ご主人様とお気楽ペット 作:ちゃっぱ
私は今ここから逃げなければならない。
あの白衣の魔の手から。凶悪そうに見える注射からも。
「ぶぃぃー!」
「大丈夫だよブイ君! いだっ」
思わずご主人様の頭の上に飛び乗ってそのままどっかの棚の上に移動し、こちらを見上げてくる人間たちを全身使って威嚇した。尻尾も大きく膨れ上がっていて今ならアイアンテールぐらいは出来そうな気がする。まあそんな気がするだけで、まだちゃんと技が使えるかわからないけれど。
「お願いだブイ君。君の身体がちゃんと健康かどうか調べるために必要なことなんだ。大丈夫怖くはないよ。すぐ終わるからね」
「ぶぅーい!」
そんなこと言ってもご主人様あれだよ!
ご主人様が紹介してくれた信頼できる先生ってなんかすごく変なんだって! 多分私の特性『きけんよち』なんだと思っちゃうぐらいにはやばいって。まるで伝説のポケモンを前にした悪の組織のボスみたいな感じだよ!
つまり私が伝説かなんて考える暇がないぐらいこちらを凝視する目。楽しそうに笑う姿は狂気に満ちているように感じる。
多分好きなことに没頭するタイプなのだろう。ご主人様の知り合いなら悪い人じゃないと思うけど、このおっさん怖い。ご主人様とは違って何処にでもいそうな優し気なおっさんなのにその雰囲気がラスボスのそれだよぉー!
「あははははは! いいねぇ八木さん。本当に元気がいい兎もどきを見つけたね! ジャンプ力も普通の兎とは違うし、検査のし甲斐があるぞぅ!」
「ブイ君が怖がってるからできれば程々にしてくれると助かるんだけど」
「大丈夫だよ私は獣医だ。ちゃんと調べ尽くすとも!!」
「ぶいぶい!」
変態っぽい事言うな。こっちに来るなぁー!
「……ぶぅ」
現在、ご主人様が持っているケージの中。病院から出たご主人様は私が入っているケージを持って移動している。何処に行くのかとか興味はない。というか疲れた。
尻尾も耳も垂れて不貞腐れた私にご主人様は少し心配そうだ。でもそんなオールマイトを気遣う余裕はない。アニマルセラピーも今は閉店。今の私はご機嫌斜めのイーブイだ。
「お疲れ様ブイ君。帰ったらご褒美を上げなきゃね」
「ぶぅい」
ご褒美は美味しいご飯がいいですご主人様。じゃないと私もっと不貞腐れるんだからね。
あーでもほんと、病院に行ったら酷い目に遭ったよ。ペットが病院に行きたくないのってこんな気持ちだからなのかな。私ももう二度と行きたくないや。
普通乙女のお尻の穴とか調べる!? いや動物ならしょうがないかもしれないけどさ。注射とかいろいろやらされたし、病院特有なのかわからないけど個性を使っての検査されたし。触診だけど全身撫でられたし。
私から見れば変態さんだけど、獣医から見ればちゃんとした検査なんだよね。
そして私を見た結果────とても珍しいことに人間と同じく個性を持った兎に似た新種。ということになったらしい。まだまだ調べたりないと暴走しそうな獣医をご主人様が言いくるめてなんとか帰ることが出来たからよかった。ほんと、もう二度と行きたくないや。
「兎に似た新種って言ってたけど、食べちゃいけないものはないって結果だったよね」
「ぶい」
「うーん……でも流石に私と一緒の食事は駄目かな。でも今のうちにペットフードで慣らさないと舌が肥えて食費が大変なことになるって先生言ってたけどうーん……」
あれ、案外庶民派なんですねご主人様。でもペットフードは嫌です。味気ないもん!
だって病院で出たご飯美味しくなかったし。カリカリはちょっと食べていて不思議な味だったけどずっと食べていたいってわけじゃない。それならご主人様が作ってくれたねこまんまの方がいい!
いつの間にか家に帰ってきていたらしい。移動早いな流石ヒーロー。
そしてご主人様はケージに入れたままの私を机の上に置き、ペット用の小さな寝床やトイレ砂。それ以外にもいろいろと用意してくれている。
けど、肝心なのは食事だ。
ご飯は美味しいものが食べたい。寝て食って遊んでを満喫するペットになるんだからね!!
「ぶいぶいぶい!」
「ん、どうしたんだいブイ君? 何か気になるものでもあるのかい?」
「ぶぅ!」
ご主人様がケージを持ち上げ、扉を開けようとする。
────しかしその瞬間、彼の携帯から着信音が鳴り響いた。
「はい、オールマイト……分かった。すぐ行くよ……といいたいところだけど」
「ぶ、ぶい?」
「ごめんねブイ君、ちょっと待ってて!」
「ぶぃー!?」
急にムキムキマッチョのナイスガイになったご主人様が私を抱きかかえ窓から飛び出していく。
いや普通そこは玄関から出るんじゃないの!?
あと何で私ごとどっかへ行くの!?
ちょっと待ってご主人様まさかこのままヴィランの元へ行くわけじゃないよね!? なんかビビビって背筋がぞくぞくして不安な気持ちでいっぱいになるんだけど!!?