自分のやったことがどういう事だったのか、今更ながら思い知る。怒られて当然、殴られたって文句も言えないくらいだ。恐る恐る横を見ると、副艦長は目を丸くしていた。
「ここまで気が回らなかった。ずっと先まで考えているんだなぁ。本当に18歳?」
俺のしたことには触れずアスランを誉めている、のんびりとした口調に呆気に取られていると、通信機からラーナスさんの声が響いた。
『お前さ、こういう奴がいたら放っておいて相手が自業自得で痛い目見ようが知らんぷりだっただろ。それが今回は出会って少し、おまけに口下手のくせに自分から説教するわ、危うく手が出かけるわ、らしくないにも程がある。どうしたっていうんだよ?』
俺としては口うるさい人という印象だったんだけど、違うらしい。少し間が空いてから、キョトンとしたような声で返事が聞こえた。
『そんなに気にしてるのか、俺? ただ、そうだな。うん、きっと昔の俺と似ているからだ。入隊理由も似たようなものだし、俺と同じ目に遭って欲しくない』
本人も気づいてなかったことに気付くのは、幼馴染だからだろうか。そんなことより、あの人の入隊理由って、なんだろう。気にしたこともなかった。再度黙った通信機をいいことに、横の人に聞いてみる。
「トライン副艦長、アスランさんの入隊理由って知ってます?」
こちらを向いた血の気が引いた顔がありえない、と物語っていた。一体なんなんだろうと身構えると、少し良くなった顔が、あぁ、と呟く。
「そうか、シンはオーブ侵攻の後で、あのプロパガンダも終わってたからな、知らないか。ごめんよ、プラントでは知らない人はいないと思ってたから驚いた。……でも、悪い。俺から軽々しくは言えない。本人に聞くか、調べるのが一番良いんじゃないか?」
なんだか歯切れの悪い答えに瞬きを繰り返す。通信が終わったら、謝りに行くついでに教えてもらおう。
『そっか。お前、パトリック様の言う事聞いてたの……
うん、分かった。嫌なこと思い出させたな、ごめん。これで終わり! 艦長にこれ返してくるわ。お前と話したいことも色々あるけど、しばらくかかるだろうから、甲板にでも行って気分転換しておいで』
優しい声の後、分かった、とアスランさんが答える。なんか、詳しく言われなくても納得したみたいだ。少しすると、ノックと共にラーナスさんが部屋に入って来た。一瞬、泣きそうな顔をしていた気がしたが、すぐにニコッとした笑みに変わる。
「その顔だと分かったみたいだな。アスランは甲板で黄昏てると思うから、話してきなさい。あぁ、あんまりキツいこと言うなよ?」
言いませんよ、と返して、ダッシュで甲板に向かう。謝らなきゃいけないし、あの人と早く話がしたかった。息を整えてから扉を開けると、アスランさんがぼうっとしていた。
「あの、アスランさん。さっきは、すいませんでした」
ウジウジしている訳にもいかないので声をかけると、振り向いてから困ったように微笑まれる。
「いや、俺も言葉が足りなかったから。理由は、聞いて分かったみたいだな。力を持った瞬間に、その力で誰かを守れる代わりに、他の誰かを泣かせることになる。相手だって人間で、得体の知れない怪物じゃない。軍にいる以上こんなことをするのは避けられないが、むやみやたらに使ってはいけないんだ」
「はい……っていうかアンタ、気づいてたんですか?!」
ハンガーで聞いた時より言葉が足された表現で、あぁ、この人は俺に必要以上に他人を傷つけて欲しくなくて怒ったんだな、というのがぼんやりと分かった。その前の言葉に気づいて呆然とする。いつからだよ!?
「取ってつけた理由でわざわざ解説求めて来たからな。不自然すぎた。カマをかけたんだが、当たりだったか」
アイツの悪巧みを見抜くのは得意なんだ、とちょっとだけ得意げに話してくれる。小さい子供が自慢してるみたいだ。凄いですね、と頷いて、気になってたことを聞く。
「あの、アンタ、なんで軍なんか入ったんですか」
さっきの言葉から分かる。たぶんこの人、戦うことに性格が向いてない。それでも強いのは少し腹が立つけど、なんで、こんなとこいるんだろう? アスランさんがちょっと戸惑ったように固まったので、思わず口を開いていた。
「あの、なんか、有名らしいっていうのは副艦長から聞いたんですけど、俺、知らなくて、その、聞いたら、ダメ、でしたか?」
何か言おうとしたけど上手くまとまらずに、自分でも何を言いたいのかよくわからない言葉が口からこぼれる。あぁ、クソ、俺もこの人のこと言えないじゃないか! 俺も固まってしまうと、代わりのようにアスランが話し始めた。
「駄目じゃないさ。……オーブではそこまで詳しく報道されないものな。あまり、立派な理由じゃないぞ、褒められるようなものでもない」
「軍に入る理由なんて、全員そんなものでしょ。聞いてて楽しい理由なんか、ありゃしませんよ」
俺がそうなように。思わずぶっきらぼうに返すと、それもそうか、と返事の後、アスランさんは見ているこちらが痛くなるような表情を浮かべて、暗い声を投げて来た。
「母が、血のバレンタインで、死んだんだ」
それを聞いて、本日何度目かの納得が、ストンと心に降りてくる。
同じだ。アスハの自分勝手な理念のせいで両親とマユが殺された俺と、誰も予想しなかった核で突然お母さんの命を奪われたこの人は、よく似ている。
他の仲間と比べて、オーブから来たシンは知らないことがたくさんあったんだろうな、と思ってます。