「アスランの処遇……ですか。確かに、オーブが地球連合に与した今、コーディネーターである彼が帰るのは危険性が高い。最悪、帰還してシャトルから降りた瞬間に暗殺もあり得ます。優秀な同胞である彼を失うのは避けたい。人道的見地からも身柄はプラントで保護するつもりです。アスラン、構わないかい?」
今の情勢でオーブに帰るのは確かに悪手だ。戻る場所が無くなった以上有り難く保護を受けるしかない。
「お手数をおかけして申し訳ありません、議長。フェデラー代表も気にかけてくださり、ありがとうございます」
今後の身の振り方を決めなければならないな、と考えていると、フェデラーさんが口を開いた、
「気にする事はない、アスラン。君を連合の属国となったオーブに帰せばどうなるか分からないからな。彼が言わなければ私がするつもりだった。議長、私からも旧友の忘れ形見の保護に感謝を。
ところで、貴方も先程口にした通り、彼はとても優秀だ。最初に述べた通り、私と貴方が同時に声をかけるほどにな。
どうだろう? 我がサジタリウスとザフトの両方に彼を所属させることはできないだろうか? オーブの客員として来た事が懸念事項だったが、こうなった以上は気にすることもない。元々、同じプラントを守る組織として協力は惜しまないつもりだから、ザフトの任務に従事させてもらって構わない。今までも前例は何人かいるが、貴方と気軽に直接話ができるほどの立ち位置にいない。彼はお互い直に連絡が取りやすく周囲からも不自然でない相手として適任だろう? 連携が取りやすくなるという点で、こちらとしては有り難い。万が一にも無いとは思うが、方針が対立した際は本人の意思を確認した後協議し、どちらかで引き取る事としよう。いかがだろうか?」
「それは…… こちらとしても有り難いです。平和への想いを同じくする人は多い方が良い。改めて協力の姿勢を貴方から聞けて嬉しく思います。ご安心ください。方針の対立はしませんよ。プラントを守る為にザフトを動かすのですから。私としても早く戦争が終わることを望んでいます。
アスラン、君には、これを」
そう言って議長から渡されたのは、見慣れたザフトの赤服とFAITHの証のバッジだった。思わず目を見開くと議長が穏やかに笑った。
「君を通常の指揮系統に置いておくと、サジタリウスとの連携が取りづらくなるし、君もやりづらいだろう。忠誠を誓う、という意味のFAITHだが、君は議会の方針ではなく、プラントの平和の為に君自身の信念に忠実にあってほしい。そういう想いで渡すのだよ。
少し私も席を外す。その間に着替えてきたまえ。フェデラー代表、しばしお待ちを」
そう言われて、一礼した後、示された奥の部屋に入る。
扉が閉まると何も聞こえなくなった。かなり分厚い扉だが、緊急時のシェルターの役割も兼ねているのだろう。早く着替えてしまおう。
扉が閉まったのを確認した後、背後から静かに声をかけられた。
「流石ですね。これでアイツは議長が何かしても、こちら側につける。ザフトを裏切ることになっても、プラントを裏切ったことにはならない。また帰れなくなることもない。無理なお願いを聞いてくださり、ありがとうございます、フェデラーさん」
「何、君の頼みが無くとも引き入れていた。
ジェネシスを作り、撃った所業は許し難いが、かつて共に戦った戦友だ。あれだけ愛していた妻を卑劣な攻撃で失ったパトリックの気持ちも理解できる。その遺児だからといって故郷に帰れないのはあんまりだし、実の父が地球を滅ぼすことを身を挺して止めた彼は、平和を望む気持ちが強い。それに、議会や議長にプラントへの害意ある場合でもまず話し合いを、という我々の方針は彼から始まったしな」
先の大戦でエターナル奪取が起こる直前、アスランが地球軍のシャトルでザフトに帰還し、パトリックと話をしたのはしっかりと公的記録が残っている。会話内容についても、監視カメラの映像が見つかった。
公にはできないものの、アスランの離反に正当性があることは密かに一部で認められているのだ。本意を問いただしてアレならば仕方がない。
このような事例があったからこそ、監視組織である我らもまずは対話の後に敵対することが定められたのだ。
「ところで、お前はどうする、ラーナス。お前がアスランを優先すること、彼が帰還したらプラントでの居場所が脅かされないように協力することと引き換えにお前を雇用しただろう?
議長にも言った通り、今後は我らもザフトと協同戦線を張るからな。お前専用のMSも持っていって構わないし、アスランだけでは不慣れなこともあるだろうから、望むなら議長に話は通しておこう。着いて行け」
友人から切り捨てられた、ともとれる行動があったのだから当たり前の反応ではあるが、ああも激昂するのは少し驚いた。先の大戦で多くのものを失い、精神的に不安定になっているのだろう。気の置けない関係であるラーナスを側に置くことで安定を図りたい。
少しの間を置いて、いいんですか、と言葉が返ってくる。
「では、是非ともお願いします。アイツ、頭は良いのに口下手だし人の感情とか言葉の裏読むのもド下手で。一回思い込むと余程の事がない限り考え変えないし。先の大戦は家の方針で潜入調査とかばっかで側にいてやれなかったし。今度こそ一緒にいてやらないと。
お言葉に甘えて俺のジェミニはそのまま持っていきます。相棒については、戦闘はあんまりですけど分析が強いので、後方支援に回しましょう。セントエルモが薬品分析担当探してたので紹介しときます。今だと恐らく最新鋭のミネルバの援護に回されますよね、アイツの出発を見たいところですけど、その後出たらアイツに遅れるので今から機体乗って先に降りておきます。合流ポイントは……ここに書いておくのでアイツに渡してください、後色々とパーツ、最悪MSの改造や新造お願いするのでスミスの奴らに話通しといてください、連絡先は俺が押さえてるので、希望はこちらで連絡できます。ありがとうございます、失礼します!」
メモ一枚残して凄い勢いで走り去っていったのを呆然とみる。
「……若いな」
着替え終わって扉を開けるとフェデラーさん一人だった。
「終わったか、アスラン。よく似合っている。
ラーナスはお前に着いていくと行ってな。専用機を取りに先に帰った。恐らくミネルバに配属されるだろうから、ここで落ち合おう、だそうだ」
渡されたメモには殴り書きで座標が書いてあった。カーペンタリア近くの小島だ。あの辺りならザフトの勢力圏だし戦闘が起こる可能性は低いが、辞令を貰い次第全力で向かおう。相変わらずの行動にため息をつきつつ礼を言うと、タイミングを見計らったように、議長が戻ってこられた。
「待たせてすまない。ラクスの新たな護衛を雇うことになっていてね。今回のことで明日行う予定を前倒しして面接を行ったのだ。優秀な人物で、すぐに就いてもらうことになった。
では、アスラン。君にはセイバーに乗ってミネルバに向かってもらいたい。オーブは恐らく脱しているはずだ。あの国の情勢も気になるだろうが、ひとまず最寄りのザフト基地であるカーペンタリアを目指してほしい。あと、こちらのアタッシュケースを着任後の上官に渡してくれ」
「分かりました。では、失礼致します」
前半の内容がとても気になったが、命令を優先し、荷物を受け取ってセイバーの格納庫に向かった。
目指すミネルバに乗っている赤い瞳の少年、シンのことが気にかかる。
オーブ戦役で家族が死んでザフトに入った彼と、血のバレンタインで母が殺されて入隊した俺。境遇が似通っているからだろうか。
オーブが中立を保てなかったことを、アイツはどう感じているのだろう。
そう思いながら、バーニアを吹かし、地球へと降りて行った。
パトリックと面会した時、あの答えが違っていたら、アスランどう行動したんだろうな、と思います。