ達は軽く引いていた。食糧全部食い尽くす勢いに、この光景を見ているメイドたちも青ざめている。
さすがのオレもこの圧巻の光景には驚くしかない。同時に、この暴食っぷりに上条の食糧事情を何となく察し、同情した。今度何か差し入れを持って行こう。
「あ! やっと見つけたぞインデックス!」
ようやく保護者が来たか。
「あ、とうま!」
「お前なぁ……勝手にいなくなるんじゃねーよ。探し回っただろ?」
「ふんっ、とうまがいつまでも家電のセールに食いついていたのが悪いのかも。あやとが居なきゃ飢え死にしていたんだよ」
「悪かったて……って清原?何でここに?」
「お前と似たようなもんだ」
ぷんすかと怒る禁書目録に呆れつつも謝っていた上条は同じテーブルにオレが居ることに気付くと驚きの声をあげる。
「悪いな。なんかインデックスが迷惑を掛けたみたいで……」
「いや、オレにはなんの迷惑もかかってない」
オレには、だ。
「あの、清原さん。もしかしてこの人が清原さんの……」
「ああ、友達だ」
「あっ、セブンスミストで御坂さんと一緒にいた人ですね」
「えっと、君達は……」
「あっ、初めまして。あたし、清原さんの教え子の佐天涙子と申します!」
「佐天さんの友人の初春飾利です」
「これはご丁寧に。俺は上条当麻。この暴食シスターの保護者をやってて清原とは同級生だ」
互いに自己紹介する。そういえばこのメンツが顔を合わせるのは初めてだな。
「…それより上条」
「ん?」
「ここには御坂がいる。鉢合わせする前にさっさと退散した方が良いぞ」
「えっ!?ま、マジで……!?」
小声での忠告を受け、上条は目に見えて焦り出す。常盤台生なんだから寮にいるのは当然だろ。
「分かった。ほら、行くぞインデックス」
「あ、ま、待って欲しいかも!まだ腹八分目なんだよ!」
「その辺でやめとけよ!?」
そう騒ぎながら上条が引きずっていく形で二人は立ち去っていく。白い悪魔がいなくなったことでメイドたちは安堵の表情を浮かべていた。
「あ、あはは……なんか清原さんの知り合いに会いますね」
「清原さんも変わってますが、あの修道女さんも変わってました」
「言っておくが初春、上条も変人だし、アイツらの中でもオレの方が一番まともだぞ」
「いやいや、清原さんがマトモだなんて冗談でしょ」
どういう意味だ初春。
嵐が過ぎ去った後、腹を満たして食堂を後にしたオレ達は、表の方でやっているオークション会場の近くにで落札したと思しき高級そうなバッグをいくつも手に持った固法を見つけた。
「固法先輩も意外とミーハーなんですね?」
「あ、あなた達……!ふ、普段はこういうものには興味ないのよ?こ、これはそう!チャリティーなの!この収益は全額
「……先輩、すごく言い訳くさいです」
「大体小学生くらいの置き去りに大人向けのバッグを寄付って違和感ありすぎだろ」
「うっ……」
オレと佐天からの指摘に固法は物凄く視線を泳がせた。
「そ、そうだ!あなた達も参加してみれば?」
「参加ってオークションにか?」
「えー?無理ですよ。あたし達はお小遣い少ないんですから」
「大丈夫よ。最初の額は安く設定されてるから。ほら」
固法に促されてオークション会場の方に耳を傾けてみる。
「さて、次の出品は『きぐるまー』の文具セット!まずは100円から!」
「200円!」
「300円!」
オークションに参加している寮生達が小学生が好きそうな文具セットの価格を上げて言っていた。
「ね?」
「そうですね。じゃあ…」
初春もオークションに参加しようとしたその時
「1万円!」
物凄く聞き覚えのある声で会場が一気に静まり返った。
「あら?あなた達いましたの?」
落札した文具セットを手に、オレたちに気づいて近づいて来たのは、メイド服を着た白井だった。
「なんでいるのよ白井さん……」
「土御門さんが捜してましたよ」
「厨房抜け出して何してるのかと思えば、ただの文具セットに1万円って…………」
佐天達は仕事をサボってオークションに参加していた白井に呆れるも、当の本人は全く動じていない。
「いいえ、ただの文具セットではありませんの。何故ならばこれはお姉さまがご出品なさったものなのですから」
御坂のだったんかい。
「この下敷きもノートも言うなればお姉さまの分身…………ああん!黒子の果報者~!」
文具セットに頬をスリスリしながら体全体をクネらせている白井。青髪や土御門に引けを取らないぐらいひくな。
「みなさん、ご機嫌よう」
取り敢えず白井を見つけたことを舞夏に密告しようか考えていると、後ろから誰かがオレたちに声をかけてきた。
「げっ、こ、婚后光子!」
「げっとはなんですの白井さん……あら、あなたは!」
「?…あっ」
振り返ると、黒い髪の女子が立っていた。しかもなんか巫女服とメイド服が混じったいかにも土御門が好きそうな服を着て。というか、この前ビッグスパイダーとかいう不良に絡まれていた時に助けにきて即ダウンした女子だった。名前は確か婚后だったか。その後ろには常盤台の制服を着た女子が2人いる。その女子2人は栗毛の髪をした女子と黒髪の女子だがどっかで見たような気がするな。
「こ、この間は助けていただきありがとうござます」
「あー……あれから体調はどうだ?」
「はい!頭痛はあの時だけでもう大丈夫ですわ!」
「あら?顔見知りでしたの??」
「ええ。この間能力が使えなかったところをこちらの殿方に助けていただきましたのよ」
「ひょっとして…………ビッグスパイダーに襲われていた時の事ですの?」
「連中のは自業自得だ。それに最初にオレ達が絡まれてるところをこの子が助けようとしてくれたんだ」
婚后の登場に嫌そうな態度を隠さない白井がじろっとオレの方を見てきたため、連中をボコボコにしたことに関して弁明をしておく。
「……まあ過ぎたことなので取り敢えず事情聴取は後にしますの」
風紀委員にそんな権限はなかったと思うが?
「申し遅れましたわたくしは、婚后光子と言います」
知ってる。
「そしてこちらの2人がわたくしのお友達の
婚后が後ろの二人を紹介し、二人は少し赤面しながらお辞儀をした。
向こうが名乗ったのだからオレも名乗ることにする。
「オレは――」
「あの……失礼ですが、清原綾斗様でして?」
「そうだが……」
なんで名前を知ってるんだ。それに様呼びされたの初めてだぞ。
「わぁっ!やっぱり!」
二人の少女は揃って顔を輝かせた。
「前に会ったか?」
「覚えてらっしゃいませんか?七月に粗暴な殿方達に取り囲まれておりましたところを清原様達に助けていただいて…………」
「ああ。あの時の……」
期末テストでの賭けで上条に飯を奢ってもらった後、彼女らが不良に絡まれているところをオレ達が助けたんだった。1ヶ月前のことをよく覚えていたな。
「その節は本当にお世話になりました」
「お会いできて光栄ですわ」
「は、はぁ……」
この2人の気品や落ち着き、纏う雰囲気など、白井や御坂よりもお嬢様らしい。
「へーまさか三人共清原さんに助けられてたんだ」
「凄い偶然ですね」
「はい!それに白井さんはちゃんと約束を果たしてくれたんですね!」
「はい?」
「や、約束?」
湾内の発言に白井も首をかしげていた。
「はい、次に見かけることがあった時に会えるよう取り計らってくれると約束しましたの」
白井とそんな約束してたのか。何回か会うことはあったがそんな話は聞いていないが。白井の方に視線を向けて確認すると。
「えっ…………あ、ああ!も、勿論大切な友人の約束を忘れる筈があ、ありませんわ!」
忘れてたな。佐天達も気づいたようで苦笑いしている。まあ幻想御手なんかの事件で大忙しだったようだから仕方ない。なんとか話を合わせろと言いたげに白井が目配せをしてくる。
「……まあ、こっちも宿題とかで色々と忙しかったからな。早くても今日くらいしか会う時間を作れなかった」
取り敢えず話を合わせることにした。
「そ、その話は置いておいて婚后光子、その格好はなんですの?」
誤魔化すために白井は話題を婚后の方へと逸らした。
「あら、見てわかりませんの?本日この日のためだけに作らせた、純イギリスの純和風メイド服ですのよ!」
どっちなんだ。どう見てもただのコスプレ衣装にしか見えないが。
「ちょっと白井さん。『お帰りなさいませ、お嬢様』と言ってみてくださる?」
「な!?なぜわたくしがそんなことを!?」
「はっ、できませんの?まったく、そんな恰好をしておきながら埒もない」
「ごめんあそばせ?わたくしそういった作法には疎くて。よろしければお手本を見せていただけないかしら?」
ひょっとして白井と婚后は仲が悪いのか?
「いいですわ。このメイドオブメイド、婚后光子が伝授してさしあげます。よーくご覧あそばせ!」
すると、婚后がその場でくるくると回転しだし、「お帰りなさいませ、お嬢様♪」とやはりコスプレ喫茶にいるメイドと同じような感じのノリで言った。
「んん、喉が渇いたので飲み物を人数分お願いしますの」
「かしこまりました、お嬢様っ」
メイドになっている婚后は飲み物を取りにその場から離れた。
「扱いやすい女で助かりましたの。あなた達も災難ですわね。あんなのに見込まれてしまって」
婚后を追い払った白井は湾内と泡浮に話を振る。
「悪い人ではないんです。実は今日も……」
「盛夏祭に行こうとお誘いくださったのは婚后さんですの。とても楽しみにしていらして、ぜひにと」
「え?皆さんこの寮に住んでいるんじゃないの?」
「佐天、ここにいる人数だと常盤台の在校生が他の学校より少ないことになるぞ」
「あそっか」
「男子寮女子寮と別れてるみたいに常盤台の寮も最低二つはあると考えるのが妥当だろう」
「ええ。清原様の仰る通り、常盤台中学には女子寮が二つありますのよ」
「こことは別に『学び舎の園』の中にも。わたくしと湾内さん、婚后さんはそちらの方に」
「あ、あのステキタウンの中に!?石を投げればお嬢様に当たる楽園の中に!?」
お嬢様に対して憧れを持つ初春がよく分からないことを言って興奮しだした。
「それにしても凄いわね清原君」
唐突に固法に称賛された。
「凄いってなにがだ?」
「ここの女子寮にいる生徒の人数をある程度把握してないと今の推測には辿り着かないわよ」
「…推測というよりも憶測だ。誰かさんの勧めでここの施設を全部見て回ることになったからな、規模と見かけた生徒の大体の人数から誰でも分かると思うが」
「いやいやいや、普通そこまで注意がいきませんよ…………」
「いったいどういう思考をしてますの」
「まあっ、清原様はとても高い洞察力をお持ちなのですね」
「まるで推理小説に出てくる名探偵のようですわ」
初春と白井の辛辣な反応とは裏腹に、湾内と泡浮は目を輝かせながら感嘆の混じった声でオレを称賛する。
「ほらほら、名探偵ですって名探偵?虚空爆破事件と幻想御手事件の謎を解いた清原さんが名探偵のようですって?」
「何度も名探偵連呼するな佐天」
「まあっ!あの事件を解決したのは清原様なのですね!」
「誤解だ。あの二つは御坂が解決した」
「そ、そうですわよ!全てはわたくしとお姉さまのコンビプレイがあってのもの」
「でも白井さん、あの時事件が終わった後に現場に来ましたよね?」
「初春シャラープ!ですの!」
「あっ、そういえば御坂様はどちらへ?」
白井の援護で御坂の話題へと変えることができた。
「あっ、午後になにかやるみたいで何処かへ行きましたよ」
「あら………今日のステージ楽しみにしています、とお伝えしたかったのに」
「御坂さん、ステージでなにかやるの?」
「サプライズですよ!サプライズ!」
「はっ!?そうですわ。こんなことをしてる場合ではありませんの!良い席を確保して、お姉さまのステージをカメラに収めねば!」
白井は御坂がなにをやるか知っているようだ。御坂主催の催しに関して面々が盛り上がってる中、オレのスマホから着信音が鳴った。
「悪い電話だ」
皆に断りを入れ、少し離れてから電話に出る。
「はい。もしもし」
『あっ悪い清――――』
プッ
声を聴いてつい反射的に電話を切ってしまった。そしてすぐに再び着信音が鳴ったため出る。
『いきなり電話切るなよ!』
「悪い上条。それで、電話してきてどうした?」
『それが出ようとしたところでインデックスとはぐれちまって……』
「…………はぁ」
『ちょっ!?その重いため息はなんだよ!?』
「いや、人は失敗から学んで成長する生き物って言葉があるが、お前はそれには該当しないなと思ってな」
『最近清原さんから棘のある言葉が飛んでくるのですが!?』
まあ、それはさておき…………。
「あのインデックスのことだから食べ物に釣られて食堂あたりにいるんじゃないか?」
『た、確かにあのドカ食いシスターならありえそうだ…………』
「わかったらもう切るぞ」
『あ、ああ悪いな清――――』
『ちょっ、なんでアンタがここにいるのよ!?』
え?電話の向こうから御坂の声が聞こえてきた。
『げっビリビリ!ってなんだその格好?』
『ビリビリ言うな!なんなのよアンタ!人の発表を茶化しに来たわけ?慣れない衣装を笑いに来たわけ?』
『いや、そんな、結構綺麗と思いますが!』
『なっ――!?』
声から緊張が混じってる御坂とテンパって普通言うのが憚れる褒め言葉を言う上条。
『バカ――!?』
『どわ~~~っ!?褒めたのに理不尽だぁあ―!』
上条の冥福を祈りながらオレは電話を切り、皆のところに戻った。
その後お茶を手に取って戻ってきた婚后と合流し、ステージに向かう。
催し物は御坂のバイオリンの独奏で、普段からは想像できないような腕でステージだけでなく、女子寮にいる全ての人を惹きつけるような綺麗な音色を奏でていたのだった。
上条?あいつはいい奴だったよ。
アニメ超電磁砲のこの話が好きなので書きました。
上条よ。君のことは忘れないよ。
「いや死んでねえよ!?」