とある科学のホワイトルーム生   作:嫉妬憤怒強欲

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次の章に入る前に日常回です


おのれ鯖缶娘

 幻想御手(レベルアッパー)事件が収束し、禁書目録(インデックス)の件も一応は片付いて数日が経った頃、ようやく男子寮での生活に戻ることができた(隣人は同居人ができた)オレは改めて夏休みを満喫する。

 

『とうまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

『ぎゃああああ!』

 

 …………またか。これで何度目だ。

 

 退院した上条も寮に戻ったが、他の隣人たちに知られてはいろいろマズい居候との同居生活が始まった。

 開始早々何度もウニ(上条)がインデックスになにかやらかしてしまっているようで、隣の部屋からインデックスの怒号と上条の悲鳴が絶えない(というか他の部屋まで聞こえないか心配だ)。その都度オレに助けを求めてくるが、面倒臭くなったときは居留守を決めるか外出することにしている。

 だってできる限りは手を貸すとは言ったがほぼ毎日とは一言も言っていないし。

 

 さて、今日は用事を終わらせて帰りに買い物でも『き、清原助けてくれー!』……はぁ。

 玄関の扉を開くと白い修道女(シスター)に頭を現在進行形で丸かじりされているウニ頭が立っていた。本当に隠す気があるのだろうかこいつは。

 

「ウ……上条」

「今ウニって言いかけただろ!?」

「気のせいだ。今日はインデックスになにやらかしたんだ?」

「なんで全部俺に原因がある前提で聞いてくるんだよ!?」

「がじがじ……ぷはっ、あのねあやと、とうまが突然私の服を脱がしたんだよ」

「上条、悪いことは言わない。自首しろ」

「ちょっ、誤解だ!足を滑らせてその拍子にインデックスの服を掴んじまったんだよ!」

「だが脱がしちゃったんだろ?」

「うぅ……」

「取り敢えず懺悔したらどうだ?見習いとはいえ一応修道女だし」

「あの、そのアドバイス何度も聞いた気がするのですが……」

「それだけ進歩がない証拠だ」

「なんか最近清原が俺に冷たいんだけど!?」

 

 毎度こんなくだりに付き合わされればそうなる。

 コイツのラッキースケベについては異能の力じゃないようだが、何の力だろうか?

 

「というか上条、お前今日はいいのか?」

「は?なにが?」

「なにがって、今日は補習の日だろ」

「…………あっ」

 

 忘れてたな。顔を真っ青にした上条はすぐに自分の部屋に戻った。

 

『や、やべえ!遅刻だ遅刻!インデックス、いい加減離してくれ!』

『まだお仕置きが済んでいないんだよ!ガジガジガジガジ』

『いぎゃああああ!不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 

 さて、今度こそ出かけるか。

 

 

 

 オレの休日の過ごし方はシンプルだ。何故なら自分からは誰に声をかけることもなく一日一日が過ぎていくからだ。つまるところ自業自得孤独なのだ。

 だがそれは別にいい。自由ってことだけで満足しているんだ。余計な幸せは願うまい。というより、友人は多ければいいというものではない。最近はそんな風に考え始めていた。多くの人との繋がりがあればしがらみは増える。それはそれで面倒だ。

 例えば友人が入院していたのにオレは一回も見舞いに行かなかったり……。

 

「うーん……あの清原さん、この文章問題如何やるんですか?」

「そこはこの公式を使えばいい。長文でも一個ずつ嚙み砕いていけば内容が理解できる。例えばここは…」

「あっ、ホントだ!」

「計算をミスればやり直しが大変だから見直しは怠らない方がいい」

「はーい」

「清原さんこれって如何やるの?」

「むーちゃん、少しは自分で考えようよ」

 

 幻想御手事件の後に佐天達の見舞いに行かなかったことを初春に怒られ(本人達は気にしていなかったが)、じゃあお詫びにファミレスで何か奢るのと宿題を手伝う事になった。

 

「……と、言う訳だが、今の説明で分からなかった人は居るか?」

 

 一通りの説明を終え、全員を見渡して聞いたが、全員が首を左右に振った。つまり全員理解したと言う事だ。

 

「いやぁ、この前もですけど清原さん教えるのすごく上手ですね」

「ホントホント!補習で出された宿題もう殆ど終わっちゃったよ!」

「今すぐにでも学校の先生になれるんじゃないですか?」

 

 佐天の言葉を皮切りに、他の面々も急に褒めてきた。

 

「大げさだな。教科書見ながらアドバイスをしてるだけだ」

「いやいや、その割には分かりやすいですし教科書にも載ってないものも教えられたんですけど?」

「たまたま覚えてただけだ」

 

 それに皆別に頭が悪い訳ではないから宿題が進んだだけだ。上条と他の変態二人は救いようがない。

 

「もう、謙遜が過ぎますよ。あっ、さては褒められて照れくさいんですね?」

 

 さて、見当違いをしている佐天は置いといて……

 

「それよりあともう少しだからとっとと終わらせるぞ」

「えー」

「ちぇー、せっかく息抜き出来てたのに」

「息抜きって、まだ始まって一時間も経ってないだろ」

「すみません。アケミちゃんとまこちゃんは一時間も集中力が持たなくて」

「………はぁ、仕方ない。一旦休憩にするからなにか注文するといい。食べ終わったら残りを終わらせるぞ」

「「「「はーい清原先生!」」」」

「……先生はつけなくていい」

 

 ご褒美をやると分かったらテンション高いな。

 

「どれにしようかな~」

「あっ、今週のスペシャルパフェ美味しそう!」

「でもアケミちゃん、それちょっと高くない?」

 

 目をキラキラさせた女子達がメニュー表を見ながらどれにしようかと吟味している間に、オレはコップ片手に席を立つ。

 

「あれ?清原さんおかわりするんですか?」

「ああ」

「あっ、じゃああたしもおかわりするので一緒に行きましょうか」

 

 そう言って佐天は残りのジュースを飲みほし、ドリンクバーの方へと向かうオレの後に続く。

 

「やっぱりお昼には鯖缶が一番なわけよ!」

「あんたファミレスまで来て鯖缶ってどうよ。そんなのその辺のスーパーで買えるじゃない、って、ここも鮭弁ないじゃないの」

「どっちもどっちですね。どこでも食べれるなら家で映画でも見ながら食べる方が超有意義です」

「……南西から信号が来てる……」

 

 近くのテーブル席にいた見た目的にも個性的にも派手そうな四人組みの少女達を尻目に通路を進んでドリンクバーに着くと、オレンジやカルピス、メロンソーダ、アイスコーヒーといったジュース類がある。前に自販機でホットおしるこ、黒糖サイダー、きなこ練乳、抹茶ミルク、ヤシの実サイダーといった独特な缶ジュースが売ってあるが、さすがにファミレスには無いな。

 オレは無難にアイスコーヒーを選択する。

 

「あのっ、清原さん」

 

 コップにアイスコーヒーを注いでいると、佐天が横から声をかけてきた。

 

「どうした?」

「えっと、ありがとうございます。その、皆を助けてくれて」

「いや、オレはなにもしてない。木山を止めたのは御坂で、全員を直接助けたのも初春がやった」

「でも幻想御手の正体に真っ先に気づいたのも清原さんみたいですしやっぱりすごいですよ。名探偵も顔負け、みたいな」

「見破ったあとにその主犯に捕まってしまったけどな」

 

 あの後黄泉川先生に散々弄られたし。

 だから特に礼を言われるようなことはしていない。礼を言われるようなことは(・・・・・・・・・・・・)

 

「そういえば気になることがあるんですけど清原さん、御坂さんと何かあったんですか?なんか最近御坂さんに清原さんが何者なのかすごく問い詰められるんですけど」

「さあな、こっちからはあいつに何もしていない」

 

 御坂の奴、会って数週間しか交流がない相手に聞いたところでたいした情報も得られるわけがないというのに無駄なことを。

 幻想御手の一件以来、御坂と街で出くわせばオレと木山の記憶に出てきた老齢の科学者との関係とオレの正体について問い詰めてくる。オレについて語れることは特にないため適当に返して立ち去ろうとするが、あいつはしつこいうえに喧嘩っ早い。何度電気を放たれたことやら。いざとなればウニを差し出すことも考えないと。 

「それよりお前はあの後後遺症とかはないか?」

「はい!色々な検査を受けさせられたうえに経過観察も兼ねてしばらくは入院したんですけど特に問題なかったです。ただ…………」

 

 物寂しそうに佐天は自身の両手を見た。元に戻ったのは健康だけではないようだ。

 

「名残り惜しいか?」

「あー本当言うとその通りです。あんな目に遭ってもやっぱり能力が使えた時の感動が忘れられなくて……ワンチャン少しだけ残ってるかなー、って期待しちゃってました。でも……良いんです。憧れはそう簡単には消せそうにないですけど、ほんの一時だけでも能力が使えただけラッキーだった、って思うことにします。それに………」

「それに、なんだ?」

「能力が使えなくてもあたしには心配してくれる皆がいますから。今なら能力以外にも大切なものが沢山あると思えます」

 

 そう言って少し晴れやかに佐天は笑う。

 オレと違い佐天達は能力者になりたくてこの学園都市に来たのだろう。だが無能力者(レベル0)の烙印を押され、その上御坂や白井のような高位能力者が傍にいて自分は何もできないという無力感に苛まれ、幻想御手の手を出したのは必然だ。そこからいつまでも悲観し続けるばかりでは仕方ないと割り切っている。能力だのレベルだの固執して、振り回されることはもうないだろう。

 

「今回の件で成長したということか」

「えっ?突然なんですか?」

「いや、気にするなそれとそう無理に諦める必要もないじゃないか?」

「えっ?」

「幻想御手で一度は本来持っていた能力よりも上の力を体験できたんだ。なら、その時の感覚を思い出せばまだ可能性があるんじゃないか?」

「えっと、つまり初春のスカートを何度も捲ればその内能力が向上するということですか?」

 

だからその発想はおかしい。

 確かに『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』は妄想・思い込みに近く、 非常識な現象を現実として理解・把握し、不可能を可能に出来ると信じ込む意志の力とも言われる。 だからより具体的なイメージをする事で出力や制御の巧さが変わるのだが…………

 

「あくまでも可能性だからほどほどにな」

 

 佐天がイメージしやすいなら必要な犠牲か。

 

「ルイコ―そろそろ注文するよー」

「あっ、ごめんごめん今いくー!まこちんたちが待ってるので戻りましょ、うっ!?」

 

 佐天が席に戻ろうと動いた時、突然足元がグラリと小さく揺れだした。

 

「え!?なに!?」

「地震!?」

 

 店内全体で発生する振動に、席に座っていた人間は反射的にテーブルの下に隠れているのがいる。

 

「わ、わっ」

 

 だが通路で立っていた佐天は突然の揺れでバランスを崩してオレの方へ倒れ込んでくる。

 

「っと」

 

 避けるのは容易いがそれでは佐天が怪我するため受け止めることにした。それにより抱き合う体勢となる。

 約40秒ほど経ってようやく揺れが収まった。

 

「お、収まった?」

「最近多いね」

 

 店内にそれほど被害はなく、落ち着きを取り戻し始める。

 

「もう大丈夫みたいだぞ」

「っ…………」

「佐天?」

「ふえっ!?は、はい!」

 

 しばらく固まっていた佐天が今の状況に気づいたようで、慌てて飛び退くように離れた。異性との接触に耐性がないのか耳元まで顔が真っ赤だ。

 

「えっと、その、すみません、いきなり抱きついてしまって」

「気にするな。あの状況なら仕方ない」

「そ、そうですか。そ、それじゃあ席に戻りましょうか!」

「大丈夫か?なんかすごい挙動不審なんだが」

「だ、大丈夫ですよ!ほ、ほら!行きましょう!」

「あ、ああ」

 

 その後の勉強は捗り、午後までに早く終わった。なお、しばらくして初春から佐天によるスカートの捲りの頻度が増えたことに関する抗議の電話が来たがそれは別の話。

 

 

♢♦♢

 

 勉強会を終え、今日の用事を済ませたオレは近くの食材店で買い物をしていた。学園都市の人口の8割が学生であるため、御坂や白井のようなお嬢様(仮)のような一例を覗いて殆どの学生は自炊をしている。かくいうオレもその一人だ。

 かつていた場所では食事もなにもかもが管理され、好きなものを好きなものを自分で作って食べるというのとは縁がなかったため、最初のころは戸惑った。だが幸いにも上条や土御門の妹に大体のことを教わり、一人でこなせるようになった。なお、コーヒーを淹れ方はさすがの二人も知らなかったためそこは独学で習得した。

 買い物籠を持って店内を歩き回る。今朝のインデックスが上条の頭を齧るのを思い出してウニが食べたくなったが高いため魚で我慢することしよう。

 魚コーナーに向かい、脂ののった鮭の切り身や刺身を、残り2個となっていた鯖缶を2個とも取って籠に入れる。

 

「…そういえばそろそろコーヒー豆が切れるな」

 

 コーヒー豆の入った袋も籠に入れてレジへ向かった。

 

「合計2436円となります」

「じゃあ2500円からで」

「はい。64円のお釣りです。ありがとうございました」

「どうも「ぬわあああああ!!」ん?」

 

 支払いをすませたとき、鯖缶があったコーナーから女子の甲高い叫び声が聞こえた。

 鯖缶コーナーの方を見ると、ベレー帽をかぶった小柄な外国人風の金髪少女が嘆いていた。

 

「申し訳ありません。たった今在庫も全て売り切れまして」

「そんな…売り切れ…」

 

 店員からの言葉に少女はこの世の終わりかのように手と膝をついた。鯖缶がないだけで大げさな。

 あっ、こっちの視線に気づいて振り向いた。そしてオレに、正確にはオレが手に持っている袋の中から覗く鯖缶に少女の視線が釘付けになっていた。

 ここでオレがとるべき行動は一つ。

 

 

 

 

「…見なかったことにしよう」

 

 その場を立ち去ろうと外に出ると、同じタイミングで歩き出し追いかけてきた。オレは少し足を速める。

 

「ちょっとアンタ!」

 

 逃げていると思われたのか(実際逃げてるが)追いかけて腕を掴まれる。

 

「なんだ?」

「その袋の中に鯖缶入ってるでしょ?」

「だとしたら?」

「頂戴!」

 

 直球だな。

 

「勿論ただでとは言わない!定価の10倍で買い取って…あっ、マネーカードしか持ってきてなかった」

 

 どこまで本気なんだこいつ。金銭的取引が成立しないと分かった途端、金髪少女は今度は服の中からぬいぐるみ人形を出してきた。

 

「じゃ、じゃあ…この衝撃注意なキュートなドールはどう?」

「いや、オレに人形で遊ぶ趣味はない」

 

 男に人形を勧めるのはどうかと思う。

 

「な、ならムカつく輩に向けて撃てば超爽快なデンジャラスクラッカーは?」

 

 今度はロケットのような形をしたクラッカーを出してきた。

 

「そういう騒がしいのも趣味じゃない」

「もう!なにと引き換えならくれるってのよ!?」

 

 貰うの前提か。というか少女が出している人形やら大きなクラッカーはどうやって小柄な体に収納してるんだ?

 

「そんなに鯖缶が好きなのか?」

「す、好きなんてものじゃないわけよ…長時間摂取しないと動悸が激しくなるし、手足が震えて幻覚も…」

 

 鯖缶に中毒症状を引き起こす成分って入ってたか?それが本当なら知り合いの名医に診てもらったほうがいい。

 それより断ったら貰うまでつき纏ってきそうだな。

 

「…分かった。そこまで言うのなら2つあるうちの1つやる」

「ホント!?」

 

 貰えると分かった途端、少女の表情がぱあっと明るくなった。

 

「後からもう1つねだっても駄目だからな」

「分かってるって。いやーあんた人畜無害でちょろそうだったからガンガン押せばいけるだろうと思ってたんだけど見事的中ってわけよ」

「いらないみたいだな」

「あー噓噓!冗談だから!」

 

 袋から鯖缶を取り出して少女に渡す。

 

「んじゃ、早速♪」

「ってここで食べるのか」

 

 少女はスカートの中から取り出した白いテープのようなものを缶詰の蓋の端に巻く。そしてそこに金属の棒を差し込んだ途端テープは点火し、

 

ボウッ!

 

 一気に煙が噴き上がった。

 

「しまった!火力強いのと間違えた!」

 

 爆竹のように連続的に破裂音を立てて火花を散らしながら中身がロケットのように空中へ打ちあがり、そのまま綺麗な放物線を描いて下降していく。そして路地裏近くに置かれていたピンク色のワゴン車にべちゃっと焦げた中身が墜落した。

 

「あ…あ…」

「…………じゃあそういうことで」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 鯖缶の無惨な姿に呆然とする少女を置いて立ち去ろうとするもすぐに回り込まれた。

 

「なんだ」

「い、今のは結局不幸なアクシデントなわけで…!」

「いや、残りの一個は今日の献立に使うがら」

 

 それにさっき「もう1つねだっても駄目だ」と通告した。

 

「ウゥ…ぐすんっ、日本ノヒト冷タイネ」

 

 貰えないとわかったら今度はヨヨヨとウソ泣きを始めた。さっきまで日本語ペラペラだったのに片言になっている。

 

「ホームシックヲ故郷ノ味デ忘レタイダケナノニ」

「買った鯖缶は国産だが」

「ぐ、ぐぬぬ………細かい事はいいからさっさと寄越すわけよ!」

 

 痺れを切らした少女がうがーと袋に向かって飛び掛かって来たため、オレはひらりと避ける。狙いを外した少女は地面に着地してすぐに態勢を整えて再び飛び掛かってくる。オレはまた避ける。それでもめげずに突進してくる。

 傍から見ればまるでスペインの闘牛と闘牛士みたいだ。

 

「おいおい、人の車汚しておきながらなにイチャイチャしてやがんだ?あぁ!?」

「こんな暑い日に見せつけてんじゃねえよ!」

「「ん?」」

 

 少女の突進を回避しているうちに、路地裏からガラの悪い男達がぞろぞろ出てきてオレ達を取り囲んだ。

 

「はぁ?これのどこがイチャイチャしているように見えるってわけ?あんた達目が腐ってるんじゃないの?あと車汚したのコイツだから」

「おい、何サラッと人に罪なすりつけようとしてるんだ」

 

 どう見ても不良(スキルアウト)っぽい連中に少女は物怖じしない。

 

「外国人の嬢ちゃんは強気だな!」

「俺達相手にそんな態度取ってもいいのか?俺達はあの”ビッグスパイダー”のメンバーだぞ」

 

 聞いてもいないのになんか組織名を名乗りだした。

 

「ビッグスパイダー?なにそれ?アンタ知ってる?」

「いや、オレも知らん」

「はぁっ!?俺達を知らねえってどういうことだよ!?ビッグスパイダーだぞビッグスパイダー!最近ここらで能力者狩りをやってるあの!」

「そんなの知らないわよ」

 

 去年学園都市に来たばかりのオレには武装無能力者集団のことなんか詳しくない。というか今自分達の犯罪を告白したぞ。

 

「まっ、喧嘩をするくらい自分の名前でやらない奴なんて結局雑魚なわけよ」

「ちょ、そういうことは思っても口にするな」

 

 今すぐに少女の口を塞ぐべきところだが、もう遅かったようだ。全員額に青筋を立てて殺気立っていた。

 

「~~~!テメェ……女だからって付け上がってんじゃねえぞ!!」

 

 バットを持った1人が少女に向かってバットをおおきく振り上げてきた。少女はそれに物怖じせずに反撃できるよう態勢を整えだした。

 

 だが、

 

「お待ちなさい!」

 

 突然の乱入者の登場で両者ピタリと止まる。

 

「大勢で女性に暴力を振るおうなどという狼藉、お天道様が許してもこの常盤台の婚后光子(こんごうみつこ)が許しませんわよ!」

 

 突然現れたサラサラの長い黒髪の常盤台生が手に持った豪奢な扇子を広げ、昔のドラマのキメ台詞を言う。

 

「ちっ、能力者かよ」

「なんか知らないけどこれで形勢逆転なわけよ!やっちゃえー」

「おい!あれを使え!」

 

 能力者の登場に不良たちの動きに変化があった。リーダー格らしき男がそう叫ぶと、どこからともなく黒板を爪で引っ掻いたような耳障りな甲高い音が周囲に響き渡る。

 

「っ!?」

 

 すると婚后と名乗った常盤台生は急に頭を押さえて蹲ってしまった。

 

「……こ、これは……⁉︎」

「ちょっとアンタどうしたの!?」

「はっ、残念だったな。能力が使えなきゃ、常盤台のエリートさんもただのガキよ」

 

 どうやら婚后が苦しんでいるのはこいつらが原因のようだ。 

 

「いろいろと予定が狂っちまったが、まず先にこいつを痛めつけてやる!」

 

 

 そう言いつつ、婚后にバットを右手に持った男が近付く。考えるよりも体が動く、そんな文章で良く使われる表現を、オレは体感していた。

 男がこれ以上の行動をする前に、袋を地面に置いたオレは地を蹴り肉薄する。

 男が彼女に向けて振り上げようとしていた右腕を摑み取り、動きを制限した。

 

「なっ……!」

「え……?」

「いつの間に!?」

「アンタ……それでその子になにしようとしていた?」

「あ、っ、つ!い、痛い痛い!」

 

 周りがオレに戸惑うが、オレは気にせず腕を捻る。男は持っていたバットを落とし、悲鳴を上げながら左手で必死にオレの腕をつかみ剥がそうとする。

 

「ンの野郎!」

 

 横から他の男が拳を振り上げて迫ってきた。オレは掴んでいた男を向かってくる拳の方へと引き寄せる。

 

「ぐぼっ!?」

「あっ、す、すまん……」

 

 バットの男を盾にしたことで、見事拳がバットの男の顔に直撃した。

 

「囲め囲めぇ!能力者じゃないならタコ殴りにしろ!」

 

 残りの不良が一斉にかかってくる。しかし、たかだか人間6人では、オレの相手は務まらない。

 

 一人目の頭部を蹴って壁に打ち付けて気絶させる。

 二人目の鳩尾を肘で突いて卒倒させる。

 三人目はすばやく投げ飛ばし、四人目は裏拳で殴りつけ、壁に強打させる。

 

「とりゃああ!」

「ぐふっ!」

 

 蹲る婚后を狙った奴がいたが、金髪少女が飛び蹴りで対処した。

 

「く、くそぉぉっ!」

 

 男達のうちの一人がオレに向かって走り出し、手に持ったナイフを突き出す。刃の先端が腹に届くか届かぬかというところで、オレはナイフを握る男の手を払い、同時に身を軽くよじった。ナイフは空を斬り、脇へと素通りする。そして次の瞬間に男の頭に強烈なアッパーカットを叩き込んだ。

 

「な、なんだよコイツ………」

「おい逃げるぞ!」

 

 動ける奴は不利と判断したようで、路地裏近くに停めていたワゴン車に乗り込んで逃走した。

 

「……流石にやり過ぎたか」

 

 不良全員を倒したあと、オレはため息を吐きそうになっていた。上条たちと一緒じゃないというのに、夏休みに入ってから不良と喧嘩になったのはこれで2度目だ。黄泉川先生にまた色々と小言を言われそうだ。

 取り敢えず常盤台生に声を掛けた。

 

「大丈夫か?」

「あ、はい。ありがとうございます……」

 

 あの不快な音が聞こえなくなってから頭痛は収まったようだ。きょろきょろと辺りを見回すと、あの鯖缶依存症の金髪少女の姿が見えなかった。

 

「アイツどこ行った?」

「あの方なら先程袋から缶のようなものを取って立ち去りましたわよ」

 

 あいつ……。今度会ったら絞めるか。

 

「あ、あの……何かお礼を……」

「いや、そういうのはいい」

「そ、そういうわけには……!」

「じゃ、代わりに警備員(アンチスキル)に通報しておいてくれ」

 

 それだけ言って、オレはその場から立ち去った。

 なお寮について中身を確認したが、炎天下に長い時間いたため刺身が駄目になっていたのは本当に残念だった。

 

 

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