とある科学のホワイトルーム生   作:嫉妬憤怒強欲

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とあるシリーズの時系列を調べ直したらこうなりました。



夏休み初日が良い日とは限らない

「ごめんくださーい!清原さーん!」

 

 扉の外から激しいノックの音と共に聞き覚えのある声が聞こえてくる。その音でオレは目を覚ました。

 連続虚空爆破事件が終わってから2日後。今日から夏休みが始まる。

 

「清原さーん!清原綾斗さーん!頼むから起きてくださーい!」

 

 学校に登校する必要が無くなったことを記念し、ゆっくり寝ようと思っていたのに、目覚めが同級生男子のモーニングコールとは最悪の目覚めだ。

 まだハッキリとしない意識のままで重たい体を引き摺りながら玄関まで向かう。玄関の扉を開くと、そこには慌てた様子の上条が立っていた。

 

「よかった。やっと起きたか!」

「どうした?お前今日補習じゃなかったのか?」

「補習があるとかないとか、それどころじゃないんだって。早くこっちに来てくれ!」

 

 何やら慌てた様子の上条。出席日数やらなんやらが危うい上条だが、理由もなく学校をサボるような人間ではない。多分、恐らく、きっと。少なくとも積極的にサボろうとは思っていないはずだ。そんな上条が今ここにいるということは、何かあったに違いない。

 

「……わかった」

「こっちだ!」

 

 上条に着いていくとすぐ隣の部屋へと案内される。

 

「なんだこれ…」

 

 上条の部屋はめちゃくちゃ暑かった。冷房も扇風機も働かせていないのだろうか。さらに臭い。何かが腐ったような臭いだ。

 

「……その辺の文句はビリビリに言ってくれ」

「……お前またあいつと喧嘩したのか」

 

 上条の部屋がこんなに暑いのは御坂とのいざこざで電気系統がイカれたのが原因だろう。臭いのも冷蔵庫の機能が失われたことにより、中の食材が……といった感じだ。隣のオレの部屋は何ともなかったというのに、相変わらずの不幸さといったところだ。御坂は間接的に上条に勝ったと言っても過言ではないのではなかろうか。

 

 それはさておき、だ。

 部屋の中へと入るとそこには白い修道服を着た少女が上条のベッドに座っていた。

 年齢は14歳といったところだろうか。幼い顔立ち、長い銀髪、そして緑色の瞳。一度見たら忘れられないような印象的な容姿である。

 

「上条お前、部屋に連れ込んだのか?」

「違うわ!実は……朝、ついさっき気づいたらベランダに引っかかってたんだ」

「なに言ってるんだお前?」

 

 ベランダに引っかかってた?ここは7階だぞ?人が引っかかってる訳が無い。確かにコイツは賢くはないが、決しておかしな頭をしているって訳じゃなかったのに

 

「……じゃ、そういうことで」

 

 とりあえずなんか面倒な事になりそうなので、オレは踵を返し、自身の部屋に戻ろうとする。そんなオレの服を上条が掴み、行かせまいとする。

 

「ほ、本当なんだって! そりゃ俺だってまだ信じられないですよ!? でも本当なんだ!」

 

 少女がベランダに気づいたら引っかかっていた。つくならつくにしてももっとマシな嘘をつけと言いたいところだが、どうやら本当らしい。嘘をついているようには思えない様子だ。

 

「それでとりあえずこういう事に縁がありそうな奴に声を掛けようと思ったんだ」

「……オレに声を掛けようとした理由に関しては後でじっくりと聞かせて貰うが、残念ながら何も知らない」

「そうか、じゃあ本人に聞くしかないか」

「最初からそうすればいいだろ」

「いやあ、ちょっとパニックになってて。それにいざという時にお前を巻き込んどいた方が良いと思って」

「その件に関して、あとでゆっくり話し合おうか」

 

 内容しだいではコイツとの交友は改めた方がいいな。

 

「……と、とにかく聞いてみよう。なあお前、何でウチの部屋のベランダに干されてたわけ?」

 

 オレと上条はシスターへと視線を向ける。

 

「それはね……」

 

 と、シスターが言い掛けた時だった。ぐうぅ〜〜と、腹が鳴った。音の源はシスターの腹部からである。

 

「それよりもお腹が空いてたんだよ。ご飯を振舞ってくれると嬉しいな」

 

 はぁ……。

 

 

 

 

 上条の部屋にある食べ物が全滅していたのもあり、オレの部屋へと移動した。

 

「ご馳走してくれてありがとうなんだよ。あやとはいい人なんだね」

「食べさせなかったら外に出て監禁されてたって言うぞと脅迫しておいてよく言う」

 

 昨日の残りをペロリと平らげたシスター。

 

「でさー、何だってお前はベランダに干してあった訳?」

 

 何故か自分もオレの部屋で朝食を食べた上条は再びシスターに問い掛ける。

 

「落ちたんだよ。本当は屋上から屋上へ飛び移るつもりだったんだけど」

「飛び移る?」

 

 この辺りは学生寮が建ち並ぶ一角だ。オレたちが暮らすこの八階建ての寮と同じようなビルがずらっと並んでいて、ベランダから見れば分かる通りビルとビルの隙間は二メートルぐらいしかない。確かに、走り幅跳びの要領で屋上から屋上へと飛び移ることも出来るだろう。しかしだ、

 

「八階だぜ? 一歩間違えれば地獄行きじゃねーか」

 

 上条の言葉通り、誤って落下してしまった場合はタダでは済まないだろう。

 

「うん、自殺者にはお墓も立てられないもんね」

 

 とインデックスは良く分からない事を言って、

 

「仕方が無かったんだよ。追われてたからね」

「追われてた?」

「そんな事より自己紹介しなきゃね!私の名前はね、インデックスって言うんだよ?」

 

 は?

 

「禁書目録、正式名は『index-librorum-prohibitorum』 だけど、みんなはそう呼んでるんだよ」

「それ、本当に名前か?あきらかに偽名じゃねえか」

 

 上条が疑わしそうに聞く。

 なにかのコードネームか?

 

「……それで、お前は誰に追われているんだ?」

 

 インデックスという名前が本名だとは思えないが、話を進めた方が先決だ。

 

「うん……何だろうね?薔薇十字か黄金夜明か。その手の集団だとは思うんだけど、名前までは分からないかも。……連中、名前に意味を見出すような人達じゃないから」

「連中?」

 

 今度は上条が神妙に聞く。連中ということは相手は集団で、組織だ。うん、と追われているインデックスは冷静に、

 

「魔術結社だよ」

 

 これはまた意外な答えだな。

 

「まじゅつって……、はぁ、なんじゃそりゃあ!!ありえねぇっ!!」

「あれ?日本語がおかしかった?魔術だよ。魔術結社」

 

 当のインデックスは、上条の予想外の反応に戸惑っているようだ。

 

「それって得体の知れない新興宗教が『教祖サマを信じない人には天罰が下るのでせう』とか言ってお薬飲ませて洗脳したりする危ない機関の事?いやいろんな意味で危険なんだが」

「……そこはかとなく馬鹿にしてるね?」

「あー」

「……そこはかとなく馬鹿にしてるね?」

 

 どうにも胡散臭いものを見る目になった上条とそれを察知したインデックス。

 

「この街で超能力なんてものを研究してるんだから、魔術なんてのがあっても不思議じゃないだろ」

 

 オレがあそこにいた時に『教材』の一つにそう言った力を使う者たちに関するのがあった。

 

「そんな訳ないだろ?」

「むー!魔術はあるもん!」

 

 オレの言葉をあり得ないと一蹴する上条。あっさりと魔術を否定した彼に対してインデックスもムキになって主張する。そんなインデックスに上条は怠そうに応える。

 

「────ゴメン、無理だ。魔術は無理だよ。俺も発火能力とか透視能力とか色々『異能の力』は知っているけど、魔術は無理だ」

「……?」

 

 インデックスは小さく首を傾げた。

 

「学園都市じゃ超能力なんて珍しくもねーんだ。人間の脳なんざ静脈にエスペリン打って首に電極貼り付けて、イヤホンでリズム刻めば誰だって回路開いて『開発』できちまう。一切合切が科学で説明できちまうんじゃ誰だって認めて当然だろ?」

「……よくわかんない」

「ようするに神話やオカルトの類は非科学的だから信じられないって言いたいんだよコイツは」

 

 オレが上条の言葉を代弁すると、インデックスはふてくされた様子を見せる。

 

「超能力は信じるっていうのに魔術は信じないなんて変な話……ねえあやと、君は私の言ってること信じてくれるよね?」

「オレに振るなよ……」

 

 この街は学園都市。超能力を科学で作る街だ。だからこそ『魔法』『魔術』などのオカルトは信じられていない。

 あるいは信じないように刷り込まれているのか。

 

「……まあ、論より証拠だ。お前がそこまで言うんだからオレたちを納得させる根拠を示してくれればいいのかもな」

「そうだよ。そもそも魔術って何だよ?何ならいっちょ見せてみろよ」

 

 信じて欲しいなら見せてみろと気怠そうに要求する上条。するとインデックスの顔は少し曇る。

 

「……私には魔力が無いから使えないの」

「使えないんじゃ魔術なんかあるかどうか分かんないだろうが!」

「あるもん!魔術はあるもん!」

 

 平行線を辿っているな。

 

「……それで、その魔術結社に追われているのに心当たりはあるか?」

「清原、お前……」

「口を閉じてろ上条。話が全然進まない」

「うっ……」

「私が追われていた理由はね、私が持ってる10万3000冊の魔導書が狙いだと思う」

「魔導書?10万3000冊?」

「うん。エイボンの書、ソロモンの小さな鍵、死者の書…代表的なのはこういうのだけど」

「……清原さんや、上条さんはもう頭がパンクしそうなんですが」 

 

 上条が口を開くが無視する。

 

「神話にも登場する本だな……それで、その本はどこにあるんだ?」

 

 10万冊といったら図書館一つ丸々レベルの数だ。しかし、どう見てもインデックスがそんな数の本を持っているようには思えない。というか一冊だって持っていない。

 

「どっかの倉庫の鍵でも持ってるって意味なのか?」

 

 上条が言う。確かにそれなら納得出来る。しかし、インデックスは「ううん」と首をふるふる横に振った。

 

「ちゃんと10万3000冊、一冊残らず持ってきてるよ?」

「「は?」」

 

 オレと上条の声が重なる。そして上条は眉をひそめて、

 

「バカには見えない本とか言うんじゃねーだろーな?」

「バカじゃなくても見えないよ。勝手に見られると意味がないもの」

 

 まあそりゃそうだ。秘密の情報が誰かに見られた時点で秘密じゃなくなる。 

 本は本でも紙媒体のものじゃないということか?

 

「……まだ信じていないみたいだね。そんなに超能力って素晴らしいの? ちょっと特別な力を持っているからって、人を小馬鹿にしていいはずがないんだよ」

「ま、そりゃそーだわな」

 

 上条は小さくため息をつきながら言う。

 

「確かにインデックスの言う通り、超能力が使えるからって人の上に立てるって考え方は違う。こんな一発芸を持っていても人の上に立てるって考え方は間違ってる。けど、この街に住んでる人間にとっては能力を持ってる事が一個の心の支えになってから、そこら辺は大目に見て欲しいかな。ってか俺達も能力者の一人なんだけど」

 

「そうだよバカ、ふん。頭の中いじくり回さなくったってスプーンぐらい手で曲げられるもん。だいたいとうま達にだって何ができるって言うのさ」

 

 確かに、インデックスから見れば超能力だって上条から見る魔術と同じかもしれない。上条が魔術を信じられないように、インデックスも超能力を信じられない。

 

「……えっと。何がって言うか、俺の能力はちょーっと説明しにくいと言うか」

 

 上条は少し戸惑う。上条の右手の力について誰かに説明することは滅多にない。

 

「俺のこの右手…幻想殺しってんだけど、この右手で触れた異能の力なら超電磁砲だろうが、多分神の奇跡だって打ち消せます。はい」

「えー?」

「なんだその胡散臭い通販を見ているような目は」

「だってー、神様の名前も知らない人にー、神様の奇跡だって打ち消せますとか言われてもー」

 

 驚くべき事にインデックスは小指で耳の穴をほじって鼻で笑った。

 

「ぐ…ムカつく…!こんなインチキ魔法少女に小馬鹿にされるとは……!!」

「インチキじゃないもん!」

「じゃあ何か見せてみろよ!それを右手でぶち抜きゃあ、右手の事だって信じるしかないよな!?」

「良いもん!じゃあ見せてあげる!これ!この服!」

 

 売り言葉に買い言葉。インデックスは立ち上がり、己の着ている修道服を上条に見せ付ける。

 

「これっ!この服!これは『歩く教会』っていう極上の防御結界なんだからっ!」

 

 インデックスは両手を広げて自分が着ている白い修道服を強調してみせる。

 

「何だそれ。さっきから訳分かんない専門用語ばっかぶち込んで来やがって。意味分かんねーよ」

「むきーー!!」

 

 ただ主張しただけで上条が納得するはずもなく、軽くあしらわれるインデックス。遂にキレた彼女はオレの部屋の台所にダッシュ。そのまま棚を開けて包丁を取り出した。

 

「コレで私を刺せばわかるんだよ!」

 

 などと自己主張の慎ましい胸を張って言った。ただし、包丁を渡しながら。それオレの包丁。

 

「うん、じゃあ刺してみる!……ってなるか!アホかお前!少年院行きになるわ!」

「心配いらないんだよ!これはトリノ聖骸布をコピーしたものだから、強度は絶対なんだよ!物理、魔術を問わず全ての攻撃を受け流し、吸収しちゃうんだから!!」

「……つまりあれだ。それが本当に魔術で異能の力だってんなら、俺の右手が触れただけで木っ端微塵って訳だな?」

「君の力が本当な・ら・ね♪」

 

 相手の主張は信じないのに自分の話が信じて貰えない事でムキになっている上条とインデックス。

 

「上等だごらあぁっ!!そこまで言うならやってやろうじゃねえかぁぁぁ!!!」

 

 遂に堪忍袋の尾が切れた上条はその右手をインデックスの着ている修道服に向けて伸ばす。

 

 て、インデックスの話が本当なら上条の右手が触れた時点でとんでもないことになるな。

 嫌な予感がしたオレは上条の右手がインデックスの肩に置かれる直前に後ろを向く。

 

 

 パリーンとガラスの割れたような音とともに服が裂けるような音が発生し、

 

「キャアアアア!」

「ギャアアアア!」

 

 一人の少女と一人の少年の悲鳴が部屋に響いたが、オレは決して振り向かなかった。

 

 もうこいつらオレの部屋から出て行ってほしい。

 

 

♢♦♢

 

 上条が魔術証明の尊い犠牲となった後、インデックスに変わりの服(オレの寝巻)を着せ、上条共に部屋から追い出したオレは外を歩いていた。 

 本当に追手が来た時の緊急避難もあるが、長いようで短い夏休みを満喫するためだ。

 とはいえ外に出たのはいいものの、やることがなくて暇だ。熱いしどこか涼しいところに行くか。

 

「おーい、清原さんー!」

 

 不意に聞こえる声に周囲を見回す。すると日陰の下にあるベンチで手を振っている佐天とその隣で座る初春が居る。

 

「また会いましたねー」

「ああ、凄い偶然だな」

「清原さんはどこかにお出かけですか?」

「いや、いざ外に出たもののやることがなくてな」

「あーたまにありますよねーそういうの。あっ、よかったらどこかのお店に入りません♪実は昨日すごいものを見つけたんですよ♪」

「すごいもの?」

「ふ・ふ・ふ~それはですね~……じゃーん!」

 

 上機嫌に佐天がポケットから取り出したのは小さな機械だった。

 

「?ただの音楽プレーヤーだよな?」

「中身が重要なんですよ中身が!それはですね~……後で教えてあげます♪」

 

 勿体ぶるな。相当なシロモノが入っているのか?

 

「それじゃあ行きましょうか♪」

「ちょっ、佐天さん!私、この後風紀委員の仕事が……って早いですよ、待ってください!」

 

 佐天の後を初春が急いで追いかける。

 この前誘いを断り、二度目も断るのは悪いため、オレも佐天たちの後をついていくことにした。

 

 

 

 冷房の効いた喫茶店に入った後、佐天がプリンパフェを食べながら今話題の都市伝説の話をし始めた。

 

幻想御手(レベルアッパー)?なんだそれは?」

「清原さん知らないんですか?学園都市の都市伝説の一つですよ。簡単にいうと、能力者は簡単にレベルを上げられて、無能力者は能力者になるっていう何かのことです」

 

 科学の街に都市伝説か。

 

「それで、一昨日の爆弾魔はそれを使っていたというのか?」

「たぶんですが……白井さんの話だと威力は大能力者並(レベル4)だったのに、書庫に載っている犯人のレベルは異能力者(レベル2)だったって昨日言ってました」

「さ、佐天さん!駄目ですって部外者に話したら!」

「いいじゃん初春。あたしも一応部外者なんだし。それに清原さんならまた名推理で事件解決しちゃうかもしれないじゃん」

 

 オレにそんなのを期待されてもな。だいたい、事件解決は風紀委員とアンチスキルの仕事だ。

 

 それにしても幻想御手か。

 

 

 学園都市において超能力を発現させるプロセスである“開発”とは時間割(カリキュラム)とも表現され、具体的には薬物投与、催眠術による暗示、脳や首筋への直接的な電気刺激、五感の遮断など様々な手段で脳を開発することで脳の構造を変化させ、“自分だけの現実(パーソナルリアリティ)”という独自の認識・感覚を獲得させているのだ。

 そんなカリキュラムを受けてそれでも能力が発動しなかった生徒が能力を使えるようになるというのは都合がよすぎる。

 自分だけの現実に干渉しているのか?

 

 あるいは――――

 

 

 

「あら、初春に佐天さん……と清原さん?」

「な、なんであんたが佐天さんたちといるのよ!?」

「……さっきそこで会ったんだ」

 

 思わぬ来客が入った。現れたのは御坂、白井、そして白衣に身を纏い、栗色がかったロングヘアーのなんか目が死んでる女性だった。

 

「その人は……?」

「脳学者の木山春生(きやまはるみ)だ。よろしく。君達は……」

「あ、佐天涙子です」

「初春飾利です」

「……清原綾斗です」

「?きよはら?」

 

 オレの名前を聞いた途端、木山先生が怪訝な表情をしだした。

 

「どうかしましたか?」

「いや……前にどこかでその名を聞いた気がしたんだが…………私の勘違いか。すまない」

「……いえ」

 

 何やら意味深な反応をする。少なくともオレの記憶の限りでは面識はないはずだ。

 嫌な予感しかしないな。できれば勘違いであってほしい。

 

「それにしても脳の学者さんなんですかぁ~………はっ!まさか、白井さんの脳に何か問題が!?」

 

 初春、なにをどうしたらそういう発想に至るんだ。

 

「幻想御手の件で相談していましたの」

 

 初春の失礼な問いに白井は青筋を浮かべながら答える。幻想御手という単語を聞いた途端、佐天はパフェを食べていた手を止める。

 

「幻想御手ですか? それならあたし……」

「幻想御手の所有者を捜索して保護することになるかと思われますの」

 

 佐天はポケットから音楽プレイヤーを取り出したが、白井の言葉を聞いた途端、動きを止めた。

 

「え?どうしてですか?」

「幻想御手の詳細な情報を得るためっていうのもあるが……ここまできたら、幻想御手に重大な副作用があるのは、ほぼ間違いない。だから、出来る限り使用前にそれを回収したいんだ」

「それに、使用者が容易に犯罪に走る傾向もみられますしね」

 

 佐天は先程までの笑顔を固まらせ、ゆっくりと音楽プレーヤーをポケットに戻す。

 まるで白井達から隠すように。

 

「どうしました佐天さん?」

「あ、いや」

 

 と慌てて手を引っ込めるようにテーブルの下へと滑り込ませるが、不意にアイスコーヒーの入ったグラスにぶつかってしまい、中身が近くにいた木山先生の足へと零れてしまった。

 

「ん?」

「ご、ごめんなさい!!」

「いや、気にしなくて良い。かかったのはストッキングだけだから脱いでしまえば……」

 

 えっ?なにやってるんだこの人?

 木山先生は平然としながらまるで自室にいるかの如く身に着けていたスカートを外して穿いていたストッキングを脱ぎだしていく。

 ちょっと待てここは公衆の面前の喫茶店だぞ。

 

「だぁから、人前で脱いじゃダメだと言ってますでしょうが!えぇ!?」

「しかし……起伏に乏しい私の体を見て、劣情を催す男性がいるとは……」

「趣味嗜好はそれぞれですの!」

「って、いつまで見てんのよアンタはーー!!」

 

 顔を真っ赤にした御坂が「変態!」とオレに強烈な右フックを与えた。

 痛い。

 

 

♢♦♢

 

 自分が居てもしょうがないと、綾斗がウェイトレスから貰った氷袋で左頬を冷やしながら喫茶店から出て時間が過ぎ、本日のレベルアッパーに関する意見はひとまず置いておくことにして本日は解散となった。

 喫茶店から出ると白井は木山にお礼を言う。

 

「今日は忙しい中、ありがとうございました」

「いや、こちらこそ色々迷惑をかけてすまない………それより、彼女の方こそ大丈夫か?」

「あイタタ…あいつどんだけ頑丈なのよ」

「大丈夫ですか御坂さん?」

 

 綾斗を殴った御坂は氷袋で腫れた右拳を冷やしていた。

 

「大丈夫ですかお姉さま!?おのれぇ!あの野郎お姉さまを傷物にするなど許すまじ…!」

「いや、殆ど御坂さんの自滅だと思いますけど。平手打ちならともかく、グーはないでしょ。グーは」

「うっ……」

 

 お姉様LOVEの白井に対して放った初春のツッコミが御坂の方に突き刺さる。

 木山は御坂たちのやり取りを見て、どこか懐かしく思い目を細めた。

 

「教鞭をふるっていた頃を思い出して楽しかったよ」

「教師をなさってたんですか?」

「昔……ね」

 

 と何処か遠くを見つめるように言う木山は、「そういえば」と話の話題を変える。

 

「……さっきの彼とは友人かい?」

「いえ、時々ばったり会う程度でよく知りませんけど……あの人がなにか?」

「いや……やはり彼の名前をどこかで聞いたことがあってな……まぁ名字が同じ人間がいてもおかしくないし私の思い違いであることを願うよ」

 

 それだけ言うと、木山は踵を返すようにして帰路へと向かった。

 

「変わった方ですわね」

「白井さんよりもですか?」

「あ?」

「あはは……」

 

 その時、初春がふと気づく。

 

「あれ? 佐天さんは?」

 

 

♢♦♢

 

 喫茶店から出た後、冷房の効いた図書館で読書をして気付けばもう夕方だ。

 ファミレスで食事を終えて寮に戻ったのだが――――

 

「……なんだ?」

 

 学生寮が大勢の野次馬に囲まれ、消防車やら救急車やらが集まっていたが、どうやら火は既に消し止めていたらしく緊迫した空気でもない。

 

 今朝のシスターの件もあり、嫌な予感がしたオレは近くにいた消防隊員に尋ねる。

 

「あのすみません。ここに住んでいる生徒なんですが…火事かなにかあったんですか?」

「ああ。スプリンクラーが作動してすぐに火が消えたみたいだね。幸い夏休み期間で無人だったみたいで人的被害はでていないよ。ただ……」

「ただ?」

「不思議な点が多くてさ、焼け跡からみて、相当な高温で焼けたのは間違いないが、不思議な事に被害がほとんど出ていないんだよ」

「……ちなみに火元は何階で?」

「7階だね」

 

 消防隊員に頼んで中に入れて貰うと、現場は悲惨なものだった。

 歪んだドアノブ、溶け落ちた窓ガラス、上半分が消失した扉に、そこから覗く黒焦げの玄関。

 部屋の中は奇蹟的に無事だった、なんてことはなくスプリンクラーで水浸しになっていた。

 一番焼け跡が酷かった隣の部屋に住んでいる住人の姿が綺麗さっぱりないことから原因がなにかは明らかだ。

 おそらくインデックスの言っていた追手がここまで来たのだろう。

 そして誰かと戦闘になり、今のこの有様になったというところか。

 

 ポケットからスマホを取り出し上条に連絡を取ろうとするがなかなか出てこない。

 不幸体質のあいつのことだから単に携帯を壊してしまって連絡が取れないかそれとも……まあゴキブリ並みにしぶといあいつなら大丈夫だろう。

 

 

「おいそこのお前。現場は関係者以外立ち入り禁止じゃん」

「……一応ここはオレの部屋なので関係者に当てはまりますがね」

 

 背後から聞き覚えのある声がかかり、オレは振り返りながらツッコむ。 

 

「あれ?清原じゃん」

 

 黄泉川愛穂(よみかわあいほ)。オレや上条が通う高校で体育教師を勤める警備員だ。

 わがままボディを持て余す大人の女性だが、一年中ジャージを着てたり、暴走した学生を盾やヘルメットでどつき回したりと、あらゆる意味を込めての残念美人でもある。 

 

「あ、あの黄泉川先生……彼は?」

 

 黄泉川先生の横にいるなんか気の弱そうな眼鏡の女性隊員が口を開く。

 

「ああ。こいつは小萌先生んところの不良生徒の清原じゃん」

「え?不良?」

「失礼な。オレは一度も校則を破ったことのない模範的な生徒ですよ」

「でもあの三バカといつもつるんでいるじゃんよ」

 

 それでもあの変態どもと同列扱いされるのは心外だ。

 

「え、えっと自己紹介がまだでしたね。黄泉川先生の相棒をしています鉄装綴里(てっそうつづり)です」

「…黄泉川先生が勤めてる高校の生徒の清原綾斗です」

 

 眼鏡の女性、鉄装先生が丁寧に自己紹介してくれたのでこちらも丁寧に返す。

 よかった。黄泉川先生みたいな大雑把な人間じゃなさそうだ。

 

「おいこら清原。今黄泉川先生みたいな大雑把な人間じゃなさそうだって思っただろ?」

「……なんのことやら」

 

 なんで分かった。

 

「……まあいいじゃん。ここでボヤ騒ぎがあったみたいだがお前なにか知らないじゃん?」

「いえ、今帰って来たところなので詳しくは…」

 

 インデックスや魔術結社の話をしても科学サイドの人間は信じないだろう。

 

「い、今帰って来たって、完全下校時刻過ぎてるじゃないですか!?夏休みだからって校則破っちゃ駄目ですよ!」

「あのもしもし鉄装先生、重要なのはそこじゃないと思いますが……」

「そのおかげで火に巻き込まれずにすんだんだから特別にいいじゃんよ」

「う…た、確かにそうですけど」 

 

 どうやら鉄装先生は真面目な性格の持ち主のようだ。

 

「ところでお前部屋がダメになったみたいだが今日の寝床はどうするじゃん?」

「……まだ考えていませんね」

 

 無論ここで寝るつもりは無い。しかしホテルは遠いし、気軽に払えるほど安くない。夏休み初日の今日ではカラオケも満席だろう。

 

「泊めてくれる友達とかいないんですか?」

「泊めてくれる友達……ですか……」

 

 寄宿が頼めそうなほど仲が良い奴………。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 駄目だ変態以外全然思いつかない。

 

「……いませんね」

「答えるのに結構時間がかかったじゃん」

「だ、大丈夫ですよ。気をしっかり持って……」

 

 鉄装先生に滅茶苦茶気を遣われた。

 

「はぁ、仕方ないじゃん……清原」

「なんですか?」

 

 野宿か土下座でもして土御門か青髪に頼もうか考えていたとき、黄泉川先生がなにか提案してきた。

 

「お前……しばらく私のところに泊まるじゃん」

 

……ん?今なんて言った?

 

 鉄装先生まで固まっている。

 

「あの……誰が?」

「清原が」

「誰のところに?」

「私のところに」

「…………」

 

 マジかよ。

 

 





あかん。にゃーにゃーシスコン軍曹と似非関西弁の変態二人組が怒りと嫉妬に狂う未来しか見えません。
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