というわけで
菜々さんのくっそ重たい幼馴染ちゃんが引っ越して離れ離れになって、でも菜々さんを忘れられなくて、会えないなら仕事に熱中して忘れようということでとある中堅プロダクションのPになったのに、仕事で菜々さんと再会してしまうSSです。
主人公はオリ幼馴染ちゃんです。
よかったらどうぞ。
あの時から何年も経って、大人になってしまった今でもふとした拍子に思い出す。
ウサミンという星を。二人で誕生させたあの日々のことを。
きっとあの子は覚えてない。いや、覚えていなくていい。ウサミン星の姫はたった一人でいいのだから。
これは私だけの思い出。誰にも言うつもりはないし、あの子へ押しかけていくつもりもない。
だけど、こうして振り返ることだけは許して欲しい。私の人生の中でもかなり楽しい時間で──叶う事ならあのまま一緒に大きくなっていきたかった、そんな記憶。
そう。かつて私は、あの星の住民だったんだ。
──────
『隣の席だね、よろしく!』
菜々ちゃんとの出会いは、小学生のころ。その時から、あの子はアイドルが大好きだった。
たまたま席が隣になって、その頃私もアイドルが好きで、すごく盛り上がった。
いつか私もあぁなりたいよね、ここが最高だよねって熱く語り合ったもの。
『ナナね、アイドルが好きなんんだ! だから、アイドルになりたいのっ!』
さらにアイドルだけじゃない。当時流行ってたアニメにもドはまりしていて、その話でも盛り上がった。ちょっとしたごっこ遊びなんかもやったりしたのを覚えてる。
『──ねぇ。これ、ナナたちでも作ってみないっ?』
そしてある時、自分たちでもちょっとしたアニメみたいな設定を作ってみようってなった。最初は作るだけだったけど、段々とその設定の新しいアイドルになってみようという方向にもなっていっていた。
とりあえずということで、舞台は別の星になった。新しい架空の星か、それとも火星とか土星とかの今あるって分かってる星にするのか。これもかなり楽しかった。元々、何かを0から作っていくってことが好きだったのかもしれない。
『じゃあ、名前はウサミンにしよう!』
程なくして、その星の名前は"ウサミン"になった。
理由は確か、学校で飼ってたウサギが可愛かったから、みたいな感じだったと思う。
名前やそのコンセプトが決まってからは、設定作りは順調だった。
ウサミン星にはウサミミの生えたウサミン星人がいるだとか、アニメの妖精の世界みたいな感じでふわふわしているだとか、電車で行けたら面白いよね、とか。思い付いたらとりあえず入れてみるみたいな風潮になっていってた。
『今日から二人とも、ウサミン星人だからねっ!』
設定が固まってきたらあとは、それに成るだけだった。
ウサミン星人になりきって、それを踏まえてアイドルのように歌ってみたり踊ってみたりしていた。
つまり、ナナちゃんオンリーステージ。
私は差程アイドルには興味がなかった──といえば嘘にはなるけど、菜々ちゃんほどの熱意はなかったから、見ているだけでよかった。とはいえ、ウサミン星人として応援はしていたけれど。
『ウーサミンっ!』
一緒に作ったウサミンという星、設定を生かしながらそこで輝いていた菜々ちゃん。歌ってるときも踊ってるときも凄く楽しそうで、まさにアイドルといった感じだった。
ずっとこうして、菜々ちゃんが本当のアイドルに駆け上がっていくところを見ることが出来たら……なんて、思っていた。
──突然、私は引っ越しをすることになってしまった。場所はここから飛行機の距離。めちゃくちゃ反対したし、めちゃくちゃ泣いた。これからが楽しくなるところなのに。私はもっとここにいたかったのに。
でも、ダメだった。仕方がなかった。何度も謝られた。そうなっていけば、段々と無理なんだと理解してしまう。
『はなればな゛れ゛になって゛も……ナ゛ナ゛たちはウ゛サミン星人た゛か゛らね……!』
送別会の日、菜々ちゃんは誰よりも泣きながら見送りをしてくれた。ウサミン星人である証の折り紙で作ったウサギ、今でも持ってるよ。
向こうに行ってからも、そこで中学生になっても高校生になっても、私の心の奥底ではずっと菜々ちゃんのことが気になっていた。
私と一緒に作ったウサミン星はどうなっちゃったのかな。アイドルになりたいって今でも思ってるのかな。前のところにまだ居てくれてるのかな。きっとさらにアイドルらしくなってるかもしれない。なんなら、私が知らないだけでアイドルデビューを果たしてるのかもしれない──などなど。
重たいって自覚は勿論ある。でも、それほど私にとっての菜々ちゃんは大きかったし、あの日々は掛け替えのないものだったんだ。
旅行なんかする機会があれば、元の地元に行きたいと提案をするつもりだったし、お金が貯まれば自分だけでも行こうと考えてもいた。
そんな中一回だけ、その地元に帰ったことがある。
『──さん……? ごめんなさい、あまり覚えていなくて……菜々は今は一人暮らしをしていて、家にはいないの』
だけど、菜々ちゃんはいなかった。既に実家を出て一人暮らしをしているのだとか。
さらに仲がよかったのが昔過ぎたということもあってか、向こうも私のことを忘れていた。そのため連絡先も得ることが出来なかった。
また、たまに菜々ちゃんがデビューしてるのかを調べたりなんかもしていた。残念ながら、見つけられなかったけど。
こんなに菜々ちゃんのこと──さらに言えば、アイドルのことについて沢山調べていたからかもしれない。
気がつけば、私はとある芸能事務所のプロデューサーに就任していた。
半ば、もう菜々ちゃんに会えないことが分かっていた。だから、大きすぎる菜々ちゃんを少しでも忘れられるように、他のアイドルの子を見つけてプロデュースしたかったのかもしれない。
そこそこの大きさではあるが、それ以上ではないという程度の規模のプロダクション。そこで私は、事務所に所属しているアイドルのプロデュース活動を行っていた。
「おはよープロデューサー」
「あ、うん。おはよう。今日も頑張ろうね」
「はーい」
ちょっと間延びした声をしてるのが今の担当アイドル。ちょっとなまけ癖があるけど、やるときはしっかりやる子だ。そこは私自身がスカウトしたから間違いない。
「それ、企画書?」
「うん、あの346プロとの共同のお仕事だよ」
「うへぇ、超大手じゃん。よく取って来たね、そことの仕事」
「まぁね」
菜々ちゃんの代わりを探していたとはいえ、この子を輝かせたいという思いは本当。そのためにはコネクションを大事にしないといけない。だから大手の346プロに接近して、仕事をもぎ取ってきた。
この子には346のアイドルの子と仲良くなってもらうこともそうだし、どんな風なのかって雰囲気も掴んできてもらいたいって思ってる。正直それさえ出来ていれば仕事は二の次でいい。いやよくはないけども、優先順位はそっちのほうが高いって話だ。
「いつ頃なの?」
「二週間後。だから準備期間はちゃんとあるから、覚悟の準備はしておいてね?」
「はーい。ほどほどにがんばるよ」
──時間はあっという間に過ぎる。仕事に打ち込んでいたら、いつの間にか二週間が経っていた。あの子と準備の時間はあるなんて言ってたあの頃が懐かしく思えるほど。
ある意味失敗出来ない仕事ではあったから、ここ最近はすごく集中出来た。お陰である程度は菜々ちゃんを忘れることが出来た。……こうして思い出してる時点で意味は然程ないのかもしれないけれど。
少なくとも、過る頻度は減った。ここに菜々ちゃんがいてくれたら、もし菜々ちゃんがうちに来てくれたらどんなプロデュースが出来るかな、とか。たまに思うくらい。
重症すぎるのは本当に自覚してる。小学校の頃の幼馴染の思い出をいつまで引きずってるんだよって……。
無くさなきゃな、と振り返った瞬間に自分を切り替えて仕事を行う。そんなことの繰り返しだった。
きっと、いつかは忘れられるだろう。そんな思いで臨んだ大仕事。私の思い出は急速に掘り起こされていった。
「──346プロダクション所属、安部菜々ですっ! 本日は見学という立場ですが、どうかよろしくお願いしますっ!」
嬉しいような、どこか寂しいような、少し悲しいような、襲ってくる様々な感情。なんとか表面上は普通にしていたけど、内心はめちゃくちゃ叫びまくっていた。
……幸いなことは、向こうは何も覚えていなさそうだということかな。
うん、それでいい。きっと菜々ちゃんの人生には、私は必要ではないはずだから。
続きものなのできっと続く。