シンをレイに任せ、シャワーを浴びてさっぱりする。休憩スペースに移動すると、さっき別れた人が佇んでいた。
「あれ、レイ。シンの見張りは良いの?」
「ルナマリアか。部屋で事情を聞くらしいから、俺は別で待機している」
「ふぅん。それにしてもシンったら、わざわざケンカを売らなくてもねぇ?」
アカデミーの頃から気に入らない教官に噛みついてたけど、卒業後も変わってない。なだめ役が私やレイなのもそうだ。
「いきなり来て上官だーって言われて、納得できない気持ちは分かるけど。しょうがないじゃない、フェイスだし、ちゃんと強いんだし。あーあ、にしても私達、待機しっぱなしで出る幕無かったわね」
アビスはラーナスさんが抑えてたし、艦上に出たけど、ウィンダムがアスランさんを抜いてこちらに来ることは無かった。
「ザクには空戦装備が無いから仕方がない。艦を守るのも重要な事だ。戦果を上げられていないのは気にするな、俺は気にしない」
冷静に返された。はいはい、と返事して踵を返す。落ち着いてて頼りになるけど、大人っぽすぎるのも考えものね。
「逃げようとしてた人が撃たれてたのを見て、それで……」
「助けようと基地を破壊した、と。アスランの停止命令は聞こえてた?」
「夢中で、聞こえてませんでした」
時間を空けたからか落ち着いたシンが、むすっとしながらも素直に答えた。質問してるトライン副艦長の雰囲気が穏やかなのも原因だろう。なんつーの、癒し系? 大体聞き終わったので、俺から気になる事を一つ聞いておく。
「はい、じゃあこれでお前への質問は終わりな。シン、お前なんでアスランが怒ったと思う?」
少しの沈黙の後、渋々といった風に答えが来た。
「俺が、あの人の言うこと聞かなかったからでしょ。でも、ついこないだまでアスハなんかの護衛やってた人が昨日から上官になって、はいそうですかって大人しく言うこと聞けますか!」
「ちょっ……落ち着いてくれよ、シン」
ヒートアップしたのを副艦長が宥めに行ってくれた。シンが毒気を抜かれたように大人しくなる。この人と一緒ならまぁ、暴れはしないだろう。むやみに噛みつくようなやつでは無いようだし。にしても、最初見た時は頼りなく思えたが、副艦長やるだけの理由はあるらしい。評価をこっそりと改めつつ、おもむろに艦長から借りた物を机に置いた。
怒られた理由を聞かれて、それ以外は思いつかないのを答えながら段々と腹が立ってきた。思ったままに文句を言うと、トライン副艦長に止められる。なんかこの人相手だと、怒鳴る気になれないんだよな。
少し落ち着くと、ゴトンッと音がした。見ると机の上に通信機が置かれる。小さいサイズだから、あの音はわざと強めに置かれた。また怖い顔でもしてるのかと思って目線を上にやると、いたずらっ子みたいにニヤリと笑っている。
「さて、さっきの理由は半分正解。という訳で、カンニングをさせてやろう。
それ、受信モードになっててさ。相手側の声は聞こえるけど、こっちの声は聞こえない優れもの。今からアスランのところに発信モードにしたのを持っていって代わりに聞いてやるので、大人しく聞いときなさい。ちなみに、副艦長は艦長に報告義務があるから最後まで聞かなきゃいけない。お前がキレて電源を切るのはご法度。副艦長、シンを絶対に部屋から出さないでください、お願いします」
「どうあがいても聞け、って言うんですか!」
俺がこの部屋で聞かなきゃ副艦長が困るじゃないか! 思わず叫ぶと、もう一つの通信機をもて遊びながら言葉が続けられた。
「お前は人の話を最後まで聞けよ。出て行かずに最後まで聞いてたら、あの美人なすまし顔が5秒で崩れる、アスランのとっておきを教えてやろうかと思ってるんだけど、のる?」
ますます笑みが深められる。どうあっても最後まで聞かせたいみたいだ。にしても、とっておきって、なんかざっくりしてるな……
「分かりましたよ、聞けば良いんでしょう聞けば。でも、どうせならあの人の弱点知りたいです。何でも良いので俺が勝てそうなやつ」
せっかくだから内容を指定すると、堪えきれないように笑い声を響かせて出て行った。
しばらくして、通信機越しにノックの音が響く。同室だから必要ないだろうに、あの人もヘラヘラしてるようで変なとこしっかりしてるなぁ。
『俺だけど、入るぞー』
入ると、デスク前で作業してたアスランが手を止めた。何してんの。
「なんだ、もう少しかかるかと思ってた。それ、何だ?」
「シンのやつ落ち着いてたし、質問事項も少なかったから。
艦長さんに話通しに行ったら、様子を聞かせてほしいって言われて。まぁ、俺からも報告するから固くなるな、いつも通りでいい。
じゃ、改めて聞くぞ。今回のシン・アスカの行動、何が問題だと、お前自身は考えてる?」
艦長にも聞かれることを気にしてるのか少し肩が強張っているが、落ち着いた声が返ってきた。
「数度の命令無視。報告を怠り、独断で作戦目的外にてモビルスーツを使用。一番問題なのは、相手戦力の無効化後で破壊行動を継続したこと」
「オッケー……と言いたいところだけど、それぞれが何でダメなのか説明を頼む」
言った瞬間、愕然とした顔をされる。たっぷりの沈黙の後、一言言われた。
「お前がそんな事聞くなんて、医務室に行くか?」
……俺じゃなかったら殴られてるんじゃなかろうか。いや、俺だからこそ、か。真意は理解しても、ちょっと自分の額に青筋浮いてないか心配になる。
「俺は、ちゃんと分かってるよ。ただ、ほら。こう……ザフトにいるやつ全員が詳しい訳じゃないじゃん? 政治なんて、ほとんどのやつはニュースキャスターが今日もなんか言ってるなーで聞き流しちゃう。最高評議会の中継を楽しみにしてた子供は、親父さんが映るからってわざわざ録画してたお前ぐらいだよ。だから、分かりやすーく説明してやって?」
昔のことを持ち出したせいか、少し顔が赤くなる。上官への報告かつリアルタイムの通信機じゃなきゃ、ここのログは消去されたかもしれない。生暖かい目で見ていると、ため息の後、ゆっくりと説明がされた。
「今回は何の損害も無いから結果的には良いものの、命令を無視した勝手な行動一つでミネルバ撃沈もあり得るからな。
今回の出撃理由はウィンダムの破壊が目的だ。それ以外でモビルスーツを使用したら、何があったか不審に思う。せめて直前に、『地球軍基地を発見しました。現地住民達が強制労働させられているようです。これから基地の破壊及び現地住民の救出に入ります』とでも言われていたら俺だって許可したさ。カオス達が撤退して、慌てて急降下したから事情が分かったものの、勝手に暴れ出したかと思ったぞ」
昔っから、何で? を聞いたら、ちゃんと説明はしてくれるんだよなぁ。こういう時はよく喋る。
「最後に相手の攻撃戦力破壊後にも攻撃行動を継続。念のため確認だが、ラーナス。議会の方針及び議長の発言内容は覚えているな?」
「当然。この戦いは、あくまで積極的自衛権の行使である。我々プラントに領土的野心はない、だろ?」
昨日も聞いたことを答えると、ゆっくりと頷かれる。
「そう。積極的自衛権の行使、つまりは相手が銃を持ってこちらに向けていて、攻撃される可能性があるから撃つという訳だ。銃を持っていない相手や、戦場から逃げる相手に対して引き金を引くのは違うだろう? 不必要な破壊を行えば、ここを領土にする気では無いのか? と余計な疑心を相手に抱かれ、不必要に戦火が広がる。それはきっと、アイツも望んでいないはずだ。あと、ミネルバは新造艦で議長の期待も大きい。そこに所属する人員が議会の方針に反するような真似を行った、と見られると不味いんだが……」
そこまで大事にはならないと思うが、眉が寄せられる。
「燃料タンクは誤射で通せる。後、このまま通りすぎるだけなら、あの人達が一瞬家に帰れるだけで、同じ目に遭う可能性がある。ウチから人道的保護の名目で監視兼保安人員送れるかボスに問い合わせとく。アフターフォローまでが戦闘です、なんちゃって」
「いいや、お前の言う通りだよ。悪い」
「気にすんなって。ところで、これは俺の個人的興味もあるんだけど。お前さ、何でそんなにシンのこと気にかけてんの?」
副艦長は、ドーベルマンの群れに放り込まれた豆柴的な認識。