黄泉川先生が住んでいる教員用マンションへと連行され、一夜が明けた(流石に女性の寝室ではアウトなためソファーで寝た)。
目を覚ました時には既に黄泉川先生の姿はなく、テーブルに朝食用の食パンと『部屋は1週間で直るようだからしばらく泊っていけ。出かけるのはいいが完全下校時刻までには戻るように』という書き置きと、マンションの合鍵のようなものが置かれていた。
世話する気満々だ。
とはいえ他に頼れそうな相手はいないため受け入れるしかない。
朝食を終えた後、外に出たオレは上条の足取りを追うことにした。
一度男子寮のところに行ったがやはり戻っていなかった。
もしあいつが魔術師と交戦し、生き延びたと仮定するならどこか知り合いのところに匿ってもらっているかもしれない。そうなると浮かぶ候補がかなり絞られる。
確認のために何人か連絡を取ってみると、青髪から『夜遅くにカミやんに小萌先生の住所を聞かれたんさかい』と有力な情報をくれた。
何故あいつが小萌先生の住所を知っているのかはこの際触れないでおこう。
オレはすぐにスマホで目的地までのルートを検索し、それを頼りに歩きだす。
だがその道中、最近顔見知りになった女子中学生がただならぬ様子で走っているのを見かけた。
♢♦♢
人気のない解体予定の廃ビル前。
見るからに不良という輩達三人が、喧嘩もしたことがないだろうという風体の青年に暴力を振るっていた。
そこにたまたま居合わせた佐天は一度はそこから逃げ出した。
(しょうがないよね……あたしが何かできるわけじゃないし……あっちはいかにもな連中が三人。こっちはちょっと前まで小学生だったんだし)
そう自分に言い聞かせていたが、結局戻って来てしまった。
「や、やめなさいよ。……その人……怪我してるし……すぐに、警備員が来るんだからっ!」
だが、佐天は無力だった。
勇気を振り絞って吐き出した言葉が、女の子の震えるような健気な言葉が、不良を改心させるような、微笑ましい青春ドラマは起こらなかった。
リーダーの金髪は、その欠けた歯並びを見せつけるように不快に笑い――佐天の顔の真横の壁を蹴りつけた。
「ひっ!」
「あ~、いまなんつった~?」
思わず頭を抱えしゃがみこむ。蹴られた部分の壁は工事中に使う仮初めの敷居とはいえべっこりと凹んでおり、手加減など微塵もしていないことが窺えた。
「いいかぁ? よ~く覚えとけ、お嬢ちゃん」
蹲った佐天の頭を、金髪は片手で手荒く掴み上げる。
「何の力もねぇガキが、ゴチャゴチャ指図する権利はねぇんだよ」
「お前らにはその権利はあるのか?」
「っ!」
「あぁ?」
声がした方をみると、佐天が出てきた場所からもう一人現れた。
♢♦♢
様子がおかしかった佐天が気になって後をつけると、どんどん人気のない方へと進んでいく。一見して、女子中学生が近寄りそうもないところだ。
「きゃあ!」
「っ!」
突然聞こえた、甲高い叫び声。気のせいか、何かを叩いた、あるいは蹴ったような鈍い音も聞こえた。確実なのは、今叫んだのは明らかに女性だ、ということ。
解体予定の廃ビル前に向かうと、佐天がいた。武装無能力集団と見受けられる男達の一人に髪を掴まれていた。
「何の力もねぇガキが、ゴチャゴチャ指図する権利はねぇんだよ」
「お前らにはその権利はあるのか?」
「っ!」
「あぁ?」
危ない状況だったため前に出る。
「あっ……清原さん」
「昨日ぶりだな佐天」
「あぁ?なんだテメェは?」
前歯が2本折れた、頭の悪そうな金髪の男が近づきながらそう言った。
「ただの通りすがりだ。その子から離れろ」
「はぁ?かっこつけんなよ雑魚が。さっさと消えねぇと痛い目見るぜぇ?」
なにが面白いのか、後ろの2人が声を出して笑い始めた。
確かに人は暴力の前には屈する。その理屈は分からなくもない。ただ、その理論を貫き通すには常に相手の力量を上回る必要がある。
この場にいる3人じゃ、オレは止められない。
オレは男たちを無視し、佐天に声をかける。
「怪我はないか佐天?」
「え?あっ、はい」
「てめえシカトしてんじゃねえよ!」
男の一人がオレに向かって拳を振り上げる。ただ無造作に、まるで無抵抗な赤ん坊を殴るかのように。
小学生や中学生でも避けられるような単調なモーション。
大振りに繰り出される右拳をオレは左手で受け止める。
「あ……?」
「やるなら本気でやった方がいい」
一度だけ警告をする。だが、拳を止められてもピンと来ていない様子だった。
止められても仕方ない動き。止められても無理のない無理のない威力だったからだろう。
オレは受け止めたままの男の右拳を、左手の握力で握りしめる。
「お?あ、っ、え……っ!?」
男の表情が段々と硬くなっていき、両膝が震え始める。
「お、おいどうした?」
「あ、っ、つ!た、たんま、やめっ!」
身体を支えきれなくなり、両膝から崩れ落ち、地面に膝がつく。我慢できなくなったのか、自分の左手で必死にオレの腕を掴み引きはがそうとするが無駄だ。
男の頬を右手で打ち抜くと、男が頽れた。
……まずは一人。
「てめえ!」
仲間がやられたことで危機意識が高まったのだろうか、細い目をした男が虚空で手を動かせば、それに呼応するように壁に立てかけられていた廃材が勝手に浮かんでいく。
能力者か。
男の手の動きに合わせて廃材が飛来してきたため、上体のみを仰け反らしてギリギリで回避する。的を失った廃材はそのまま通りの方へと転がっていく。
「なんだ、今の気持ち悪い動きは!」
「気持ち悪いは余計だ」
男が追撃にと工事現場に豊富な鉄筋、鉄パイプを浮かせ、オレに投擲してくる。
武装無能力集団みたいな奴が能力を使ってきたのは想定外だった。
だが能力を使いこなしていないのだろう。その攻撃はまさしく只の投擲。軌道も単調で、それぞれの部品も一ヶ所に固まっていた。
オレは鉄パイプや鉄筋を最小限の動きで避けながら能力者の方へと距離を詰め、右拳を眼前へと突き出した。
「ぐは!?」
……これで二人。残っているのはただ一人。
その光景を目撃する佐天と知らない奴は、言葉を発することもできないようだ。
「はっはぁ!英雄気取りか死にたがりの馬鹿かとおもったが、結構やってくれんじゃねぇか!」
「生憎とオレは英雄願望なんてないし、自殺志願者でもない。ただ無能力者のオレでもお前らに勝てると思っただけだ」
「は?勝つ?お前が俺に?ははは傑作だ!どんだけ喧嘩慣れしていようが、幻想御手ででけぇ力が手に入った俺に無能力者のお前勝てるわけがねえんだよ」
最後に残った金髪は顔に浮かべた笑みを崩さず、大型のナイフを懐から取り出し、腕を振りかぶって突進してきた。
さっき幻想御手と言っていたからこいつも能力者なのだろう。
ギリギリまで攻撃を観察し、相手の能力を見極めたほうがいいだろう。
狙いは顔面ではなく腹部。
オレは腕の軌道を見て紙一重で躱そうとするが――――金髪の腕があり得ない角度で曲がり始め、ナイフの刃先が左腕をかすめた。
「っ……」
後方に飛び、距離を取る。切られた箇所から血が流れだし、指を伝って地面に滴り落ちた。
「清原さん!?大丈夫ですか!?」
「……ちょっと掠った程度だ」
「クックック……おいおい女の前だからって強がるなよ」
おかしい。
躱せたはずの攻撃を躱せなかった。
いや、さっき軌道が捻じ曲がってるように見えた。奴自身が捻じ曲がっているのか。それともオレが見ている景色が捻じ曲げられてるのか。
試しに地面に転がっている小石を拾い、投擲する。
まっすぐ金髪に向かって行った小石は、空中でぐにゃりと捻じ曲がるように軌道を変えた。
腕があり得ない角度で曲がる、投げたものが不自然な軌道を描く。
コイツの周囲だけ光の進み具合がおかしい。
……そういうことか。
「お前の能力………自分の周囲の光を捻じ曲げて、相手に違う位置にいるように誤認させているようだな」
「ヒューっ!まさか一発で気づくか」
蜃気楼と同じ原理だ。
光は通常直進するが、密度の異なる空気があるとより密度の高い冷たい空気の方へ進む性質がある。
だが金髪は能力で強引に光を捻じ曲げて誤った位置に像を結ばせているのだろう。
「【
馬鹿な奴だ。
「オレにできること、そうだな……」
タネは分かった。思ったよりも単純だ。ならオレにできることといえば……
「お前に一発入れるくらいだな」
「ははっ!馬鹿かお前?お前は俺に触れることもできずに終わるんだよ!」
笑いを咬み殺すように金髪はオレに向かって来る。挑発した甲斐はあったようだ。
―――ジャリ
そこか。
避けも受けもせず、オレは何もない空間に向かって突進し、金髪より速く拳を突き出した。
「ぐぼぉっ!?」
目には何も写っていない。しかし、拳には確かに固い骨の感触を感じる。それを追って響く生々しい音。今まで目の前にいたはずの金髪の姿は消え、拳の先に姿を現した金髪が宙を飛び廃ビルの壁に突っ込んだ。
「…な、なんで」
「ん?さっき言っただろ。お前に一発入れるって」
「違う…そうじゃなく、て…」
そこまで言って金髪ガクンと崩れ、ピクリとも動かなくなる。呼吸はしているようだし大丈夫だろう。
「風紀委員ですの!全員大人しく投降を――ってあら?」
なにもない空間から白井が現れ、風紀委員の腕章を見せてキメ台詞を言おうとするが、周りの状況にポカンとしている。
オレ、白井の出番奪っちゃったか?
「まったく……夏休み二日目になにスキルアウトと殺り合ってるじゃん」
「……まあ、成り行きで」
数分後。現場に警備員の人達が現れ、オレは現在進行形で黄泉川先生からのありがたい説教と手当てを受けていた。
「というか清原、お前喧嘩強かったのか?」
「……いやぁ火事場の馬鹿力ってやつですかね」
「もうホント清原さんすごかったんですから!あたしと同じ無能力者なのに!どうやって相手の能力破ったんですか?」
さっきまで呆然としていた佐天が元気よくオレに詰め寄って来た。
「あー…しいて言うなら足音だな」
「足音?」
「ああ、あいつは目に見える場所は誤魔化せても足音までは誤魔化せなかったみたいだからな」
視覚が頼りにならないならそれ以外の五感に頼るしかない。
耳を澄まして、走ってきた時の足音で大体の位置を把握し、一撃で仕留めた。
「…という感じだ」
「へー」
「ぐっ、わたくしが間に合ってれば十秒も経たずに全員を倒したというのに」
佐天がオレに尊敬の眼差しを向け、隅で白井が悔しそうな顔を浮かべている。
「白井はもしかして空間移動の能力者か?」
「ええ。わたくしの能力は自身と触れたものを瞬時に指定した座標に移動させるものですが」
「目標座標の指定は視覚に頼ってるのか?」
「?そうですが……あっ」
やっぱりか。
「あー…白井さんの能力、滅茶苦茶さっきの人のと相性悪いですね」
「うぐっ!」
「確かにいつも通り事件発生の現場に駆けつけていたら苦戦していたんだろうじゃん」
「がはっ!」
佐天と黄泉川先生の一言がグサグサと白井に突き刺さった。
これは最初に質問をしたオレが悪いな。
「…ま、まあいいですの。ようやっと幻想御手の手掛かりを掴んだことですし」
そう自分に言い聞かせるように呟く白井の手元には音楽プレーヤーが握られていた。
「よし。取り敢えず応急処置は済んだじゃん」
「ありがとうございます」
黄泉川先生に礼を言い、オレは包帯に巻かれた腕の具合を確認する。
「痛むのなら途中で病院によってやってもいいが……」
「いえ、特に問題ありません」
「……ひょっとしてお前痛み感じてないのか?」
は?
「何故そんなこと聞くのですか?」
「いや、お前いつも鉄仮面みたいに無表情だから実はロボットなんじゃないかと時々思っていたじゃん」
失礼な。
「そんなことないと思いますが」
「いやいやいや、昨日御坂さんに殴られた時も清原さんまったく表情に変化ありませんでしたよ」
「そうか?」
「は?なんでお前常盤台の超電磁砲に殴られたんじゃん?」
「簡潔に説明すると喫茶店で女性脳学者が突然服を脱ぎだした時に居合わせてそうなりました」
「は?」
オレの説明に黄泉川先生が何言ってんじゃんこいつ、と言いたいような表情をする。
「あー…実はあたしもそこに居合わせまして……あの時は本当にびっくりしました」
「あの先生、変わった御方でしたの」
「そ、そうか」
佐天と白井が証人となってくれ、黄泉川先生は信じてくれたようだ。
「まあとにかく、オレの皮膚の下はちゃんと骨と肉がありますし痛みをちゃんと感じますよ。ただ少し感情を表情に出にくいみたいですね」
そういえば上条たちから何考えてるかわからないと言われたことがあるな。
「ふーん……まあ、たまには笑ってみせたりしたら愛嬌があっていいじゃんよ」
「はぁ……一応、努力はしてみます」
「一応ってなんだ一応って」
今ここで笑って見せろとオレの両頬を引っ張って口角を上げさせようとする黄泉川先生に抵抗していると、鉄装先生が話しかけてくる。
「黄泉川先生、三人を護送車に詰め込みました。怪我を負っていた少年は痣だらけでこれから病院に運ぶところです」
「そうか、それじゃあこっちも事情聴取が終わったし、お前らもう帰っていいじゃん。白井は明後日までに始末書を提出するじゃん」
「ちょっ!?」
「許可なく管轄外の事件に首を突っ込むのは立派な規則違反じゃん。これで何回目じゃん」
常習犯かい。
そう言い残して黄泉川先生と鉄装先生は警備員の護送車に乗り、その場から去った行った。
「それじゃあオレはこれで」
「あ、はい。本当にありがとうございました!」
茫然自失している白井を残し、オレは佐天と別れ廃ビルを去る。
さて、寄り道したが今度こそ会いに行くか。
♢♦♢
歩いて十五分という所に、それはあった。
何というか、見た目十二歳な小萌先生にしては意外なことに、それは東京大空襲も乗り切ったという感じの超ぼろい木造二階建てのアパートだった。通路に洗濯機が置いてあるところを見ると、どうも風呂場という概念は存在しないらしい。
黄泉川先生のところとは大違いだな。
一つずつドアの表札を確かめ、ボロボロに錆びた鉄の階段をのぼり、二階の一番奥のドアまで歩いて『つくよみこもえ』というひらがなのドアプレートを見つけた。
ぴんぽーんと一度チャイムを鳴らす。
「ど、どちらさまでせうかー?」
「お前の隣人の清原だ」
ドアががちゃりと開いて、ツンツン頭が顔を出した。
「よ、よう……」
「生きていたようだな……インデックスも」
扉の向こうにある部屋に、淡い緑色のパジャマを着た銀髪シスターが布団布団の上で横になっていた。昨日上条の右手によってビリビリに破かれた修道服は安全ピンまみれの状態で壁にハンガーでひっかけられている。
「あ、あやとだ。久しぶりなんだよ!」
「久しぶりって、昨日会ったばかりじゃないか」
傍に水を張った洗面器とタオルがあった。夏風邪でも引いたのか?
「インデックスもいるとはな……ということは昨日あの場にはインデックスもいたということか」
「な、何の話でございましょう」
巻き込むまいと白を切るつもりか。
「とぼけなくていいぞ上条、昨日の夕方追手が男子寮まで来て戦闘になったんだろ?あんな話を聞いた後に不自然な火事が起これば誰だってそう思う」
「え、えっと……」
「しかもオレの部屋はスプリンクラーから出た水でずぶ濡れ状態だったぞ」
「ぎくっ」
やっぱり火災報知機押したのこのウニか。
「あ、あれはやむを得ない状況だったと言いますか……その件についてはホント、すみませんでした!」
頭を下げる上条に対し、オレは冷静に次の一手を考えていた。
「なら昨日、なにがあったかを教えてくれ」
「……いや、言ったら巻き込むことになる。だから言えない」
「もしもし警備員の黄泉川先生ですか?今目の前に教師の家に上がり込んで幼女を監禁してる男の人が――」
「ちょっと待て!?その冤罪はシャレにならないって!はいはいはい喋ります喋りますから通報はやめてー!!!」
スマホを片手に持つオレの前に、上条が土下座しながら懇願した。
その後、涙目になりながら上条はその日あった出来事を話した。
「……んで、IDもないから病院にも行けず。しょうがないから怪我をしたインデックスを抱えて、俺は小萌先生の家に来たんだ」
「なんで小萌先生の家なんだ?怪我はどうした?」
「えっと……小萌先生が魔術でインデックスを治したんだ」
「は?」
あの先生が魔術を?
「ねえ、二人共さっきからなんのはなしをしているの?」
事情を聞いている間に、インデックスは布団から起き上がってきた。
「昨日のことを聞いていた。追手から受けた傷を小萌先生が魔術で治してくれたってところまで」
「うん、でももうこもえはこれ以上魔術を使っちゃダメ」
「どういうことだ?」
「魔導書っていうのはね、危ないんだよ。そこに書かれてる異なる常識『異常識』に、違える法則『違う世界』って、善悪の前に『この世界』にとっては有毒なの」
『違う世界』の知識を知った人間の脳は、それだけで破壊されてしまうとインデックスは言う。
「…まるでこことは違う世界……ファンタジーで言うところの異世界が存在するみたいな言い方だな」
「な、なに言ってるんだよ清原。そんなの本当にあるわけ―――」
「そうなんだよ!」
「あるのかよ!?」
「すごいよあやと!とうまに何回説明しても全然伝わらなかったんだよ!」
「そりゃ上条だからな」
「そうか、とうまだもんね」
「……あの、なんか二人の間で上条当麻イコール馬鹿が成立してると思うのは俺の気のせいですかね?」
「安心しろ、気のせいじゃない」
「安心する要素がどこにも見当たりませんが!?」
「不幸だ……」と上条はいつもの口癖を呟く。
さて、この辺にしておくか。
「それじゃあ無事を確認したことだし、そろそろ帰る」
「帰るって男子寮のところ使えないんだろ?」
「……黄泉川先生のところに泊めてもらってる」
「えっマジで?」
「マジだ。ちなみに教員用の4LDKマンションだ」
「なんだよそれ!?こことは天と地の差じゃねえか!?」
「ねえとうま、よんえるでぃーけいってなに?」
「え、えっとだな……」
上条がインデックスの相手をしてる間に、オレは玄関へと向かう。
すると、オレがドアノブに触れる前に扉が開いた。
「あれー?清原ちゃんじゃないですかー?」
目線を下に向けると、買い物袋を持った合法ロリの月詠小萌先生がいた。
「すみません。先生がいない間に上がり込んでしまい」
家主の留守中に家に上がりこんだので先に謝罪しておく。
「いえいえ大丈夫なのですよー……ってあれ?清原ちゃん、その腕の包帯どうしたんですかー?」
「ええ……ついさっきオレも少し怪我をしましてね」
「怪我、ですか?」
もの凄く心配そうな顔をしている。なんだこのかわいい生き物は。本当に年上か?
「怪我といってもかすり傷ですよ。痛みもそれほどではないですし」
「そうですか……」
かすり傷、と聞いて小萌先生は安堵の表情を見せた。
「……そういえば先生に質問なんですが」
「先生に質問ですかー?」
「ええ、音楽……特に音だけで能力を引き上げることは可能ですか?」
「音だけで、ですかー?」
うーんと、可愛いらしく唸る小萌先生。
「ん~難しいですねぇ【
「……学習装置ですか」
学習装置とは、技術や知識を電気信号として、脳に直接インストールする装置で、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感全てに対して電気的に情報を入力できる。
だが、あれに能力のレベルアップなんて効能はない。
「あれ?清原ちゃん学習装置を知ってるのですか?」
やば。
「上条の頭の悪さを治す方法を探してるときにそれ関係のを見つけまして」
「そうだったんですかー」
すごい。今考えた適当な嘘をあっさり信じた。
「学習装置のことはひとまず置いておいて、それじゃあ音自体に五感に働きかける効果があったとしたらどうですか?」
「うーん、それなら共感覚性ですねー」
きょうかんかくせい?
「なんですかそれは?」
「簡単に言えば一つの刺激で複数の感覚を得ることですねー例えば、風鈴の音を聞いて音を感じるだけでなく気温も涼しく感じたり、赤系の色も見たら色を感じるだけでなく温かみも感じたり、といった風にそれを応用すれば出来ると思いますよー」
つまり、感覚がイメージを連想し、別の感覚を刺激するということか。
「そうですか。とても参考になりました」
「いえいえー生徒の疑問に答えるのは先生として当然なのですよー」
ふふんと胸を張る小萌先生に礼を言い、オレはその場を後にした。
♢♦♢
太陽が真上にのぼり、そろそろ昼飯を食べようかとマップで近くにいい店がないか検索していると……
「「「お────っ!」」」
昼下がりの公園で少女達が感嘆の声を上げているのを見かけた。手を掲げる少女と、その先、空に浮かぶ一人の少女。
「スゴイよルイコ!私紙コップ持ち上げんのがやっとだったのに!」
と能力を使っているだろう少女が、先程別れた顔見知りに声をかけていた。
「佐天?」
「あれ?清原さん?」
佐天もオレに気づいてこっちを向く。他の少女たちもオレの方を向いた。
「ルイコ、知ってる人?」
「さてはコレか?」
「いやいや!そんなんじゃないから!」
慌てながら佐天が他の女子三人にオレとの関係を説明しだす。
なんか右の小指を上げていたがどういう意味だ?
「それで清原さん、こっちはあたしの中学の同級生のアケミ、むーちゃん、マコちんです」
「「「こんにちはー」」」
「あー……どうも」
最近女子中学生とのエンカウント多いな。
「それで、お前たちは公園でなにやってるんだ?」
「あはは…いやぁ実はあたし幻想御手を手に入れまして……使ってみるとほら!」
オレに見せつけるように、佐天は両手を掲げれば、小さな旋風が巻き起こり公園に散らばった葉っぱを巻き上げた。
「昨日見せた音楽プレーヤーに入っていたやつか?」
「おっ、やっぱり分かっちゃいましたか名探偵さんや」
能力が使えるようになって嬉しいのか、佐天はさっきよりテンションが高い。
オレと違い超能力者になるために彼女達は学園都市に来たのだから、この姿こそ学園都市の学生らしいものなのだろう。
それにしても凄いな幻想御手は、どんな副作用があるかはまだわからないが……。
「それで、能力者になった感想はどうだ?」
「最っ高です‼︎ あたし、ずっとずっと能力者に憧れてて! もう……嬉しいいい!!!! って奴です!本当はもっと白井さんや御坂さんみたいにバーっと凄い能力使いたいんですけどね…」
「勝手な憶測だが、そういうのは一度コツを掴めばそのうち上手くなっていくんじゃないか」
「そうですかね?」
「誰だって初めから自転車を漕いだりできないだろ。とりあえず、佐天の能力は気流操作みたいだから風関係でイメージしやすいのを頭に思い浮かべたらどうだ?」
超能力の源は『自分だけの現実』という平たく言えば妄想・思い込みに近く、非常識な現象を現実として理解・把握し、不可能を可能に出来ると信じ込む意志の力とも言われる。
であるなら、今の佐天の場合出来るのだと一度認識してしまえばより上手く能力が使えるはずだ。
別に研究者でもないオレのアドバイスに、佐天は「うーん」と悩む姿勢を見せる。
少しの間佐天は悩んだ後、何か納得したように小さく頷くとスッと腕を前に出す。
ゆっくりと息を整え、次の瞬間サッと腕を動かした。その動きは洗練されていた。やり慣れた動きと言っていい。ただそれは攻撃的な動きというわけではなく、ただなにかを払うような動き。
なにが起きるのか。急に突風が吹いたり竜巻でも呼んだのかと少し期待したが、特になにも起きない。肌に感じる風は佐天が能力を使う前と変わりなく、失敗したのかと思ったが、少し離れているところにいる佐天の友人三人の内、スカートを穿いている子の絶対領域が絶対ではなくなった。つまり勢いよく、それはものの見事にめくれ上がった。
は?
「やったあ!あたしコツ掴めたかも!見てましたよね清原さん!」
「見てたが……佐天、今のなんだ?」
「いやぁ一番に思いついたのがいつも初春にやってるスカート捲りでして」
なにやってるんだよ。
スカートが捲れあがった少女は、悲鳴を上げながら慌ててスカートを抑えつけ佐天の方を睨んで叫んだ。
「ルゥイコぉぉぉ!!」
「ごめーんマコちん!でもあたし手を使わずにスカートを捲れましたよ!これなら初春にも使えそうです!」
「あー……うん、よかったな」
佐天の能力が変な方向で発揮してしまい、これにはオレも反応に困ったのだった。
数日間小萌先生のところに泊まっていたとなると、青髪ピアスあたりが知ったら嫉妬に狂って殺しに来そうですね。
よくばれなかったな。