「ねぇ、フォリィ。アスランってどんなドレスが好きかしら?」
色鮮やかな布地に囲まれる中、声を放つ。質問した先、形の良いフォリィの眉が少しだけ下げられた。いったいどうしたんだろう。
今日は貴重な丸一日オフの日だ。フォリィとフィルさんが私とメイリン、ルナマリアにタリアさん、ステラとナタルさんをこのお店に連れて来てくれた。昔から贔屓にしているオーダーメイドの服屋さんだって話だ。舞踏会がある私達みんなにそれぞれドレスを仕立てさせてほしいと数日前に提案された。安いものじゃないし自分でもお金を出すと言ったら拒否された。流石に申し訳なくて断ろうかと思ったけど、あんまりにも楽しそうな顔を向けられて駄目とは言えなかった。それにアスランもお世話になる事があるってお店がどんな所なのか気になったし、綺麗な服がクローゼットに増えるのは嬉しいって思いも否定できない。他の皆もそんな感じらしい。
けど、唯一断った人がいた。アグネス・ギーベンラートさん。ライブラ設立後にザラ隊へ加入して、アスランの新しい部下になった女の子。私はあまり詳しくないけど、ギーベンラート家もそこそこお金持ちなんだってラーナスさんやレイから聞いてる。特にレイはうんと苦手みたいで、すごい顰めっ面だった。けど、私自身が彼女本人と直接言葉を交わした事はまだない。今回話せるのを楽しみにしていたんだけど、もうお気に入りのドレスを持っているって事だった。言い出しっぺのフォリィ達もお気に入りがあるなら無理強いしづらかったんだろう。そういう優しい所はアスランに良く似ているなと思いながら、目線を彷徨わせている発起人に不安になる。
せっかくアスランと踊れる貴重な機会だから彼が喜ぶ服にしたい。そう思ってさっきの質問をした。大好きな彼とは実の姉弟みたいな関係を築いている大親友でも、流石にそう言った事は知らないのかも。困らせてしまうつもりはない。なんでもないと取り消そうとした瞬間、慌てて首を横に張られた。
「違うわ、ミーア。こんなでも私、アスランから姉さんなんて呼んでもらっているんだもの。あの子の好みは分かる。あの子自身が自覚していないものまでね。でも、それを他の大事なものより優先してほしくなくって。貴女が本当に気に入ったものを選んでちょうだい。私の勝手なワガママだけど、それを守ってくれる?」
優しいお願いへ一も二もなく頷いた。小さく息をついたお姉ちゃんから肩の力が抜けていく。それに安心しながらも少しだけ心配になった。
自分の願いを伝えてくれる事をフォリィは悪い事みたいに言ってくる。全然そんな事ないのに。寧ろこれから家族になるんだから、もっと頼ってくれたら嬉しい。そんな願いを込めて、他にお願いない? と聞いてみた。可愛らしく笑ってくれた人が優しく答えてくれる。
「大丈夫よ。聞いてくれてありがとう。気持ちだけで本当に嬉しい。それで、あの子の好む服装よね」
本当に嬉しそうに言ってくれるから無理してないかと重ねて聞きづらくなった。確認するように言われた言葉を肯定する。頷き返してくれた普段は物静かな人が滑らかに言葉を流した。
「まず露出が多い格好は好まない。今回みたいに、自分以外の人間が多い場所に行くなら尚更ダメね。ロゴス戦争が終わった後から貴女のライブ衣装とか結構変わったでしょ? あれ私の希望もあるけどアスランの趣味だから。実際、ラーナスのバカからも機嫌直しにかかる時間が減ったってお礼言われた。という訳で生地はしっかりしたものでドレスの種類も身体のラインが分かりにくいものの方がいい。うん、そこの型紙なら大丈夫だと思う。あぁ、二人きりの時は無理に隠しすぎる必要ないから。次に色ね。絶対に青は駄目。名前も言いたくない奴等を思い出させるから。これはあの子と二人きりの時も気をつけて。うん、その色は良いんじゃない? 流石ミーア、センス良い。そうだ、あの子本人の服装選びは壊滅的なの。今度一緒に服買いに行って見繕ってあげてくれる? そんな事ない? 一回あの子の着てきた服一式をマネキンにでも着せてごらんなさい。黄色に赤合わせるとか目眩がしてくるから。あの子ったら顔で服着てるようなものよ……私も最初は気づけなかったし顔が良いにも程がある……」
後半は顔を覆って項垂れていた。気をつけておかなきゃいけない二つを頭に叩き込みながら頭を撫でて労ってあげる。大きなため息をつくフォリィはアスランの事をあの子って呼ぶ事が多い。ずっと彼のお世話をしたりアスランの帰って来れるお家を守りながら生きてきたって前にこぼしていた。きっと彼がどれだけ強くて立派になってもこのお姉さんにとっては小さな子どものままなんだろう。そんな事を考えながらさっきの一つも息継ぎがなかった言葉の中で褒められた型紙サンプルと色見本を取る。店員さんにこれが出来るこの色の布はどれか教えてもらいたい。専門の人に聞いた方が早くて確実だって言うのもフォリィやアスランと一緒に過ごす内に身についた大切な知識の一つ。それを嬉しく思っていると、途方に暮れたようなメイリンとルナ、ステラの声が聞こえた。店員さんに何を聞けば良いか、どうやって聞いたら良いかとかは少しだけ分かるから大切な友達の力になりたい。一緒に行っていい? とフォリィが控えめに聞いてくる。少しだけ甘えてきてくれた親友の手を取って、みんなの方へと駆け出していった。
「楽しそうだな……すまない、私まで連れてきてもらって」
傍らの相手に声をかける。共にステラ達を微笑んで眺めていた彼女が驚いたように瞳を丸くした。
「いえいえ、それはこちらの台詞ですよ。私達の趣味とストレス発散も兼ねてますから。好きな人にはついたくさんあげたくなっちゃうんです。ナタルさんもドレスいかがです? ロアノーク大佐ったらとっても楽しみになさっているそうですよ。ラーナスが笑いながら教えてくれました」
せっかくだから、と楽しそうに笑って手を差し出される。あの人が望んでいるという情報に頬が熱くなってしまった。しかし、着飾る事には慣れてない。ドレスの知識など赤子同然だ。事実、あちら側で歓談している子達へ混ざったら置き去りにされるだろう。恐々と白状すれば足を止められる。踵を返されるかと思えば安堵したように肩が下ろされた。
「よかったぁ、私もおんなじです。妹みたいな知識なんかありません。なんとなく好きとかで決めて選んでますよ。ミーアちゃん達も話の内容はそんな感じですもの。ね、難しく考えなくても良いんです。ナタルさんさえ良ろしければ一緒に選んでくれませんか? 私もこっちの義足使うの久しぶりなのでまだ慣れなくって」
頬を緩ませた彼女が軽く手を合わせてから彼女が肌色の両脚をくるりと回した。彼女に関してはまだ目新しく感じてしまうそれを眺めて了承する。私からすれば慣れ親しんだ鈍い金属製の義足はファウンデーション行きでは控えるそうだ。他国の方を驚かせる訳には行かないからと説明された。本当は見知らぬ他人から奇異の目を向けられるのが苦痛なのではないだろうか。そんな邪推を抱いてしまう。純粋に心配故だ。彼女には私もステラ達も世話になった。せめてもの恩返しにこの場は支えようと腕を伸ばせば嬉しそうに手を繋がれる。そうして手を引かれながら、数分前には気後れしてしまっていた楽しい輪へと加わった。