この素晴らしい世界に For Honor   作:ZONE中毒者

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 ウォーデンは死したが、神の依頼により異世界へと飛ばされる。
 見知らぬ街に降り立ったばかりに戸惑っていたが、その街はなにやら不穏な空気が生じ始めていた。





1.1 - 異界のウォーデン

 

 

 

 

 私は二度仕える主人を間違えた。

 

 一度目は臆病な指揮官。

 その臆病さから属していたブラックストーン・リージョンを裏切り、砦へと籠城する始末であった。

 追手による開城を許しホールデン・クロスから告げられた一騎討ちに「一方的な処刑」と拒絶した彼を今にして思い返せば、平時の視点と捉えれば正常な考えとも取れる。

 

 二度は狂信のウォーモンガー。

 彼女の信条は人間の中に眠る、全ては闘争へと帰結する性、そして戦火の中で覚醒する捕食者としての才にあった。逆に、それを眠り鈍らせる平和というものを酷く憎んでいたように思う。

 平和を乱す一党に対抗する勢力は多く、我々もまた彼女が率いるブラックストーンの要塞に侵攻を仕掛けた。しかし待ち受けていた光景は心同じくした軍勢の姿であった。

 私が率いるアイアン・リージョンと侍の軍勢は橋の上で睨み合い、ヴァイキングの乱入で場が混乱し乱戦へと転じた。私と侍の静止も聞かず、もはや互いに殺し合うしか選択はなかった。

 きっとアポリヨンは見抜いていた、心同じくした者同士であっても戦火は免れないと。

 

 それ以降、私が誰かに仕えることはなかった。

 逆に、私が従える側になっていたからだった。

 

 アイアン・リージョンを従える私は侍の帝、ヴァイキングのウォーボーンと和平を結んだ。

 

 幾度か冬を越え、時代は変わった。

 誰もが目にする山が噴火し天を黒煙が覆いつくす。暗雲立ち込める中で各勢力には緊張が生まれる。

 地を往く不穏な風は、かつて平和が訪れる前に幾度となく肌に感じたものだった。

 

 

 

「あなたは、戦いの果てで亡くなりました。」

 

 そう告げたのは、目の前の少女。

 永遠とも思えるどこまでも無機質な暗闇が周囲に立ち込める中、彼女の周囲だけは温かな光が漂っていた。

 この暗く、無機質な空間でも、どこか暖かさのある光をほのかに放っている彼女の存在は、いまだ混乱から抜け出せていない私の心すら奪っている。

 

「流石は戦士とでも言いましょうか、状況は呑み込めていないようですが心に揺らぎはありませんね。」

 

 端正で完璧な彼女の眼が私を捉えて、それがとても華奢に思える。

 しかし静寂を体現したかのようなこの空間では、色欲の風すら吹きつけることもなかった。

 また彼女が私の心を読んでいるかのような話し方をするのにも、驚くことはなかった。

 

「あなたが考えているであろう通り私は女神です。そして、死したあなたには一つお願いがあります。」

 

 私が呆けていることを知ってか知らずか、唐突な話に少しばかり驚いた。

 てっきりこのままヴァルハラにでも送り出されるものだと思っていたからだ。

 

「ロード・ウォーデンよ、どうかあなたの手を貸してはいただけませんか。」

 

 

 

 

 

 

 目を開くと見知らぬ城壁の上にいた。

 上を見上げれば青い空。狼煙の一つも上がっていない。

 

 城壁は高く、そして長く続いていた。

 しかし投石器の類は見られない。要塞ではないだろう。

 身を乗り出して壁の内側を見れば、小さな街が見えた。街を二分するように川が通っていたが舗装はされていない。石造りの城壁に対して町の規模は不釣り合いだった。

 反対に身を乗り出して外側を見れば、広い草原が広がっていた。数刻眺めると妙なもの捉えた。

 

「あれは一体……。」

 

 目立つ色をした巨大な何か。それが複数点在し、動いていた。

 その一つへ目を細めた私の視界に映ったものは――

 

「信じられん。」

 

 ――カエルだった。

 しかし私の知る、手乗りほどのカエルとは寸法が異なる。目測でも大人一人分の高さは優に超えている。

 驚愕に思わず足がすくんでしまう。

 

 今いるこの地はアッシュフェルドではない。

 既に女神と自称する少女――エリス神から伝えられていたが、今の驚愕により確かであることを痛感した。

 

『緊急! 緊急!』

 

 突如として辺り一帯に響いた女性の大声に、気取られていた私の心臓が跳ねた。

 メガホンから放たれるくぐもった声とは違った質のものだ。声の主を探すべく、再び壁の内側へ身を乗り出した。

 

『全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!』

 

 それは街の中心地、最も高い塔から放たれていた。

 人影は見えず大声は四方に広がっている。常識の代物ではない、エリス神から説明を受けた魔法というものを思い出した。

 術の類は実害のあるものであるという私の想像とは大きく異なっていた。

 

「よもやここまでとは。しかし……。」

 

 耳に入った内容はこの街の雰囲気に違い不穏なものであった。

 「武装」「戦闘態勢」。防衛戦のための招集に思えたが、呼びかけている相手は衛兵や門兵ではなく「冒険者」という者たちだ。

 

 アッシュフェルドに「冒険者」という職業や兵科は存在しない。

 しかし吟遊詩人が子供に披露する物語には時たま、冒険を生業とする戦士が登場する。

 そういった物語では強大な敵を倒して民を救うのが定番であった。

 

 理屈ではない。私の幼き頃の記憶が勝手に作り出した像に過ぎなかった。

 ただ誰もが、誰かを守る姿あるいは強くある姿に一度は憧れを抱くものだ。

 この地でも変わらないのならば、冒険者という職業が勃興していようともおかしな話ではないのかもしれない。

 

 なによりそういった差異を知ることは、私がこの地で生きていくために必然なのだ。

 

『冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』

 

 サトウカズマ。侍を彷彿とさせる名であった。

 開戦前に指名される名誉を与る者だ、さぞかし名の轟く戦士なのだろう。

 

 ウォーデンとしての矜持があった。

 

「行くべきか。」

 

 左手に握りこまれた直剣を強く握りこみ、その存在を確かめる。

 正門を目指して駆けだした。防衛戦も気掛かりだが、目的は件の人物――強者を一目見ることだった。

 

 

 

 

 

 

「なぜ城に来ないのだ、この人でなしどもがあああああっ!!」

 

 誰かが壁の外で大声を上げた。

 正門らしきところの近くまで来た私は、外の状況を確認しようと再び身を乗り出す。

 

 眼下には人だまりができていた。

 まるで門を守るようにして集まっているが、その装備に統一性はない。

 

 そして彼らの視線の先には、一人の黒騎士がいた。

 しかも己のものと思わしき頭を抱える、首から先がない馬に跨った騎士が、だ。

 

「爆裂魔法を撃ち込んでもいない? 撃ち込んでもいないだと!!」

 

 先ほど聞いた大声と同じものであった。

 あの騎士が発したものだったのだと分かったが、肝心の話が見えてこない。

 

 彼の話から考えて、恐らくこの街の住人が領主かなんかの召喚に応じなかったことに腹を立てているのだ、という予想が立つ。

 だが「爆裂魔法」なるものに聞き覚えはなく、そもそも魔法などという教会が謳うような異端の術を私が知っているわけがなかった。

 あの騎士も魔法によるものなのだろうか。見当もつかない。

 

「何を抜かすか白々しいっ! そこの頭のおかしい紅魔の娘が、あれからも毎日欠かさず通っておるわ!」

 

 騎士の言葉に耳を傾けつつ、その奥にある森へと視線を移す。

 彼が一人であるのを見るに城の使者であることは明白だったのだが、やはり気になるのは後方に待機しているであろう騎士団本体である。

 投石器や破城槌があった場合、この強固な壁も簡単に突破されてしまう恐れがあるのだ。

 攻め入ってくる人数によっても、壁にどのくらい動員するべきかが変わってくる。

 

 私はヴァンガードである身でもあったから、必要だとここで判断したら、この知識を惜しむこと厭わないつもりだった。

 

 しかし投石器どころか、人ひとりもいない。

 

「どういうことだ……防衛戦ではなかったのか?」

 

 ふとよぎるのは、開戦時での敵国の使者に対する対応だ。

 大抵の場合は大々的に使者を殺すことによって、臣下などの士気を奮い立たせる。

 特にヴァイキングなんかは開戦の合図を出さずともそうする場合が多いだろう。

 

 私は今一度、壁の内側に視線を向けた。

 急な増築を行ったわけでもない、普通の建物が立っている小さな街だ。

 これがヴァイキングのような存在に侵された街とは、私には思えない。

 

「状況が理解できないな……いっそのこと降りてみるべきか。」

 

 膠着状態の続いている状況であるから、情報を聞き出すなら今が一番であった。

 

 

 

 

 

 

 正門まで降りてきて分かったことがある。

 壁を守るべき兵士がどこにもいなかったのだ。

 加えて、守るべき門は開け放たれ、その先に見えるのは様々な格好をしている集団の背だけであった。

 

 仕方なく、私は彼らの内の一人に話を聞くことにした。

 

 その集団は誰もかれもが機能的な武装をしていなかった。

 いや、それ以上に鍛えられていない女子供までいて、とても戦闘が行えるようには見えなかった。

 

「そこの冒険者殿、少しよろしいか。」

 

 集団の中でも比較的強そうな黒い面を付けた男に話をかけた。

 

「え、なに――ってうおっ、アンタ騎士か? どっかから派遣されてきたのか?」

 

 私を見るや驚く男。

 彼の問いかけが単に私の身元を訊くものなのか、それとも敵と見定めてのものなのか。

 

「私はただの傭兵だ。それよりこの状況について訊きたいのだが。」

 

 私は彼らの味方に付くべきか、それとも騎士の方か。

 まだ判断が付かないため、中立として傭兵と置いておくことにする。

 その答えに特に警戒する様子もなく、彼は口を開いた。

 

「なんだ知らないのか? アイツは魔王の幹部、ベルディアだ。傭兵やってんなら、流石に聞いたことはあるだろ。」

 

「魔王の幹部……アレが。」

 

 魔王――私がここに、この地に降り立った目的における重要人物。

 数多の民を苦しめ、神に敵対する存在だと聞き及んでいる。

 あの騎士はその幹部であるとのことだ。

 

 同じ騎士ならば話は通じるか、話がしてみたい。

 

 そう私が思ったのは、この時までであった。

 

「――俺がその気になれば、この街の冒険者を一人残らず切り捨てて、街の住人を皆殺しにする事だって出来るのだ。」

 

 ベルディアが放った言葉に、私は絶句した。

 

「いつまでも見逃して貰えると思うなよ? 疲れを知らぬこの俺の不死の体。お前達ひよっ子冒険者どもでは傷もつけられぬわ!」

 

 彼の言葉は、私の心によく刺さった。

 私が騎士だと思っていたあの者が、ただのケダモノであったことに何より驚いたからだ。

 

 続けて自身を不死だと言ってのけたことにも驚いた。

 ケダモノが疲れ知らずの不死などと、考えるだけでおぞましかった。

 

 しかし、驚きはこれだけでは収まらなかった。

 

 ベルディアの言葉に、勇敢にも反論した少女が何かの掛け声を言うと――

 

 ――彼の足元が光りだし、たちまち土煙が起こった。

 

 不死を名乗った彼は、その場で絶叫しているではないか。いつの間にか馬も消えている。

 なんなんだこれは。

 これが魔法というものなのか。

 

 私が戸惑い呆けていると、ベルディアが体勢を立て直していた。

 

「フン、この俺がわざわざ相手をしてやるまでもない。」

 

 そう言い、外装を横へ払う。

 するとその足元から、黒い霧のようなものが舞い上がった。

 これも魔法なのか、と考えていると、彼は続けて声を上げる。

 

「アンデットナイト! この俺をコケにした連中に、地獄というものを見せてやるがいい!」

 

 どういうことか、足元から出ていた霧より人影のようなものが浮き上がってくる。

 その人影が徐々に露わになっていくごとに、私の背筋は凍えていった。

 

 それは黒い瘴気を纏った、ミイラの兵士たちであった。

 それが、この場にいる冒険者と同じくらいの数である。

 

「それで、あー……」

 

「ガリルでいいぞ。」

 

「ガリル殿、この場に弓兵はいるのか?」

 

 黒い仮面の冒険者、ガリルは、私の問いに辺りを軽く見まわしてから軽く答えた。

 

「今、弓を持っている奴は……あいつとかだな」

 

 そうして幾人かに指が刺されるが、牽制できるくらいの人数もいなかった。

 何度かミイラの数を見ては弓兵の数で合わせてみるが、やはり到底足りない。

 

 と、再び騎士の方から光が生じた。

 彼は絶叫し、のたうち回っているようである。

 どうやらあの光は途轍もない苦痛を感じる魔法のようだ。

 

「ええい、もういい!!」

 

 私は一度、門の方を見た。

 やはり門を閉じる様子はなく、兵士が展開されている感じもしない。

 そもそもこの街を放棄する前提なのか、と勘繰ってしまうほどにおかしな光景だった。

 

「おい、お前ら……!」

 

 私は左手に収まっている剣の感触を確かめた。

 

「街の連中を……皆殺しにせよ!」

 

 

 

 

 

 

 冒険者集団が慌ただしくなる。

 耳を傾けると、プリーストだの聖水だのを必要としているようだった。

 前者は知らないが、後者は恐らく、教会が提供している魔を払う聖なる水のことだろうと想像がついた。

 

 ベルディアの言葉に動き出したミイラの兵士たちを見て言った言葉だ。

 自然と、あれらの撃退に必要なものが必須であることは察しがついた。

 

 当然であるが、聖水などという大層なものを私が持ち合わせているはずがなかった。

 だが、私にはこの剣がある。そしてこの体がある。

 

 奴らが民を殺そうと攻撃を仕掛けてきているのならば、それは(ナイト)の敵であった。

 

 だから私は、こうして駆けている。

 未だ動かぬ冒険者集団を避けて、最前線へと踊り出るのだ。

 

 そうして前へ出て剣を構えた時、場の空気が一変した。

 

「わ、わあああああーっ!」

 

 ミイラの兵士たちは、どうやら青い髪の少女を狙っているようだ。

 私はこのまま前進してくるものだと思っていたが、横へ逃げていった少女に釣られてミイラの兵士たちも逸れて行く。

 

 全員が、逃げる少女と追いかける兵士たちを見ていた。

 

 当然、私もだ。

 

 何かに気付いた様子で少年が、彼より幼い少女に「爆裂魔法」とやらが使えるかどうかを訊いていた。

 爆裂、という辺り、油を大量に入れた樽を一気に燃やした時と同程度の効果を持つ現象を生じさせる魔法なのかもしれない。

 

 ふと、悲鳴を上げて逃げている少女の声が大きくなってきている気がした。

 視線を流すと、やはり少女はこちらに逃げて来てるようだ。

 

 厳密には、「カズマサン」と叫びながら、私の近くにいる少年に向けて来ているようだが。

 すると、この少年が「カズマ」なのだろうか。

 

 しかし少女が逃げてくるということは、追いかけてくるミイラたちもくるということだ。

 

 冒険者たちは悲鳴を上げて、蜘蛛の子のように散っていった。

 また「カズマ」と思わしき少年と、先の少女もだ。

 

 この場に残ったのは金髪の女騎士と私だけである。

 

 私は柄を両手で握り込み、大振りの体制を取った。

 そして斜め後ろ――女騎士の方に顔を向けた。

 

「やれそうか?」

 

「え、あ、え?」

 

 見たところ、軽装備の見習い騎士という感じである。その顔にも幼さが残っている。

 私は迫りくる追走者たちに向き直り、一つため息を付いた。

 

「わあぁぁぁーーーーーっ!」

 

 青い髪の少女が私の少し右横を通り過ぎていく。

 ミイラの兵士たちは剣を構えている私に見向きをする様子もなく、少女を追いかけている。

 

 本当に、意味が分からなかった。

 

 そのやるせなさを胸に、私は剣を振るった。

 

 

 

 

 

 

 一振り。

 たった一振りで、ミイラの兵士の首を三つ刈り取った。

 

 一振りの勢いでそのまま身体に捻りを加え、一回転分の力を入れて続けざまにもう一度斬り伏せた。

 それで、ミイラの兵士の首を五つ刈り取った。

 

 なお横を通り過ぎていく彼らを尻目に、剣の遠心力で左斜めに持ってかれる重心に耐えながら、足に踏ん張りを入れる。

 そしてすぐに、右を抜けていこうとする彼らの背から切り込むように大振りした。

 

 右に振り切った剣、その重心を整えながら、再び遠くへ離れていく集団を見据える。

 その右側面は漏れなく、中央部も少し削ることができたが、未だミイラの兵士たちは少女を追いかけていた。

 流石にベルディアも憤慨しているようで、ミイラの兵士たちに向けて怒鳴りつけているようだった。

 

 私は、右手にある剣を強く握ったり弱めたりした。

 ミイラの兵士を斬り付けた感触が、どうにも軽かったからだ。

 

 右肩から左の脇腹に持って行った、簡単な一閃で首を三つだ。

 そこから今に至るまで、ずっと感覚に違和感が残っている。あれがミイラのような存在を斬り付ける感触なのか、と。

 あまりにも軽すぎるではないか。

 

 そんな考えが頭をよぎる私に、不快な風が吹きつけた。

 まるで吸い込まれているかのような、おかしな風だ。

 

 私の目は風が流れて行く方向へと、自然に向いた。

 

「エクスプロージョン!」

 

 ごうっ、と風が一気に逆流する。

 強い風圧を感じた、次の瞬間には――

 

 ――赤く燃え上がる炎が宙に舞い上がっていた。

 

 その光景は、まさに地獄という他なかった。

 

 やがて膨れ上がった炎が収まり、その場所には硝煙が残った。

 いや、硝煙しか残らなかったのだ。

 周りのえぐれた地面が、その威力を誇示している。

 これでは何も残るまい。

 

 そして、私と同じようにその様子を見ていた冒険者集団に、喝采が起こった。

 

「頭のおかしい紅魔の娘がやりやがったぞ!」

 

 その喝采の中で、件の幼い少女――紅魔の娘と呼ばれた彼女に向けられた言葉がこれだった。

 

 侮辱ではないだろう。

 周りの様子からは揶揄いの混じった愛称とも取れた。

 

「頭のおかしい、か」

 

 私は、畏怖を込めるだろう。

 あの幼い少女一人がいれば、堅牢な要塞も強者ぞろいの城も塵芥と化すはずだ。

 わざわざ投石器を持ってこずとも、彼女一人で投石器百台分と同列といっても差し支えない。

 それが、彼女なのだ。

 

 女神――エリス神は私に手を貸してほしいと言った。

 魔王の進行を受けているこの世界を救う一端となってほしいと。

 

 思えば、女神は私に実直的に「救ってくれ」とは言わなかった。

 ただ、その一端となってくれ、手を貸してくれと頼まれただけであった。

 

 なにも、直接魔王に対抗しろ、などとは頼まれてもいない。

 

「――ハハハハ、面白い! 面白いぞ!」

 

 そしてあれほどの猛攻を受けてなお、鎧にヒビすら入らず立ち上がる不死のベルディアである。

 確かに私どころか、この場にいる者が彼に傷をつけられるはずもなかった。

 

「よし、では約束通り!」

 

 奴はそのまま一歩踏み出た。

 

「この俺自ら、貴様らの相手をしてやろう!」

 

 

 

 

 

 

 未だ健在なベルディアを相手取り、なお冒険者たちは気を奮い立たせていた。

 なんでも、彼らにはミツルギキョウヤなる、サトウカズマと似た特徴の名前を持つ存在がいるそうで、彼ならばあの不死の黒騎士とも相対することができると冒険者たちは認識しているようであった。

 故に、彼らの指揮はまだ高い。

 

 そうして誰かが、ベルディアに多数で相手をしようと声を上げた。

 その声に続き、幾人かの屈強な戦士たちが前へと駆け出す。

 

 強者を相手に多数でかかるのは正しい選択であって、私も彼らに続く形で前へと躍り出る。

 

「やめろ、行くな……!」

 

 金髪の騎士見習いが、そう叫んだ。

 

 直後、冒険者たちが一斉に切り掛かり出した。

 囲い込むように展開していた彼らは、ベルディアに迫りながら己の武器を振り上げる。

 

 だがその攻め込みに対しベルディアが動じる様子はなかった。

 それどころか余裕さすら感じる。

 

 対して、そこに不審さすら抱かない冒険者たちは、場数が足りないのかとさえ思う慢心さである。

 そんな彼らがベルディアの間合いに入る頃。

 

 彼は自身の頭を宙に投げ出した。

 

 冒険者たちの動きを注視していた私は、彼らに続くように足を動かす。

 ヘルムの中は相変わらずの汗と鉄臭さで湿っていた。

 ベルディアの鎧は、一体どうなのだろうか。

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