ガンダムSEED ELPIS   作:明日希

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名前と責任

 

「それで? どうだったんだ、ファウンデーションの内情。行ってきたんだろう?」

 

「ん、良い国だったよ。コーディネーターもナチュラルも分け隔てなく扱ってくれる。街中でサングラス外した時にさ、誰にも何にも聞かれなかった。嫌な顔する人も居ないんだぜ? プラントと親しい地域はよく世話になるけど、あそこまで優しいのは地球だとちょっと珍しいかな」

 

 相槌を打ちつつアスランさんが片手を動かす。流れるように工具を渡したラーナスさんが綺麗な黄色い目を柔らかく細めて言葉を続けた。

 

「で、お前が気になってるタオ宰相とアウラ女王の軋轢についてな。民衆の支持はそれぞれ半々って所。由緒正しきお家柄ってのを大事にする人らはアウラ派、地位より実績を重視する人達は宰相派って感じ。あぁ、そんな大真面目に割れてる訳じゃないから。反応的に軽いゴシップ楽しんでる程度の気軽さだよ。なんなら一晩明けたらクラ替えしてるお姉さんとか居たぜ?」

 

 面白そうに笑ったラーナスさんからの情報に肩の荷が降りる。イザークさん達から聞いたオルフェさんとアウラ女王が揉めてるって話はそんなに酷くないんだろうか。考えながら澱みなく組み上げられていくアスランさんの髪と同じ色のパーツを眺めた。

 

 ミケール捕縛のためにファウンデーションに向かうまでもう直ぐだ。議長との話し合いから少しして、ラビィの改修を一緒にどうかとアスランさんから誘われた。前にレイを助ける力になってくれて今は僕が家に居ない間のステラを守ってくれてる大事な存在だ。自分の手で大きくしてあげたい思いもある。でもペットロボ製作は門外漢。良いのか迷っていると、その時一緒に居たヨウランとヴィーノから背中を押された。ちょうどファウンデーションの下見に行ってたラーナスさんが帰って来るのと重なって車で送迎してもらえたのは凄くありがたかったし、こうやって情報が聞けて安心出来たので来て良かったと思う。

 俺達はアスランさんの可愛い後輩なんだから甘えりゃいいんだよって笑ってくれたヨウラン達は今日はアウルと遊びに行ってるらしい。

 

 アウル、元気にしてるだろうか。この前オーブで会った時は前から好きなバスケの選手になりたいって頑張ってた。ただ、ちゃんとやろうとしたら細かい反則行為や時間制限のルールがあって覚えるのが大変だって楽しそうに笑ってた。負けず嫌いな所あるから、無理してないと良いんだけど。新しく出来た頑張り屋な弟の無事を願っていると、アスランさんに呼ばれた。先にやってたミーアさんのレオは改修し終わったみたいだ。

 考え事から意識を戻して視線を向ける。

 

 すっかり大きくなったレオが、目の前にそびえ立っていた。

 

 

 

 ゆっくりと三度瞬きをして、二回目を擦ってからもう一度開けたシンが肺の中の空気を全て吐き出した。もうすぐいつものが来るなと思わず苦笑いして横の可愛い弟を小突く。不満気に口を尖らせたアスランへ聞き慣れてきたツッコミが響き渡った。

 

「何やってんですか、アンタは!! ラビィにやるって説明受けた感じで子犬から大人にしてあげるのかと思ってたのに!! これもはや犬種違いますよ?!! ちゃんとミーアさんに許可取ったんです? してなきゃレイに言いつけますよ!」

 

「ちゃんとミーアには話した! どんな機能を付けて、どういう姿になるかも全部言った! 当たり前だろう、馬鹿を言うな!」

 

 なら良いですけど! とか言いながら騒ぐ二人を眺めて思わず口元が緩む。最初に図面見た俺もシンと同じ事を聞いた。

 手を貸しまくっておいてなんだが、パッと見が愛くるしいトイプードルを一目見て強そうなドーベルマンにしましょうって魔改造っぷりだ。記憶メモリと幾つかの武装以外は全部新規製作だったりする。関わってる面々も錚々たる顔ぶれだ。それは今から取り掛かるシン達のラビィもそうなんだけど、黙っておいた方が良いか。シンと一緒に機械いじりが出来ると一層張り切ったアスランが今日のために使った合計額を聞いたら目を回しそうだ。考えたもしもと今の眼前に繰り広げられる光景が楽しくて思わず笑い声をあげてしまった。揃って言葉を止めて目を丸くした二人の肩を思いっきり叩く。コイツらがお互いに良い友達になれてる事が嬉しくて心からの言葉を贈った。

 

「お前ら、ほんっとに仲良いよな!!」

 

 

 

 

 

 

「そういえば、なんで名字違うんですかね? アウラさんとオルフェさん、親子なんだから同じ家の名前を名乗れば良いのに」

 

 あの後一緒にやったラビィの改修も無事に終わった。自分の手でラビィが大きくなっていくのはなんだか誇らしかったし、初めての機械弄りは結構楽しかった。ヨウランとヴィーノやアスランさん達が夢中になるのも分かる気がする。ラビィもレオも誰かを傷つける為の力じゃなくて護る為のものをたくさん増やした事も凄く嬉しかった。それを聞いたアスランさんが上機嫌で初めて見るんじゃないかってぐらいに明るい顔で笑ってくれた。こっちまで嬉しくなっていたら、せっかくだからって情報を聞くついでにご飯までご馳走になる事になったから、さっきの二人の会話を聞いてて気になった事を聞いてみた。少しだけ首を傾けてからアスランさんが珍しく迷うように言葉を紡いだ。

 

「うん、そう、だな……難しいんじゃ、ないだろうか……古い家は色々と面倒なしがらみが多いんだ。積み上げられてきた歴史の分だけ名前には責任が伴う。先祖代々、なんて言い方はあまり好きではないんだが」

 

 ご飯は美味しいのにアスランさんの眉間に皺がよった。この人には嫌な話題だったんだろうか。慌てて話を変えようとしたら、ラーナスさんが苦笑いを一つこぼして口を開いた。

 

「確かに、名前を名乗らせる為に何らかの通過儀礼がある家も地球にはまだ残ってるらしい。名のある家ってだけで面倒な期待や困ったしきたり押し付けられるなんてのはよくある良くない伝統だよ。そう言った厄介事に子供を巻き込ませたくないなんて親心って言うヤツって可能性もあるよな。俺は詳しくないけど、普通の親ってそういうもんなんだろ? 一回見た事ある」

 

 そう言えばこの人の家も複雑だった。さっきの発言で嫌な思いをしてないだろうか。恐々と伺ってしまうと、アスランさんにバレない角度で軽く手を振ってきた人が真剣な顔で話を進めた。

 

「それか、可能性はもう一つある。ファウンデーション上層部は全員アコード……要するに超能力者なんだろ? 名のある家の産まれってだけで変に注目されるんだ。余計な目を集めて勘付かれるのを防ぐ為に敢えて別の名前を名乗らせている、なんてのも有り得なくはない話かもな」

 

 確かに、と納得する。お礼を言うと笑ったアスランさんが真面目な表情で質問を重ねた。

 

「それで? 実際どんな感じなんだ? お前の事だから中核人物を実際に見ないで帰ってきた訳じゃないんだろう?」

 

 最後の言葉は絶対の確たる信頼を持って投げかけられた。もちろん、と嬉しそうに頷いた人が軽く肩をすくめた。

 

「とは言え、この後の任務には俺も参加するからな。下手に顔を覚えられる訳にもいかない。どうして先にいらしていたのですか、ってなったら不味いだろ? で、運良くとある国民の嘆願聞きにわざわざ城下町に降りてきた女王陛下とその護衛の方々を物珍しく見た観光客の一人を装って観に行った」

 

 たぶん本当に運良くじゃなくて何か手を回したんだろうな、とは予想できてしまう。アスランさんの為なら何だってする覚悟が出来てるのを一回本人の口から直接聞いているのが大きい。変な視線を送らないように気をつけていると、アスランさんが大きな声をあげた。

 

「一市民のためにわざわざ女王自ら? お忙しいだろうに見上げた事だな……しかし、それならバレたんじゃないか? 議長のお話では、彼等は心が読めるんだろう?」

 

 付き合いそこそこあるから分かるけど、前半の言葉は褒めてるんだよな……相変わらずの誤解されそうな物言いに思わず呆れていると、軽い咳払いをしたラーナスさんが可笑しそうに緩く笑ってから口を開いた。

 

「普通は待ってる人が多いよな。どっちか言うと行きたくても他の仕事に追われていけないって為政者が大半だろうし。俺も驚いて街の人に聞いたら、戦争終わってデスティニープラン施行後ぐらいから始めたんだってさ。自分じゃどうにもならなくなった人間がお城へお手紙出したら可愛らしい女王様御自らが見目麗しい黒い騎士様達と共に来てくれるって大人気だとよ。最近ちょっとナイト達の立ち位置が変わったらしいけど」

 

 嫌味のこもっていない言葉でオルフェさんやアウラ女王を良い人だと直に会ったこの人が思ったのが分かった。一緒にミケールに立ち向かってくれる人達が誰かのためになる優しくて立派な行動をしているんだ。喜ばしくなっていると、感心したように頷いていたアスランさんがお兄さんを無言で見つめた。はいはいと笑った人が水を注いであげながら喋り続けていた。

 

「今から答えますって。結果から言うとバレなかった。声をかけられる事も無かったし、尾行の気配も全く無かった。俺の職業柄、つけられてたら必ず分かる。絶対にだ。ここからは推察だけど、読心能力があっても何らかの制限があるんじゃないか?」

 

 得心が行って思わず声を上げた。目線で促されたのでコップ一杯の水で喉を潤してから話し始める。

 

「超能力者が出てくる小説で、制限や代償があるのってお決まりだったりするんです。もちろん、全部が全部って訳じゃないですけど。例えば使ったら酷い頭痛や目眩がしたりしばらく立てないぐらいに体力を消耗するとか。凄く強い力だと一人に対して一回だけとか一日三回しか使えないとか、色々ありますよ。あくまで小説の話で、フィクションですけど」

 

 スティングとも感想を言い合う作品もそうだ。あれの新刊も早く出て欲しいけど良いところで止まってるんだよな。また最初から読み返そうかなんて思っていると、僕の話を聞き終えてから考えていたアスランさんが呟くように思考をまとめた。

 

「人混みの中だと気づかれなかった……何らかの制限がある事が多い……事例を見るに恐らくは脳の超過駆動による反動か? ……なら設計の段階からリスク回避で制限の方向にシフトするな……まさか、一度に一人ずつしか読み取れない? 少なくとも物見遊山の雑踏など、意識を向けない限りは対象外と見て問題ないのか?」

 

 同じ結論に辿り着いた緑色と綺麗に視線が合った。三人揃ってきっとそれだ! と盛り上がってしまう。ちょっとした謎解きが解けた気分だ。以前ラーナスさんが新しい同僚からのお裾分けだってくれたパズル本も面白かった。落ち着いたらその人に直接会ってお礼を言いたい。楽しかった本を思い返していると、ラーナスさんが息をのんだ。

 

「反対に一人に対する精度はかなり高いって思った方が良いな……話聞かれてた人、頭に浮かんだ事全部を分かってもらえたみたいって感激してたらしいから。悩み事ある人は良いかもしれないけどさ。もちろん味方だから頼もしい限りだけど」

 

 確かにな、と肩を下ろしたアスランさんが笑って手を合わせる。三人揃ってごちそうさまの挨拶をして片付けながら向かいに座る二人を見た。何気なく言葉が口から転がり出る。

 

「今更なんですけど、二人ともめちゃくちゃ息合いますよね」

 

 見事に同じタイミングで顔を見合わせた二人が不思議そうに頷いてきた。得意気に笑ったお兄さんが弾んだ声を返してくる。

 

「そりゃ、子供の頃からずっとコイツ見てきたから。目線の動きとか好み考えたら今何欲しいかとかは百発百中だし、姉ちゃん達もこれ出来るよ」

 

「そうなんだよな……姉さんやお前が居ると必要な物や欲しい物が言う前に出てくる。こんな例えは良くないかもしれないが、まるで自分の手や足が増えたみたいで正直凄く助かる」

 

 今日一番の笑顔でラーナスさんがアスランさんの頭を思いっきり撫でまわした。嬉しそうな兄弟の光景にこっちまで笑っていると、怖い事に気がついた。

 

 オルフェさん達アコードは、一人の心はかなり正確に読める。それが本当なら、初対面なのにこの二人みたいにずっと長年寄り添ってきた家族のような息の合った連携が出来るってことだ。味方なら頼もしいけど、敵だったらこっちの行動が全部読まれる。言った方が良いんだろうか。でも、このあったかい風景を壊したくない。何も言えないでいるとこっちを読んだみたいにアスランさんが頼もしく笑った。

 

「大丈夫だ。万が一に備えて姉様に来てもらうよう頼んだしな。今日はエインヘリアルのオズ艦長達へ挨拶に行ってる」

 

 心のお医者さんでもあるフィルさんが居るなら安心かもしれない。偶に凄く鋭い人に礼をするといつの間にか後ろにいたラーナスさんから肩を優しく叩かれた。顔を上げた瞬間、悪巧みする時の笑顔が浮かべられる。何故だかアスランさんが遠い目をして少し俯いた。一体何なんだと身構えていると、楽しそうな声が上から降ってくる。

 

「さてお前ら。話し合いも終わったし、食後の運動しよっか。アス、お前が望んだんだから逃げるなよ。シン、こっちだから着いてきて」

 

 虚空を見つめ出した弟さんを引きずりながら鼻歌を歌うお兄さんに訳も分からず後へ続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんでダンス練習やってるんです?!!」

 

 ラーナスさんがお手本で見せてくれたステップを繰り返し踏みながら、高級そうなスピーカーから流れる曲に負けない声量で叫んでしまう。後ろにいるアスランさんの苦戦する声が聞こえて、この人音楽関連は苦手って話してたな……と遠い目してた理由がやっと分かった。大丈夫か心配だけどきっと見られたくないだろうから振り向かない。ターンの時も目を瞑る。よくマユと母さんが一緒に見てたドラマみたいに出てきた部屋みたいに正面が鏡張りじゃない事にも感謝してると、アスランさんをどうにかしていたラーナスさんがやっと質問に答えてくれた。

 

「ファウンデーション側から交流プログラム来ただろ? 晩にやる交流会で十中八九社交ダンスがある。自慢の彼女を壁の花にする訳にはいかないだろ? ただでさえステラもミーアちゃんも踊るの大好きな子だし。はい、分かったら足動かせ。あ、当日の服は軍服な。ルナマリアやメイリン、ステラ達はこの前姉ちゃん達が贔屓にしてる店へ連れてってドレス仕立ててたから。ま、約一名自前のがあるって来なかったみたいだけど」

 

 理由が分かって足に力が入る。そりゃ苦手なアスランさんも頑張る訳だ。僕だってステラに楽しい素敵な思い出をたくさんあげたい。そんな事を考えていると嫌そうな顰めっ面で落とされた最後の呟きが聞こえてきた。誰の事を指しているか直ぐに分かる。ラーナスさんともウマが合わないみたいだ。迎えにきてくれた車の中でハハオヤがあんな感じだった、とだけ唸るように教えてくれた。それ以降は直ぐ話題が変わってそれきりだ。そんな事を思っていると、拍手と一緒に綺麗な三日月が降りてきた。

 

「うん、シンはめちゃくちゃ筋が良いな。基本のステップ四種類もう完璧じゃん。もう一人どうにかし終わったら他のも教えるからそれまで繰り返しやって身体に叩き込ませといて」

 

 褒められたのが嬉しくて頷くとそのまま後ろに下がっていく。踊ってる今の時間は見ないようにつとめつつ、アスランさんも当日までに上手くなるよう祈りながら足を動かし続けた。

 

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