相手してたアビスが去ったため、こちらも帰投する。数でゴリ押せなくなったので撤退命令でも出たのだろう。ミネルバのカタパルトを開けてもらう時にメイリンに聞くと、シンは無事だった。陸地にあった地球軍基地を破壊してたらしい。
「通信聞いてる限り、アスランさんが途中で制止してたのを聞かなくって……」
「は? アスランが制止命令出したのか? 理由は?」
「彼らに戦闘力は無いって言ってました」
「……あー、分かったらで良いんだけど、シンのやつ、武器以外も攻撃してた? 燃料タンクとか」
「すいません、私もそこまでは……森の中でミネルバの外部カメラでも見えないところにあって。インパルスは何とか見えたんですけど」
「良いよ良いよ。ちなみに、アスランまだ帰ってきてないよな? 俺ジェミニから降りたら、しばらく待っとく」
分かりました、との明るい返事に笑い返して、回線を切り、大人しく運ばれる。メイリン、素直で良い子だな。
さっきのアスランの台詞から大体の状況予測はついたが、理由は本人から聞くしかないか。それにしても、だ。
「シンのやつ、本当に赤服か?」
ここ2年はどこも人材不足のため質の低下もやむを得ないが、それにしたって目に余る。
「アスランのやつ、怒ってるよな……」
理由は二つ。一つは命令無視に対して。もう一つは、議会の方針に反したことに対して、だ。後者は俺が仕事と生い立ち上、議会の演説に気を配っており、アスランとの十年弱の付き合いがあるから推測できる。
「ザフトの成り立ちが複雑なんだよ」
コクピットから降りたので口の中でこっそりと言うに留める。
政治結社である黄道同盟の持つ武装勢力である故に、プラントを守るだけでなく、議会や議長の方針にも従わなくてはならない。シンも把握してるはずだよな? なんて考えてると、セイバーが格納され、アスランが降りてきた。インパルスは、まだのようだ。
「お疲れ。事情はメイリンから軽く聞いた。くれぐれも殴るなよ」
眉間に皺が寄って、眉も上がった弟に声をかける。美人が台無しだぞ、と思わず付け加えると、大きくため息をつかれた。気持ちは分かる。
アスランに対して訓練中から噛み付いてた上に、コレだ。シンがオーブ……正確にはアスハ嫌いなのは事情含めて昨夜ざっとルナマリアに聞いたが、坊主憎けりゃ袈裟まで、の精神を発揮するな。まぁ、それだけでは無いのだろうけど。
「んで、そこまで怒ってる理由は?」
想像はついてるが確認のために聞いておくと、再度ため息。これ以上幸せを逃してどうする。
「不必要な破壊行為。現地住民の救出のためとはいえ、限度がある」
「現地住民って…… あぁ、強制労働で基地作りでもさせられてた訳?」
「らしいな。フェンスを引き抜いて逃亡の手助けをしていた。近づいてみないと分からなかったが」
少しは落ち着いたのか、顰めっ面から呆れを含んだ顔になる。最後に付け加えられた一言から、アスランに報告せずに独断専行したことが伺えた。人道的には褒められるが、軍人としてはアウトだろ。
「説教は不可避だな。いくらシンがアレだからって、お前」
「俺がなんだって言うんです?」
後ろからの声に内心で頭を抱える。話に夢中で気配に疎くなった俺が悪いが、タイミングが最悪すぎた。振り向くと、戦闘の興奮が抜けきっていないのも相まってか、こちらを射殺しそうに睨むシンがいた。
基地で働いてた人達を助けられたことを嬉しく思って帰投する。
ただ、撃ち殺された人が居たのが悔しい。俺がもっと早く気づいてたら、あの人は死なずにすんだかもしれない。もっと強くならないと。
改めて思いながら機体から降りると、アスランさんとラーナスさんが何やら話し込んでいた。助けることに夢中で、あの人が何か言ったのを聞いてなかったことに思い当たった。近づいていくと、ラーナスさんが呆れたように言った言葉に腹が立って、思わず尖った声をかけてしまう。すると、険しい顔のアスランさんが固い声で返してきた。
「君は、自分が何をしたのか分かっているのか?」
「ウィンダムやガイアと戦って、見つけた相手の基地を壊して現地の人を助けました。何か悪いことでもあるって言うんですか?」
「……戦争はヒーローごっこじゃないんだぞ」
かすかに息をのまれ、苦虫を噛み潰したような顔で言われる。なんだよ、俺が何かしたみたいじゃないか!
「何なんだよ、アンタ! まさか、あの人達見殺しにしとけとか言うつもりか!? 逃げようとしただけで、銃で撃ち殺されてたんだぞ!」
「そんなこと言ってないだろう! 自分勝手な判断をするな! 力を持つ者なら、その力を自覚しろ!」
怒鳴られるが、意味が分からない。
「俺は、あの人達を助けられたんだ!
偉そうに文句ばっか言って、アンタこそ一体何が……むぐっ!?」
厳しい顔をしたラーナスさんが俺の口を覆っていた。
流石に度が過ぎる。アスランは恐ろしく言葉が足りてないし、平手でもする気だったのか今ちょっと手が動いた。シンは怒りに任せて言い過ぎなので正直一発殴られても文句は言えない。本来、俺が出張る問題ではないし協力2日目では正直避けたいところだが、放っておくと後々に響くのは何となく分かる。あーもー、分かっちゃいるけど面倒だな!
「一旦この件、俺が預かるから。とりあえず二人とも着替えて部屋で待機しろ。艦長に話通したら事情聴取に行く。レイかルナマリア、悪いけどシン任せられるか? お前は一人でさっさと行け」
極力平坦な声を出すと、何かを言いたげだが大人しく引き下がったアスランを横目に、ジタバタしていたシンは同期二人に睨まれて静かになったが目線はキツい。気が滅入るが、艦長さんに報告しに行こう。
「……それはつまり、監視組織であるサジタリウスが口を出さなければいけない案件ということ?」
額に手を当てたグラディス艦長が重っ苦しいため息をして聞いてきた。
「俺個人が仲裁に入った、と捉えてください。アスランの事情聴取をシンに聞かせて和解のきっかけを作ろうと思いまして。今後も揉めるようなら困るでしょう? 事情聴取と言ってもお互いの事情を聞くだけで、お忙しい艦長の手を煩わせませんから。許していただけませんか?」
今後の事を考えたのか、眉間を押さえた艦長が天井を仰いだ。姉さんに頼んで胃薬か頭痛薬をお詫びで渡してもらおう、なんて半分冗談で考えていると、少し間が空いて返事が来た。
「分かりました。確かにシンの命令無視は問題だし、関係構築に難があると、後々の作戦にも響くしね。ただし、シンの事情聴取にはアーサーも一緒に連れて行ってくれない? そのままアスランのも一緒に聴かせてくれると助かるわ。通信機は一組使っていいから」
名指しされた副艦長が、素っ頓狂な声をあげた。悪いが無視して返事を返す。
「俺は構いませんよ。ザフト側の方もいた方が俺も安心ですし。ありがとうございます」
「あの、ラーナス、くん? 俺は何したらいい?」
シンの部屋に向かいながら、恐る恐る問いかける。他のパイロット達より年が近いからか、呼び捨てにするのは何か違う気がした。
「気になる事があれば聞いてください。俺だとどうしてもアスランに甘いので、シンに反発されるでしょうし、貴方がいてくれて助かります。あと、呼び捨てで良いですよ」
落ち着いた声で返事が来る。アスランと言い、上流階級関係者は大人びてるなぁ。
「レイには外してもらってます。行きましょうか」