インド洋の激闘
「改めて、出撃後の指揮を担当することになったアスラン・ザラだ。よろしく頼む」
目の前の相変わらず整った顔をじっと見る。フィルさんから話を聞いてから少しだけ心配していたけど、隈とかは無さそうだ。内心で頷いていると、少し眉を顰めた顔で小さくため息をつかれる。何なんだよ、もう。何か言おうと口を開こうとした時、アラートが鳴った。
『コンディションレッド発令、パイロットは搭乗機に!』
全員でハンガーに向かいながらアスランさんが通信機で艦橋に繋いだ。
「艦長、詳しい状況を教えていただけますか?」
「待ち伏せされたわ。熱源探査の結果、ウィンダムが30機。内1機はカオスよ。ちなみに母艦の位置は不明。人気者は辛いわね」
「分かりました、ありがとうございます。
状況は聞いたな? 飛行機能があるシンと俺でウィンダムの対処に向かう。カオスがいるならガイア、アビスの二機も出てくる可能性がある。二人は状況次第で水中戦に出てもらうか艦上戦闘のどちらかになる可能性があるから待機になるだろう。ラーナスは出撃しても良いが、こちらの方針は守れよ」
「了解」
続け様に出た指示に揃って返事を返す。流石の状況判断力に舌を巻きつつ、コアスプレンダーに乗り込んだ。
自機に乗り込んで直ぐ、相棒に回線を繋げる。
「俺出るけど、良いのか?」
予想していたのか、返事は間をおかずに返ってきた。
『沈ませるな、死ぬな。守れよ』
「りょーかい、ご主人サマ」
おどけて言うと、画面越しの強張った顔が少しほぐれる。
さぁて、出撃しますか!
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」
「ラーナス・ウィル・フィリアス、ジェミニ、出るぜ!」
宣言とともにスイッチを上げる。ケーブルが外され、機体が黒に染まった。
同時に出た二機が空高く上がったのを見てから、下に降りる。アスランともオーブでの戦闘記録を見て話したが、シンの突破力は大したものだ。前に出過ぎるきらいはあるが、撃破は任せられる。抜けて艦に近づいた機体はアスランが対処するだろう。ミネルバは問題ない。
問題はニーラコンゴ。アスランも言った通りカオスが確認されたならアビスも来ると考えるのが自然だ。速度と索敵感度がものを言う水中戦で、素早いアビスは脅威になる。もちろん、ザクやグーンを出す時間はあるだろうが、ルナマリアとレイは水中戦の実戦はおろか、実地訓練も不慣れなはずだ。宇宙戦メインの訓練のはずだから無理もない。ザクは経験差、グーンは性能差で時間稼ぎ程度だろう。つまり、こちらのセンサー範囲に引っかかってからでは確実にやられる。となると、先手必勝という訳で、先に見つけられるかどうかが勝負になる。水中戦は短時間かつ遅くなる、とアスランは言っていたが、あの間の開け方は戦闘行為だけの話だろう。索敵行動なら短時間ではないと判断して潜る。
向こうの出発地点は、よっぽど遠くから機体だけ飛ばしてきたか、こちらが把握してないだけで対カーペンタリア基地でも向こうがこさえていたかだ。バッテリーも考えると後者だと予測しつつ操縦桿を動かす。抵抗があって進みは遅いが、相手を見つけてない今は問題ない。
なんて思ったからか、遠方に水色の機体が現れた。
「何なんだよ、お前!!」
ネオからザフトの潜水艦がいるとか聞いて落としてやろうかと進んでいたら、黒いMAとかち合って、いきなりビームを連射された。避けながら悪態をつく。ビームはめんどくさいがMA自体の動きはトロい。水中戦向きのやつじゃないみたいだ。
「ちまちまちまちまウザいんだよ、沈んじゃえ!」
魚雷を撃ってやると避け切れなかったのか当たった。よっしゃ!
沈んだヤツに興味は無いのでそのまま素通りして進む。潜水艦が遠くに見えた瞬間、機体が揺れる。まさか、と思って後ろを向くと、黒いMAが落ちたはずのところに、黄色のMSが立っていた。まさかアイツもアビスと同じ……
「フェイズシフト装甲付き、新型かよ!」
「ふぅ、危ない危ない」
再度MAに変形させ、浮上するとアビスは追ってきた。俺なら無視してニーラコンゴ落としに行くけど、奪取したパイロットはまだ若いらしい。乗せやすくて好都合だ。
燃費もあるので黒に変えて空に上がると、MS形態に戻ったアビスが、内側の砲門を使ってバカスカ撃ってくる。
「そんな悔しかったのかよ、ま、だろうなぁ?」
全弾避けつつ、少し降下して数発打ち込んでやる。掠ったのを確認して高度を上げると、ムキになったように全門砲撃が飛んできた。
こうやってチマチマ撃っては下がる、いわゆるヒットアンドアウェイは結構好きだ。こっちはノーダメで相手をイラつかせれるからな。
機体を奥にやって避けつつ、周囲の様子を把握する。ウィンダムはほぼ見えず、アスランのやつがパーソナルカラーのウィンダムとカオスと交戦していた。インパルスは、ここから見えない。シンは、どこだ?
ザフトのエース君から相手を変わった赤い可変機が借りてたウィンダムの最後の一機を撃墜した。ここらが潮時か。回線を開いて呼びかける。
「撤退準備を頼む! アウル、スティング、ステラ! 終了だ、ジョーンズに帰るぞ!」
「ちょっと待てよ、ネオ! 色変え野郎落とせてない!」
アウルからイラついたように返事が来る。気がついたら海上にアビスが出て、ビームを撃ちまくっているのが見えた。ビームの先にはどこかで見覚えあるような形で避けまくる黒い機体。色変え野郎ってコイツのことか? ちょっと変わった黒いMAぐらいにしか見えないが。
「借りてたウィンダムが全部落ちたんだよ。ソイツの話も聞きたい。落とすのは次の機会にしてくれ。あと、怒られてもしらねぇぞ?」
最後に付け足した一言にムッとした顔をして、ウィンダムの奴ら、使えねぇの! と悪態をついて大人しく帰投してくれた。
ウチの女房役に懐いているようで何よりだな、と思いながら俺とスティングも撤退した。
「ネオ、おかえりなさい!」
帰投すると、先に船に戻っていたステラが出迎えてくれた。
「ただいま、ステラ。お出迎えは嬉しいけど、わざわざ待ってなくても良いんだぞ?」
ゆりかごでの処置が必要な時もある。頭を撫でながら言うと、少し膨れて言葉が返された。
「ナタルがお迎えに行ってきなさいって。新しい敵のお話が聞きたいみたい」
「そうか。んじゃ、アウル、スティング! 一緒に報告行こうぜ」
呼ぶと来た。何やかんや素直な奴らなんだよなぁ。
「分かりました。報告感謝します、大佐。アウルとスティングも。その可変型の二機について解析結果を近いうちにお渡しします。
それにしても、ウィンダム全滅のうえ、対カーペンタリア基地は壊滅。当艦は無事ですが、他の損害が大きいですね」
「何だよ、ナタル。基地ぶっ壊れたの?」
「そうだ。戦車やトーチカは勿論のこと、燃料タンクまでやられた。人員被害も多数。現地住民はその際にほぼ全員逃亡したらしいな。すぐの再建は難しいだろう」
ごめんなさい、とステラがしゅんとした。気にすることはないさ、と頭を撫でながら呟く。
「領土的野心は無い、ねぇ……どこまで本当なんだか」