【IS×DARKSOULS】佐々木潤という男【オマケ】 作:エーブリス
俺も思う…というかここで書きたい戦闘描写消費しないと多分何処でも消化できない。
にしてもこの小説…というか前作?本編、テーマが割とガチ目に「火を付けろ、燃え残った全てに」なのよね。
まあ火をつけるどころか結局、えっと…何?みたいな状況になったけど。
黒色と金色…シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ。
この二人によるコンビネーションを崩すというのは、実は佐々木にとって現在最も骨の折れる事の一つである。
何より彼女ら、小手先が効かないのだ。
不死として長く生きていれば、半端な強者を
火の時代の総てを背負った彼ならばその数は計り知れないだろう。
正直、現状一番経験の浅い一夏はどれも引っかかる。
しかし飲み込みもまた異常に早い男だ…いずれ(それも遠くない未来に)全部の段取りに対応してしまうかもしれない。
セシリアと鈴音は…実の所、独自の動きや機体特性のせいで、使える段取りがかなり少ない。
相性が極端に悪い場合が多いのだ…無論、その逆で極端に相性の良いものもある。あの二人は今後、何かと妙ちくりんな事で、下らない敵対をしそうなので、対策される事を防ぐために基本使わない。多分あの二人は一度見た技を二度も喰らわないくらいの練度がある。
箒は技量面で上記二人と案外似たり寄ったりだが…もう手遅れだ、クソ兎――――もとい、束博士が用意した第四世代とやらの性能を確かめる為に幾つか使ってしまった。
元々剣道で(同年代間の大会だが)日本一を取るくらいには近接戦に長けている少女なのだ…まだまだ道場剣術のクセが抜けきっておらず、一夏同様詰めが甘い部分が数多く見受けられるが、それでもそこらの年少者とはワケが違ってくる。
で…この二人はというと、そんな形式ばった段取り等すべて打ち破ってしまった。
まるで無暗に振り下ろされた虫網を避ける、身軽な蝶々のように。
「その首、貰った!」
…とは言え、まだまだその先――――小手先の工夫が十分通じてしまうレベルだ。
佐々木自身も進化を続けている…追い越すのは、まだもっと先の話にはなるだろう。
「お前の刃でか?
笑わせるな小娘ッ…!」「なっ…ぐッ!?」
ワイヤーブレードを囮に切り込んで来たシュバルツェア・レーゲンのプラズマ手刀を曲剣パリィで弾き、鳩尾に膝蹴り…からの大曲剣の回転斬りを叩き込む。
ここで追撃を加えようとは考えなかった…既にラファールカスタムの射程内に居る。
「ッ…!
見えてないと思ったか」
「もう少し遅く気付くと思ってたッ…!」
アサルトライフル2丁で急襲を仕掛けた彼女の迎撃には、幾つかの闇術が使われた。
鈍いが追跡性能に長ける、黒く重たい物質は、その色故に視界をより塞ぎ、その重さ故に数発の弾丸ならば容易に弾く。
そして追跡能力を犠牲に、勢いよく放たれた飛沫がこれ以上の進撃を防ぐ――――事は無かった。
「何度も同じ手は喰わないよ!」
いつの間にか、ショットガンに持ち替えていたシャルロットは…驚くべき事に弾幕の間を縫い、最速で佐々木の元に近づいているのだ!
飛沫や深み、そして【追う者たち】の軍勢が…まるでざるの目が如きだ。
どうしても避けられない弾幕はショットガンで無理くり押し退けていた。
その衝撃力は、重たい闇の弾幕を容易く無力化してしまう。
「全く。
正しい判断だッ…!」
佐々木は追撃に使うハズだった大鎌を引っ込めた。
そろそろ迎撃を考えなければいけない…それも二方向。
…視界の端で、蒼電が弾けるのが見える。
レーゲンのレールカノンだ、あの一撃だけは喰らいたくはない…シールドエネルギーがLoD*1の巨体ごと大きく吹っ飛んでしまう。
そして反対側は言わずもがな、ショットガンで武装したラファールカスタム。
【闇の飛沫】を押し返す衝撃もまた1発でも喰らうのは御免被る…状況はかなりマズかった。
前回もこの状況になったが、その時は一直線に挟み撃ちを狙ったシャルロットをレールカノンの射線上に誘導し、フレンドリーファイアを誘発する事で事なきを得た。
だが二度目は確実に対策してくる…。
――――実を言うと、この状況を簡単に脱する“反則技”は数多く所持している。
素人や馬鹿をより楽に狩る為の“段取り”とは比較にならない…神秘の理不尽と外連味を存分に喰らわせる。
「ッ…(態々使う程じゃない、今は…)」
けれども今回、名目上ではあるが、目的は二人の稽古なのだ。
先ずこんなものを使われては為にならないし、それ以前に彼自身のプライドが許さなかった。
少しリスクは伴うが…古典的な手段による妙技を彼は用いた。
LoDの周囲にブワリと灰が舞い、大きな機影が霞む。この時二人はまだ気が付いて無かったが、彼の装甲は大いに“痩せて”いた。
「なんだッ…!?」
何か不味いという直感に従ったラウラは、いち早くレールカノンの引き金を引いた。
だがその瞬間にLoDは大きく、そして普段よりも素早く動いた為に当たらなかった。
再び照準を合わせようにも、彼はシャルロットの追従を振り切りそのまま彼女の背後へと回った。
「え、えッ!?
何が――――」
微妙に鈍い普段のLoDからは考えられぬ超速に戸惑う隙に、彼女の死角より細い影が一瞬で迫る!
上段に構えた大剣と共に、一回転しながら飛び込んで来た佐々木の刃は既に目前だ。
シャルロットは咄嗟に盾で防ぐ…が、ただでさえ勢いの乗った一撃は、先の闇や深淵のリソースさえつぎ込まれ、衝撃力が増していたのだ。
物理盾は軽く拉げ、衝撃にすっ飛ばされた彼女はラウラの元へと一直線に行く。
「ッ!危ない!」
咄嗟にレーゲンのAICが発動し、ラファールカスタムの飛翔エネルギーは一気に相殺される。
だが…その為にLoDへの警戒が一切削がれてしまった。
「…終わりだ」
――――雷の極光が、アリーナを包んだ。
◇―――――――――――――――◇
【5話:
◇―――――――――――――――◇
さてさて、半ば殺し合うような稽古が必要になったのか。
それには時間を巻き戻――――すのではなく、ちょっと先送りする必要がある。
アッでも先どっち説明しよう…。
まあいい、先ずは整備ドックでの話である。
この時佐々木は整備科の先輩より、ちょっとした講習を受けていた。
「つまり、ここを…こう、という訳ですか…」
「そうそうそう、そんな感じ。
――――というか佐々木、整備科志望なの?」
「いや、志望自体はパイロットですが…この手の専門知識が窮地で役立った事がありまして。
敵の意表を付く方法は、少しでも多い方がいい」
「成程ぉ…戦うエンジニア。
アイザック・クラークみたいな?」
「…?。
すみません、多分知らないゲームです」
「あぁ………ま、そうよね」
こうした、講習終わりの他愛ない会話の中、工具類を片付ける途中…彼はある一角を注視した。
「おーい。
佐々木そんなに気になるの?あのIS」
「っ!はい…整備室に入る度見かけはしますが、動いている所を見た事がない」
「そりゃあ、まだ完成してないからね…本当は倉持技研が開発してたんだけど、ほら、織斑――――あぁ、弟の方ね。
そっちの白式に人員が取られちゃったとかで、残りを一人で作ってるんだとか」
「一人で?
それを成し得たのは学園で一人くらいだったハズですが…」
「その“一人”の妹なのよ…あの子。
それでムキになっちゃってるのかなぁ…」
整備科の先輩がそう言った後、未完成の専用機…その隣でOS開発の作業に勤しむ持ち主、更識 簪の姿を佐々木は見た。
――――正直な所、簪の事情は最初から知っていた。
今こうして態々先輩に尋ねたのは、交流を深める世間話の一端であり、また“事の真相”を万が一にも悟らせないためだ。
向こうの作業を暫く見届けた後、彼は荷物を纏めた。
「…本日はありがとうございました」
「この後は操縦の自主練?今日は誰と」
「件の、弟の方の織斑ですね。
相変わらず…いや、最近ちょっと“隠し芸”のネタが割れ始めて、かなりヒヤヒヤしています」
「へぇ、それにしては余裕そうだけど…それじゃ、頑張って」
「はい。
それでは」
会釈程の礼をして、彼は整備室を去った。
出入り口で再び…簪の様子を眺めながら。
誰もが寮へと帰って尚…簪は作業を止めていなかった。
辞められるわけが無かった、例え自らの身体を壊したとしても。
――――ふと、疲れから工具を取り落としてしまう。
慌てて手を伸ばそうにも、高所より滑り落ちてしまったそれは既に手が届かぬ程下方の先にある。
…しかしそれが地面に叩き付けられる事は無かった。
寸での所で手が伸びて、工具を上手くキャッチする。
「…“工具を落としてはならない。
工具は整備士の命だ、その命で行われた整備が――――…”」
「“…――――パイロットを護り、その護られたパイロットが多くの人々を護る”…って、所…?」
「実はそこまで考えて無かった」
突如現れた男…佐々木は、工具を簪へと手渡した。
この二人は前々より、浅からぬ面識がある。詳細は本編の【第10話『外伝 虜囚の詩』】をチェックだ。
「…でも、やっぱりセリフを覚えるくらいには好きなんだね、
「魔戒烈伝でのセリフだけ、覚えていただけだ。
斧使いだからという理由ではないな、そもそもアレを忘れろというのも中々難しいだろ」
「それも…そうだよね」
簪はこの一言の後、ソフトウェア上での作業を始める為に端末を手に取る。
傍からそれを見ている佐々木は、あまりにも速い…速過ぎる情報処理に舌を巻く他無かった。
綴られるプログラム言語は、まるで燃え広がる火の様だ。
火はとても足が早い…古の武人が、進撃する様の理想をソレとした様に。
「しっかし、門限は大丈夫か?
とっくに日は落ちている」
「許可は貰ったから…。
それに、こんな所で止まる訳には――――」
そう息巻いた彼女の意思とは裏腹に、端末は残酷にもエラーを吐き捨て、動かなくなってしまった。
これには簪も、がくりと項垂れるしか無く、その腕で顔を覆った。
失望、絶望…あらゆる方面から、天命が望みを断ちに来る。
「…どうもここいらが引き際か」
機械に疎い佐々木でさえ、それだけは分かった。
もう止めにしようと、その小さな肩へ触れようとした時…僅かに声が漏れた。
「…さえ。
白式さえ、無かったら」
「!…」
「…っ!
ごめん。やっぱり、今日は…これくらいにしておく…」
「あぁ…そうだな」
慰めの言葉を見つけ損ね、何の変哲もない言葉を掛けた彼は…簪をエスコートするように先を歩いた。
身も心も疲れ切った少女を――いくら学園内と言えども――一人で歩かせるのは、とても危うい。
佐々木は特別な騎士道精神の類など持ち合わせていないが、必要最低限の倫理は存在している。
――――が、彼の気遣いはちょっとした不幸で吹き飛ぶ。
「お!佐々木、こんな所に…」
「ッ…。
お前、お前なぁ…!」
整備室を出た瞬間、何故か居た一夏と、簪共々遭遇してしまった。
織斑一夏、お前は何故こうも間の悪い男なのだ…彼女の疲れは、6割方お前が原因だというのに。
そしてこの件に、一夏が悪い要素は…どんな贔屓目に見ても1割か2割ある程度なのが本っ当に…最早言葉にもならない。
「というか…この子は?」
「ッ、ああ、待て。
彼女は今べらぼうに疲れててな…他人に話しかけられるだけでダメージになる。そっとしておいてくれ」
「?、あ、あぁ…それじゃ、俺先に部屋戻ってるからな」
「あぁ…出来たら俺の課題片付けておいてくれー」
「それは自分でやれ」
やはり他愛ない会話で一夏を見送った後…彼は右手で、己が顔を覆った。
「
最悪だ、嫌になるよな…これで前に進めと、前を向けと、皆から責められるのだから」
「…」
全くだ。
もしこんな日が私にも訪れるのならば、なにもかも
「…勝手言って悪かった。
あんまり適当にあしらうとアイツ、お節介発動するんでな」
「ううん、大丈夫」
こんな日は…何か気の紛れる事でぱぱっと忘れてしまうのが一番だ。
…だから簪はその夜に、そうしたのだった。
画面の中で、絵画がグニャリグニャリと歪み、恐ろしい怪物となった。
しかし、純白のコートを纏う主人公は、怖れを見せず、一歩一歩と近づく。
そして…自身が翳した剣により、彼は黄金に輝いた。
…ここの所はアニメばかりだったが、今日はどうも気が乗ったので特撮作品を見ていた。
こんな
苛烈で、不器用であっても…己を助けてくれる存在が。
――――そして時が進み、明くる日の放課後。
佐々木は食堂にいた…つい最近に周知された事実なのだが、彼は揚げ物メニューの増量キャンペーンがある日に必ず来る。
高齢キャラにありがちな、油分による胃もたれ等。
そんな軟弱な結果など、この男には存在しないのだ。
既に“その生き方”を止めたとは言え、彼は元より巨大な…そう、炉心であり、火でもあり、そして薪ですらある。
その意思の名はどうであれ、事実から逃げられる者など居やしない。
故に、彼はあらゆる糧を燃やし切れるのだ。
…まあそんな事はどうでもいい。
ザクリと、エビフライを頬張りながら…佐々木は得も言われぬ予感を感じて居た。
悪い予感だ。
永い戦いの中で染み着いた、ある種の第六感だが…これが発動して助かった、という事はあまり無い。
寧ろこの感覚は、助かり難い何かの予兆…彼自身はそう考えていた。
そしてこれはあくまでも予感、決して予知では無い。
…が、こうも数日、簪につきっきりであると、最早予知にも成り果てる。
いや、勝手に付き纏っているだけだが。
エビフライの尻尾を噛み砕き、飲み込んだ。
そして食器を返却口に片付けて、佐々木の意思は…彼をアリーナへと導く。
一応、ISスーツは普段から制服の下に着込んでいる。
他のそれとは違い、分厚くごつい皮鎧のようなそれを隠す為、制服にも一工夫が加えられている。
そのために制服はサーコートが如き仕立てとなり、左肩には肩当が備え付けられ、シルエットだけなら上級騎士の装束の様になってしまった。
これでも着脱がスムーズに行われる工夫があるのだから、技術の進歩とは全く侮れぬ。
急ぎで着替えていると、不穏極まりない破裂音が轟いた。
「ッ!クソ!(何でこうも身に沁みつくまで理解しないっ…)」
タイムリミットの迫りを感じ、彼は制服をロッカーへと乱雑に押し込んだ。
後でアイロンがけ確定だが、それどころではない。
…正直、一夏が何か変なものを誤爆しているだけで居てくれ、とは考えた。
彼にそれほどの恨みは無いが、あの男なら色々とタフだ…案外ケロッとしてくれている。
「ッ…!!!(起きろ、レガシーオブDARKSOULS…!)」
アリーナに出ると共に、佐々木はISを呼んだ。
物理量子とソウルが眠り目覚める時、それらは混ざり合い、特異な装甲を形作る。
「どこだ、クソ――――!(…いや、待て。あの爆音は天井辺りから響いていた…つまり上)ッ!そこか!」
サッと見渡して、直ぐに佐々木は現在絶賛落下中の“何か”を発見した。
それが更識簪…ひいては打鉄弐式であるのは直ぐに理解できたが、どうにも間に合いそうにない。
相変わらず、彼のISは鈍いのだ。
装甲を脱げば、今度は耐衝撃力に問題が出て来る…受け止める必要があるのに、それは本末転倒だ。
かと言って“闇に火をつける”手法はチャージに時間が掛かり過ぎる。
なので彼は――――今まで実戦で使った事の無い手法に躍り出た。
これが皮肉なのだろうか?試験段階のトラブルを、試験段階の手法で止める等と。
必要なのは…総ての元手たる“火”に、作用を司る“結晶”と、そして力点の“雷”だ。
その3点は、速やかにLoDのPIC機構群へと干渉し…オーバーロードを開始する。
この暴れ狂う力に指標を持たせるため、彼は右手に大剣を握る。
打鉄弐式との距離は遠いが…重力の射程内ではある。
最早何を迷うものか。佐々木は思い切り、剣の切っ先を…大地へと突き立てた!
半径にして、20と数m程…アリーナの地表が、上空への斥力を発し始める。
それと、地球本来の重力にやんわりと挟まれ…地面から約1.5m地点で打鉄弐式の落下は止まった。
――――この違和感には、流石に簪も気が付いた。
自由落下の中、手放した意識をまた取り戻し、違和感の正体を見る為に開けた眼は…先ずLoDを捉えた。
「さ、佐々木…君?」
彼女は、彼の姿によって何処か安堵したのだろうか…緩みそうになっていた緊張だったが、すかさず佐々木が「まだだ」と引き締める。
「悪いが、こちらも実験中の技を使っちまった。
何が起こるか保証できない…衝撃に備えよ」
「ッ、分かった…」
LoDが発していた、幾つかの“力”が徐々に徐々にと力を弱め、ソレに比例し斥力も萎びていく。
幸い、先の斥力で打鉄弐式は90度回転し、彼女が仰向けの耐性と成った為、脳天から落下する事態は免れた。
地表まで、あと0.5㎝という所で、遂にLoDは…ISと言うマシーン部分の限界を迎えた。
PIC機構群は急激に機能を停止し、内部機器が緊急冷却を行うために飛び出した。
その瞬間、ドッ…と地面スレスレから落とされた簪だったが、言いつけ通りに耐衝撃体勢を取っていたため特に問題は無かった。
「ッ。
悪い、簪」
一先ずの謝罪の後…彼は凍結の魔法を使い、機器の冷却を早めた。
同時に、この凍結を最初から併用すればよかったか?と後悔もする。
「大丈夫だよ…。
それよりも、佐々木君のISまで」
「ただのオーバーヒートだ。
――――そちらの方が、随分派手に吹っ飛んだようだが」
「…。
整備室に戻って、原因を調べなきゃ…」
簪のいう通り、今回のトラブルは今のところは原因不明である。
だが、佐々木が「その前に」と言う様に、やらなければならぬ事がある。
…これだけ事が大きくなってしまったのだ、組織としての学園は…それを野放しにされる事を望まない。
この先、始末書があるぞ。
…そんな冗談を考えてしまった彼は、随分
まるで空が燃えている様だ。
夕焼けの“あか”は、それ程に濃い。
誰があの空を灼いてしまったのだろうか?こんな…大きな影が立ち上る程に。
「簪ー。
差し入れ、持って来たぞ」
「えっ…あ、ありがとう」
「なぁにこれくらい。
…カフェオレとミルクティー、後ブラックとストレートティーだな。どれにする?一応全部あったかいやつ」
「それじゃあ…ミルクティーで」
缶入りの飲料を簪に手渡して、佐々木は持って来た端末等の電源を入れた。
「それで…何が原因だった?」
「制御系の、なにもかも。
でも、次こそは…!」
彼女は差し出されたミルクティーを一気に飲み干した後、再び自身の端末へと向き合い始めた。
…佐々木には見えてしまった。
彼女の眼に、余りにも強烈な大火が映っている事が。
一体どんな悪神が、ここまでのぼやを焚いて彼女を惑わせている?
そして…その劫火の前にある“影”は、最早見るまでも無く巨大で強烈だった。
「…なあ、簪?」
「?、何か…」
「あぁ…俺は、もしかすると失礼な事を言うかもしれない。
それに対して、怒りたかったら怒っていいから…聞くだけ、聞いてくれ。話を」
言葉にある自身の無さは、説得できるかどうかの不安であった。
「う、うん…それで、話って?」
「…。
…いくら影を追いかけても、その影に喰われて消えるだけだ。止めた方がいい」
「ッ…」
簪は、目の前の不死が何を言いたいのか理解出来た。
同時に、何故自分が怒る事になるのかも…何せ今の言葉は、彼女の“原動力”から“努力”まで、何もかもを否定したのだから。
何が解かる?そう怒りをぶつける事も出来た。
けれども…彼女はそうでは無く、話を聞き続ける事を選んだ。
「続けて、いいか?」
「…うん、大丈夫」
「あぁ。
その、だな…簪、お前が
その火が…きっと、巨大な影を生んでいるんじゃないか」
解かるさ…と彼は、人が火に惹かれてしまう性分である事を肯定した。
闇が深い程、その灯火が希望の様に思えてしまう。
「…」
「…でも、その影は
例えソイツがお前とどんなに近い関係にあったとしても、お前にはまた別の…お前自身の影がある」
「私の…」
「他人の影になんて、なるもんじゃない。
例え追い越せたとしても…お前は、ずっと誰かの影であるままだ。それが決まった瞬間に、その“更識簪”という人格は…溶けて消えて、死ぬ。何も変わりはしない、何も良くならない」
嘗て佐々木自身もなりかけた、影の成れの果てだ。
彼が【彼】から【王】になったまま…時代と言う大きな影の化身でしか居られなかったのかもしれない。
そうでなくとも…自分は元より薪の王という、グウィン王の後追いでしか無かった。
現代という光に埋もれた影…その果ての虚空に消えていくだけだった、嘗ての定めを…今や恐ろしくさえも思う。
この経験が、言葉に籠っていいたのだろう…故にどこか拙くとも、雰囲気的な説得力は生まれたようだ。
「…随分と、無責任な事を言うとは思っているよ。
それでも…お前はお前だ。影も、火も…お前自身の内側に――――」
「でもッ!」
簪は衝動に駆られ、勢いのまま立ち上がった。
その勢いを、しかし何処に向ければいいのやら…ただ両の掌を握り、やり場のない感情を噛み締めた。
「私が…私が、お姉ちゃんよりも優れている所なんてっ」
「それが人生だ。
人間、自分の良い所なんざ中々見つかりはしない…」
彼女に連動するように、佐々木もまたゆっくりと腰を上げた。
火とは…人間にとっての革新の象徴でありながら、厄災や災害…つまり“良からぬ総て”の化身ですらある。
だからだろうか?人の良からぬ部分が、煌々と光を放つように目立つのは。
そして、その右手を…落としていた彼女の視線の先に差し出した。
焼け跡の底に沈んだ、何かの“本質”を救い上げる様に。
「…俺も探すよ、一緒に。
タッグマッチも近い…俺と組まないか?」
「えっ…?」
言ったからには、最後まで責任は持つ。
そのつもりで…この日の為に布石を打ち、それで生じる総ての過ちに禊を行った。
…その行動を見て、簪の時間は止まった。
どうして?彼とはそこそこの友人でいるつもりだったが、ここまで手を尽くしてくれる間柄だとは思わなかった。
「あー、いやぁ、前々から言い出そうとは思ってたんだ。
ちょっと最近…いつもの奴らと喧嘩しちまってな。一夏もアイツはアイツで倍率酷すぎる」
彼が飄々と語った“喧嘩”こそ、冒頭のシャルロット及びラウラとの稽古である。
「…まあ、それにな。
知り合いが願いを抱えたまま“陰我”に飲まれちまう所を見てるのは…何時だって堪える」
「…」
簪は、まだ差し出された手を見つめていた。
というよりも…現実が飲み込めていない。
何故ならそれを受け入れたら、自分の目の前に“ヒーロー”が現れた事になってしまうからだ。
どこまでも強く望みながら…それでも夢のまた夢と諦めていたそれが。
それに…。
「…今更、誰かの手を借りるなんて」
「いいか簪、“恥”と言うのは…醜態晒して生き延びる事じゃあない。
カッコつけようとして、何も出来ず朽ち果てる事を言うのだ…生きていれば、その時できなかったカッコも付けられる。
逃げていいのだ…また戻ってやりゃいい…!」
さあ、と…一層手を伸ばした。
「だとしても、今からじゃ打鉄弐式の完成は…」
「それは問題ない、ちゃんと秘策を用意してきた。
いや、別に大した策では無いが…確実ではある。安心しろ」
これが最後の一押しだった。
現実だった、英雄は…今、目の前に、自分の為に現れている。
今だけでも、いつまでも、どこまでも…彼女だけを守りたいと。
…あぁ、差し出されたその手は確かに存在する。
それは、只々雄弁に伝えていた。
だからその手を掴んだ、それこそが…本当に必要な、彼女の
「…よし。
それじゃあ…早速“秘策”を打ち出すとしようか」
「それと、タッグの申請…」
「あぁ。
確か今年からネットで出来るとかだったか?」
はい、特撮特盛だよ!