「
あ……グラディス艦長、私達を呼び出したのは、このことですか?」
驚いた顔はそのままにアスランが聞いてくる。彼の知り合いがこうも連続で来ることを一瞬怪しんだが、彼にとっても想定外らしい。
にしても姉様とは。良家の子息らしい呼び方に感心しながら答える。
「ええ。貴方達のことを話したら彼女が挨拶をしたい、と。わざわざ呼んで悪いわね。ちなみに、どういう関係なのか聞いてもいいかしら?」
「はい。彼女はザラに代々仕える家の長女で、幼い私の遊び相手であり世話役の一人でした。こちらのラーナスとは、いとこにあたります」
家ぐるみで使用人がついているのは流石と言うべきか。とにかく、そう言う事情なら先ほどの彼女の台詞にも頷ける。
「そう、答えてくれてありがとう。
ところで、明朝に出港するのは聞いたわね? 可能な限り回避する気でいるけれど、移動中に地球軍との戦闘になる可能性が無いとは言えない。
そうなった時、貴方達の対応を聞かせてちょうだい。アスランは指揮系統が違うし、ラーナスに至っては別組織でしょう? 念のため、ね」
せっかく呼び出したのだ。確認のために問いをぶつけると、目配せを交わしてから、アスランが口を開いた。
「私も彼も今はこの船の一員です。戦闘になった際は、参加する所存です」
「そう、助かるわ。では、出撃後のMS隊の指揮をお願いできるかしら?」
「分かりました」
「ありがとう、シン達には伝えておくわ。彼女の案内をお願い」
礼儀正しく一礼してから去っていく三人を見送る。アスランは思ったより随分と聞き分けが良い。パトリック・ザラの後継として厳しく躾けられたという噂は聞いていた。しかし、以前の大戦で実の父と袂を分かち、軍内では悪し様に言う人物もいたので、会うまではシンに似た苛烈な性格の人物を予想していた。
「前評判は、当てにならないものね」
レクレーションルームでは、ヨウランやメイリン達が集まっていた。何を話してるのか気になって近づいてみる。
「え!? マジで! セントエルモのフィル先生、アスランさんの知り合いなのかよ!」
「来る途中見かけたんだけど、3人とも仲良さそうだったよ。姉様って呼ばれてたし、ラーナスさんと一緒で幼馴染みたい」
どうやら新しく来た医療クルーの話らしい。俺は会ったことないけど、協力企業の人で滅茶苦茶美人な医者がいるというのはアカデミーの頃から噂を聞いた事があった。にしても、またアスランさんの知り合いかよ!? 驚いて入り口で立ち止まった俺に気付かず3人は話を続ける。
「うわぁ……あの人気の美人女医が姉代わりってことだろ? ザラ家の跡取りお坊ちゃまで、あのラクス・クラインの婚約者。おまけに大戦の英雄で今はFAITH! エリートにも程がねぇか?」
「だよなぁ。訓練規定の射撃、スコア表の上2つ見た? 3位のレイのやつと比べたら桁数バグったか? ってなった。近接訓練でも勝負挑んだシンが全敗したってよ」
事実とはいえ、聞き捨てならない。近づいて肩を叩く。
「おいヨウラン、誰から聞いたんだよ」
「うげっ、シン…… ルナだよ、ルナ。それにしても、あの人ほんと凄いよな。2年ぐらいのブランクあってそれだろ?
経験の差? それとも身分の差ってヤツ?」
ルナは後で文句言ってやる。それにしても経験の差は納得できなくもないが、揶揄うように言われた身分の差というのは意味が分からなかった。さっきお坊ちゃまとか言われてたけど、何かあんの?
「経験はともかく、あの人確かにFAITHだけど、身分の差って言うほどじゃないだろ」
そう返すと、ヨウラン達が揃って目を瞬かせる。
「……あー、そっか。お前、オーブからプラント来てちょっとしたらアカデミー入ったもんな。情報収集する間も無かっただろうし、知らなくても無理ないか。
ザラ家は結構な名家なんだよ。元々プラントができる前から貴族階級っつーの? ともかく、相当な金持ちだったらしい。んで、アスランさんの親父さんはプラント解放の立役者の一人にしてザフト創設者。まぁ、今じゃ色々あって微妙な立場だけど……有名な政治家の家だから、あの人もより優秀にするため追加で色々とコーディネートされてる、なんて噂もあるぞ。両親共にコーディネーターの中でも優秀だったから真偽はともかく、さ」
「何だよ、それ。金持ちの家に産まれたから凄いって?」
それだったら産まれた最初っから勝ち負けが決まっているようなものじゃないか。アカデミーにも何か凄い出自のやつがいたが、俺に負けてたし。
「ま、俺らも本気で思っては無いよ」
あはは、と笑ってヨウランが返す。そりゃそうだ。けれど、そんな冗談を言ってしまう気持ちも分かるほどにあの人は強かった。
「でもまぁ、あの人強いよ。 ナイフ戦とかめっちゃ速いし。
あーあ。この際何でも良いから、勝てそうなもの無いかなぁ?」
「ジャンル問わずって、そんなに勝ちたいのかよ」
思わずぼやくとヴィーノから突っ込まれた。いやだってさぁ。
「負けっぱなしとか悔しいじゃん。何か一個勝って凄いなって言われてみたいし。なぁ、あの人の弱点とか知らないの?」
「知りたいんですか?」
「え! 知ってんの! ……あ、えっと……」
後ろからかけられた声に振り向くと、白い髪が綺麗な女の人がいた。
固まっていると、可笑しそうに笑われる。後ろでヴィーノ達がうぉぉって小さく言ってるし、もしかしてこの人が?
「初めましてですね、シン・アスカ君。今日から軍医として勤めるフィル・フィリアスです。メイリン・ホークさん、ヨウラン・ケント君にヴィーノ・デュプレ君達も、これから弟達共々よろしくお願いします」
よろしくお願いします、と全員で頭を下げる。というか!
「俺達全員の名前、覚えてるんですか?
それと、本当に、アスラン……さんと兄弟みたいな関係なんです?」
思わず聞くと、ふわりと笑って返事が来た。
「船に乗る以上、クルー全員が患者さんみたいなものなので。
アーちゃ…… アスランのことは文字通り産まれる前から知っているので、血は繋がってなくても自慢の可愛い弟です。まぁ、口下手なところと自分を気にしないとこは玉に瑕ですけれど、少しくらい欠点があるのも愛嬌ですよね。対処法はありますし。
ちなみに今日来たのは全くの偶然です。二人がいることに驚いちゃいました」
楽しそうに語る彼女に、はぁ、と返した後気になることに気づく。
「アスランさんは、どこにいるんです? 副長から戦闘の指揮をあの人がとるって聞いたんですけど」
大分夜は遅いけど、まだ普通に起きてる時間の筈だ。さっきメイリンがラーナスさんも合わせた3人で歩いてたって言ってたし、一緒にいないのだろうか? せっかくなので少し話したい。
「あー……ストレスで寝不足だったので寝かせてます。本人は貴方達のところに直接挨拶に行きたがっていたんですけど、明日の朝になると思います」
ごめんなさい、と困ったように眉を下げられる。それにしても、医者が寝かせるほどの寝不足って……
「大丈夫なんですか、それ」
体調管理の大事さはアカデミーの寮監に厳しく言われる。それが出来てないとなるとだいぶヤバい気がする。すると、ありがとうございます、と微笑まれた。
「復隊する随分前から落ち着いて寝れてなかったみたいで。まぁ無理も無いんですけれど。私が過保護なだけで、君が思ってる程悪くないです」
分かりました、と頷くとホッと息をつかれた。おやすみなさい、と挨拶をしてカンカンと硬い足音を響かせながら去っていく。
もしやアスランさんって放っておいたらマズい人なんだろうか? さっきヨウラン達が話してた完璧エリートとは程遠いのかもしれない。
ユニウスセブンの破砕作業を思い出す。
こちらが助けようとしても俺を気遣うばかりで、自分のことは放っておけと言わんばかりだった。
オーブなんかにいるのは勿体無い人だったので、理由は気になるけどザフトで一緒に戦えるのは嬉しい。なんであんなに強いのかも知りたい。
ただ、あれこれ噂されるのは大変そうだな、と思った。
ザラ家主従、お互いに対する認識inミネルバ
アスラン: 姉様は言わずもがな、ラーナスは軍での戦闘経験無いし自分が守らないと、と思っている。
ラーナス: アスランは口下手だし、姉さんは人の気持ちより人命優先してしまうし俺がフォローしてやらないと、と思っている。
フィル: アスランは直ぐに食事抜いたり夜更かししたり無茶するし、ラーナスは本人のやりたいこと重視で止めやしないから私が面倒みないと、と思っている。
前大戦でアスランが機体を二度も自爆させたと聞いて頭を抱えた。
死んでたらどうするつもりだったんですか?!