噂も案外馬鹿にならない
8月上旬。
夏休み期間であるものの、とある高校の1年7組は今日も補習がある。
「おはよう」
「よう、かみやんが遅刻してないとは今日は雪でも降るのかにゃー?」
「挨拶の返しにそれはないだろ…」
補習の開始前に教室に入ってきた上条当麻に土御門元春が失礼なことを言う。
「清原から殆ど毎日進歩がないだの小言言われてるからな………頑張って早起きしたんだよ」
「殆ど毎日って…………」
上条にも非があるため流石の土御門もどう返せばいいか分からず困惑した。
「ま、まあその調子で夏休みの宿題にも取り組んでいけば御の字ぜよ。かみやんの場合始業式の前日にやってないのに気付いて大慌てするだろうにゃー」
「ははは、流石の上条さんも宿題を忘れるようなことはしないって」
地味にフラグっぽい事を言いながらも比較的穏やかに談笑していると、他の生徒も教室に入ってきて教室は段々と騒がしくなっていく。
すると
「んなあっ!?」
窓から外を見ていた青髪ピアスがいきなり机を巻き込みながら倒れこんだ。
なんだ?と思う前に青髪ピアスから告げられた言葉に場は騒然となる。
「き、キヨポンが………
キヨポンが女の子と歩いとる!」
「「「な、何ィィィィィィィィィ!?」」」
「どこだ!」
「あ、あそこに……」
息も絶え絶えに青髪ピアスが指さす方向に他の男子生徒が一斉に目を向けると、確かにキヨポンこと清原綾斗が柵川中学校の制服を着たショートヘアの女子と歩いているのが見て取れる。
「まじだ!」
「ば、馬鹿なっ!」
「あのパッとしない清原が!?」
「なんなんだあれ!」
「あいつ本当に人間か!?」
ちなみにこのクラスに彼女持ちはいない。一人、また一人と崩れ落ちていく男子生徒達。
「まったくうちの男子どもは……あいつが女子と一緒に歩いてるだけで動揺しすぎでしょ」
「吹寄さん、開いてる教科書逆さまだよ」
「あっ」
女子生徒の中にも一部動揺しているのがいた。
「落ち着けお前ら」
「つっちー?」
そんな彼らに土御門が上条との会話を切り上げ声をかける。だが今の土御門からいつもの様な飄々とした感じが鳴りを潜め、シリアスな雰囲気を醸し出していたためにクラス全員戦慄した。
「お前らよく見ろ。一見楽しげながら不意に視線を逸らす。会話が途切れている証拠だ。更に互いの歩幅も合っていない。お互いまだ知り合って間もない証拠だ」
「おぉ、確かに」
「凄まじい洞察力だな」
「なんかいつものつっちーとは別人みたいや」
男子生徒達からおおっと感嘆の声が上がる。
「以上のことからまだ二人は知り合って日が浅く、付き合ってはいないと推測される。だが、キヨポンはパッとしないのによく見たら顔はイケメンといっていいほど整っている。一部の女子からは受けがいいに違いない。奴のリア充の仲間入りも時間の問題だろう」
「そんなっ!」
「一体どうすれば!」
「鎮まれっ!」
土御門は騒ぎ出した連中を一括でなだめる。
「奴が被害者を生み出さないために、まずオレたちがなすべきことは分かるな?」
土御門からの問いに浮足立った有象無象は一気に沈静化し、闘志を燃やしていた。彼らの答えは決まっていた。
「それじゃあ行くぜよ」
ただ一言言うだけだったが、教室から去っていく土御門の背中をついていく男子たち。
(いつの間にかうちのクラスの男達がアホになってる…………)
傍から見ていたアホの上条は白けた視線と共にそんな事を考えていた。
「あれ?吹寄さんも行くの?」
「あ、あたしはあいつらが馬鹿をやらないか見張りに行くだけよ!」
「は~い。皆さ~ん補習を始めますよ、って!?男子の皆さんは全員欠席なのですか!?」
「あのー小萌先生……上条さんはちゃんとここにいますが」
とある高校の校門の近くまで来ていた清原と女子中学生の前に、土御門が道を阻むように現れた。
「ようキヨポン」
「土御門か。お前補習はどうした?」
「なあキヨポン最近、寒くないか?」
「は?何言ってるんだ?むしろ暑いくらいだぞ」
今は八月、寒いということはなく猛暑の季節だ。土御門の発言の意図がつかめない清原であった。
「いいや、寒いはずだ。何故だか分かるか?今からお前の春を殺すからだ……!」
「いやお前何言いだしてんだ?」
お前の頭の方が春だろ、と清原が突っ込もうとするよりも先に、土御門の行動の方が早かった。
「お前ら、作戦開始だ!」
「おう!」
「任せろ!」
「イー!」
土御門の声と共に何処に潜んでいたのか、1年7組の男子生徒達がどこからともなく現れて清原を取り囲んでいた。
「さぁもう逃げられねえぞキヨポン」
「これはいったいどういうつもりなんだ?」
「ふっ、なに安心しろ。ちょっとお話をするだけさ」
「この殺気立ってる連中を見て安心できる要素が見当たらないが」
頭が春の土御門に清原は疲労感が溜るのを感じながらも待ったをかける。
「話があるなら少し待ってくれ」
「なんだ?隣のカワイ子ちゃんに遺言でも――――」
「この道をまっすぐ行けば駅に着くから」
「「「「え……?」」」」
「なんかクラスメイトが話があるみたいだから、悪い」
「いえ。途中まで案内してくれてありがとうございますなの」
二人の会話を聞いて殺気立っていた男子高校生達は固まった。
「それじゃあなの」
「……」
「……」
「……」
「……」
女子中学生がその場を去ってからも校門前は沈黙に包まれる。
「なあキヨポン、ひょっとしてさっきの子道を訊いていただけやったん?」
たっぷり三十秒かけ沈黙から解かれた青髪が清原に声をかける。
「?そうだが?」
「……つっちー?これはいったいどういう事や?」
「ふっ」
土御門は男子高校生の視線が自分に集中するのを感じながらそれでもニヒルに彼は笑って見せ
「いや、カップルの事とかオレに聞かれてもわかんないぜよ」
こんな事をのたまった。
(((何言ってんの?コイツ……)))
男子生徒のみならず清原ですら全く同じことを思ったという。
因みに、勝手に補習を抜け出したことで担任に男子生徒達はこってり絞られ(青髪ピアスはご褒美として喜び)、男子全員補習が夕方まで長引いたのだった。
♢♦♢
盛夏祭が終わってしばらくたった夏の暑さと太陽の光が鬱陶しい昼下がりのこと。
オレはその日の用事を終え、賑やかな色使いのクレープ屋から少し離れたベンチに座っていた。
携帯にイヤホンを繋ぎ、流れてくる音声を聴いて状況を確認する。
「予定通りだ……」
これでやるべきことはほぼ完了した。
必要ならこれから2、3仕掛ける必要があると思っていたが、それは不要らしい。
上々の首尾に納得したオレは携帯をポケットにしまって寮に戻ることを決める。
「あれ?清原さんじゃないですか」
ベンチから立ち上がった時、見覚えのある女子中学生三人に遭遇した。
暑苦しいサマーニットがトレードマークの制服を着込む常盤台の超電磁砲、御坂美琴。
一人は涼しそうな夏服を身にまとった黒髪の少女、佐天涙子。
そしてもう一人は…………
「あっ、キヨポンさんなの」
「「キヨポンさん?」」
今朝駅までの道を案内した女子中学生だった。
「春上さんコイツと知り合い?」
「うん。今朝道に迷ってたところを助けてくれたの」
「へー凄い偶然」
まさか数日も経たずに会ったばかりの人間に再会するとはな。本当にこの街は広いようで狭いな。
「あっ、紹介しますね。この子は2学期からのうちの学校の転入生で初春の新しいルームメイトの
「キヨポンさん、先生で名探偵なの?」
「おい佐天適当なことを言うな」
「ところでなんで春上さんは清原さんのことをキヨポンさんって呼んでるの?」
「聞けよ人の話」
オレを置いて佐天と春上で会話を進めていく。
「アロハシャツを着たサングラスの人がキヨポンって呼んでたの」
「な、なんか聞いただけでいかにも不審者っぽい。その人清原さんの友達なんですか?」
「……不本意ながらな」
「あとその人キヨポンさんに『今からお前の春を殺す』とか言ってたの」
「えぇ……完全にやばい人じゃん」
そのヤバい奴が盛夏祭で知り合った舞夏の義理の兄貴だというのは黙っておこう。まあそんなことよりも…………
「いつまで睨んでるんだ御坂?」
「そう?私はそんなつもりないけど」
御坂が恨みがましい目でオレの方を睨んでいた。
「あ、あはは…御坂さんまだあのこと根に持ってるんですか」
「御坂さん、キヨポンさんと喧嘩してるの?」
「あー違う違う。この前盛夏祭で御坂さんのバイオリン独奏が終わった後、清原さんが音楽室でピアノを弾くことになってそれがすごい上手だったんだ。それで御坂さんのプライドが傷ついちゃったみたいで」
「別にぃ、気にしてないわよ」
「噓つけ」
そう。あの催しが終わった後、湾内と泡浮の『そういえば清原様はピアノを習っていたと言っていましたわね』という発言を機に、佐天達が聞いてみたいとせがんできてやむなくあの女子寮に何故かある音楽室のピアノを借りて演奏することになった。
しばらくやっていなかったため軽く『エリーゼのために』を弾いたつもりだったのだが、皆の反応が思いのほか好評だった。確認したら一般家庭なら普通『きらきら星』とかいうのを習うらしい。あそこは世間とは隔絶されている場所だから認識の差異があるのは仕方ない。
だからオレは悪くない。
「キヨポンさんピアノ弾けるんだ。聞いてみたいの」
「あー………機会があったらな」
そんな機会はない方がいいのかもしれない。
すぐに離れようとすると佐天がオレの前に立ちふさがり、元気ハツラツといったように笑顔で声をあげた。
「清原さんも一緒に遊びましょうよ!」
「いや、これから帰るんだが…………」
「なにか予定でもあるんですか?」
「ないが」
「じゃあいいですよね!」
結局その場にとどまることとなった。
「そういえば初春と白井が見当たらないな」
クレープ屋で買ったクレープを食べる三人に、いつも一緒にいるはずの二人について聞いてみる。
「黒子達なら合同会議に出席してるわよ」
「合同?」
「風紀委員と警備員とのよ。なんでも最近の地震について話すって」
「なんで自然災害で合同会議なんか?事件ならいざ知らず」
「へへ~。実はそれに関してホットな噂が」
佐天が説明する。ここ最近原因不明の地震が連続的かつ頻繁に発生しており、震度やマグニチュードはまちまちだが、中には建物の一部が倒壊したり怪我人が出た事例もあるらしい。
「それで、私が最近観ている都市伝説サイトによるとですね…なんでも現在学園都市各地で頻発する地震は実は“
「ポルター、ガイスト?」
「イエス!ポルターガイスト!」
テンション高めで佐天は語り始める。曰く、今起きてるのはただの地震などではなく、霊的な干渉による怪現象だとか、別次元からの波動だとか、はたまた統括理事会が地下施設で行っている秘密実験だとか、そんな眉唾物の陰謀論をさも有力な説のように主張する佐天に御坂は溜息を吐いていた。
「そういえば、春上さんがいた一九学区ってポルターガイストが多発してたんでしょ?どうだったの?」
「うーん?」
「こら、そんな事面白おかしく騒いじゃ駄目でしょ。本当にきたら大変じゃん」
「あ、あはは…すみません。てへっ♪」
「……佐天はこういう話が好きなんだな」
「ええまあ。都市伝説マスターと呼んでくれても良いですよ?フフン」
誇らしげに胸を張る佐天。思えば、彼女が幻想御手を入手したのもそういう噂からだったか。
「都市伝説も馬鹿には出来ませんよ。幻想御手が実在してましたし、他にもどんな能力も効かない能力を持つ男とか喋るゴールデンレトリバーとか学園都市の外に秘かに存在すると云われるもう一つの超能力開発機関『ホワイトルーム』とか色々──」
「え?」
「ん? どうかしました?」
「……いや、何でもない」
噂も馬鹿には出来ないな。
♢♦♢
同時刻、アンチスキル第七学区本部の第一会議室にて、警備員と風紀委員のここ最近の地震発生に関する合同会議が開かれていた。
『このところ頻発している地震について、判明したことがある』
珍しくスーツを着こなした黄泉川が壇上に立って、マイクを手に説明していた。
『結論からいえば、これは地震ではない。正確にはポルターガイスト現象だ。このポルターガイスト現象を超常現象などと騒ぎ立てる学生が出てこないとも限らないからあらかじめ釘を刺しておく。これは超常現象ではない。ポルターガイストの原因は、『RSPK症候群』の同時多発じゃん』
「……RSPK症候群?」
「なんだそれ?」
聞きなれない単語に席についていた風紀委員の何人かが首をかしげている。
『ここから先は、先進状況救助隊のテレスティーナさんから説明してもらおうじゃん』
黄泉川がそう言うと、一人の女性が舞台に姿を現した。長い茶髪を背中にふわりと流した彼女は、見た目からしてやり手のキャリアウーマンという印象を受ける。
『えー、ただいまご紹介いただきました、先進状況救助隊のテレスティーナです。RSPK症候群とは能力者が一時的に自律を失い、自らの能力を無自覚に暴走させる状態を指します。個々の現象は様々ですが、これが同時に起きた場合、暴走した能力は互いに融合し合い、一律にポルターガイスト現象として発現するというわけです。さらにこのポルターガイスト現象がその規模を拡大した場合、体感的には地震と見分けがつかない状況を呈します。これが今回の地震の正体ということになります。RSPK症候群の同時多発の原因については目下調査中ですが、学生の中にはこの現象を愚にもつかないオカルトと結びつけようとする者も出てくるでしょう。それによって集団ヒステリーなどが起き、被害が拡大することも考えられます。今回風紀委員の皆さんにも集まってもらったのは、一般生徒がこのような噂に踊らされないよう、注意を促してもらいたいからです」
その言葉と共に会議は終わり、風紀委員はネット上の噂への火消しと、パニックを未然に防ぐ注意喚起を割り当てられた。警備員についてはこのRSPK症候群の同時多発が人為的に誘発されたものだった場合に備え、原因の割り出しと容疑者の確保を命じられ、更なる会議を行うことになった。
「思いのほか早く終わりましたね」
「警備員はこの後もミーティングなんですって」
会議場から出てきた風紀委員の中に当然初春と白井、固法もいた。白井と初春が長時間席に着いたことで固まった身体をほぐしているなか、固法は難しい顔をしていた。
「固法先輩、どうかなさいまして?」
「…RSPK症候群の同時多発なんて聞いたことないわ。それに今回の対応…………なんかひっかかるのよね」
「それをこれから専門家の方々が調べてくださるのでしょう?今、わたくし達が考えても始まりませんわよ」
「そりゃそうかもしれないけど…」
小さな違和感を感じつつも、固法はそれがなんなのかはっきりしなかった。
「あ、佐天さん?今どこですか!」
♢♦♢
「さー春上さん!次は何をやりましょうか!あれなんてどうですか?」
「初春ってば張り切っちゃって」
途中から合流した初春と白井も加えて、6人でガヤガヤとうるさく音が飛び交うゲームセンターへ訪れていた。
「モグラさんピコピコ出てきて可愛いの……」
「そ、そっか。でもさ春上さん、見てるだけじゃなくて叩いてみたら?」
「叩く?可哀そう」
「えぇ……」
女子中学生達は楽しそうだ。御坂なんか超電磁砲用に使っていたのと同じコインが大量に入った小さなバケツを持っている。一応お嬢様なのにコインゲームやりこんでるな。
オレは一人ゲームセンターに備え付けられた休憩室で休んでいた。
キンキンと様々なところから聞こえる電子音にはどうも慣れない。前に上条たちとここに来て遊んだが場に酔ってすぐにリタイアした。
今回は酔う前に避難している。休憩室に設置されている自販機の前に立ち、ブラックコーヒーを購入する。ピッとボタンを押すと音を立てて缶が落ちてくる。
「あれ、清原さんここにいたんですか?」
ガコンと落ちてきた缶コーヒーを取り出していると佐天達がわらわらと休憩室に入ってくる。
「お前たちも休憩か?」
「皆でプリクラ撮ってきたところです」
笑顔でプリクラという加工写真を見せてくる少女たちは先ほどよりも距離が近くがなっているようだ。プリクラでも白井が御坂に抱きついて仲睦まじい。御坂の方は必死に引きはがそうとしてるが。
「よく撮れてるな」
「あ、せっかくだから清原さんも撮ります?」
「遠慮する」
「ちえー」
佐天には悪いが、撮ったとしてそれが土御門と青髪ピアスに見られた場合どうなるか目に見えている。
「春上さん?危ないっ!」
本当に撮らないのかと佐天にしつこく聞かれていたが、何かがぶつかった音で中断された。音の出所に視線を向けると、そこには春上がおでこを抑えてうずくまっていた。その目の前には透明なガラスしかなく、どうやらガラスが見えてなくてぶつかったようだ。
「大丈夫ですか?」
「あれ……」
初春が春上に近寄り心配していると、春上が何かを指差した。指の先には今日の夜に川辺で行われる花火大会のポスター。
「あー、今日だったっけ」
「ねぇ!みんなで行こっか!」
「賛成です!浴衣とかも着ていきます?」
「いいわねそれ。あっ、でも門限を過ぎてる時間帯じゃん」
「寮監にバレないようにこっそり抜け出せばいいのですわ」
「風紀委員とは思えない台詞ですね白井さん」
そのポスターを見ると女子中学生達は楽しそうにきゃっきゃと話を進めていく。
そういえばこっちに来たのは去年の冬頃だったから、花火大会というのにはまだ行ったことがないな。
せっかくだから行ってみるのも悪くない。
というわけで乱雑解放編です。
土御門の下の名前が男子高校生の日常のキャラと同じだったので男子高校生のネタを入れてみました。
後の妹達編にどう絡ませるか悩んでいる最中です。