組み手もしくはナイフ戦、射撃、MSシミュレーターの訓練規定がMSパイロットに課せられた義務だ。もちろんミネルバ内にも訓練施設はある。大切だけど面倒なノルマをこなすためレイと一緒に訓練場に入ると、射撃場が少しザワついていた。気になって近づくと、離れて見学していたルナが気づいて話しかけてくる。
「あっ、二人とも! 凄いわよ、アスランさんとラーナスさん!」
彼女の指差す先では、二人が訓練規定をこなしていた。
この前アスランさんがやっていた上級者向けの設定で、次々と位置を変えて現れる的に当てていくものだ。ただ、的の数が以前と段違いだった。的が最低でも2つ、同時に出現して、瞬きする間に消えていく。二人同時にやっている事も相まって発砲音が絶え間なく響いており、マシンガンでも撃ってるのか? と疑うほどだ。
あの時と同じように頭の部分に弾が吸い込まれていき、8割以上の命中を示す赤いランプと一緒にピピッという音が鳴った。
「……拳銃、俺らが使ってるのと同じヤツだよな?」
訓練用のは全員同じものだと分かってても隣のレイに確認してしまう。
軽く頷かれ、同じザフトレッドなのに、差を感じた。
いや、遠距離が得意なだけで近接、組み手とかはここまで得意じゃないかもしれないし!
負けるもんか! と闘志を燃やしていると二人が耳栓代わりのヘッドホンを外した。アスランさんの肩を叩きながら、ラーナスさんが口を開く。
「やー、さっすがはジュール家のお坊ちゃまに並ぶだけある。上手くなったんじゃねぇの?」
「……前より、落ちてる。お前に負けたし、もう一回だ」
「4体同時のやつでやり損ねただけで、シュミレーターはお前が勝っただろ? とりあえず水飲め。体力の問題もあるし、お前の実力確認したいから一通りやってからなー。次、好きなの選んでいいから。組み手がいい? それともナイフ戦?」
電光掲示板に表示されたスコア記録を見上げる。僅差でラーナスさんの方がスコアが高かった。二人とも俺の最高記録より桁が違ったけれど。
拗ねたように唇を尖らせたアスランさんは、組み手、とぶっきらぼうに返した後、頬に押しつけられたペットボトルを奪い取って大人しく水を飲んでいる。以前乗艦していた時はあんな風に感情を表に出すことが殆ど無かったので、少し驚いてしまう。意外と、子供っぽい?
そんな事を考えてしまった瞬間、組み手用にマットのあるスペースに行こうと振り返ったラーナスさんが俺達に気づいた。
「おっと。ルナマリアに、そこの二人はシンとレイ……だっけ? 今からやるとこ?」
「はい。レイ・ザ・バレルと申します。フィリアス協力員、これからよろしくお願いします」
「ラーナスさん、凄いですね! 思わず見とれちゃいました!
私、アスランさんにこの前コツ教えてもらって上達したんですけど、お二人みたいにはまだまだ。良かったら、この後の組み手も見させてください!」
「はい、よろしく。ファミリーネームだと呼びづらいだろ? ラーナスの方が俺も呼ばれ慣れてるから、そっちで呼んでくれると助かる。後、協力員ってのは無し、呼び捨てで良い。
へぇ、アイツが人に教えるなんて。だいじょぶ? 分かりにくくなかった?
見学ねぇ…… 俺は良いけど、アス、お前は?」
問われたアスランさんは、端のゴミ箱に空のペットボトルを入れてから、こっちを見た。
「別に構わないが……終わった後、君もすること。
二人は、どうする?」
軽く笑みを浮かべてルナに話した後、俺達も聞かれた。
アカデミーの頃、この人の話は教官達から散々聞かされた。気にならないといえば嘘になる。さっきの会話から、組み手が好きってことは上手いんだろうし。でも、なんだか急に戻って来てよく分からない人だし。
「後学のために、よろしいでしょうか? できればシンも一緒に」
悩んでいると、レイがまとめて頼んでくれた。なんか、呆れたような視線を向けられた気がする。
ダァン!! という音が響き、ラーナスさんが背中を床に打ちつけた。
襟首を引っ掴んで投げた人は、乱れた服を直している。あんだけ動き回ったというのに息が切れた様子はない。体力化け物かよ……
お互い相手の攻撃を避けつつ、隙あらば一撃決めようとしていた。決定打が決まらない攻防がしばらく続いた後、突きが勢い余って体勢を崩したラーナスさんの襟首を掴んでぶん投げた……ように見える。見えるというのは、とにかく二人の動きが速かったのだ。ナチュラルよりはよっぽど良いはずのコーディネーターの視力でも捉えるのが困難な程に。
改めてこの人の凄さを思い知ると同時に、同じ赤服として負けられない気持ちがムクムクと湧いてくる。
「アンタ、次、俺と勝負してください!」
思わず、そう叫んでいた。
少し目を見開いた後、楽しそうにラーナスさんが笑い出す。
「ふっ……あはは! 今の見てそれ言えるとかおっもしろいな、お前! んじゃまぁ、新旧ザフトレッド対決って事で相手してやれよ。休憩いる?」
「必要ない。はぁ……イザーク以来だな」
最後のボソッと言ったのは聞き取れなかったが、休憩しなくても構わない相手だと思われてることに腹が立って、思いっきり睨みながらマットに上がった。
「動きが直線的すぎる。途中で軌道を変えるか、フェイントをかけるかした方が良い。それが無理なら速度を上げて押し切れ」
アイツ、遠慮をどこかに落としたんじゃなかろうか。
思いっきりぶん投げられたせいで痛む背中を冷えた壁にあてつつ、仮にもこの艦の現エースを瞬殺した弟分を見やる。相手のメンツやらプライドやらを考えろと言いたくなるが、まぁ経験の差とかあるしなぁ。
最初の一撃は勢いがあって良かったが、それを外した後も悉くかわされまくり、イラついてますます大ぶりになった攻撃をいなされて負けた。俺は決定打にはならずとも数発入れたが、今回は服に新たなシワもできていない。
俺との勝負を見た後に申し込んできたガッツは買ってやろう。
それにしても、今のアドバイスといいルナマリアに射撃を教えたことといい、随分と世話焼きになっている。懐にいれた人間に対してはとことん甘いが、それ以外の他人に対する興味は恐ろしく無い奴だったのに。ザフトレッドの後輩だからか? なんて事を考えていると、倒れていた赤目のエースはゼーハー言いながらガバリと立ち上がった。
「ナイフ! 次、ナイフ戦も! その後、シミュレーター!」
……諦め悪ッ!! さては負けず嫌いだな、コイツ?!
アスランの方を見ると、思いっきり目を開けた後、微かに笑った。
「分かった。ただ、俺は組み手よりナイフの方が得意なんだ。息があがっているようだが、大丈夫か?」
「このっ……いけます! 上等だ!!」
上官相手にキャンキャン吠えてるエリートが一名。心配を上手く伝えない我が弟にも非はあるが、相手によっては懲罰ものじゃね?
横の二人は呆れたような視線を向けた後、こちらに軽く一礼して自分達の訓練を開始するため、射撃場に戻っていった。手を振って見送った後、ナイフを構えた二人を眺める。
若干身内びいきも入るが、アスランの成長具合は想像以上だ。MS操縦はもちろんのこと、先程の組み手では、お互い普通に本気だったし。得意であると自負してる射撃でもギリギリの勝利だった。ナイフ戦もアカデミーの時に教官に勝ったという話を聞いたことがあるから、さっきの発言は本当だ。コイツに下手な護衛をつけたら、逆に足を引っ張りかねない。
そんなヤツに挑むのは骨が折れるだろうが、自分で言ったんだ。頑張れよ、シン・アスカ。
2時間後。予想通り全敗したシンの、あんたって人はー!! と悔しげな叫び声が夕方の訓練場に響き渡った。